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生贄少女と王女様  作者: ココロ
8/12

喧嘩

 今日は、アミス様がこの城に来る日。そのためアロウ様は朝からそわそわしていて落ち着かない様子だった。

「アロウ様。もう少し落ち着いてはどうですか?」

「何を言うておる。わらわは落ち着いておるぞ」

「なら私の部屋の前をうろうろするのはやめてください」

「う、うろうろなどしておらぬ」

「なら、何してるんですか?アミス様が来られる予定時刻の一時間も前から」

「か、軽い運動じゃ。気にするな」

「いや、気になりますよ。アロウ様の靴、コツコツ響きますから」

「そ、そういう優生は何をしておるんじゃ」

「見ての通り、何もしてませんが。特にすることはないですし」

「何!?母上を迎える準備はどうしたのじゃ!」

「とっくに終わりましたよ。誰かさんが朝早くに私達使用人を起こしたおかげで。あの冷華さんでさえ今は暇をもてあましています」

「そうだったかの」

「同い年のはずなのに、もうボケ始めているんですか?」

憐れむようにアロウ様を見ると、アロウ様は腕を上に突き上げて

「うるさい!仕方がないであろう。母上がこちらに来るのは向こうの国に行って以来初めてなのじゃ!楽しみになるのは当然じゃろう」

「やっぱり落ち着いてないんじゃないですか」

「落ち着けぬわ!」

(すごいお母さんへの愛情。私もお母さんは好きだけど、ここまではなれないわ)

少々感心しながら、部屋に引っ込もうとすると、アロウ様は部屋の中に滑り込んできた。

「あの、何してるんですか?」

「別によいであろう」

顔を少し赤くして言うアロウ様に私はため息をついた。

「いいですけど、暇をつぶす物なんて私の部屋にはありませんよ」

「そうではないわ・・・」

アロウ様は小さくつぶやいた。

「?」

「あーもう!鈍い!鈍いぞ優生!」

「・・・急に何ですか?」

私は冷ややかな目でアロウ様を見た。

「うっ・・・。なんじゃ。今日はいつにもましてクールじゃのう」

「そりゃあ、アロウ様のお母様がいらっしゃるのですから数時間前から心を落ち着かせておかないと」

「何故じゃ?」

「アロウ様の母親なだけあって、なかなか私の調子を狂わせてくれるので」

「どういう意味じゃ!」

「とにかく、私は自分のペースで物事が運ぶように落ち着いているんです」

そう言うと、アロウ様は何かを考えだした。

「なら、今は落ち着いておるのじゃな?」

「ええ、まぁ」

「そうか。では、落ち着いている今聞きたい。そなたの昔のこと」

私は無言で目を少し見開いた。

アロウ様は真剣で真っ直ぐな目で私を見ていた。

初めは誤魔化そうと思ったが、アロウ様の表情を見ていたらその気は失せた。

「アミス様が来る予定の十五分前までですよ」

そう言うと、アロウ様は嬉しそうに顔を明るくした。

(まったく。私の過去なんてなんで知りたいんだか・・・)

「私は、アロウ様の言うとおりとある仕事をしていました。何の仕事かは申し訳ありませんが言えません。もう辞めましたが辞めても口外しないのが決まりなので。だから、私が仕事をしていた事は誰も知りません。親であるあの二人も」

「誰にも言えないような仕事をなぜやろうと思ったのじゃ?」

「私自身の存在意義が欲しかったからです。父につらくあたられ、街の人達から煙たがられていた、どこにも居場所のなかった私の。場所さえあればどこでもよかったんです。その場所が偶然そういう所だっただけで。こんな私を入れてくれる所なんてなかなかありませんでしたから。まぁ、そのおかげで今はアロウ様を守ることが出来ているのですが」

「?そなたがわらわを守った事などあったかのう」

「あ、そっか」

私がそうつぶやくと、アロウ様は不思議そうな顔をした。

(そういえば、直接アロウ様を守った事はなかったな。間接的にというか、結果助けた形になっただけで、そもそも助けられたのかわからない。あの男が約束を、守った、保証、も・・・)

自分でそう考えて、サァーっと血の気が引いた。

(そうだ、忘れていた。アミス様が来るということはあいつも来るということ。対策を考えるのを忘れていた)

ハッと時計を見ると、アミス様が来る三十分前になっていた。

(まずい・・・!)

