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第二百七話 助っ人

 窓から差し込む光に、パチリと目を覚ます。


「ん~~」


 筋を伸ばして、寝惚けた体に活を入れる。

 昨日は早めに床についたこともあって、すっきりとした目覚め。全身快調で、これは今日も頑張れそうだ。


 ベッドから起き上がり、窓の外を見る。


 差し入ってくる明るさから想像はついていたが、今日は雲ひとつない青空。

 ラ・フローティアの一陣行きを祝福しているようで、なんとも気分がいい。


 ……悪天候だと視界が利かなかったり、思わぬぬかるみに足を取られたりすることもあるから、実利的な意味でも快晴はありがたい。


 うむうむ、と内心頷きながら、いつもの朝のルーチン。

 軽く柔軟をして体を起こし、寝癖を適当に撫で付けて階下に降りる。共用の洗面所で諸々を整え、食堂へ。


 食堂に着いて、今日の朝食を片手にいつものテーブルに向かうと、既にみんなが集まっていた。


「よう、おはよう」


 軽く手を上げて挨拶をすると、各々おはようと返してくれる。

 ……うむ、全員体調は悪くなさそうだ。


「しかし、今日はみんな早いな」


 シリル辺りは朝寝坊することも多いし、それでなくても僕はこの中でも早起きな方なのに。


「今日から一陣ですからね。興奮して、目が覚めちゃって」

「……ちゃんと寝たんだよな?」


 シリルは、イベント事の前日は興奮してよく眠れないという子供みたいな体質なのである。


「そ、それは大丈夫ですよ! シリルさんも、ヘンリーさんと会った頃とは違うんです。冒険の前日は熟睡しますとも!」

「ならいいんだが」


 なお、もうちょっと踏み込んだ睡眠になると、熟睡しつつも変な気配を感じたら飛び起きれるようになるのだが……まあ、これは適性も結構あるしな。


「でも、一陣ってそんな気負うか?」


 みんなの気合の入りっぷりに、一陣に慣れてしまっている僕はピンとこない。僕が初めて出た時は……よく覚えてないな。


 僕のボヤきに、フェリスが苦笑して、


「はは、ヘンリーさん。リーガレオの一陣といえば、まさに人類の最前線だよ。そこに参戦できるというのは戦神の信徒として誉れといっていい。……それにシャルたんも来るしな!!」


 前半いいこと言ってたのに、最後がおかしい! 目もイってる!


「シャルロッテさんといえば、昨日もライブ大盛りあがりだったなあ」

「そうそう! プログラムは毎回同じだけど、最終日の感動はひとしおだった! ふっ、昨日は柄にもなくはしゃいでしまったな」

「……うん、そうだな」


 そんな恋人の様子にもここ連日のライブ参加で慣れたのか、ジェンドは何事もないように対応する。……色々諦めたわけじゃないよね?


「……そういえば、リオルさんの最後の余興の花火も良かったな」


 ジェンドの言葉に、昨日の花火を思い出す。

 冒険の帰り道にその花火は見えたが、確かに見事だった。リオルさん、今後イベントごとにやってくれって頼まれるんじゃないかな。


「ああ! あの花火もド派手で良かったな! あの光をバックに踊るシャルたんはまさに妖精の如しで……」


 ジェンドの感想に、十倍くらいの勢いでフェリスが捲し立て始めた。


 いかにロッテさんの歌と踊りが素晴らしかったか、観客がどのようにそれを迎えたか、身振り手振りも駆使して表現し、参加してないのにあたかもライブ会場がここに降臨したかのような錯覚を覚え、


