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セミリタイアした冒険者はのんびり暮らしたい  作者: 久櫛縁
第一章 フローティアの冒険者達
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第十二話 仲間集め

「オラァ!」


 前の方にいるジェンドが、気合を入れて剣を一閃する。

 袈裟懸けに斬り付けられたワイルドベアは、傷口を炎上させながら倒れた。


 ワイルドベアはまだまだいるが、ジェンドは倒した奴を壁のように使い、囲まれないよう立ち回っている。


 ……あっちは大丈夫そうだ。


「こっちは、こっちでなんとかしないとな!」


 飛んできた粗末な矢を、魔力強化した裏拳で払いのける。矢と合わせて近付いてきた三匹の犬頭人身の魔物――コボルトを、槍で薙ぎ払った。


 コボルトは知恵が回り、簡素なものではあるが、自然のものを利用して武装している事が多い。今の奴らも、石斧を持っていた。


 そして、面倒くさいのが、


「ちっ」


 魔法を使おうと、歌っていたシリルに放たれた矢を、槍で叩き落とす。


 ――これだ。弓使いが三人いる。別々の方向から要所要所で撃ってきて、鬱陶しい。


 シリルは、この前買った『結界くん』を身に着けているから、魔力もちょっとしか籠もっていないこの程度の矢は弾けるが、魔法の集中を害する可能性があるので、なるべくは僕の方で防ぎたい。


「行きます、『ブライトフラッド』!」


 シリルの魔法。

 光の奔流が、コボルトを十匹ばかり吹き飛ばす。多分、弓使いも一匹潰せた。


 ……ただし、こいつらは僕たちを半包囲しており、その一角しか崩せていない。


 相当に大きな群れらしく、五、六十匹はいる。


「ヘンリーさん、次どうします!?」

「同じ魔法、今度は右方向に!」


 左からコボルトが三、右から二。挟み撃ちをしてきた。しかし、シリルは構わず歌に入る。


 ――信頼されているらしい。それには応えないと。


「《(イードル)》+《(イグニス)》+《投射(ヴェロス)》!」


 左からの三匹に、熱湯の雨を降らせてやる。


「ガアアアアァァ!」

「ギャッ! ギャッ!」


 大した防御力もないコボルト共は、それでのたうち回る。

 で、間合いに入ってきた右からの二匹を連突きで仕留めた。その間、僕に飛んできた二本の矢は、一本は逸れ、もう一本は身体強化に任せて無視。


 更に、左右のコボルトは波状的に接近してくるが、


「『ブライトフラッド』!」


 右から来た奴らは、カウンター気味に放たれたシリルの魔法が全滅させた。


 よし、後は左方に展開してる二十匹程。いきなり囲まれた時はちょっと焦ったが、問題なく切り抜け――


 と、少し安心しかけたところで、バサッ、バサッ、という大きな羽音が聞こえた。

 やべ、と背筋が冷たくなる。


 目線を上に。……急降下してくるグリフォンがいた。狙いはシリルの方か――!