「アロウ様、話はここまでです」

「なんでじゃ。まだ時間はあるぞ」

「すみません。少し用がありまして。とにかく部屋にお戻りください」

「なんじゃ急に!ちょっ、押すでない!」

私は失礼なのを承知で追い出す形でアロウ様を部屋に戻した。

 「さて、あいつの対処をどうするか。一応常にあの機械は持っているが油断すると何をするかわからない。アミス様といる時は何もしないと思うけど影でまた何か企んでいる可能性もなくはない。監視するか。いやでも、アロウ様も放っておくわけにはいかないし。アミス様とアロウ様、二人をずっと一緒にいさせる事なんて監視より難しいよな・・・特にあの二人は自由だし。いっそアロウ様に言うか。いや、だめだ。アロウ様は間違いなく不安になる。なら冷華さんに。それもだめだな。あいつの存在すら知らない冷華さんになんて説明するんだ。それにあの人は人を探るのが得意そうだ。その話をすれば、私の事もばれかねない。やっぱり普通に監視するしかないか。なおかつ、なるべく二人を一人にしないようにしよう。さりげなくあいつのもくろみを探るか。今後の行動にも関わるし。まぁあいつが来るかもわからないからな。もし来たらの対策として考えておこう」

「あいつ、とは誰の事じゃ?」

その瞬間私は、今までにないくらい驚いた。それと同時にすばやく声の方を向いた。

「アロウ、様」

(聞かれていた・・・?!)

「急に追い出すから何かと思えば。・・・一人で何を考えておった」

アロウ様は王座に座っている時よりも鋭い目で私を見た。

「ど、どこから聞いていました?」

「優生、お前の事がばれてしまうと言っていたあたりじゃ。初めは普通に部屋で待っていたが、気になって部屋の前に来たらそなたは何かぼそぼそとつぶやいておる。悪いが聞き耳を立てさせてもらった。そしたら、お前は自分の事がばれてしまうとか、監視するとか言っておる。もう一度聞く。何を考えておった?」

アロウ様はこれまでにないくらい真剣な目で私を見ていた。

(あいつがアミス様の関係者である事や機械の事は聞かれていない、か)

私は目を閉じて深呼吸をした。そして、ゆっくりと目を開け、アロウ様を真っ直ぐ見つめた。

「・・・ただの妄想の一人言です」

私はそう答えた。するとアロウ様は一息おいて

「そうか。・・・クビじゃ」

アロウ様の口から出たその言葉に私は目を見開いて一瞬動揺した。

「クビ、ですか」

「ああ。おばあさまはもうおらぬから死刑にはせぬ。普通に一般的なクビじゃ。嘘つきはわらわの城にはいらん」

(・・・うん。これでいい)

私はフッと笑った。

アロウ様は、ん?という顔をした。

「わかりました」

私がそう言うと、アロウ様は目を泳がせた。

「なに驚いているんですか?あなたが出ていけとおっしゃったのでしょう?」

私は自分の服をとってアロウ様に頭を下げた。

「アロウ様。今までお世話になりました。短い間でしたが楽しかったです」

顔を上げて最後にやわらかく笑って

「さようなら」

と言って部屋を出た。

 私はトイレで服を着替えて、着ていた執事服を、家族に少し用が出来たと偽って、冷華さんに預けて城を出た。

それから私は全速力で城の門をくぐり抜けた。アミス様と出くわさないようにするためだ。

 私は確実に知り合いには会わないであろう所まで走った。

そこは、アミス様の国とは反対側の海。

私は止まり、膝に手をついて荒く呼吸をした。

(ここなら、誰にも会わないか)

