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第十九話 新たなる武具

「……よし、みんな、手筈通りに行くぞ」


 こくり、と全員が頷く。


 ここはフローティアの森、中央部にある山。あまり植物の類はなく、ごつごつとした岩がよく転がっている。

 その岩の一つに隠れながら、僕は前方を観察する。


 ここは、グリフォンの群生地だ。森の方ではほとんど見かけないグリフォンが、視界の中に七匹程。バラけているので、一網打尽は難しい。


 その中の一匹。五十メートル程先の相手を見定め、僕は如意天槍の長さと形状を調整する。


 全身の魔力を練り上げ、槍の内外に宿らせる。全力の魔力を込めた槍は、うっすらと輝く。

 普段はここまではやらないが、今回のこれには必要だ。


 自分自身が弓になったようなイメージで、槍を振りかぶる。

 一歩、踏み出し、


「…………っ!」


 投擲。


 槍は投げても高い威力を発揮する。むしろ僕の場合、投げる方が得意まである。

 凄まじい勢いで飛んでいった槍は、狙い通りにグリフォンの土手っ腹を直撃。真っ赤な花を咲かせた。


「相変わらずヤバいな。グリフォンの体、三分の一くらい吹っ飛んでるぞ……」

「ジェンド、軽口は後。他の奴らが気付いたぞ! ……シリル!」

「あい、さー!」


 投げ放った如意天槍を、その能力で手元に引き寄せながら、僕とジェンドは岩陰から飛び出す。

 先程仲間を貫いた槍を持つ僕に、グリフォンらの注目が集まる。


 ……岩陰で、魔法歌を歌い上げるシリルのことには、気付いていない。


「ふン!」


 長槍にした如意天槍により、遠間から突きを放つ。グリフォンは後ろに飛び躱そうとするが、そのくらいのスピードでは逃げ切れない。心臓には届かなかったが、その体を抉る。


「ギュゥイイイイィ!」


 グリフォンが、苦痛に声を上げる。


 その一匹を囮にして、二匹のグリフォンが僕に襲いかかってくるが、長槍を思い切り振り回して弾き飛ばす。


「俺もいるぜぇ!!」


 追いついてきたジェンドが大袈裟過ぎる大振りで、グリフォンに斬りかかった。

 豪炎を纏う大剣はかすりもしなかったが、そのでかい声と火で、ジェンドは大いにグリフォン達の気を引く。


 そうして、僕とジェンドは互いに死角を庇い合いながら、襲いかかってくるグリフォン共をあしらう。隙があれば攻撃にも回るが、なるべく連中を固めていくための立ち回り。


 ふと、ジェンドが三匹のグリフォンの集中攻撃を受け、一匹、防ぐのをミスった。


「ジェンド! 無事か!?」

「鎧の硬いとこで受けた! かすり傷!」

「おっしゃ、ナイスガッツ!」


 僕の方にも三匹来るが、こっちは一匹を魔導で牽制し、二匹は槍の長い間合いを活かし近付けさせない。


 そうして、しばらく時間を稼ぐと、


「二人共!」


 ティオの声が後ろから聞こえた。合図だ。


 ジェンドと示し合わせ、後ろに飛ぶ。

 ついでに、


「《強化(ハザク)》+《拘束(カテーノ)》」


 拘束の魔導を投網のように投げつけ、残った六匹のグリフォンを拘束した。

 六匹も拘束したら、数秒くらいしか持たないだろうが、それで十分である。


「『メテオフレア』!」


 シリルの、魔法を放つ声。


 いつか見せてもらった時より、遥かに長く魔力を練り上げ完成した炎の砲弾が、一時的に密集しているグリフォン共に殺到する。

 最上級の魔物にも通用しそうな大火球の連弾にグリフォン程度が抗えるわけがなく。


 魔物達は、そのまま蒸発した。
















 王都行き前の、最後の冒険も順調に終了。

 僕たちはグランディス教会に戻ってきた。


「あの山じゃ、何度か戦法変えてみたけど、今日みたいな感じが俺たちには良さそうだな」

「ああ、そうだな」


 僕が投槍で先制攻撃。その後、ジェンドとともに魔法を構築中のシリルに気付かれないようグリフォン共に突貫。シリルの魔法完成後、まとめて一掃……というのが、その戦法だ。

