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第二十七話 実戦訓練と治癒士

 エッゼさんと、ある程度の距離を置いて対峙する。

 あの人との実戦訓練となると、近いところから始まったらあまりに僕に不利すぎるからだ。


「あ~、くそ。瞬殺されたりしねえよな……」


 僕とエッゼさんの試合は、みんなが観戦している。我とヘンリーの戦いは学べるものも多いだろうという、エッゼさんのいらん思いつきの結果だ。ジェンド、シリル、ティオの三人も、じーっと見てきている。

 ……まあ、僕とエッゼさんの戦いだと、周りに人がいるとかなり危ないというのもある。


 ちら、とエッゼさんの方を観察すると、仁王立ちしたまま、おっそろしい剣気を巻き上げていた。距離が離れているというのに、戦意だけで物理的に押されている気分だ。


 わかってはいたが、手加減はしてくれるつもりはないらしい。流石に殺す気でくるわけがないから、『山断ち』とかは使わないだろうが……使わないよね?


「ふふ、ヘンリー。こうして対峙していると、気分が高揚するであるな!」


 やっべ、使うぞ、あの人。僕が隙を見せたら、山真っ二つにしたという伝説の『山断ち』使うぞ、絶対。

 ……ええい、そっちがそう来るなら、僕にも考えがある。マジで行くぞ。


「ふぅ~~~~~ぅぅ」


 深呼吸をし、固くなった身体を解す。如意天槍を握る手をリラックスさせる。

 開始までは魔導を使ったりはしないが、体の中を魔力を循環させ、気を高めていく。


 と、そこで、審判役のライデンさんが一歩前に出た。


「それでは、始めます。団長、ヘンリー、準備はいいか?」

「応っ!」

「いつでも」


 ライデンさんが手を振り上げ……下ろす。


「始め!」

「おおおおおおおおおおお!!!」


 雄叫びを上げながら、エッゼさんが突っ込んでくる。初手で『山断ち』ブッパは流石にしないかっ!

 でも、僕は初手ブッパする!


「《強化(ハザク)》+《強化(ハザク)》+《強化(ハザク)》!」


 槍へ強化の魔導を三重に。

 魔力充填、眩しく輝く如意天槍を持った手を後ろに振り、僕は思い切り前へ一歩踏み込んだ。


「ぬっ、くるであるか!」

「オラァッーー!」


 そして、槍を投擲。

 目にも止まらない速度で疾走する極光の槍。それを、僕は見送り、


「分かれろ!」


 その槍に意思を込める。

 僕の意思に従った如意天槍は、その穂先を二十に分裂させた。


 これが神器・如意天槍の三つ目の能力。『投げたら分裂する』である。分裂すると、込めた魔力もその数の分消耗するが、威力はそのままだ。

 燃費は極悪だが、必殺の投擲が二十発。


「ぬうううう!」


 さすがのエッゼさんも、これを相手に無策に突撃はできない。足を止め、完全防御の姿勢。

 極光の槍は次々とエッゼさんのいる場所に着弾する。練兵場の土が巻き上げられ、エッゼさんの視界が塞がる。


 すぐに槍を手元に戻し、今一度魔力を込め、


「《強化(ハザク)》+《強化(ハザク)》」


 投擲。


 ……そうして僕が投げた直後、


「ハァッ!」


 なんか、エッゼさんの気合の声がすると、激しい風が巻き起こり、煙が吹き飛ぶ。

 ……鎧は割とボロボロだが、本人の傷はちょびっと。あの人本当に人間か?


