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第百七十九話 冒険終わり

「お、おおお~~。や、やっと帰ってきました……」


 杖に半ば体を預けながら歩いていたシリルが、星の高鳴り亭の明かりを見て、そんな声を上げる。

 最初は調子良く戦っていたが……四時間も過ぎる頃にはこうなっていた。もうちょい早めに切り上げればよかったか。


「……俺も大分キツいしな。正直、ナメてた」

「…………」


 僕に次いで体力のあるジェンドがこれだ。身体が小さく、シリルと違ってめっちゃ動き回ってたティオは、無駄口を叩く気力もない。


「あー、とっととベッドに入って寝たいのはわかるけど、飯はちゃんと食ってからな。じゃないと回復しないぞ」

「……ヘンリーさんは元気そうですね」

「半日も戦ってないし、そりゃそうだろ」


 一時間に一回位はドロップ品拾いの時間――休憩もあったしな。


「まあ、大丈夫だよ。三ヶ月くらい生き残りゃ慣れる。慣れてないと死ぬからな」


 いやまあ、勿論そんなことにならないように立ち回るつもりだが。


「……ヘンリーさんのお化けじみた体力の理由、よくわかりました」

「だな。冒険中に息切れしたところとかロクに見たことなかったけど……そりゃこんな環境じゃそうなるわ」


 いや、うん。マァ、一陣常駐の連中は大体こんなもんだし。まあ、その中でも僕は体力ある方だが。


「……っと。ジェンド、頭。血が垂れてる」

「ん、おお?」


 ジェンドの額に一筋の血が流れたことに気付いたフェリスが、癒やしをかける。

 小さい切り傷かなにかが残ってたのか。


 そのくらいの傷はあっさりと治し……今日は大活躍だったフェリスが、重い溜息をついた。


「冒険中にこんなに治癒魔導を使ったのはハヌマンの時以来だね……。アルトヒルン上層でもそうそう怪我しなくなってたから」

「おう、存分にアテにさせてもらった。正直助かったよ」


 フェリスに礼を言う。

 こいつがいたから、僕は突っ込み気味に戦うことができたのだ。割と怪我を負ったが、その分みんなの負担を減らせた。


 これはユーと組んでた頃の戦い方なので、まあ慣れてるっちゃ慣れてる。


「傷を承知で無理するのは、あまり褒められた戦い方ではないと思うよ、ヘンリーさん。ユースティティアさんも、そういうのはいい顔をしないんじゃ?」

「いや、総合的に見りゃこっちの方が安全なんだよ。小さな怪我を厭って、大怪我するようじゃ本末転倒だしな。その辺、ユーはシビアなやつだぞ」


 後ろに魔物の群れが追加で迫ってきていて。今相手しているやつらと合流されたら、全滅しかねない。

 ……そんな時、『ヘンリー、後ろの連中、死ぬ気で足止めしてきなさい! 死んでなきゃ治すから!』と、平気で指示を飛ばす女だ、ユーは。


「それは……なんていうか」

「フェリスもみんなへの指示、少し覚えてくれると助かる。三陣ならともかく、一陣だと僕も余裕なくなることあるから」


 フェリスは、意図して負担の低い位置にいてもらっている。

 勿論、治癒士が倒れると一気に危険度が上がるからだが……その分、周りを見る余裕もあるというわけだ。


「ああ。慣れないけど、頑張ってみるよ」

「……あー、悪い。しまった、その辺、教えるの忘れてた」

「いや、ヘンリーさんには色々と教えてもらったし、そう気にしなくても」


 そうは言うが……うむ、よし。


「んじゃ、ユーのやつに講義させるか。あいつ、パーティで動く時は司令塔だったし」


 無論、フェリスと同じ理由で。


「あの、ユースティティアさんは忙しいと思うのだけれど……」

「僕があいつに何個の貸しを作ってると思ってる」


 同じくらいの借りもあるが!

