第百三十三話 ブレイズブレイド
ドワーフの街、ガンガルドから離れること一時間ほど。ガンガルドの教会で仕入れた情報通り、ゴーレムが出現しやすい辺りを歩き……本日、都合四回目の戦闘。
「こっちだ間抜け!」
声を張り上げて注意を引きつつ、横っ飛び。
数瞬遅れて、オリハルコンゴーレムの打ち下ろしのパンチが先程僕のいた場所に突き刺さる。
ズシン、という重い音。小さく地面が揺れるほどの衝撃だ。
こうして、ゴーレムの周辺にまとわりついて、攻撃を躱し続けること約三分。そろそろか、と考えていると、もう慣れてきた思念の声が届いた。
(ヘンリーさん、ジェンド! ぶちかましますよ!)
(オーライ!)
シリルの合図に、僕はオリハルコンゴーレムから間合いを取る。少し離れたところで、同じくミスリルゴーレムの相手をしていたジェンドも、同じように動いた。
「『ダイヤモンドジャベリン』!」
何度か試して、ゴーレム相手に最も有効と思われる魔法名を、シリルが唱える。
シリルの足元の地面に二つの盛り上がりができ、そしてそれは名の通り長大な投げ槍の形に変化する。
魔力でコーティングされ、真白に見えるその槍の穂先が、僕とジェンドが相手していたそれぞれのゴーレムに向けられ、
「発射!」
術者の合図に従い、真っ直ぐに飛んだ。
……流石に、軌道とか精度では負けないが、一点の破壊力という意味では僕の投槍を遥かに上回る一撃が飛来し、
「ゴッッ!?」
動きの鈍いゴーレムはそれを避けられず、心臓に当たる部分にドデカイ風穴を作った。目論見通り核はそこにあったらしく、しばらくの沈黙の後、ズズンとゴーレムは倒れる。
「……ふう」
ゴーレムが瘴気に還り始めたのを確認して、僕は少しだけ気を緩め、額の汗を拭う。
体力的には全然余裕だが、あの威力の攻撃を避け続けるのはちと緊張する。ゴーレムは動きが遅いので、油断さえしなければ大丈夫なのだが……まかり間違ってまともに命中したら、まあ、全身骨折くらいはいくだろう。
瘴気が晴れると、残ったのは拳大程のオリハルコンの塊。オリハルコンゴーレムがドロップするのはこれだけ。質や量によってレア度が変わる感じだ。
こいつは……ちょい小さめだが、多分結構質はいい方。
「ヘンリー」
「おう、お疲れ。そっちも一撃で終わったみたいだな」
「ああ。ティオのおかげでな」
ジェンド、及び少し引いたところでジェンドの援護をしていたティオと合流して、後衛のシリルたちのもとへ向かう。
二人が相手をしていたゴーレムの核は……シリルの魔法が直撃していたのは左腰辺りだったか。
ゴーレムの、核。無機物であるゴーレムは、当然急所も普通の魔物とは違う。核、と呼ばれるゴーレムにとっての心臓を破壊しなければいけないのだ。
これがストーンくらいなら、もう全身ぶっ壊した方が手っ取り早いのだが、オリハルコンや純ミスリル、アダマンタイトのゴーレムを相手にしようとすると、こいつを見極めてぶち抜くのがセオリーであり……核の位置は個体ごとに異なるため、どこに核があるのかを見極めることが重要となる。
んで、僕たちの場合、前衛が発見した核の位置をリンクリングの神器の効果でシリルに伝え、魔法でドーン! という戦法を取っているわけだ。
……なお、どの個体も頭と胴体を切り離せば動きが止まるので、そっちを狙う方法もある。
しかし、首部分は特に頑強で狙うべき位置も高く、しかもある程度傷つければいい核と違い完全に切り離さないといけないので、あんまり主流ではない。
一人で首刈り戦術を主流にしかけたやつはいるが。……言うまでもなく、アゲハの馬鹿のことである。
「ヘンリーは核見つけんの上手いよな。戦いながらなのに。なんかコツとかあんのか?」
「コツねえ。細かいことを上げればいくつもあるけど、経験と勘……かなあ」
魔力の強弱。ゴーレムがどこを庇ってるか、四肢の強靭さの差、個体ごとに微妙に違う造形……といった無数の要素を、総合的に判断して『あ、ここがクサい』と当たりをつける。
「そ、そうか」
「おう」