「練兵場をクレーターだらけにしてくれたであるな、ヘンリー! それでこそである!」


 またもや迫る投槍の槍衾を、今度のエッゼさんは前に出ながら迎え撃った。

 ……ちっ、魔力節約のために威力下げたのバレてやがる。


 直撃する軌道の槍を、エッゼさんは豪腕一閃、叩き落とす。重要なダメージにならないところは、鎧と身体の頑健性に任せて受けていた。

 ……《強化(ハザク)》一つケチっても、ドラゴンの鱗くらいなら軽くブチ抜く威力のはずなのに、あの人の身体強化どうなってんの。


「くっそ!」

「三度目はないのである!」


 如意天槍を手に戻した辺りで、エッゼさんは僕にかなり近付いていた。


 完全に間合いに入られる前に、投げに向いた形から、白兵戦向けに形を変えた如意天槍で突きを繰り出す。

 真正面からの槍など、エッゼさんには軽く弾かれる。


 ……が、突きの回転を上げて、間合いを詰めさせない。武器の長さと敏捷性は、僕がエッゼさんに勝る数少ない部分だ。それを存分に活かす。


「フン!」


 さっき、僕がオーウェン相手にやったように、エッゼさんは大きな力を込めて槍を弾く。そのまま槍を保持しようとしたら間違いなく体勢を崩すが、僕は勢いに逆らうことなく武器を手放した。

 ……んで、すぐ如意天槍の能力で手元に戻す。


「相変わらず厄介な能力である!」

「割と地味ですけどね!」


 ジリジリと、一歩一歩詰められている。

 地味に如意天槍の長さを伸び縮みさせ、間合いを誤魔化しているからまだ粘れているが、これじゃジリ貧だ。後二歩近付かれたら負ける。


「……《強化(ハザク)》+《拘束(カテーノ)》!」


 一瞬一瞬が勝負を分ける近接戦で、魔導を使うのは賭けだった。

 しかし、エッゼさんとは訓練も共闘も何度もしている。エッゼさんであれば呼吸を一つ整えるであろうタイミングを図って魔導を使うことで、なんとか通った。


「しゃらくさいのである!」


 魔力の鎖など、エッゼさんは意に介さない。しかし、一秒にも満たない僅かな時間が稼げた。

 僕は後ろに飛びつつ、もう一つの魔導。


「《(イグニス)》+《投射(ヴェロス)》!」


 これも、ほんの少しの時間しか稼げない。その間に、僕は地面を槍で払い、土煙を巻き上げた。


 視界が塞がれたはず。さっきのなんかよくわからない気合みたいなのですぐ吹き飛ばされるだろうが、今のうちに回り込んで側面を突く。


 と、プランを立てていると、煙に包まれた場所から、一条の光が空へと立ち昇った。


「これを使う時間を我に与えたのは悪手であるぞ?」


 あ、やべ。


 側面に回りながら、僕は失敗を悟る。同時に、また気合突風(適当)が巻き起こり、砂塵が吹き飛ばされ、


「チェックである」


 大剣を軸に、吹き上がる魔力を長大な光の剣とする、エッゼさんの奥義『ルミナスブレード』。『山断ち』は、これを最大出力でぶちかました時の技である。


 ……位置変えたのに、迷いなく僕をターゲッティングしてるし、これは負けましたね。


「ふンッッッッッ!」


 大上段からの、ルミナスブレードの一撃。城塞くらい軽く粉砕する光の剣が、絶望的に迫ってくる。

 ギリギリ槍を掲げて防いだが……槍を持った腕と、体を支えた足が骨折した。


 ……ここから、反撃は無理。負けた。
















「ていうか、アンタ僕を殺す気ですか!?」


 最後の一撃、防げなかったら普通に死んでたぞ!

 骨折した左手と右足が痛くて動けないので、僕は猛然と口でエッゼさんに抗議する。


「あの程度では死なぬという信頼である。勿論、万が一当たっても、そこで止める所存ではあったが」

「あんな勢いで振り下ろしといて、よくんなこと言えますね」

「大丈夫である。ルミナスブレードを解除すれば、ヘンリーに届いていた刃はなくなるからして」


 そ、そうか。なるほど。

 ……でも、『当たったら解除』って、当たってたら少なくとも大怪我は避けられませんでしたよね。


「しかしヘンリーよ。相変わらず投槍の冴えはよかったが、我に近付かれると手も足も出ぬのは変わっておらんな。精進せよ」

「エッゼさんの技量が変態過ぎるんですよ……」


 僕も、普通に一流の槍使いだと自負しているが、この人の剣技には到底敵わねえもん。間合い入られたら即終了する自信がある。

 筋力、魔力、技量で遥か上を行かれている相手に、よく持ったほうだと褒めて欲しい。


「しかし、練兵場を整備せぬと、訓練が再開できんな」


 ふい、と僕は視線をそらした。


 僕の初撃の二十発の投槍は、訓練場に大きな穴をいくつも作っている。《強化(ハザク)》五つがかりの、一回やったらダウンするので使う機会があまりない全力投擲よりはマシだが、惨憺たる有様だった。


