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第百八十一話 その名は

 星の高鳴り亭の夕食。本日の日替わりは白身魚のソテーである。

 亭主夫人のパトリシアさんが家庭菜園で育てているハーブがよく効かされていて、結構な人気メニューだ。


 そして僕は、今日はドラゴンをたらふく倒して腹が空いている。美味い飯に空きっ腹とくれば、どうなるかは想像の通りだ。

 僕はメインを二度、パンを三度もおかわりをして、ようやく人心地ついた。


「さて、と。腹もこなれたことだし、そろそろ始めるか」

「もう、ヘンリーさん。食べ過ぎです」

「その分動いてっからな。……まあ、それはともかく、だ。僕たちのパーティの名前、決めるぞ」


 シリルの茶々を適当にあしらって、僕はそう口火を切った。


「んじゃ、早速だけど。順番に考えてきたパーティ名の候補を発表していこう。えーと、誰から言う?」

「ふっふっふ、私はトリを務めさせていただきます!」


 シリルの宣言に、『さよけ』と返してぐるりと見渡す。

 はい、といの一番に手を上げたのはティオだった。


「おう、ティオ。どうぞ」

「はい。『葉隠』、というのはどうでしょう。リシュウの戦士の心得が書かれた書物の名前なのですが」


 と、ティオが胸を張って言う。

 ……?


「いや、ケチつけるわけじゃないけど、どうしてその名前にしたんだ?」

「なんとなく響きが気に入っているので」


 適当!? いや、フィーリングで決めるのもいいけど、もうちょっとこう、由来とかさ。一応、これからしばらくは付き合っていく名前なんだし。


「あー、まあ、とりあえず保留な。他のみんなの意見も聞いてからだ」

「はい」


 あまり自分の案にこだわりがあるわけでもないのか、ティオは簡素に頷いた。


「次は誰が言う?」


 ……沈黙。


 こういうことには躊躇いのないティオはさっさと言ってしまったが、次がちょっとまごついた。僕、ジェンド、フェリスがお互いに牽制し合う。

 ……いや、別に順番に意味があるわけじゃないが、なんていうかそういう雰囲気ってあるよな。


「あー、じゃあ次は俺が言うよ」


 その沈黙を、苦笑いしながら破ったのはジェンドだった。


「ん、どういうのだ?」

「ええと、だな。……俺たちはグランディス神の信徒で、リーダーのヘンリーが使うのが槍だから。『グランスピア』、なんてどうだ?」


 ジェンドの案は、非常に王道なものだった。僕の武器が前面に出るのはやや引っかかるが、奇をてらわない、ストレートにいいネーミングだろう。

 しかし問題は、である。


「……ジェンド、悪い。折角考えてもらってアレだけど、戦神にあやかって、グランなんとかって名前をつけるパーティはたくさんあってな。多分、どっかと被ってる」

「お、おう……そ、そりゃそうか」


 しかも、今の英雄筆頭の名前が『グラン』エッゼである。あの英雄みたいになるぞー、って意味で付けるやつも多い。


 別に違う街だったりすればパーティ名が被ることくらいはよくあるだろうが、今回パーティの名前を付ける目的は、教会側の管理をやりやすくすることである。

 ……重複した名前のパーティ、なんていかにも混乱を招きそうなので、却下せざるを得ない。


「そうか……。うん、他と被りそうな名前、というわけではないけれど。私も少し考えなしだったな」

「へえ? フェリスの案って?」


 聞いてみると、フェリスは頬をかきながら、


「私はこのパーティは五人だから、『五つ星』という案を持ってきたんだけれど。……よくよく考えると、メンバーが増えたりして五人じゃなくなったら、間の抜けた名前になってしまうって今気付いたよ」