触りだけ説明してみたが、やはりジェンドもピンと来ない模様。僕だって、初めての魔物相手でこんな風に言われたら、理解できるとは思えないし、それは仕方がない。
……うん、やっぱり経験と勘、と表現するしかない。
希少金属のゴーレムは金銭効率がいいから、倒せる攻撃力を持ったパーティだと積極的に討伐する対象となる。……アゲハの野郎が首掻っ切れるから、僕もそりゃあお世話になった。貯金的な意味で。
「その点、ティオは大したもんだよ。最初はちょっと間違えてたけど、今じゃほぼ正解じゃないか」
「それはまあ。観察眼に関しては、優先して鍛えていますので。第一、後衛で余裕を持って探せるんですから、褒められるほどでもないです」
ティオは謙遜するが、ハヌマンの存在を誰より早く察知したところといい、目の付け所というか、勘所がいいんだよな。
勿論、ジェンドはジェンドで、相手が鈍く防戦に専念しているとはいえ、上級上位を十二分に足止めできている。
最初の方でドジって両腕粉砕骨折したジェンドを、次の日には武器を振れるまでに回復させたフェリスといい。馬鹿げた攻撃力の魔法を使うシリルといい。
相変わらず、うちのパーティの面子は優秀である。
しかも、最上級と戦った経験がいい方向に働いたのか、こう、一皮剥けた感がある。一言では言えないが、戦い方に貫禄というか安定感が出てきた。
これで装備が更新されて、体系だった戦闘技術を改めて学べば。
リーガレオ。魔国との戦争の最前線でも、一流のパーティとして名を馳せることができるだろう。
「……ウカウカしてられねえな」
「ん? なんか言ったか、ヘンリー」
「なんでもない」
ぽつりと呟いた言葉は、少し前を歩くジェンドには聞こえなかったようだ。……あ、ティオには聞こえてたのか。にゅ、と親指を立ててる。
……ちと照れくさい。
そんな気恥ずかしさを誤魔化すように、僕は気持ち大きな声を張り上げる。
「っし! いいペースだ。この調子で、次のゴーレム行くぞ!」
おー、と。
みんなの返事に、思わず笑みがこぼれた。
「ただいま」
あれから更にゴーレムを十体ほどブチのめして。僕たちはゴードンさんちに帰ってきた。
途中から宿を取ろうと思ったのだが、ゴードンさん曰く、依頼の品の試しやリクエストの聞き取りのため、泊まっててくれた方が都合がいい……らしい。
「おかえりなさいませ、皆様」
……なんか理由の半分くらいは、こうして屋敷の玄関まで出迎えてくれたメイドさんと二人きりのシチュを避けたい、という思いな気がするが。
「はい、ただいまです、リコッタさん、お迎えありがとうございます!」
「いえ、このくらいはなんということもありません。お風呂が沸いておりますので、冒険の疲れを癒やしてください。それとも、お食事を先にいたしましょうか」
如才ないなあ。
まあ、汚れたまんまで他の人のうちを歩き回るのも憚られる。折角だし、先に風呂をいただこうか……とか考えていると、どっかどっかと激しい足音が屋敷の奥から響いてきた。
「おう、お前ら帰ったか!」
「はい、ただいま帰りました、ゴードンさん」
「よォし、ジェンドもいるな! テメェの武器の改良が一旦仕上がったから、ちょっと試し切りだ。中庭に回れ!」
ゴードンさんは、ジェンドのブレイズブレイド……改を見せびらかせるように掲げる。
大きな印象は変わっていないが、心なしか少しシャープな外見となり、刀身にいくつかの模様が刻まれている。
「もう、旦那様。ジェンド様たちは冒険帰りで疲れていらっしゃるのですよ。明日でもいいではありませんか」
「おうおう、リコッタ。こと仕事に関してはおめぇに口出しされるいわれはねえな。試し切りして、とっとと微調整に入るんだよ!」
「はあ……」
リコッタが溜息をつく。
あ、ちゃんと仕事に関することについては突っぱねられるんだ。
(旦那様の厳しい叱責……いい……)
……だから、小声の呟きは聞こえなかったことにしよう。
ゴードンさんもほら、なんか脂汗かいているけどあれは鍛冶仕事で流れた汗であって、それ以外の何物でもないはずだ。