 ……まあ、毎日五分かそこいら、心得を話すくらいはしてくれるだろ。フェリスは地頭が良いし、周りをよく見ているからそれで十分モノになる。


「そ、そうかい」

「おう」


 さて、今晩にでも話を通しておくことにしよう。
















 帰ったらまず、星の高鳴り亭自慢の大浴場に入る。

 勿論、リシュウで泊まった翠泉館の温泉とは比べるべくもないが、それでも冒険者にとってはありがたい。風呂に浸かると、疲れがよく取れるしな。


 そうしてさっぱりしてから、食堂で食事をいただくというのが、この宿の冒険者のスタイルである。


「今日はチキンステーキか」


 じゅうじゅうと、鉄板の上で美味しそうな音を立てる肉に、僕はつい口元が綻ぶ。

 付け合せはまあ、定番のパンとサラダ。


 ――すげぇ、本当に流通が随分マシになってんだ。

 と、そのメニューを見て、僕は感嘆する。


 基本的に、リーガレオの食材といえば日持ちするものだった。肉といえば塩漬け、あるいは燻製辺り。それも、保存性第一で塩っ辛かったり、燻しすぎだったりしていた。

 そして生野菜。僕が前にいた頃は、パトリシアさんの家庭菜園のものがたまに出ていたが、それ以外の野菜といえば大体酢漬けの類で、これまた酢がキツすぎる代物だった。


 パンも……色合いからして、ほとんど混ぜものがない。


「お。ヘンリーが散々こっちの料理は不味いって脅かすから、もっとヒドイのかと思ってたけど。普通に美味いじゃないか。別に昨日が特別ってわけじゃなかったんだな」

「はい。私にはちょーっと味濃い目ですけど、冒険で疲れた身体にはこれもいいですね」


 いただきますをして、早速チキンを口に運んだジェンドとシリルが呑気に言うが。


「……お前らマジでラナちゃんに感謝しとけよ」


 僕は釘を刺しておく。

 パトリシアさんの料理の腕はいいが、それでも食材の問題は大きい。食料が少なくなる冬なんか、薄めたエールで流し込むように食べないといけなかったりしたこともある。


 そういう時、ワンチャン肉食えねえかなあ、と可食部をドロップする魔物を乱獲してたりしたっけ。食えるドロップは大体がレアなので、ほとんど空振りだったが。


「おう、そういえば我らが女神の宿に泊まってたんだったな、ヘンリーは」

「……そうだけど。ハロルド、なに、それ……我らが女神?」

「みんな言っているぞ。リーガレオに舞い降りた救いの女神と」

「ねー。……いや、ホント、状況ひっくり返ったもん。感謝感謝」


 隣のテーブルで食ってたスターナイツの面々が、口々にラナちゃんを褒め称える。

 ええ……いや、僕も内心では拝んでいるが、まさかこんな公言されるほど話題になってんのか。


「ビアンカ……マジ?」

「本当」


 スターナイツの最後の面子。

 今日は冒険を休んでいた女に尋ねると、即答だった。


 まさかスターナイツの面子全員で僕を謀ろうとしているわけでもなかろう。本当なのか……いやまあうん。この飯だけでも、理由については察するに余りあるが。


「私も、糞神器しかくれない戦神から乗り換えようかと真剣に検討している……というのは流石に冗談」

「……あの、ビアンカさん。僕が出てってから、その、いい神器とか」

「ヘンリー。……殺すよ?」


 はい、と僕は引き下がった。


 ――スターナイツ所属の斥候、ビアンカ。誰も口にはしないが、その二つ名は『不運』。


 神様が差別でもしているのか、天の宝物庫から出てくる神器がことごとく外れの女である。


 まず、これだけの腕で宝物庫も相当引いているのに、コモン神器が九割という時点でなにかがオカシイ。

 一度だけエピックの短剣を引いたことがあるのだが、その能力が……『食べられる』『美味しい』『不壊』という。食用可なのに、壊れないから食べられないという、意味不明な代物だった。


 ……神器の『食べられる』系は基本ゲロマズなのに、あえて『美味しい』が付いているのも、なんの嫌がらせだったんだろうか。せめて『不壊』付きじゃなければネタにはなったのに。