「よし! 皆のもの、穴を埋めるのである! いい筋力鍛錬になるであろう! その後、実戦形式での試合を再開する。先程の試合を参考に、励むのだ!」


 騎士たちの元気の良い返事。

 そこから、突貫工事が始まる。黒竜騎士団は陣地構築もお手の物なので、手際が良い。


「それとヘンリーはあちらの小屋に待機している治癒士の治療を受けるように。なに、腕のいい者だそうだ。単純骨折程度、瞬く間に治してくれるであろう」

「わかりました」


 金を払っているのは黒竜騎士団だが、時間給で雇っているはずなので、ありがたく癒してもらうことにする。


「ジェンド!」

「ん? どうした」


 騎士たちと一緒に穴を埋めていたジェンドを呼ぶ。


「治癒士のところに行くから、悪いが肩貸してくれ」

「ああ、わかった」


 戦場なら《(ティオー)》で痛み止めして無理矢理動くが、んなことしたら怪我が悪化するだけなのでジェンドの奴に手伝ってもらう。


「……しかし、ヘンリー。お前、全力ならあんなに強かったんだな。俺、割とお前といい勝負が出来ていたと思ってたんだが」

「魔導交えた訓練は、流石にお前んちの庭じゃできなかったからなあ」


 ジェンドの家は立派だが、僕が魔導込みの投槍込みで暴れると、あっさりぶっ壊れるし。


「まあ、グリフォン倒すときとかの手際で、大体わかっちゃいたが。上は遠いなあ」

「これは自慢だが、僕はエッゼさんとかのバグ枠除くと、冒険者の中じゃトップ近いぞ。そう簡単に追いつかれても困る」


 バグ枠がちと多すぎるんですけどね! 僕より上、大体十人くらいはすぐに思いつく。

 しかし、痛い。小屋までもうちょっと……


「グランエッゼさん、か。ちょっと剣見てもらったけど、俺もあの人みたいに強くなれるかな。そしたらフェリスも……」

「あの子の問題は、強さは関係ないだろ」

「いや、あいつは強いやつが好きなんだ。だから俺の実力を見せてな。こう、四の五の言わず俺のものになれ! みたいな」


 ガチャ、と近付いていた小屋のドアが開いた。


「その、すまない、聞こえてしまった。でもジェンド、子供の頃ならまだしも、今は別に強さだけを判断基準にしているわけではないぞ?」

「は……?」


 それで、出てきたのはつい昨日会った、今話の渦中の人物。


「や、やあ、ヘンリーさん。窓から見ていたけど、あの英雄、グランエッゼ団長と渡り合うなんて凄いじゃないか」

「そ、それはどうも。……で、フェリスはなんでここに?」


 流石に動揺している様子のフェリスは、ごほん、と一つ咳払いをする。


「騎士団の訓練に随伴する治癒士が、私がいつも受けているクエストなんでね。普段は白竜騎士団付きだが、今日はこちらだ。なんでも、白竜騎士団のベアトリス団長がグランエッゼ団長に紹介してくれたらしい。でもまさかヘンリーさん……と、ジェンドがいるなんて」


 ……確かに昨日、フェリスのことをエッゼさんに相談したよ。そんで、ベアトリス団長に詳しい事情を聞くとは言っていたよ。

 でも、まさか翌日即連れてくるとか、想像できるか!


 あ、ジェンドのやつ固まってやがる。

 無理もない。……あー、ご愁傷さま。

戦闘描写がうまくなりたい。書いてて楽しいけど、もうちょっと迫力とかが欲しいです。

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[良い点] 意外な再会。
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