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第百八十八話 男冒険者たち

 星の高鳴り亭の談話室で、『スターナイツ』のハロルド、ヴィンセントと駄弁っていると、ぎぃ、と宿の入り口が開く。

 何気なく視線を向けてみると……ボロッボロに憔悴した様子のジェンドが帰ってきたところだった。


「よう、ジェンド! おかえり」

「お、おお。ただいま」


 ふらふらと僕たちのテーブルの方に歩いてきたジェンドは、空いていた椅子にドカッと座る。


「大分揉まれてきたみたいだな、ジェンド。……くっく、デートの相手がユーの診療所の手伝いに取られたからって、休みの日だってのにもご苦労様だ」

「ハロルド……からかわないでくれ」


 最近、フェリスは休みの日は、二日に一回は半日ほど診療所の手伝いに入っている。あそこも手が足りないからと、ユーに泣きつかれたせいだ。

 ……でも、お陰で実はフェリスの評価は相当上がっていて、ラ・フローティアのみんなの中では、勇士に一番近いところにいる。


「愛しのフェリス嬢はまだ帰っていない。残念だったな」

「ヴィンセントまで」

「私とハロルドは休日に一緒に出かけるご令嬢もいないのでね。このくらいのやっかみはご愛嬌というやつだ」

「そうそう」


 ハロルドとヴィンセントが揃って笑う。

 ジェンドとこいつらも仲良くなった。年はちょっと離れているが、まあ同じ冒険者で男同士ならこんなもんである。


「って、あれ? ルビーさんとビアンカさんとは? 一緒にパーティ組んでるんだから、俺はてっきり」

「あいつらとはガキん時から一緒だったからその気になれん」


 ハロルドが言い捨てる。まあ、だからこそ男女混合のパーティでも上手く回っているのだろう。

 うちは……まあ、痴話喧嘩でも巻き起こればちょっと困ったことになるかも知れないが、幸いにして今の所そのような気配はない。


「ったく。気持ちはわからなくもないけど、だからってな」


 ブチブチとジェンドが文句を言い、そこで僕は助言することにする。


「ジェンド、言われっぱなしで引き下がるな。とりあえず、なんかムカつくこと言われたら仕返しするのは義務だぞ、義務」


 言って、僕はハロルドとヴィンセントの方を向く。


「お前ら彼女いるのはいいぞー? さもしい独り身共め、悔しかったら女の一人や二人、引っ掛けてこい」

「んが!?」


 ハロルドが思わぬ反撃に絶句する。


「……おい。ジェンドはともかく、お前に言う資格あるのか? 前ここにいた頃、女の影も形もなかっただろう」

「今はいるからいいんですぅ」

「ムカつくからその喋り方を即刻やめろ」


 ぐっ、と拳を握ったヴィンセントに、手をひらひらさせて降参する。ちっと挑発しすぎたか。


「ていうか、言い方はともかく、彼女の一人や二人作ろうと思えば作れんだろ、お前ら」

「……金目当てのな」

「……右に同じだ」


 ……スターナイツは実力があるから、まあ勿論しこたま稼いでいる。

 そういう奴らは当然モテるのだが……まあ当然、寄ってくる女の目的はお察しだ。個人的には強かな感じで嫌いではない。受け入れることはないけど。


「えー、っと」

「前、ちょっと話したことがあるだろ。ハニトラとか、そろそろ気ぃ付けろよ」


 ラ・フローティアは新進気鋭のパーティとして、評判になりつつある。二陣でも立派にやっていけるようになって、入ってくる金も増えた。そろそろ、そういう手合いが出てくる頃だ。

 まあ、僕とシリル、ジェンドとフェリスの関係も周知の事実なのだが……


「たまに、そっちで食ってけよってレベルの美人も来たりする」

「あー、そりゃ怖いなあ。いや、勿論俺はフェリス一筋だけど」


 ……男って馬鹿だからね。彼女がいても、美人に誘われたらちっとも心動かないなんてことはない。そういうことを知っている奴は、こう、うまーいこと誘導して受け入れさせようとする。


「たまにそういう連中を上手く食って、浮名を流してる奴もいるけどな。俺たちはそういうの無理だから、健全に店で遊んでる」

「……健全?」

「健全に決まっているだろう。ちゃんと執政院が認可した店でしか遊んでいないのだから」


 まあ、娼館の一つにも行く前にフェリスと付き合い始めたジェンドにはピンと来ないだろう。

 ……実際、命のやり取りとかしてると、どうしても昂ぶることもあるしな。


「っと、まあ。馬鹿話は置いといて。ジェンド、今日はどうだった?」

「もう、嫌ってなるくらいシゴかれた。グランエッゼさん、普段はおおらかだけど、訓練の時は鬼だよ、鬼」

「エッゼさんに見込まれるなんて大したもんじゃないか。贅沢もんめ」


 ハロルドの言葉に、はあ、とジェンドはこれみよがしに溜息をつく。


「いや、すげえありがたいのは確かなんだけどさ。明日の冒険に影響がないギリギリをかんっぜんに見極めて追い込んでくるから……その、疲れる。帰る時凄い味のジュース飲まされたし」


 ああ、あのエッゼさん特製栄養ドリンクね。武門であるヴァンデルシュタイン家に代々伝わるありがたいレシピだそうで、効果は確かなものだ。翌日の疲れが嘘のように軽くなる……のだが、味はゲロマズ。