 数が多すぎても少なすぎても効率が悪いので、索敵のティオにも頑張ってもらっている。


「ところでジェンド、怪我は大丈夫か?」

「お前が魔導で治してくれたし、大丈夫さ」


 で、グリフォン相手にわちゃわちゃする関係上、僕とジェンドは怪我をすることもある。

 間合いの広い長槍を使う僕より、ジェンドのほうが頻度が多い。


 この街に来て、久し振りに《(ティオー)》が活躍している。

 いや、普通に手持ちの低級ポーションで治るんだけどね。魔導も使わないでいると腕が落ちていくので、悪いが練習台だ。


「おーい、早く精算しましょうよ」

「……早く」


 シリルとティオが、精算の窓口で声を掛けてくる。


「はいはい」

「ま、後は反省会で」


 そうして、グリフォンのドロップ品を売り払う。

 今回はついでに、あの山独自の植物の採取クエストがあったので、ついでに取ってきた。こいつも納品し、報酬を受け取る。


 いつものように、教会の酒場のテーブルを借りて稼いだ金を山分け。

 僕たちは、三割をパーティの共有財産に、残りを四等分にすると決めていた。


 そうして、今日の討伐の反省会をしていると、ふとシリルがなにかを指で数え始めた。


「そういえば、忘れるところでしたが。……今日は天の宝物庫を引く日では?」

「ああ、そういえば」


 我らがグランディス神が冒険者たちの魔物退治での戦果を公正に評価し、それに応じて与えられる功績点を対価に、神様たちの武具を与えられるという……口さがない連中に言わせると、神様公認のくじ引きだ。


 冒険者の運がこれでもかというほど現れるもので、駆け出し冒険者がレジェンド神器を引き当ててスターダムを駆け上がる……なーんてのは、娯楽本の定番である。


 溜めた功績点を使うのはいつでも良いのだが、冒険者達はジンクスを大事にする。


 曰く、丁度十四回分溜まったときに引くのが良い。その年の始まりの日が鉄板。フルマラソンした後にやると良いのが出る気がする。宵越しの功績点は持たない。


 んで、僕たちは、五回冒険に出るごとに引くことにしていた。


「よし! 今日こそ良いのが出ますよ!」

「王都行きの前の景気づけにはいいかもしれませんね」

「……俺、ブレイズブレイド以来ロクなの出ないから、今日こそ、来る」


 あー、これは駄目だ。


 僕の経験上、こういう前のめりな姿勢で引くと外れる。


 こういうのは無心だ、無心で引くんだよ。

 ふ、ふふふ……今日は僕だけが良いのが引ける気がするなっ! こういう予感は大事だぞ、お前ら。


 そうして、グランディス神の祭壇へ。


「堅固の小手。おめでとうございます」


 と、ジェンドは十回引いて、『装甲強化』というシンプルながらも、名前通り手堅い効果のアンコモンを引き、


「わ、瞬発のブーツ。これは使い勝手いいですね」


 十二回のシリルも、『瞬発』の能力を持つ靴を当て、


「うわ、すご。魔弓ソウルシューター。レアですよ」


 既に『容量拡張』持ちの鞄を持ってる宝物庫強者のティオは、十四回引いて『魔力装纏』、『矢玉格納』付きの弓をゲットした。


 ……四回の僕は、久々のオールコモンである。

 おかしい、僕くらい引いてると、回数は少なくなってもアンコモン以上が三割なのに。


 ランクだけはアンコモンの『食べられる槍』が出たが、僕はあれをアンコモンとは認めない。食べられるシリーズは、どいつもこいつもクッソ不味いくせに、能力枠一つ取る疫病神なのだ。