少し冷たい海風が頬をなでた。

私はその場に座り込んだ。

(これでよかったのかな。巻きこんで不安にさせるより、隠してクビになったほうが私は傷つかない。あ・・・。ハハハ。結局私は自分中心なんだ。周りと変わらない。全部自分のため。自分が傷つきたくない、自分が悩みたくない、自分がいや。他人のためだと言い分け付けて、本当は自分を守ってただけなんだ。最低だな、私は。王女様のほうがよっぽど人のために生きている)

自分が情けなくなりながら海を見つめていると

「おー。何やってんだお前」

低い男の声が上から聞こえた。

ぼーっとした目で顔だけを斜め上に向けると、少し肌の黒いがたいのいい男がサングラスを人差し指で上げて、ニッと笑っていた。

「・・・お前こそ何してるんだ」

視線を海に戻してそう言うと、男は隣に座ってあぐらをかいた。

「何ってお前。仕事の帰りだよ。昨日の夜に一仕事あってな。これから帰るとこだ」

「ならさっさと帰れ。お前に構っている暇はないんだ」

「お前さぁ。召使いになったんだろ?こんなとこにいていいのかよー」

「話を聞け・・・。クビになったんだよ。ついさっき」

「え!?まじでか!?お前がクビって相当だな。というかよく首飛ばなかったな。悪逆非道で有名だったじゃねぇか。あの王女」

「あの人は悪逆非道なんかじゃないよ。あの人は普通の女の子だった。・・・そう普通の女の子だったんだよ。私やお前のいる世界に入れてはいけない・・・。そういえばお前、組織内に見た目優男っていたか?」

「さすがに抜けたお前にそれは教えられねぇな」

「そうか。そうだよな」

「なぁ。クビになったんなら戻ってこねぇか?」

「ばかいえ。私はあいつとやり合ってる。どの面下げてあいつの前に立つんだよ」

「気にしちゃいねぇって。俺的にもお前には戻ってきてほしいんだよ。“元相棒”として」

「そんな調子のいいことできないさ。一度反発して、やり合って、組織を抜けた私が、今さら職務をクビになったから戻ります。なんて、虫がよすぎる。情報は漏らしてないってあいつに伝えといて」

「それはいいけどよー。お前これからどうすんだ?お前の性格上、家には戻らねぇんだろ?」

「そのつもりだ。そうだな。どうするか」

「だから戻ってこいって!」

「無理」

即答で返すと、男は豪快に笑った。

「即答かよ!まったく変わってねぇな。そういうとこ」

「そうそう変わらないよ。最低な部分な所は特に」

「そんなことねぇだろ。お前は最高のパートナーだったぜ。俺、お前のやり方好きだったし。潜入は不得意だったけどな」

「その頃の話はやめないか?誰が聞いているかわからない」

「そーだな。じゃあ俺はもう行くぜ。バイトに行かなきゃならねぇ」

「まだしてたのか」

「ったりめぇだろ?あ、ほらよ」

男は私に折りたたまれた紙切れを渡してきた。

私は何も言わずに受け取り、中を見た。

「・・・?これ、お前んちじゃ」

「覚えてたのか。気が変わったら俺のところ来いよ。元相棒のよしみで家においてやるよ。その代わり、組織に戻ってもらうけどな」

「なんだそれ。お前、相変わらず普段はあの仕事やってるようには見えないな」

「もちろんだ。誰にも怪しまれないように生きてかなきゃならねぇからな。じゃ、待ってるぜ」

男はサングラスをかけて去っていった。

「・・・変なやつ」

あの男は、私が組織に入ったときに出会ったやつだ。初の仕事で組まされた。普段は今みたいに豪快で親しみやすいが、仕事になると冷酷で無口になる。潜入が得意で、私とは真逆だった。

手元に残された紙を見て、私はため息をついた。

(気が変わったらって、私の気がどうこうで決められる事じゃないだろ。入った途端、あいつに首をはねられる可能性もある。けど、行く所がないなら、いっそそれでもいいんじゃないか・・・?)

