第二百二十六話 進歩
「うっっ、ぐぅぅ!?」
ジェンドが振り下ろされた巨剣をガードし、呻き声を上げる。
エッゼさんの指導もあり、防御に関しては急激に上達しているジェンドだが、流石に今のはフェリスからティンクルエール受けてなかったら防ぎきれなかったかも知れない。
が、相手はそのまま力を込めている。このままじゃやられる……!
「デカブツ! こっちだ!」
コアがあると見越した相手の心臓部を狙って、槍の投擲。
……カン、と、あっさりと『盾』で防がれた。
しかし、それは目論見通り。敵が僕の攻撃を防いだその隙に、ジェンドは転がるようにして相手の剣の間合いから逃れる。
「なあヘンリー! どうすんだコレ!? 俺たちの攻撃全然効かねえし、あっちの攻撃防ぐのもひと手間だぞ!」
「わかってただろ、こいつにそのまま攻撃通そうとすんのが間違ってる! なんとか時間稼ぐぞ――オラ来い!」
挑発する仕草を見せると、ジェンドから僕にターゲットが移った。気合の声一つ、僕は一挙手一投足を見落とさないよう注視。
『%$#”&%!!』
「うお、っと!? 《強化》+《強化》+《拘束》!」
掠めるだけで二、三度死んだ気分になれる斬撃を躱しながら、拘束系の魔導で嫌がらせをする。相手の剣と腕が絡まり、一瞬動きが止まる。秒で拘束は破壊されるが、もう一度、二度、三度……と、魔導を使う。動きは素直だからモロ餌食だ。大した邪魔にはなっていないが、さぞ鬱陶しいだろう。
……無機物のくせに苛ついたのか、僕への殺気が増してますます攻撃が激しくなってくる。
――今、僕たちラ・フローティアが一陣で対峙しているのは、ゴーレム系の最上級、神鉄の巨像。
普通に狩りをしていた僕たちのすぐ横にぽっと『発生』した厄介者だ。
全長三メートル程と、大きさは然程でもないが、とにかく硬い。金属系のゴーレムは全部そうだが、神鉄の巨像は更に段違いの硬さを誇る。
しかも、見た目は鎧を着込んだ騎士といった風情で装備部分は防御力が高く……特に、こいつが持ってる盾は破壊は不可能とまで言われていた。エッゼさん、前壊したっつってたけど。
(シリル! あと何秒!?)
(あと一分待ってください!)
背後で魔法歌を歌い上げているシリルと念話でやり取り。
……一分。ええい、なんとかするしかないか。
「~~っ、この!」
ジェンドが傷をつけるのは無理と見て、神鉄の巨像の足を払う。
……上手い、相手が踏み込もうと片足を上げた瞬間を狙って、重心を見事に崩した。
「オラァ!」
ジェンドのアシストに続いて、僕も攻撃。神鉄の巨像の胸当たりを遠心力を効かせた薙払いでぶっ叩き……転倒させる。
追撃を、と考えていると、
「二人とも、離れてください!」
ティオの警告が後ろから飛んだ。
なにをするのかはわからないが、僕とジェンドは一瞬も迷わずその場から退避する。それと入れ替えに、立ち上がろうとしていた神鉄の巨像に向けて、なにやらボールのようなものが数個飛ぶ。
「#?###$$!?!」
……それは着弾と同時に破裂して、白い粘液をぶちまけた。
ティオがこないだ買っていた粘着弾。大型の魔物を十秒は拘束できるという触れ込みの新製品であり……実際にその謳い文句に偽りがないことを確かめた上で、今ではティオは十個も常備している。
「これ……も!」
続いてティオが投擲したのは、別の球……魔物の手足を絡め取るネット弾だ。
伸縮性のいい金属で出来ており、粘着弾で動きの鈍っている今、神鉄の巨像といえどそう簡単には逃げられない……否、逃さない。
今のうちに強化込みの投槍をブチかまして巨像の防御力を抜くことを試してみてもいいが、より確実な方を取る。
「おっしゃ! ジェンド、こいつ立ち上がれないようボコるぞ!」
「お、おう!」
神鉄の巨像が腕を動かそうとしたら、僕は分裂させた如意天槍でぶっ叩き。
足を動かせば、ジェンドがその足を蹴っ飛ばす。
半ばいじめのような絵面だが、こっちはこっちで必死だ。まかり間違って巨像のもがきに巻き込まれでもしたら大怪我は必至。
背筋に冷たいものが何度も走る足止めがしばらく続き、
(……よし、撃てます!)
