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第二百六十五話 勇士任命とクエスト

 リーガレオの第七番グランディス教会。その礼拝所。


 普段は天の宝物庫の下賜品を受け取る時くらいしか人の寄り付かない場所だが、今日ばかりは多くの人が集まっていた。


 その中でも、主役は中央にいる六人。

 六人の前にいる神官さん――この教会の責任者であるカイン上級神官が、厳かに式の開始を告げる。


「……それではこれより。我らがグランディス神の名の下に。第五十一回、七番教会合同叙勲式を開始します」


 その言葉に、六人の一人であるジェンドは一気に気を引き締めた顔になる。緊張感を持つのはいいが、ちっと固くなりすぎだ。隣に立っている……普段と同じようにのほほんとしているシリルほどとは言わないが、もうちょっとリラックスしてもいいのに。


 いやまあ。仕方ないといえば仕方ない。

 今日はとうとう、ジェンドが念願の勇士になる日なのだ。英雄を目指しているあいつにとってはまだ通過点だが、それでも確かな進歩である。


 頑張れー、と心の中で応援する。

 式典に集った人間の大半は、今日勇士になる人間の仲間や知り合い。ほとんどは同じように思っているだろう。


 ……まあ、有望な冒険者に唾付けに来た無粋な連中も混じってるけど。


「では、信徒アレイン、前へ」


 呼ばれた冒険者が、ゆっくりと歩いてカイン神官の元へ向かう。そこで勇士としての訓示を二言、三言受け、従来のタグを返却すると同時に、神官に新しいタグをかけられる……

 というのが通例の流れだ。


 アレインという冒険者が勇士のタグをかけられ、振り向き……満面の笑顔で、ガッツポーズをかます。

 他の神の信徒であれば、神の名の下に行われている式典の最中にこんなことしたら、眉をひそめるだろうが……ここに非難するやつなどいるわけがなく。


 わっ、と彼女の仲間と思しき面々が、大きな拍手とぴーぴーと口笛を吹いて彼女を祝福した。


 ……まー、所詮冒険者というか。毎月やっているのもあって、実はオゴソカな雰囲気とはまったく縁のない式典である。

 神官さん側は厳粛にやってるのだが、受ける方はこれだ。


「いよいよだね……」


 と、次々と勇士が叙任されていくのを見て、一足先に勇士になっているフェリスが感慨深そうに呟く。

 別にジェンドが口にしたわけではないだろうが、彼女との差にジェンドがいささか引け目を持っていたのは多分気付いていたんだろう。どこかほっとした雰囲気だ。


「……残りは私だけですか」

「まあ、腐るなって。遠征でのお前の活躍はすげえ評価されてんだぞ。勇士になるまで、あと二、三ヶ月の辛抱だ。……冒険者になった時期考えりゃ、シリルたちと同じレコードだぞ」


 現在、ラ・フローティアはこと遠征に関しては有数のパーティになっている。

 当然その一番の原動力は、荷物持ち込み放題という……他の冒険者からしたら『ズルすぎない?』となること請け合いの神器を持つティオの存在である。


「……道具だけの評価は不満ですが」

「子供か」


 使いこなせていることが前提ではあるが、優れた道具を備えているのだって立派にそいつの実力だ。

 僕だって如意天槍取り上げられたら戦力は三割くらいは落ちる。……いや、二割……いやいや、勿論僕ほどの実力者になれば得物は関係ないけどな!