「戻る・・・ね」

「ほんとか!」

ボソッとつぶやいた時、さっきの男が後ろからヒョコッと現れた。

「・・・まだいたのか」

「ちぇっ。なんだよつまらねぇな。驚かそうと思ったのによー」

「悪かったな。で、バイトはどうしたんだよ」

「んなの嘘に決まってんだろ?今日は休みだ。それより、戻るんだよな!」

「え、いや」

「そうと決まれば、さっそく俺んちに行くぞ!」

「いや、だから」

否定しようとしたが、それを聞かず、男は私を担ぎ上げて猛ダッシュした。

「だから、話聞けって~っ!」

私はそのまま男の家に攫われた。

 私は今、ソファの上であぐらをかいて頬杖をついていた。

「はぁ~」

「なんだ。しらけた面してよー」

「なんでお前は人の話を聞かないかな」

「まぁそう怒るなよ。別に話を聞かずに連れてきたわけじゃねぇんだよ」

「あ?じゃあなんだよ」

「話をしたかったんだよ。あんな寒くて誰が聞いてるかわからねぇ場所じゃなくて、遠慮なく二人だけで話せる場所でな」

「なるほど。で?何を話したいんだよ」

「昔の事も含めて他愛のない話さ。随分と会ってなかったからよー。それに、俺が本心で話せるのはお前だけなんだ」

「・・・ダウト」

「嘘じゃねーよ!」

「お前、もしかしてあいつから何か頼まれてるんじゃないのか?」

「そうだと言ったらどうする・・・?」

真面目なトーンで言われて私はキッと男を睨んだ。少しの間、にらみ合いが続いた。

が、しかし

「あっははは。冗談だ。純粋に話したかったんだ。本当に俺の事を知っているのはお前だけだから」

「・・・・・」

私はジッと男の目を見つめた。しばらく見つめた後、はぁー。とため息をついて

「ひとまずは信じてあげる」

と言って目をそらした。

「・・・お前。見ない間に女らしくなったか?」

「お前、さっき起きたのか。そんなことはまず無い。城でも執事服着せられてたし」

「へー。確かにお前はメイド服より、そっちの方が似合いそうだ」

「なかなか動きやすかった。あれなら仕事も少しはやりやすいかもな」

「パクってくればよかったのによ」

「仕事には戻る気ないし。荷物になる。それに、あそこにいた時の記憶がよみがえりそうな物は手元に置いておきたくないんだ」

「喧嘩だろ?お前がやってるのって」

「そんなんじゃ・・・。いや、そうなんだけどさ。今回は今までと違った。喧嘩や言い合いはよくやっていた。けど今回はクビとまで言われた。王女の堪忍袋も限界だったんだろう。でも、さすがに組織の事を喋るわけにもいかず」

「退職の原因ってそれか?」

「ん?あぁ。私の仕事ぶりが素早かったらしくて前に何かしていたのだろうと言われて、でも、私も立場上言うわけにもいかず、誤魔化した結果・・・」

「そんなんでクビか!?」

「短気だからな。王女は」

私の話を聞いて、男は少し考え出した。

「なら、なおさら戻ってこねぇか?隠す必要が無くなるし、王女の側近だったんならボスの側近も出来るだろうから宿も心配ないだろう。一石二鳥ってやつだろ?」

男は人差し指と中指を立てて二を示した。

「何言ってるんだ」

口ではそう言ったが、正直、迷っていた。

(確かに、こいつの言うことも一理ある。このまま旅に出るよりも、組織に戻ったほうが隠し事も宿も心配なくなる。もし、殺られたとしてもそれはそれでいいかもしれない。お母さんは元気になってきてるみたいだし、お父さんとも仲良くやってる。クビにされた今、アロウ様への未練なんてない。それにアロウ様のお母さんにも言っちゃったしな。アロウ様から言われれば召使いは辞めるって。でも、もし仕事に戻ってアロウ様や冷華さん達への依頼が来たら・・・。出来るのか。あの人達を)