 あー。


「……まあ、そうだな。大体この五人で安定してっから、増員は今の所考えてないけど……数を名前に入れるのは、ちょいやめといた方がいい」


 増えるパターンだけでなく。想像はしたくないが、例えば誰かが怪我……あるいは死んで、四人や三人になる可能性もある。

 僕が昔所属していた『ブライトシックス』というパーティとか、解散するとき三人だったし。……いや、辛気臭いのはよそう。


「さて、そうすると。ヘンリーの考えてきた名前が重要になるわけだが。どういうのだ?」


 ティオの案は別に悪くはないが、僕たちパーティには関連のない名前。

 そして残念ながら、シリルの考える名前というのはどうにも……こう、積極的に採用したい感じにはならない気がしてならない。


 そんな、僕と同じ思考を辿っているであろうジェンドの言葉に、コホン、と僕は咳払い一つ。考えてきた名前を披露することにする。


「僕は、このパーティの顔つったら、まあシリルの魔法かと思って。……『勝利の歌』ってのを考えてきた」


 や、やっぱり少し恥ずかしいな、自分の考えた名前を発表するのって。

 ちらり、とみんなの反応を見る。


「へえ、いいんじゃないか? 戦場で歌ってると目立つし。昨日の冒険でも、近くにいた冒険者がシリルの歌聞いて注目してたもんな」

「うん、私も悪くないと思うよ。勇ましい感じがする」


 ジェンドとフェリスは賛同してくれた。……よかった、モロに外したりはしていなかったか。


「二人も賛成しているのであれば、それでいいのでは? 発案者のヘンリーさん含め、過半数がいいって言っているんですから。私も、別に構いませんよ」


 ティオも無事賛成してくれた。

 まあ、自分の案が採用されるのは少し照れくさいが、頑張って考えた甲斐があった。よかったよかった、となんとなく締めの雰囲気が漂い、


「ちょちょちょ、ちょーっと待ってください。私! まだ私の発表が残っています!」


 ……いや、忘れていたわけではないのだが。

 その雰囲気に、シリルが待ったをかけた。


「……シリルさんなら、自分がモチーフになった名前は賛成すると思っていましたが」


 僕もそう思っていた。


「別にヘンリーさんの案が嫌というわけではなく。でも、このパーティは私一人じゃないですから」

「……うん、まあそうだけどな。じゃあ、シリルはどういうの考えてきたんだ?」

「ヘンリーさん、そう急かさないでください。ティオちゃん、今日パーティ名決まったら呑もうって言ってたやつがあるじゃないですか。出してもらってもいいです?」


 少しハテナ顔になりながらも、ティオは言われた通り神器の鞄から、ワインバッグを取り出す。

 そのバッグから出てきたのは、フローティアを出る前に領主様から餞別だと渡された一本のワイン。


 なにか祝い事の時にでも呑もうと話していて。パーティの名前が決まった時といったらぴったりだと、今日この後みんなで呑む予定だった。

 ワインバッグは保冷の魔導具とはいえ、専用のワインセラーに比べればあまり保管に向いているわけでもないし。


 なぜ先に出したのか、不思議に思っていると、シリルが胸に手を当てて演説するように語り始める。


「私も色々と考えたんです。こう、『頑張って大活躍するぞ団』とか。略して頑大団(がんだいだん)です」


 それが提案されていたら、一発で却下していた。


「でも、他にいいのないかなー、って考えて。……ふと思ったんです。これ、どうですかね」


 これ、と。

 シリルはティオの取り出したワインの瓶を指す。


 フローティア近隣で採れた葡萄を醸した、街の名前を冠するワインの銘柄。


「『ラ・フローティア』か」

「あの街では色々と思い出がありますし。あと、パーティを結成した街の名前をつけることで初心を忘れないようにー、みたいな意味があります!」


 うん。実際に、出身地の名前を付けるのも、結構よくある話だ。

 口の中で、もう一度『ラ・フローティア』と唱えてみる。


「……いいんじゃないか? みんなはどう思う?」

「おう、予想外にいい感じの名前が出てきてびっくりしてるが、俺もいいと思う」


 ジェンドの言葉に『予想外ってなんですかー!』とシリルがぷりぷりしているが、お前自分の普段の言動を省みてから言ってくれ。


「うん、私も賛成だ。ヘンリーさんのもよかったけどね」


 と、フェリスも笑顔で賛同する。


「いいと思います……が、おかしい。シリルさんがまともな案を」

「ティオちゃんまでジェンドと同じようなことを!? み、皆さんの私に対するご認識がちょーっと看過できないのですが!」


 どうどう、と僕はシリルを抑える。


 ひとしきり騒いで。ようやっと落ち着いたところで、僕は全員の顔を順繰りに見ていく。


「……ちょっとグダったが。みんな、シリルの案でいいか?」


 うん、とみんなが同時に頷く。


「それじゃ、まあ。……今日から僕たちは『ラ・フローティア』だ。今更って気もするが……改めて、これからもよろしくな!」


 四人がそれぞれ、力強い返事をしてくれた。


 周りのテーブルに座る他の冒険者のみんなも、めでたいことがあったのは察してくれたのか、適当に野次のような祝福を送ってくれた。


 ……そうして、ワインの方の『ラ・フローティア』を祝杯としていただき。

 僕たちの新しい名前が始まるのだった。
















「ニコルさん。パーティ名決めてきましたよ」


 次の日。

 グランディス教会に向かい、担当神官のニコルさんにそう告げた。


「はい、早くに決めていただきありがとうございます。それで、なんという?」

「パーティ結成の街となるフローティアから取って……『ラ・フローティア』です」

「『ラ・フローティア』ですね。承知しました、記録しておきます」


 ニコルさんにパーティ名を呼ばれたが、まだこれが自分たちの名前だという実感はない。しかし、これから少しずつ馴染んでいくのだろう。


「……はい、それでは。ラ・フローティアの皆さん、本日はここ。三陣の中でも、前の方……この地区を担当してもらいます。比較的癖のない魔物がでるところですが、数が多い。気をつけてください」

「了解です」


 ニコルさんが地図で示した位置を、マッパーでもあるティオがメモする。勿論、僕も頭には叩き込んだ。


「っし、それじゃあ行くぞ」

「はい! ラ・フローティア、出撃です!」


 僕の声に応えてシリルがおー、と腕を上げる。


 さて。

 今日の冒険は、どうなることやら。

今回「頑大団」のネーミング決めるのに一番苦労しました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラ・フローティア... これは盲点だった。 [一言] 『勝利の歌』とかが出てくるあたりまで『熊の酒樽』とかラナが関係するものかな?って思ってた。予想は、外れたけどラナに関係するものとしてな…
[一言] ティオ「……結局酒の名前では?」 流石にジョークです、良い名前ですねえ。 あんなタイミングから伏線を貼っていたとは……!
[良い点] ラ・フローティア。ヘンリー達がフローティア代表の冒険者ということですね。 実際そうですし、(残念ながら)出身がかぶることも今の所なさそうなので良いと思います。 お酒の名前でもあるからティオ…
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