「させるかボケェ!」


 シリルの頭部を狙って迫る鉤爪を、如意天槍で受け止める。シリルはちょっと体当たりでぶっ飛ばしたが、許せ。


 急降下の勢いとグリフォン自身の重量、魔力が込められた一撃を僕は支える。あまりの荷重に足が少し地面に沈むが、この程度問題はない。

 全身の魔力を練り上げ、逆に押し返した。


「ギャウッ!?」


 力量差を感じ取ったのか、グリフォンは押し返されるままに翼をはためかせた。一瞬で飛び上がり、別の方向へ行こうとしている。

 上空に逃れれば、己の世界。そんな風に思っているのだろうが、


「逃がすか! 《強化(ハザク)》+《強化(ハザク)》」


 強化の魔導を足にかける。《強化(ハザク)》は魔導自体を強化する以外にも、こういう使い方もあるのだ。

 槍を真上に構え、思い切り跳躍。逃げようとするグリフォンが躱す暇もない速度で、突撃(チャージ)をカマした。


 グリフォンの体を貫通し、更に上に行ってしまう。

 ……しまった、勢いつけ過ぎた。


 下を見ると、落下するグリフォンと、生き残りのコボルトがシリルに向かっているのが見える。


「……ふん!」


 ぐりん、と空中で姿勢制御。如意天槍の能力で、刃と柄の長さ、形状を調整。持ち直し、槍を投擲。

 空中なのに、我ながら中々良く出来た投槍は、シリルに向かっていたコボルトのうち、先頭の一匹を貫いた。


 コボルト達に動揺が広がる。そして、その隙にシリルの魔法は完成した。


 ……三度、同じ魔法でコボルトたちが吹き飛ぶ。

 空から見えたジェンドの方も、最後の一匹を倒していた。


 数匹、生き残ったコボルトが逃げるのも見えたが、まあ追いかける必要はないか。


 と、考えながら、着地。コボルトに刺さったままだった如意天槍を手元に引き寄せ、ふう、と大きく息をつく。


「いや、結構ハードだったな」


 ちょっと疲れた。
















「仲間を増やそう」


 冒険から帰り、ドロップ品の精算を終わらせ。


 教会の酒場での、お疲れ様会兼反省会を始めて、僕は開口一番そう告げた。


「ん? また唐突だな、ヘンリー。いや、別に増やすのは良いんだけど、なんで今言い出したんだ?」

「今日はあーんな大群を倒したんですから、反省会よりお祝いしましょうよ。ヘンリーさんなんて、グリフォン一人で倒したじゃないですか! あれ、凄かったですよ」


 あ、こいつらそういう認識だったのか。

 そういえば、この二人まだ新人だったな。あまりに実力あるから、ちょっと忘れかけていた。


「いや……あのな。確かに、あの状況を大きな傷もなく切り抜けられたのは、結構凄いけど。そもそも、あんな風に囲まれること自体、避けなきゃいけないんだよ」


 まず、ワイルドベアとの遭遇戦があり、戦っているうちに、後方から現れたコボルト達に包囲され。グリフォンに奇襲された。

 最後のグリフォンはまだしも、少なくともワイルドベアとコボルトは、戦うのは別々にするべきだった。あるいは、あんなでかいコボルトの群れは、避けることも考慮してよかった。


「んー、まあ、確かに。言われてみると、そうだな」

「というわけで、このパーティには斥候が必要だ」


 他のメンバーに先行して敵を偵察する役。目が良く、機動力や隠密性に優れ、いろいろな地形の特性を熟知している、そんなクラスだ。

 戦闘は、シリルのガードが出来る程度出来れば十分。そんなメンバーがいれば、僕も前に出れる。そうすれば、戦術も大きく広がるだろう。


「……で、念の為に聞くけど、二人共、心当たりは?」

「うーん……私は、ちょっと。ジェンドは?」

「知り合いの冒険者にそういう人はいるけど、大体固定パーティ組んでいる人ばっかりだな」


 知ってた。


「本職じゃなくても、ソロでやってる人なら真似事はできるだろうけど。まあ誘うのは無理筋だよな」


 そういう人、割と一人でやることにこだわりがある人なんだよね。臨時で組むならともかく、固定では組んでくれないだろう。


 大体、そういう人はベテランが多い。

 僕が二十二で、シリルとジェンドが十六。全体的に若いこのパーティは居心地が悪いだろう。


 居心地が良い、悪いは決して無視できる要素ではない。多少の実力差やアンマッチがあっても、居心地が良ければ続くし、どれだけ優れた能力を持つパーティでも、メンバーの居心地が悪ければ続かない。