ようやく、我がパーティの主砲の準備が整った。
僕たちはすぐさま退避。そして、フェリスとティオに守られたシリルが、杖の先端を神鉄の巨像に向ける。
「『コキュートスプリズン』!」
……そうして、この間魔将にもぶちかました氷の大魔法をぶっ放す。
膂力と攻撃の速度は早いが、それ以外は最上級の中では鈍い上、粘着剤に囚われている神鉄の巨像では避けられず。
「……ふう」
ぶるっ、と。僕は直近で炸裂した魔法の余波による寒波に一つ身を震わせ、氷漬けになった巨像を見上げる。
……勿論、無機物の魔物であるこいつは、これでまだ死んだわけじゃないが、
「やったな。……確かこいつは、極低温に晒されると、途端に脆くなるんだっけ」
「そうそう。それでも、かなり硬い方だけどな」
ジェンドが神鉄の巨像の特徴を話す。
……このリーガレオに最上級が頻発するようになって、暴き出された数々の生態。それらは当然、グランディス教会の資料として公開されている。
いつ最上級と遭遇するかもわからないリーガレオの冒険者であれば、十人に二人くらいはそれらの資料を全部頭に叩き込んでいる……と思う。
僕的にはこれくらいは当然覚えておかないといけないことだと思うのだが、ほら、なんせ冒険者って割とそういうの駄目だしね……うちの面子は言われなくても勉強してたけど。
ともあれだ。
実際に見ると聞くとでは大違い……なんてのは日常茶飯事だが、神鉄の巨像のように明確な弱点がある相手であれば、知っているのと知らないのでは戦い方も大きく変わる。
遭遇して即、シリルの魔法で凍らせてブチ抜く、と全員の見解は一致した。
「んじゃ、動けないところ悪いけど。……《強化》+《強化》+《強化》+《強化》+《強化》」
……神鉄の巨像もそうだが、シリルの魔法の氷も破壊は大変だ。
強化を最大の五重にかける。消耗はするが、今回は分裂させる必要はないから許容範囲。
そうして、氷ごと心臓部をブッ貫いて。
……流石に疲れたので、今日は引き上げることにした。
「じゃあ、『神鉄』以外のドロップはすべて買い取りで」
「はい、それでお願いします」
グランディス教会のドロップ品買い取り窓口。
一応、討伐したという証明のために神鉄の巨像のドロップ品である金属の塊『神鉄』は見せたが、買い取りは遠慮する。
これ、装備の強化のために欲しがってた知り合いがいるから、高値をふっかけて売り捌くのだ。
昔に比べりゃマシだが、最上級のドロップ品――それも有用なものとなると、そもそもモノ自体が出回らないので、相当の額で売れる。買い手に心当たりがあれば、教会に卸すんじゃなく自分で捌いた方が利益は大きい。
……まあ、教会に強制的に買い上げられるモンもあるんだけどね。やっべー毒物の原材料とか。
「それでは、計算が終わりましたら三十二番の番号でお呼びいたしますので、こちらの番号札を」
「ありがとうございます」
札を受け取って、ドロップ品の運び役のため一緒にいたティオとともに、みんなのもとに戻る。
「ヘンリーさん、遅いですー」
「ええい、仕方ないだろ。最上級のドロップ品は、色々面倒なんだから」
それっぽい偽物を作ったり、市場に流れたのを買い取ったりして提出し、功績を詐称し最上級の討伐報酬いただきだぜ――なんて詐欺はあるあるなのだ。
今回のも買い取りは遠慮したが、形とか質とかは完璧に記録され、別の教会に持っていっても簡単に二重申請だとバレる。
今まで最上級をヤった時は英雄が一緒にいたので、その証言によって諸々免除されたが、今回は事情が違う。