「……ラナはこっちでは有名なんですね」


 もきゅもきゅと、失った体力を補うべく、旺盛な食欲を発揮していたティオが口にする。

 あまり表情は変わっていないが、親友が褒められて喜んでいるようだった。


「飯もこうして美味いのが食えるようになったし、有名も有名だよ。ええと、ティオだったか? もし帰省することがあったら礼言っといてくれ」

「はい」


 ハロルドの依頼に頷き、ティオは皿を持っておかわりに向かう。


 星の高鳴り亭は、食事は日替わり一種類だが、おかわりは自由なのだ。前も、身体が資本の冒険者や兵士たちのため、味はヒドくとも量だけは確保されていた。……この辺りは、グランディス教会の資金も入ってたりする。


 僕も二回ほどおかわりをして、食事を終え……まったりと珈琲なんぞを飲みながら、そのままみんなと会議に入った。


「それで、だ。教会から早めに決めるように言われたけど……パーティ名どうしよう」


 本日の冒険を終え。グランディス教会に戻ってドロップ品を買い取ってもらって。

 その帰り、神官のニコルさんに捕まって、そのように命じられたのだ。


「まあ、言われてみりゃそりゃそうだ、って俺も思ったけどな。こんだけ沢山の冒険者がいるんだから、管理も大変だろうし。固定パーティなら、名前がわかればまだやりやすいってことだろ」


 ジェンドの言葉に頷く。

 そういえば、と、僕も言われて思い出したが。パーティを結成したり解散したり、人が入れ替わったりしたら、すぐに報告しないといけないのだ。


「はいはい! それでしたら、不肖このシリルさんにアイデアがあります!」

「……で、どんなのがいいと思う? あまり仰々しいのはアレだけど、適当なの付けるのもな」


 無視して話を進めると、ぽかぽか殴られた。いや、痛いというよりくすぐったいというレベルだが……ええい、鬱陶しい。


「わかったわかった。聞いてやるよ。……自分の名前とか入れてないよな?」

「んぐ!? えーと、あのー……駄目なんです?」


 ぺちん、とデコピンをカマす。

 どうせ『シリルさんと仲間たち』みたいな名前だったに違いない。長いし、呼びにくいし、自己主張が激しすぎる。


「パーティ名なあ。俺、どうもそういうの苦手だ」

「私もだよ」


 うーん、とジェンドとフェリスが唸る。


「……区別がつけばいいんですから、番号とかでいいんじゃないですか」

「ティオちゃん、流石にそれは味気なくないですか」


 あーだこーだと。

 話してはみるものの、どうにもこれというのが出てこない。


「リーダーのヘンリーが槍使いなんだから、神器にあやかって『天の槍』とか」


 と、ジェンド。


「うちの強みつったら、シリルの魔法も大きいだろ。魔法流派の名前を取って、『エンデ』なんてどうだ」


 あまり自分を主張したくない僕は、そう提案。


「ふむ。このパーティは五人だから、『ペンタゴン』とかどうかな」

「うーん、うーん……『三人の美姫と二人の騎士』、とか」

「……『ウイスキー』」


 色々と出てくるが、これ! といったものがない。

 ……シリルのは恥ず過ぎるので勿論却下。ティオは、お前それ呑みたいだけだろ。


「まあ、数日中に決めりゃいいらしいし。とりあえず、各自案を考えて……そうだな、明後日、もう一回話すか」


 そう結論づけて。


 その日は解散と相成った。

というわけで、パーティ名です。

腹案はありますが、もし良さげなのを提案してもらったら、採用するかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「食べられる」、「美味しい」、「不壊」のナイフと聞いて、某漫画に出て来た、いつもナイフに舌舐めずりしてる殺し屋を思い出した。 仲間に、「それいつも舐めてるけど美味いのか?」、と突っ込まれてい…
[一言] 希望(エルピス)ギリシャ語←パーティー名
[良い点] バイオハザード祭りとか精神に来る敵はありませんでしたかチッ、良かったですね。 [気になる点] ヘンリーのパーティー名は魔法に詳しい人とかが聞いたら魔法使いの出自がばれて目立ってしまうのでは…
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