 ちなみに、これも臨時ならともかく、って話だ。


 と、言うわけで探すべきは十代から二十代前半くらいまでの斥候ってわけなのだが。


 ……単純な戦闘より、経験や知識が必要とされるクラス。そう都合の良い人材が転がっていれば苦労はない。


「っていうか、ヘンリーさん。普通はパーティのメンバーってどう増やすものなんですか? ヘンリーさんと私達は、いつの間にか固定で組むことになってましたけど」

「ん? 僕たちと似たような流れが普通だよ。臨時で組んで、気が合えばいつの間にか仲間になってる、って感じで」

「まず、その最初に臨時で組むのが難しいんでは。どうやるんです?」


 シリルめ。意外と冒険者の作法には詳しくないらしい。


「そりゃあ、大きめのクエストで、たまたま一緒に受注したりだとか。後は、こういう酒場で、大声で『誰か一緒に行く人ー』とか、声をかけたりとかだ」

「えー、それって恥ずかしくないです?」

「いやいや、そういうもんなんだって。やって見せてやろうか」

「どうぞどうぞ」


 まあ、斥候役を増やしたいというのは僕の思いだ。二人にも、実際にそういう人がいればどう動きが違ってくるのか、体験してもらったほうが良いだろう。


 僕は立ち上がり、ざっと周囲を見渡す。


 いきなり一人立ち上がり、じっと周りを見る僕に、少し注目が集まったところで、声を張り上げた。


「誰かー! 臨時で、斥候やってくれる奴はいないかー!? メインの狙いは、ワイルドベアだ。報酬は均等割! 興味があるんだったら、こっちのテーブルに来てくれ!」


 言うと、しばらくしーん、とした後、そこかしこから笑い声。

 ……? な、なんか失敗したか。


 悩んでいると、顔見知りの冒険者の一人、フレッグさんが来る。


 ……お、あの人はたまに森で見かけるが、動き的に安定して高い実力を持っていることはわかる。斥候も問題なくこなすだろうし、一緒にやってくれるなら非常に頼もしい。


「ヘンリー」

「はい、フレッグさん。一緒に来てくれるんですか?」

「いや……ちっと、忠告だ。今みたいなやり方する街もあるんだろうが、この街じゃ、仲間探しは教会に仲介してもらうのが普通だ。受付に言えば、紹介してくれるから」

「……え゛?」


 そ、そういえば、この教会に通って結構経つが、今みたいに仲間探しをしている冒険者って、見たことがない。

 ……これ、僕、いきなり大声あげた変な奴である。


「まあ、お前が勇士で、別の街から来たってのはみんな知ってっから、そうおかしな噂にはならないだろうが。……あー、ドンマイ」


 羞恥に震える僕の肩を、フレッグさんはポンと叩く。

 ……優しい。


 気にすんなよー、と言いながら席に戻るフレッグさん。

 僕は座る。


「……遠く離れた街になると、色々と常識が違うこともあるんだ。これで一つ学べたな、お前ら」

「あの、ヘンリーさん、その、ファイト」

「おーう」


 顔を伏せる。いやー、恥ずかしい。あの仲間の勧誘方法って、リーガレオの文化だったんだな……

 多分、前線だと冒険者の数が多すぎるので、教会も能力や人格とか考慮して紹介とかできないから、ああいうやり方になったんだろう。


「と、とにかく。帰りに斥候探してるって、受付に言っておこう」

「ああ。……ま、反省会、これくらいでいいよな。今日、大戦果を上げたことは確かなんだから、呑もう呑もう」

「はーい、あ、私も今日はエール呑んでみます」


 そうしていつもの流れに。


 なお、フレッグさんに教わったとおり、教会に紹介を頼んでみたところ、割と臨時で組んでくれる人はいた。

 しかし、やはり僕たちと固定で組んでくれる人は中々おらず。


 しばらく、仲間集めは難航することになった。

章立てを変更しました。二章を削除し、もうしばらく一章として続けます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 11話で結界くんは魔物以外素通しと言っているが、ここでは矢を防げるといっている。
[気になる点] グリフォン弱いな
[良い点] グリフォン相手に無双したと思ったら空気読めずにやらかすヘンリーかわいい(かわいい?)
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