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セミリタイアした冒険者はのんびり暮らしたい  作者: 久櫛縁
第十一章 進撃への準備
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第百三十五話 新装備、そして出立

「……うし! 最後の調整もこれで完了だ!」


 ゴードンさんが満足気に声を上げる。


 ……ゴードンさん作の武具で全身を覆うという贅沢な装備の刷新。それがとうとう終わったのだ。


「おー、一つ一つは試着とかしていましたが……こう、揃いで身に着けると、なんか強くなった気がしますね!」

「おいおい、シリル。儂がこしらえてやったんだ。強くなった気、じゃない。強くなったんだよ!」

「な、なるほど! それもそうですね!」


 ゴードンさんが自信満々に断言し、シリルも納得という風に頷いた。

 装備ばっか強くなっても……って冒険者の心がけ的なものが頭をもたげるが、まあ今くらいははしゃがせておこう。


「……実際、色々できるようになったのはいいですが、使いこなすのには時間がかかりそうですね」

「あー、ティオのは特に色々仕込んでたしな」


 ゴードンさんに一番細かいリクエストをしたのはティオだった。


 革鎧は、ハヌマンの毛皮をなめしたものと上級の魔獣の皮を合わせた合皮製。特殊能力として、気配を薄くし短時間であるが姿を隠す『陽炎』が付いている。

 そして靴。『吸着』の能力が付与され、壁とか天井に張り付くことができるようになったらしい。


 そして普段遣いのマチェットの他、硬い相手の身体の隙間を縫うような薄いナイフを作ってもらった。これは色艶などを調整して、鏡のような刀身になっており……恐ろしく見づらい。


 神器のソウルシューターは完成度が高い代物であまり手は入っていないが、『魔力装纏』の能力を調整して、時間をかけることでより多くの魔力を込められるようになった。チャージアローとかいうらしい。まんまだが。


 隠密能力に更に特化し、それでいていざという時の攻撃力もある程度確保した、そんな感じに仕上がった。


「儂的にはジェンドのブレイズブレイドが特にいい出来だった! おう、簡単におっ死んで宝物庫に神器返還されんじゃねえぞ!」

「わかっていますよ」


 ゴードンさん命名して曰く、『双炎の』ブレイズブレイド。火の斬撃を飛ばす飛炎剣、そして更に強化された『炎纏』の能力が強みだ。

 なお、鎧の方は元の神器の鎧は返還して、新しく作っている。余計な特殊能力は付けず、ただ頑健に、しなやかに作り上げられた逸品だ。多種多様な魔物の生息するリーガレオで前衛を張るのであれば、こういう堅実なやつの方がいい。それに、一からジェンドの体型を採寸して作ったから、動きやすさは雲泥の差のはずだ。


 元々の強みをそのまま伸ばした、スタンダードな強化と言えよう。


「ふふ、なかなか格好いいじゃないか、ジェンド」

「おう、そういうフェリスもな」

「私の方は、あまり見た目の変化はないけどね」


 一方で、フェリスの場合は、元々持っていた剣、盾、鎧をそのまま強化している。

 剣と鎧は然程手を入れていない――それでも最上級の装備に仕上がっている――が、今回の強化の肝は盾である。


 今はもう家名は潰えた、フェリスの実家ハーシェル家家伝の盾。こいつはゴードンさんの手によって自在鉱を用いた加工が施され……フェリスの意思一つで、実に四種の術式の形をその盾の表面に刻む仕掛けが施された。


 ガンガルドのニンゲル教会の許諾を貰って刻まれた救済魔導術『ニンゲルの手』の術式は、今後の冒険に大いに役立つだろう。術式を刻める面積が広くなったことにより、個人が携行するサイズの通常の呪唱石では、ちょっと使えないくらいの魔導が実用できるようになったし。