「む……子供とは失礼な」

「……ヘンリー、ティオ。雑談は後にしろ。そろそろシリルさんたちの番だ。……タイミングは覚えているな?」


 ゼストの言葉に頷く。

 勿論、二人の順番を見ていなかったわけじゃない。事前に打ち合わせた、拍手と掛け声のタイミングもバッチリだ。


「信徒ジェンド、前へ」

「はいっ!」


 ここまで、気楽な雰囲気は存分に見ただろうに、ちっとも緊張がほぐれていない様子のジェンドは、上擦った声で返事をする。

 いつもの、武人らしいしなやかな動きは見る影もなく、カッチコチに固まった動作で神官の前へ。


 ……ここからだと、カイン神官の訓示は聞こえないが、あいつのことだから『この調子で頑張りなさい』とか言われてんだろう。

 僕の時は『過去も大事ですが、未来も大切に』とか言われた。……これで仇討ちに一歩近付けた、とか考えてたのがバレバレだったらしい。


 訓示が終わり、勇士のタグをかけられ、ジェンドが振り向く。

 他の奴らのように、派手なパフォーマンスはしないが……小さく、拳を握り締めていた。


 それを見て、僕は全力で拍手をしながら大声を張り上げた。


『ジェンドー! おめでとう!』


 僕とゼストの、タイミングバッチリの声に、負けじとフェリスも声を張った。


「新たな勇士の誕生に、祝福を!」


 やんややんやと。


 騒ぎ立てる僕たちに、ようやく少し肩の力が抜けたのか、ジェンドは少し笑ってこちらに手を振ってきた。


 うむうむ。


「最後に。信徒シリュール、前へ」

「はいはーい!」


 テコテコと。

 久しぶりに聞く本名で呼ばれたシリルは、さっきのジェンドをちょっとは見習えと言いたくなるほどお気楽に、神官の前に進んだ。


 訓示は……なんか色々言われていそうだ。他のやつらより長い。


 まあ、それでも無事にタグを頂戴し。

 シリルはぐるりと勢いよくこっちを向いた。


「やっほー! 今度は私に、おめでとうを言ってください! さあさあさあ!」


 やるけど……やるけど……こ、この欲しがりめ。


「お、おめでとー、シリール」


 パチパチパチ。


「もっと大きな声で!」

「おめでとうございます! シリルさン!!」


 バンバンバンバン! と。僕は半ばヤケクソになって、拍手をする。


「ありがとーございます!」


 そこまでやってようやく、むふー、とシリルは満足気に笑って、本日誕生した勇士たちのもとに戻る。

 最後であったシリルへの授与も終わり、カイン神官は式典の終わりを宣言する。


 ……こうして、本日の合同叙勲式はつつがなく終了となった。


 集まったみんなも解散していき、シリルとジェンドも、こちらにやって来る。


「皆さん、お待たせしました!」

「みんなありがとうな」


 ……いやしかし。


 新品のタグを首から下げて並んでいる二人を見ると、フローティアに初めて行った時のことを思い出すな。

 タグの種類こそ変わったものの、駆け出し冒険者だった当時の二人は、こんな感じだった。


 初対面の時、『あれー、勇士の人が、なんでこんなところに』なんて言ってたシリルが、自分もそうなったか。なんというか、感慨深い。


「ふっふっふ、これでシリルさんも勇士です。ヘンリーさんと対等ですね!」

「はいはい、対等対等」


 勿論、これまでの実績や経験まで逆転されたわけじゃない。シリルの火力っていう強みにゃ到底敵わないが、まだまだ総合力では僕の方が上だ。

 ……まあ、本気で言っちゃいないだろうし、こんな日に言い返すほど僕も無粋ではない。


「じゃ、この後は宴会だな。僕たちの方で、内壁のいい居酒屋予約してっから」

「あ、それより前に、ちょっといいですか?」


 勇士となった二人のための祝宴に向かおうとすると、シリルが手を上げる。


「? なんだ」

「いえ、先程のカイン神官の訓示の最後に、ちょっと言われたんですが。式典が終わったら、ラ・フローティアにちょっと自分の執務室に顔を出してほしいと」


 ……え、なんで?

