 神様は一体何を考えてこんな能力を付与したんだろう。しかも結構見かけるし。


 くそう。


「お前ら、揃いも揃っていいの引きやがって……」


 妬みの視線ビームを放つ。別に何も出やしないが。


「ジェンドは知りませんが、私やティオちゃんは普段の行いが良いからでしょう。神様はちゃ~んと見てくれているってことです」

「シリルも……? そいつは妙だな。神様の目は節穴か」


 げしげし、とシリルが抗議のトゥーキックをかましてくる。いや、全然痛くないけどな。


「ヘンリーもシリルも。いつものじゃれ合いしてないで、神器試してみようぜ。訓練場、申請しといたから」

「僕は試すものないから、酒場でエール呑んでる」

「拗ねんなって」


 いや、別に拗ねてないから。ジェンドめ、もう少し年上に敬意を払い給え。拗ねてないから。本当に。


 まあ、仲間の装備を確認するのも大事かと、僕は内心呟きながらジェンドに付いていく。


 ……はあ。王都で、なんか一品物の魔導具でも新調しようかなあ。
















 訓練場に出て、シリルは靴を履き替え。


「……あー、やっぱりぴったりですね。いや、ありがたいんですが」

「天の宝物庫からは、『使い物にならないもの』は出ても、『使えないもの』は出ないからな」


 例えば、サイズ違いの防具。触ったこともない武器。そういうのは、出ることはない。

 使おうと思えば、使えるものばかりだ。この辺りは、流石神様というか。


「でも、人の体のサイズを知られているって思うと、ちょっと嫌じゃありません?」

「……いや、どんだけナイーブなんだよ」

「ちょっとですけどねー、ちょっと」


 こつこつ、とシリルはつま先を地面に当て、履き心地をチェックしている。


「おっと、そうだ。シリル。『瞬発』は、試すのは気をつけろよ」

「はい?」


 あ、ちょっと遅かった。

 警告するのと、シリルが能力を試してみるべく、足を踏み出そうとしたのがほぼ同時。


「ふっぁ、きゃぁぁぁぁぁーーー!」


 『瞬発』が発動し、シリルが弾かれたように跳んでいく。あいつの身体能力じゃあまず無理な跳躍だ。十メートルくらい行っている。

 勿論、着地も失敗。見事にすっ転び、勢いのままごろごろと転がっていく。


「あ~あ」


 やれやれ、と駆け寄る。一応、受け身は取ったようだし、平気っぽいが。


「おーい、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです! 擦り傷ができました!」

「はいはい、《(ティオー)》」


 腕についた傷を、癒やしの魔導で治してやる。僕の《(ティオー)》は、重傷には気休めにしかならないが、このくらいの傷であれば問題ない。


「ていうか、なんですかこれ。使えないじゃないですか!」

「いや、身体能力上げるような神器は、基本かなり慣らさないと使えないぞ」


 いつも付き合っている自分の身体が、思わぬ動きをしてしまうのだ。慣れは当然必要である。

 例えば、『剛力』付きのパワーグラブという神器を身に着けていて、思わず道具を壊したりとか。『遠見の眼鏡』を使っていて、逆に近くへの注意力がまるでなくなったりとか。


「加減をきっちり覚えれば、普段の行動でも使えるけど。お前はまず、瞬間的に使っての緊急避難とかのやり方を覚えろ」


 そういうのが出来れば、危機における生存率がかなり向上する。

 後は一時的にでも僕たちと同じくらいの速度で走れれば、移動にも敵から逃げるときにも便利だ。


 伊達に、シスターが『使い勝手が良い』と評したわけではない。


 ま、うちのメンバーじゃ、シリル以外には外れなんだけどね。素の瞬発力に上乗せするわけじゃなく、一定値までを出してくれる神器なので、僕たちにとってはむしろ遅くなる。


「むう……わかりましたよ。練習します」

「はいはい。付き合ってやるよ。僕だけ新しい神器ないし」


 神器ないし。


「しかし、ティオちゃんの方はすごく嬉しそうですね」

「あー、あれなあ」


 木人相手に、ティオが弓を引いている。

 目を引くのは、矢を番えていないのに、弦を引くと矢が勝手に出てくるところ。


 なんでも、弓本体にある小さな魔法陣のところに矢を入れれば、神器の中に装填されるらしい。最大三十本。……矢筒いらずである。


 そんで『魔力装纏』の効果で、放たれる矢の魔力の力強さが、何倍にも増幅されている。


 ……鞄ほどじゃないが、弓使いにとっては大当りと言えるだろう。喜ぶのも当然だ。


「ジェンドはまあ地味だからいいとして」

「いや、地味だけどな」


 ジェンドは、小手越しに木人を叩いたりして、具合を確かめている。

 うん、防御力が高いのは間違いないが、それって良い素材使って良い職人が作れば一緒ですよね? というお話である。


 勿論、そういう品物は高く付くので、当たりには違いない。


「はあ……じゃ、練習しましょうかね」

「とりあえず、まず最小で発動させて、徐々に出力上げる方向でいくとやりやすいぞ」

「はーい」






 そうして練習を続け。


 なんだかんだで、シリルが瞬発のブーツをある程度使いこなせるようになるには、王都行きの前日までかかった。


「……お前、センスないのな」

「ヘンリーさんたちみたいな肉体派と一緒にしないでくださーい」


 やれやれ。

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