「勿論、自分の武器ですから。ゴードンさんの言う通り、早く試しましょう」
「おっしゃ! 行くぞ!」
ゴードンさんが大張り切り(決して空元気ではないと僕は信じている)で中庭に向かう。
仲間の新装備は勿論興味があるので、僕たちもぞろぞろと付いていった。
この家の中庭は結構なスペースだ。ただし、表側の庭と違って、銅像や花壇はなく、殺風景である。
代わりにあるのが、簡素な人型をした打ち込み用の人形やら試し切り用の丸太やらハンマーやら……要は、ここはゴードンさん作の武具の試し場なのである。
庭の中央にジェンドとゴードンさんが並んで立つ。
ジェンドはブレイズブレイドを受け取り……二度、三度と素振りをする。
「握り心地はどうだ?」
「いい感じです。前までは手に馴染んでる……って感じでしたけど、こいつは手に吸い付くみたいだ」
おう、それはなによりだ。握りの感触は結構重要だしな。
「吸い……付く?」
……あまり武器の扱いは得手でないシリルはピンときていないみたいだが。
まあ、シリルの杖は下取りに出して完全新規に作る予定だし、そいつが完成すれば実感するだろう。
「よし、新機能を試してみてくれ。初めて扱う術式だからな、ちゃんと起動するか確かめる」
「はい!」
ジェンドが、ブレイズブレイドを真正面に構える。一つ、二つと深呼吸をし、
「――飛炎剣!」
気合を込め剣に炎を纏わせ、一閃。
炎が弧を描いて、空中を突き進んでいく。やがて十メートルは離れていた打ち込み用の人形に命中し……
「……ン、マァマァか。まだちと術式の精度が甘いな」
その人形を倒して、消えた。
ジェンドの師匠であるリカルドさんの得意技。剣に刻んだ術式による一種の魔導と火神一刀流を組み合わせた飛炎剣。
……神器に術式を刻む、という難易度の高さに、今まで使えなかったが、見事に実現してみせた。
「凄い……本当にブレイズブレイドで飛炎剣が使えるなんて」
「おめえがやってくれと頼んだんだろうが。引き受けた以上、きっちり仕上げるさ」
ゴードンさんが心外とばかりに鼻を鳴らす。
……神器の加工。
こいつができる職人は滅多にいない。
そもそも強靭な神の道具に手を入れること自体ができなかったり、弄った結果神器の能力が弱くなったり、武具としての性能を落としたり。
「『炎纏』の能力も一つ追加しといた。火力アップだぜ」
「え? マジ……だ!?」
しかし、『神の槌』の手にかかると、そんな風に劣化させるどころか、別の能力を付与したりもできる。
ゴードンさんレベルで神器を加工できる人材となると、片手の指で数えるほどにも存在しないだろう。
「素材が良かったからな。こいつがクズみたいな素材だったら、能力追加なんざできねぇんだが。駆け出しの頃に引き当てたんだろ? 運いいぜ、お前」
「へへ、ありがとうございます。あ、お借りしていた大剣、お返しします」
「おう、どうだった?」
「このブレイズブレイドには敵いませんが、いい武器でした」
そうかい、とブレイズブレイド加工中に代わりに貸し出していた大剣を受け取り、ゴードンさんは嬉しそうに笑う。あれも、ゴードンさん作で、この屋敷にストックされていた逸品である。
「はは、ジェンドが嬉しそうでなによりだよ」
子供っぽくはしゃぐ恋人に、フェリスが小さな笑みを漏らす。
「むう。それはなによりですが、先に作ってもらえていいなあ、ジェンド……」
嬉しそうな顔をするジェンドにこっちは嫉妬したのか、ぷう、とシリルは頬を小さく膨らませた。
「まあまあ。ちゃんと一ヶ月後には全員分一式揃ってるよ。ゴードンさん、約束してくれたしな。そのためにも稼がないと」
「わかってますう」
さてはて。剣の細かい調整のため、ジェンドとゴードンさんは話し込み始めた。
「……ありゃ長くなりそうだな。みんな、折角リコッタが用意してくれたんだし、風呂入ろうか」
「そですねー」
議論を白熱させる二人に、手を上げて、僕たちは家の方に戻る。
……さて、明日からも頑張るために、体を休めるとするか。