「……わかりましたから、フェリスさん。食事中は静かに」

「あ、ああ、そうだな。悪いね、ティオ」


 一番年下のティオに窘められ、フェリスのテンションが一気に下がった。


「あー、フェリス? しっかり飯食って、一陣頑張ろうな」

「……面目ない、了解だ」


 フェリスが少し項垂れながら返事をする。


 ……まあ、冒険に出ればしゃんとするだろう。

 し、しなかったらどうしよう。いや、仲間を信じるんだ、僕。


 そう自分に言い聞かせながら。

 僕は今日のモーニングであるスクランブルエッグと山盛りのソーセージ、そら豆のポタージュを攻略にかかるのだった。

















 朝食を終えて朝の珈琲を飲んでいると、そろそろ約束の八時が近い。

 星の高鳴り亭の食堂に据えられた時計を見ると、あと十五分。


 あいつならそろそろ……と、食堂の入り口に目を向けてみると、まさにジャストタイミングだった。


「失礼します」


 一礼して入ってきたのは、昨日もツラを突き合わせたゼスト。

 僕が手を挙げると、ツカツカとこちらにやって来た。


「おはよう、ヘンリー」

「ああ、おはようさん。悪いな、わざわざこっちに来てもらって」

「この宿は教会の道すがらだからな」


 まあ座れよ、と空いている席を勧める。


「……で、だ。みんな、こいつが昨日話したゼスト・ゼノン。僕と同郷の元准騎士で……まあ、結構強い」


 シリルだけは郷友会で会ったことあるけど、他のみんなは初対面なので紹介する。


「はじめまして。俺はヘンリーの仲間で、ジェンドといいます。大剣持ちで、パーティでは前衛を張ってます」

「ああ、ゼストだ」


 ジェンドの挨拶に、ゼストは頷いて応える。


「私はフェリスです。治癒の魔導と、剣を少々扱います。よろしくお願いします」


 フェリスが自己紹介をすると、ゼストがチラリとこちらを見る。

 ……シリルとの初対面でも、人の恋人に自分から自己紹介できない、とか言ってたが。こいつ本当に変なところを気にするな。


「ゼスト、フェリスだ」

「……はじめまして。治癒士がいるとは羨ましいパーティだ」

「は、はあ?」


 フェリスの顔にハテナが浮かんでいるが、まあいい。

 残りのティオに目を向けてみると、


「……ティオです。斥候、遊撃役」

「ゼストだ」


 この二人、なんか口数が少ないところとか似てんな。


 ともあれ、全員の自己紹介が終わったので、僕は口を開く。


「で、僕とシリルを合わせて五人が、冒険者パーティ『ラ・フローティア』のメンバーだ」

「わかった。……立ち居振る舞いで、ある程度実力は見て取れるが。お前もいて、一陣に赴くのが遅くないか?」

「こいつら、冒険者始めて二年経ってないからな。強さ的には行けると思ってたけど、少し慎重にいってるんだよ」


 まあ、リーガレオに来て半年もしないうちに一陣に行くのは慎重とは程遠い行為だけどな!


「そういうことか。了解した」


 ゼストが頷く。

 そして、僕はうちの連中の方に目を向けた。


「みんな。昨日の打ち合わせで話した通り、今日はゼストがうちの助っ人として着いてきてくれることになってる」

「あまり見た目派手な魔導などは使えないが、槍使いとしてはそれなりの水準のつもりだ。ここ数年は一陣で戦闘をこなしている。頼りにしてもらって構わない」


 僕の言葉に続いて、ゼストが自分のことを紹介した。


 なんでこんなことになったのかというと、昨日、戦神の咆哮との冒険の後の話だ。


 精算を終えた辺りで、丁度ゼストのパーティも帰還してきて、軽く立ち話。

 今日、僕のパーティが一陣に初参戦するということを話すと……ゼストが自分から助っ人を買って出てくれたのだ。


 まあ、初めての戦場で、そこに慣れた人間に臨時で加わってもらうのは、そう珍しい話ではない。


「勿論、君たちが一陣の戦いになれるためにも、ピンチにならなければ、極力手は出さないつもりだ。保険と思ってくれればいい」


 ……珍しい話ではない、とはいえ。ゼストクラスのやつが入るのは、贅沢と言っていい。

 本来なら、それなりの見返りを用意するべきなのだが、


「なあ、やっぱり報酬いらないのか?」

「いらん。一陣に初参加するパーティの支援だぞ? このようなことで金を取るのは、俺の信条に反する」


 むす、とゼストが断言した。


「あー、わかった。ありがとうな」

「……ふん、念のために言っておくが、勘違いはするなよ? 別に、お前のためというわけではない」


 別にそんな勘違いはしていないが……こいつ、本当に物語の中のライバルムーブが得意だな。どっかの小説で似たようなセリフ見たことあるぞ。

 なんか背中がムズムズするが、我慢だ。


「えーと、ゼストさん? それなら、なんでうちの助っ人をしてくれるんでしょう?」

「ふっ。新しく出会った郷友のため、ということにしておこうか」


 シリルが聞くと、ゼストが気障ったらしく応える。新しい郷友……勿論、シリルのことである。


「おお~、なかなか格好いいですね。ヘンリーさん、ゼストさんを見習ったほうがいいんじゃないですか」

「お前は僕にこういうことが言えると思ってんのか」

「それは全然思っていませんが!」


 テメエこの野郎、すげえいい笑顔で断言しやがったな。


 カチンときたので、隣に座るシリルの頬をむにー、と引っ張る。


「にゃ、にゃにするんですかあ」

「ふん、僕の心は傷つきやすいんだから、もうちょっと表現には気を使え」


 ぽん、と手を離す。


 と、ふとジェンドたちがヒソヒソ話し始めた。


「……傷つきやすい?」

「なにを言っているんだか」

「戯言でしょう」


 お前ら、聞こえてんぞ?


「ふ、ふふ」

「なんだよ、ゼスト。笑って」

「いやなに。随分と仲の良いパーティだと思ってな。いいことだ。いざという時に命を預ける者同士なのだから」


 ……まあ、そうだな。

 僕は――えー、普段はこっ恥ずかしいので明言しないが、シリルのことが一番大事である。でも、ラ・フローティアの他の誰かが死にそうになった時にも、命を懸けることに躊躇などない。


 勿論、そんな事態にならないよう、色々と経験を積ませたり、順序よく三陣、二陣、一陣とステップアップしてきたのだが。


「うむ、俺の気合も入った。一朝事あった時は任せてくれ」

「縁起でもないこと言うなよ。なにもないのが一番なんだから」

「……ふん、どうやらなにか起こった時に対処する自信がないと見える」

「あ゛あ? ありありに決まってんだろうが」


 ゼストのやっすい挑発に、我ながらあっさりと乗ってしまう。どうどう、とシリルが袖を引っ張って抑えてきた。


「えー、と、ゼストさん。ヘンリーさんがすみません。今日はよろしくお願いしますね」

「……承った。我が父母と槍に誓って」


 シリルが頭を下げると、ゼストが小さくフェザードの騎士の誓いの礼を取る。


 ……まあ、こいつにはそうそう負けていられないし。

 今日は頑張るか。




 その、数分後。


「ぅぅぅぉはよぅ~~~~」


 と、ロッテさんが起きてきた。

 瞬間、フェリスのテンションは急上昇、宿のファンたちと一緒に、挨拶の声を高らかに歌い上げたのだが。


 隣のゼストが、ポツリと、


「……シャルたん」

「!?!??!!?!??」


 え、ゼスト、お前もファンだったの!?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゼフトの真の目的はこれだったほかーー!!!
[良い点] ゼストさんもフェリスさんみたいなヤバいものキメてるようなテンションになったらヤバい…w
[気になる点] スープはポタージュの一種だからポタージュスープは無いなぁ
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