「そういえば、今更ながらどうして私のリクエストだけ却下されたんでしょう。みんなお願いした通りになってるのに」

「……シリルよ。儂が言うのもなんだが、お前さんハヌマンをほぼ一撃で殺っといて、それ以上威力を求めてどうするんだ」


 シリルのリクエストは『もっと魔法を強化する杖にしてください!』だった。

 ……んなもん、秒で却下に決まっている。ナニを倒すつもりだ、それで。ゴードンさんも心得たもので、それを聞いた瞬間無視してくれた。


「つーか、儂の作った杖が気に食わんか?」

「あー、いえいえ! 勿論文句があるわけじゃないです。この杖も最高です」

「そうだろう、そうだろう」


 シリルの杖も、リクエストとは違うが業物になっている。打撃武器としての質も向上しているし、付けられた宝玉は精神集中を助ける青の虹水晶。溜め込んだ魔力の質によって七色に変化する虹水晶は希少な鉱物で、青は特に珍しい。


 んで、新しいマントは当然のようにあらゆる耐性付き。服の方は一部仕立て直して染料を変えて、ついでにとある防御能力が付与された。

 神器の能力でも聞いたことないので、多分今回のコレが初出の能力、『反発魔力』。攻撃を受けたら、着用者の魔力をブッパして衝撃を緩和するという……燃費がヒデェらしいので、シリル含め人類では数人しか活用できないとゴードンさんが言い切ったブツだ。


 ……シリルの服仕立てたフローレンスさん、どんな感想になるんだろ。相当に改造されてるけど。


 まあ、ともあれだ。

 僕の手甲も直してもらったし、戦闘服の方はロッテさんと一緒に退治したフェンリルの毛皮使って強化したし、如意天槍も少し改造してもらったし。


 ……ガンガルドでの目的は、大いに達成できた。


 ほれ、並べ。と、みんなに声をかけ、


「ゴードンさん、ありがとうございました」

『ありがとうございました!』


 全員で頭を下げる。


「おうおう、そんな改まって礼なんていらんさ。儂は仕事をしただけだからな」


 そうは言うが、ゴードンさんには感謝してもしきれない。

 これだけの装備を一ヶ月で。いくら製作速度に定評のあるゴードンさんでも相当にきつかっただろう。実際、この家に滞在中、ほぼほぼゴードンさんは鉱神の工房に篭っていて、見かけるのは装備の試しの時くらいだった。


 お値段も、実は相当勉強してもらっている。四桁万ゼニスが吹っ飛んだが、これだけポンポン能力を付与してもらったのだ。倍……は言い過ぎにしても、本来は五割くらいマシマシの金額でもおかしくない。


「へっ。まあ、習熟訓練はしっかりな。それで、すぐ出発するんだったか」

「はい。転移門の予約が割とギリギリで」

「そりゃあスマンかった。ちっとお前さんの如意天槍の調整に思ったより時間食ったな」

「いやいや! そんなこと気にしないでください」


 これから僕たちは二手に分かれる。

 イストファレアの道場で武術に磨きをかけるジェンド、フェリス、ティオ組。サンウェストで魔導、魔法の訓練をする僕とシリル組。


 ……で、イストファレアならここから歩きでいいのだが、サンウェストとなるとイストファレアから王都を経由して転移門を乗り継いで向かう必要がある。

 足止め食らうのも面倒なので、つい先日交易のためにイストファレアに向かうドワーフの人に転移門の予約を頼んだのだが……如意天槍の仕上がりが少し遅れたせいで、予約の日までやや余裕がない。