……そう、他の英雄の力を一つも借りず、ラ・フローティア単独で最上級を討伐した。
リーガレオでは、最上級を倒せるパーティはそれなりにいるが、ウチほど若手ばかりのところはそうそうない。
それに、今日の手応えからして、よほど相性が悪かったり消耗していたりしなければ、最上級相手でも問題ないと確信できた。近々移籍を考えているというゼストが加われば、ますます盤石となるだろう。
……そして、最上級の討伐ともなると、各教会の掲示板に公表される。
以前の魔将との戦いの功績は、英雄が一緒にいたのでフロックだと思われているきらいがあったが……これで、そんな口を叩くやつも出てこなくなるだろう。
万事、順調である。
「さて、それでは! ……天の宝物庫、引きましょうか」
厳かっぽく、シリルが宣言する。
魔将の件のあと、ちょっとした願掛けというか。次最上級を倒すまで、宝物庫を引くのはやめとこう、みたいな話になっていたのだ。
思いの外早く達成してしまったが、まあ早い分には問題ないだろう。
「何回引けますかね? 最後に引いてから、冒険に出たのは十回くらいだから……」
「大体、お前らは五、六回。僕が……三回くらいかな」
「魔物を倒す数は全然増えてるのに、そのくらいですかー。最初の頃が懐かしいですねえ」
宝物庫から神器を賜るほど、いいのが出る確率が上がり、必要な功績点は増えていく。ただ、この功績点の増加にも波があって……初期の増加量は大したことないのだが、ある時期から一気に増える。
で、そこからまた長期の安定期――僕もみんなも今はココ――に入り、エッゼさんみたいな英雄にしか到達できない領域に入ると、馬鹿みたいに増えるらしい。
「ふっ、まあいいです。シリルさんの豪運をもってすれば、五回でもいいのが引けます!」
「この前三回分引いた時、全部コモンワンドだったやつがなんだって?」
シリルも今では割と沢山引いている方だ。それであれは相当だぞ。
「シャラップ! 過去は過去、私は未来を見つめるのです!」
「過去の反省を活かすのも大切だと思うんだが」
シリルは耳をふさいで、聞こえませんアピールをした。……面倒なやつめ。
「でも、昔ほどの恩恵はなくなりましたね。装備が充実してますから」
「こらこら、ティオ。グランディス神からの下賜品をそう言うものじゃないよ」
ティオのボヤきを、フェリスが嗜める。
……まあ、ティオの言うことももっともではある。僕たちの装備は、鍛冶英雄ゴードンの手が入った品々。よっぽどのが出てこない限り、交換することはないだろう。
なお、こんなことを言っているティオだが、ここまでで有用なエピック神器を六個も引いており、鞄の中に予備として詰めていたりする。
……とびっきりの宝物庫弱者で、『不運』の二つ名をほしいままにするスターナイツのビアンカが、それ聞いてすんごい顔してたっけ。
「まあ、ぐだぐだ言う前に引きに行こうぜ。……俺も最近負けっぱなしだから、リベンジだ」
ジェンドが手を叩き、僕たちを促す。
ふっ、それもそうだ。
シリルはともかく、僕は前引いた時はレアの強化ポーションを引いたのだ。波は確実に僕に来ている――!
いやー、ティオの鞄みたいなのが欲しいなー。道具沢山入れられるし……今の僕が欲しがったら、神様くれんじゃねーかなー!
――レア神器『美味なる槍』。搭載能力『食べられる』『美味しい』……
「……ヘンリーさん、食べるんです? それ」
「……下手に食ったら口ん中切るから、返還する」
なんでだよ!