「そういえばさっき、見た目優男と言っていたな」

急に男が話を振ってきた。

「え、あぁ」

「正確に言うと、そんなやつはごろごろいる。そういうやつのほうがやりやすいからな。だが、最近お前の近くで動いたやつはいない。これが答えだ」

「そうか。わざわざごめん。組織外の私に」

「いいさ。迷ってんだろ?」

「まぁ、な」

「来いよ。最初のお前の居場所はこちら側だ」

それを言われた時、ハッとした。

(居場所・・・。そうだ。居場所をくれた人達を守るためにも戻ろう。こちら側の世界の情報が入ればアロウ様もお母さん達も守れる)

「・・・いいよ。戻る。戻ってやろうじゃないか。あのくそボスの所へ」

私はニイィと笑った。今私は相当黒い顔をしているだろう。

男もそれを見て、ニッと笑って

「そうこなくっちゃ!」

と言った。

「今すぐに会えないか?」

そう言うと、男は肩をすくめた。

「お前も知ってるだろ?ボスは仕事が終われば誰よりも速く帰る。次の集合は明日になっている。だから、明日にならんと会えねぇんだ」

「そういえばそうだったな。仕方ない。今日はお前の所に泊めてもらうか」

「おう、泊まれ泊まれ」

 それから私は、男と他愛ない話をした。

そして、あっという間に夜になった。

借りた布団に入り眠っていると、ふと気配を感じた。

私は咄嗟に布団から抜け出し、飛び退いた。

それとほぼ同時に布団にナイフが突き刺さった。

「どういうつもりだ・・・」

「ごめんごめん。よかった。腕は鈍ってないみたいだな。急に悪かったな。試したんだ。ちゃんとあの頃の身のこなしが残っているか。それと、目覚ましに」

「目覚まし?」

「集合は明日だと言っただろ?」

時計を見ると、夜中の一時だった。

「なるほど。明日ね」

(にしても、これは洒落になんないぞ・・・)