 勿論、そんなことで文句があったりはしないが。


「よっしゃ、またクルマを回してやるよ」

「そこまでお世話になるわけには……」

「ようやっと仕事が終わって、久し振りに乗り回せるんだ。儂の気晴らしついでだから気にするな」


 そう笑って、ゴードンさんはクルマ――地を走る流星号の起動キーを取りに向かおうとし、


「旦那様。キーでしたらこちらに」

「おう、リコッタ。気ぃ利くな」

「もう、いつものことではありませんか。大仕事を終えたらクルマを走らせるのは」


 それもそうだ! と、ゴードンさんは笑う。


「……それで、私も勿論乗せていただけますよね」

「あー」


 リコッタが言い、ゴードンさんが頭をかく。


 行きはいいが、帰りはリコッタと狭いクルマの中で二人きり。……あ、自分に置き換えたらちょっと背筋が冷たくなった。


「あ、いいですね! リコッタとすぐお別れも寂しいですし!」

「ああ。折角だ、シリルはサンウェストに行くから無理だが、イストファレアで私たちと少し遊んでいかないか?」


 コクコク、とフェリスの言葉にティオも頷く。


 あー、女性陣仲良くしてたもんなあ……それはいいのだが、『裏切りやがったな!?』って目で見てるゴードンさんのことも気にかけてあげて欲しい。


「へ、ヘンリー、ジェンド。なんか言ってくれ」

「……諦めた方がいいんじゃないッスかね」

「おい!」


 他人が言って止まるようならとっくに止まっていると思います。だから口を挟めなくても仕方がない。決してやぶ蛇になるのが怖いとかそういうのではないから。

 大恩あるゴードンさんの助けになれなくて口惜しいなあ!


「……ま、まあ。リコッタのやつ乗せるの、初めてじゃないし……今回も大丈夫、だろ」


 がっくりと項垂れたゴードンさんは、重い足取りで歩き出す。

 僕は内心平謝りしながら、そのあとを付いていくのだった。








「……んじゃ、ま。しばらくお別れだな」

「ああ。俺らもきっちり鍛えとくから、そっちもサボんなよ」

「ぬかせ。ジェンドこそ、フェリスとイチャついて腕落としたりするなよ」


 イストファレアの転移の駅の前。

 僕たちは、軽口を叩きながら別れの挨拶を交わしていた。


「みんな、元気で頑張ってください! 私も、ヘンリーさんとよろしくやってますから!」

「……いや、シリル。その言い方、なんか誤解を招きそう」

「言い方?」


 はて、とシリルは首を傾げる。……まあ、こいつに限って変な意味が含まれているわけではなかろうが、もう少し気を使って欲しい。


「……ヘンリーさん、シリルさんのこと、しっかり見てあげてくださいね。その、私たちがいないと、不安なので」

「ちょちょ、ティオちゃーん? それどういう意味? 一応、私のほうが歳上なんだけど」

「それはそうですが、なにか」


 ティオがしれっと答える。……多分、僕の知らないところでも色々危なっかしいことがあったのだろう。初めての街だということもあるし、ティオの言う通りしっかり見ておかねば。


「さて、そろそろ時間だよ。ヘンリーさん、急がないと」

「っとと、もうそんな時間か」


 フェリスの言葉に、転移の駅の建物に備え付けられている時計を見ると、確かにいい時間だった。


「ほれ、シリル、行くぞ。……じゃあ、みんなまたな!」


 シリルと連れ立って、転移の駅に入る。


 ……これから三ヶ月、みっちり鍛え。

 一度、フローティアに戻って、少し休息。


 その後は、いよいよリーガレオ行きだ。


「楽しみですねー」


 ……最前線に再び行くことに不安とかがないわけではない。

 まあでも、こうして隣で笑ってるやつくらいは、守っていくつもりである。


 と、そんな小さな決意を胸に。

 僕たちは遥か西の街へと向かうのであった。

本日は書籍版『セミリタイアした冒険者はのんびり暮らしたい』一巻発売日。この後、店頭に並んでいるのを見物に行く予定です。

後、折角なので。本作を面白い、と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をもらえるととても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今以上の威力、魔軍ごと魔将を吹き飛ばして英雄狙いくらいですかねえ。 最大威力は十分にしても10分かかっていた威力を5分+増幅でスピードアップとかできませんかね。
[良い点] うんまぁ。よろしくやってください。 恐らくがっつり魔法魔導修行でしょうし。 [気になる点] 行きは良い良い帰りは恐い。 さて、ゴードンさんは無事だったのでしょうか。 それと、裏切ったも何も…
[良い点] 流石のゴードンさんといえど、まだまだ自在鉱の加工は如意天槍よろしくヒョイヒョイ戦闘レベルで変化、とはいかないのかな。流石は神器。 ああ、いや、精細な術式をその場に合わせて即座に刻める、とい…
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