「ああ、よく来てくれたね。足を運ばせて申し訳ない」


 七番教会の最上階。その一番奥まった部屋がこの教会のトップであるカイン神官の執務室である。

 話は通っていたらしく、普段は冒険者が足を踏み入れない教会の運営用のフロアにも、問題なく入れた。案内には、うちのパーティの受付をよくしてくれるニコルさんが付いてくれた。


「どうも、こんにちは。それで、カイン上級神官、僕たちに用とは?」


 リーダーとして僕が応対し、単刀直入に用件を聞く。居酒屋の予約の時間が迫っていることとは特に関係がない。

 まあどうせ、勇士が多くなったパーティだから、これから期待しているとか、そんな感じのありがたいお言葉をいただける、くらいで……


「うむ……まだ詳しくは言えないのだが、近々君たちラ・フローティアに、教会から重要なクエストを発行する予定なのだ。ひとまず、心積もりだけでもしておいてもらいたくてね」


 ……軽く考えていた僕は、すぐに思考を切り替える。


「カイン上級神官。それじゃ困ります。内容をなにも話してもらえないんじゃ、心積もりもなにもない」

「それは重々承知している。……そうだな、今後の魔国との戦いを左右するような。そんな作戦の一環となるクエストだ」

「なら尚更詳細を」


 追求しようとすると、カイン神官は首を振った。


「魔国の魔王が、瘴気を通じてこちらのことを探れるのは聞いている。特に君たちは接触したことがあるんだろう? 興味を持たれて、観察されるかもしれない。君たちが外で作戦を話すとは考えていないが、万全を期すためだ」


 そう言われれば、言い分もわかる。わかるけど、


「……ならなんで僕たちを指名するんですか? 確かに実力はあると自負していますが、他にも有力なパーティはいるでしょう」

「その中でも、条件を満たしているパーティが君たちだけだった」


 ……シリルか、ティオだな。

 僕たちでないといけない、という理由になるには、他の四人はちょっと『特徴』って意味では弱すぎる。


「他にも、君たちなら色々と都合がいい」

「……都合がいい?」


 なんだ、不穏な。教会には世話になってるが、都合良く使われるようならこっちにも考えが、


「これだけは言っておくか。この作戦には、ラナ女史が今開発している『とある術式』が関わってくる予定でね。……彼女も、知り合いが活用してくれたほうが嬉しいだろう。我々としても、彼女の心情がいいに越したことはない」

「……え、あ、は?」


 え? ラナちゃん? の、新しい、術式?


 ……………………………………………………


 こ、今度はなにをやらかすんだ、あの子。


「きょ、教会はラナちゃんと繋がってたんですか?」

「あれだけの術式の開発者だ、誼を通じておくのは当然だろう。英雄リオルも仲介してくれた。……それでいくつか。『こんな魔導ができたら、リーガレオの状況を良くできるんだが』というのを手紙で聞いてみたところ」

「み、みたところ?」

「……その一つに、『あ、ここのこれなら多分簡単にできますよ』という返事が」


 こんなことができたらいいなあ! を簡単に実現するなよ!?


「そ、そうなんですか」

「ああ。……そういうわけだ。先程も言ったが、心積もりだけはしておいてくれ」


 もうどんなことをやらされるのか、今から不安で仕方がないが。


 ……え、宴会だ。今日は、宴会に逃げよう。


 そこからどうやってカイン神官の執務室から出て、居酒屋に向かい、最初の一杯を呑み干したのかは、いまいち記憶が定かではない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もうじきヘンリーの功績が溜まって英雄昇格、褒賞として領地を与えられたタイミングで結婚して故国復興でいいのでは。
[一言] 読んでる時に 『こんなこといいな♪できたらいいな♪』 国民的アニメの主題歌が記憶の奥底から蘇ってきたwww ラナがそのうち『どこでも○ア』や『タケ○プター』に近い道具を開発してももう驚かな…
[一言] いいですね、常に発想のはるか上を行くラナちゃん様! 自己発明型ラナえもん。 あ、ジェンドクンとシリルさんおめでとー(意外と長くかかったな感
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