突き刺さったナイフを見て私は男を睨んだ。

 私達は組織の関係者が集まるところへ行った。集合場所は毎度変わる。決まった場所などこの組織にはないのだ。

「結構歩くな」

「だから、暗いうちにってボスが」

「さすが」

それから私達は無言で歩いた。

 「ついたぞ」

そこはいたって普通な民宿だった。

「相変わらずの選択センス」

「あぁ。ボスのセンスはいつも変わらねぇ。絶対に集まらなさそうな所に集めやがる」

「おかげでバレはしないが・・・やはり納得がいかない」

ジトッとした目で民宿を睨むと、男は苦笑いをした。

「そういや、お前らがもめた原因、これも含まれてたな」

「あいつとは、いつもいつも馬が合わないんだ。相手するのが疲れる」

「ハハハ・・・。とりあえず入ろう」

そう笑ったあと、男は小さな声で

「二、一、三」

と言った。

私は無言で頷いた。

これは、扉を叩くノックの回数。これで、仲間かどうかを判断する。

男は、扉をトントン、トン、トントントン、と叩いた。

私も続いて同じように叩いた。

すると、ドアがキイィィと開いて私達は中に通された。

とある部屋に入ると、奥の黒いソファに真っ赤な服を来た男が座っていた。

その男はドスのきいた声で

「おう、アレキ。遅かったやないか」

と言った。

「すまねぇな。ちょっと知人を連れてきてたもんで」

「知人?ん?お前は・・・」

私はずかずかと男の前に歩いていき、睨んだ。

「その眼帯、眼差し・・・もしやジストか!」

その時、その場にいた全員がざわめいた。

「久しぶりだな。くそボス」

「その態度、まさしくジスト。何をしに来た」

「もう一度入りに来たんだよ。この組織に」

「どういう風のふきまわしや?まさかあの日の事を忘れたんやないやろうな」

「もちろん覚えている。私はそこのやつに勧誘されて来たんだ」

「アレキ、どういうつもりや」

「はい!ジストのやつ、どうやら職を失ったようで、それなら、もう一度戻ってこないかと誘った次第で」

「偉うなったもんやな。勝手に決めよって」

「す、すいません!だか、こいつはなかなかの戦力だったはず。必要かと思い」

「ふんっ。こんなやついらん!」

「そんなことより、くそボス」

間にわって入ると、ボスはギロリと私を睨んだ。

「なんだ」

「その・・・その真っ赤な服なんだよ!組織のボスが着る服じゃないだろ!」

そう怒鳴ると、ボスはポカンとした。

「それに、この集合場所!ばれないにしろもっと別の場所があっただろ!昔となんにも変わってないじゃないか!」

すると、ボスは高笑いをした。

「お前こそ、昔と変わってないやないか。その口ぶり、気にするとこ、おれと合わんとこ。あの後で少しは変わったかと思ったんやが」

「私もセンスくらいは変わってると思ってたんだけどね」

「命知らずめ。今の状況、お前は命をいつ取られてもおかしくないんやぞ」

「いいさ、取りたきゃ取りな。あの日と同じ。私はそれも覚悟の上でここに立ってるんだ!」

そう言うと、ボスは目を見開いた。

「そうか。ならばよかろう。お望み通り」

殺される、そう思って私は目を閉じた。

しかし、いくら経っても何もされない。不思議に思っていると

「もう一度、雇ってやろう」

そう、ボスが言った。

私は目を開けた。

「え?本当か?」

「お前は度胸も良い意味で変わってないようやし、体も成長しとる分、前より広い範囲の標的を狙えるやろう」

「・・・あ、ありがとう」

「やったなー!またお前と仕事ができるな!」

後ろからアレキが飛びついてきた。

私はそれを振り払った。

「触るな。アレキ。仕事以外での会話は控えろ」

「そー!この冷たさ。まさにジスト!戻ってきたなー!」

一人ではしゃいでいるアレキを尻目に、私はボスに声をかけた。

「ところでボス。私は行くところが無い。だから宿をどうにかしてもらえないか?」

「・・・よかろう。この近くにおれが管理している宿がある。そこに住め」

「すまない」

「では、早速仕事や。お前らも聞け!」

そこから、仕事の話がされた。私は今日来たばかりというのと、前より成長しているということで、武器調整を含む休みとなった。

 この組織は、もう大方予想がついていたと思うが、“殺し屋”の組織だ。私は昔、この組織で殺し屋をやっていた。そして、この組織にはコードネームというものがある。ボスが宝石好きなため、この組織の奴らは皆、宝石の名前やそれををもじって呼ばれている。例えば、私はアメジストのジスト。アレキはアレキサンドライトのアレキ。ボスには無いが、一部のやつらからは、オニキスと呼ばれていた。

 「さて、お前の武器だが、今でも使えそうな物の候補はあるか?」

ボスは全員が出払った後で聞いてきた。

「武器には随分と触ってない。あの頃は短刀だったが、今はどうだか」

「ならば、試せばええ。そこに一通り揃えてある」

(準備いいな)