 しかし、エッゼさんは割とこれを振る舞いたがり、黒竜騎士団の団員にその点に限っては毛嫌いされている。


「……いや、しかし。なんであんなに稽古付けてくれるんだろうな? そこが俺、ちょっと不思議だ」

「そうだなあ」


 確かに、ちょっとした縁があったとはいえ、不思議といえば不思議だ。

 でも、多分だけど、


「大剣仕込める奴が出てきて嬉しがってるだけ、じゃないか?」

「あー」

「……いかにもあの人が考えそうなことだ」


 僕の推理に、ハロルドとヴィンセントが納得する。


「? ってーと」

「黒竜騎士団の現団員に、大剣使いエッゼさんしかいねえから」


 というか、冒険者でも大剣を使う奴はほとんどいない。


 理由は簡単で、扱いが難しい武器だからだ。


 武器ってのは大体子供の頃から訓練するわけだが、ガキが大剣振り回しそうとしたりしたら、適切な指導がないとまず体を壊す。

 それに、一丁前に身体が出来上がっても、身体強化もままならない駆け出しではまともに振るのも難しい。あと、防御がムズい。そして使う金属量が多いから、初期のコモン武器からステップアップしようとしたら……他の武器より、値段が割高。


 と、最初の敷居が高い武器なのだ。


 中級くらいの冒険者になってくれば、間合いの考え方とかも色々変わってきて、また話は違うんだけど……そこまでいって、武器の転換はリスクが高い。


 といったことを説明してやる。


「あー。確かに俺も、子供の時、大剣使いになりたいって親父に言ったら、やめとけって言われたっけ」

「まあ、見栄えいいし、大英雄様が使ってるってだけあって、憧れる子供は多いけどな。大抵は大人に止められる」

「……で、駄々こねて師匠を紹介してもらったんだったな。懐かしい」


 大剣は、環境や身体の才能が許さないと、そもそも子供の時から学ぶこともできない。

 ジェンドや兄弟子のアシュリーは、そういう意味で恵まれているのだ。


「その点、槍はいいぞ。そりゃ極めようとすれば、どの武器も大変だけどな。初心者が武器持つなら、こだわりがないならとりあえず槍持っとけと言い切ってしまってもいい」


 とりあえず敵に穂先向けときゃ、最低限の役割は果たせるのだ。

 ……自分の使う武器だから、多少の欲目が入っていることは認める。


「おいおい、長柄は閉所とか混戦じゃ使いにくいだろ。俺は片手剣を推すぞ。もう片方に盾持ってもいいし、道具使ってもいい」

「ハロルドよ。僕の武器は片手剣にもなるんだが」

「お前の変態武器のことは話題にしてない」


 ひでえ。


「ふっ、射程のことを軽視している奴らの台詞だな。弓が最強。扱いが難しいのは認めるが、相手の間合いの外から釣瓶撃ちにするのは最高だぞ」

「おいおいヴィンセント。矢玉は使い減りするし、殺傷範囲が狭いとやりにくい相手もいるだろ。突いてよし、斬ってよし、払ってよし、投げてよし、の槍がだな」

「……そこまで言われちゃあ、俺も黙ってないぜ。いいか、片手剣はな……二刀流ができるんだ! へっへっへ、俺のコレクションのだな、炎の剣と氷の剣を同時に振ったりしたら……どうだ?」


 な、な、な、なにィィィ!?


「おい、お前それは卑怯だろ!?」

「ハロルド。二刀流なんて実用性に欠けるし、今の議論とはズレた話だ……が、今度やってみてくれ。見てみたい」


 と、男冒険者三人。

 武器の話題で盛り上がっていると、『俺、風呂行ってくるわ……』とジェンドは去っていくのだった。






 その夜。

 南門、城壁の上。


「……ヘンリー。八百メートル先、七時の方向から魔物の群れ。……下級中位から中級下位まで、数は四十強」


 暗視の効果が付与された遠眼鏡を覗き込み、ヴィンセントが僕に報告する。

 大雑把な情報の後、細かい位置や進行方向を聞き、


 僕は一つ頷いて、狭い城壁の上で小さく助走して、槍を投擲する。


「分かれろ」


 小さく呟くと、魔物がいるであろう方向に飛ばした如意天槍が、十数に分裂する。


 今日は星も出ていない真っ暗闇。そのため、その戦果は確認できないが、


「……オーケー、撃破だ。生き残りは二……いや、三。まあ、こいつらはもう無視でいいだろ」


 観測手をやってくれているヴィンセントが報告してくれる。


 リーガレオの夜番。……なにも前線で戦うだけが仕事ではなく、長射程の攻撃手段を持つ連中は、こういう役割もある。ていうか、僕はこっちにいた方が役に立つ。上級上位でも、余程硬い相手じゃなければ、近付かれる前に撃破できるからだ。


「次……千二百メートル程のところに……ちっ、鬼虎。こいつらは全滅させるぞ、前に出てる連中に被害が出る」

「了解。……まあ、正面にハロルドが立ってっから、大丈夫だろうけど」


 片手剣を構えて、周囲をフォローしながら奮迅しているハロルドを見やる。


「上級中位を甘く見るな」

「見てねえよ」


 そんなことくらい、わかってるくせに。


「……ふん。構えろ。ああ、バテたら言えよ? お前の大雑把な投槍より精密な、私の弓の出番だからな」


 その場合、観測手を交代するわけだが、


「言ってろ。一晩中でも投げてやるよ!」


 そうして、次。


 ……その日も、リーガレオの戦いは過ぎていくのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読むくらい引き込まれた。 過去の戦友やパーティーメンバーとのこれからの活躍かすごい気になる。 英雄とことごとく絡みがあるのはご都合感あるが、読んでいて全く嫌みがなくスッキリする。
[良い点] 王道って感じのファンタジーで面白かったです。このパーティの行く末が気になります。 [一言] 続きが楽しみです
[良い点] 死と隣り合わせの最前線でもそれ自体が日常になってるんですねー [気になる点] 天の宝物庫って使ってる武器種しか出ないんでしたっけか 同じ片手剣でも二刀流向けのとかは出たりするのかな
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