私は武器の置いてある所に歩いていき、見つめた。

その時、何かが向かってくる気配がした。私は目の前にあった短刀を手に取り、振り返りながら、短刀を振った。

キンッという金属音がして、刀が飛んでいった。私のではなく、襲ってきたやつの。

「実力はお分かりですか?くそボス」

「あぁ。鈍ってはおらんようやな」

刀を拾いながらボスは言った。

「どうや?久しぶりに短刀を握った感覚は」

「少し、使いにくい。軽すぎて。でも、重くなるとさっと使えない」

「なら、銃とかどうや?」

「飛び道具は嫌いなんだ。確実に殺れないし、死んだか確認するために近づかないといけないし。だから、最初から至近距離で確実に殺れる武器が望ましいかな」

「そんなん、頭に一発入れればええやないか」

「頭なんて標的(ターゲット)が一番守るところじゃないか。心臓も同様に」

「そんな注文の多いお前に丁度ええものがある。これや」

ボスは懐から布に包まれた何かを取りだして私に差し出した。

「・・・?」

「これは、ナイフや。しかし、ただのナイフと違う」

「違う?」

「まぁ開けてみいや」

言われた通り、布を外すと、革の鞘に収まっているナイフが出てきた。

「どこが違うんだ?変わってると言えば、この革の鞘くらい。あとは少し重い」

「鞘から抜けば分かる」

「え?」

私は鞘からナイフを引き抜いた。そのナイフの刃を見て、私は驚いた。

「どうや?未だに使いこなせたやつは一人もおらん。しかも特注品や。こんなん持っとるやつ、そうそうおらんぞ」

そのナイフの刃は、三つあった。ナイフが三本あったのではなく、一つのナイフに三本の刃が重なっていた。

「確実さは増しそうだけど、誰も使いこなせてないって聞くと、少々不安だな」

「なら、そこの人形で試せばいい。訓練用の人形や。無限とある。ダメにしてもかまわん」

「では、お言葉に甘えてっ」

私は人形き向かって走り出した。そして、素早くて後ろにまわりこみ、首を裂いた。中身の綿が多少飛び散る。

これは、昔からの私の殺り方だ。大体は人間が確実に死ぬ、頭、心臓、首を全体的に狙うのだが、私は首のみを狙う。私の勝手な持論だが、相手は大抵、頭か胸を咄嗟に守る。そこに腕をまわし、首にナイフを突きつければ、人はあまり大きくは動かない。例外はもちろんあるがある程度のやつらはこれでいける。

 人形は倒れた。首には三本の傷跡が残っている。

「相変わらず、素早い身のこなしやな。で、どうや?使い心地は」

ボスは拍手しながらそう言った。

私はナイフを上に投げながら

「まぁ、そこそこかな。短刀よりは使いやすかった。傷跡、三本か・・・」

「ナイフとは思えんやろ。この仕事にうってつけや。どうする?やめるか?」

私は上に投げたナイフをキャッチしてグッと握った。

「・・・いや、使う」

そう答えるとボスはニィっと笑った。

「それでこそジストや」

 その後も何度かナイフを振り回し、人形を四体ほどダメにした。

そうするうちに、扱いに慣れてきてサッと持ち替えられるようにはなった。

(ただこれ、一本しかないのが難だな。最後の切り札にしかならない。とりあえず、普通の刀を持っとこう)

「くそボス。普通のナイフ、ないか?」

ボスは無言で私にナイフを投げて渡した。

「助かる」

私はそれを受け取って、ボスのソファの近くにある、一人用の椅子に座った。

「そこ、まだ気に入っとんのか」

「え?あぁ、悪い。癖でつい。そっちこそ、まだこれ持ってたんだ。昔の事なのに」

私はナイフを磨きながら言った。

ボスはいつも横に一人用の椅子を置いていた。これは昔、組織に入って数日経った頃、私が勝手に椅子を買ってきて、勝手に置いたものだ。初めは『なに勝手な事しとるんや』と怒っていたが、そのうち諦めたのか何も言わなくなった。それからずっとボスの隣にはこの椅子があらかじめ置かれるようになった。その椅子を私が組織を抜けた後も残していた事に少し驚いていた。

「・・・・・お前、女っぽくなったな」

「お前もか。それはないって」

「そうか?昔よりもその姿が様になっとる気がしたが」

「それは多分、前の仕事で磨いてたからだろうな。食用だったけど。ってかそれは女っぽくなったとは言わないだろ」

「そういや、お前が王女の召使いなったって噂で聞いたな。王女直属って聞いたが、そんなこともやるんか」

私は、視線をナイフからボスへ向けた。

「今日は随分と喋るな。昔はあんなに無口だったのに。そこは変わったんだな」

そう言うと、ボスは黙り込んだ。

(急に喋らなくなった・・・)

私は視線をナイフに戻した。

その時、アレキが中に飛び込んで来た。

「大変だ!」

私はアレキを見た。ボスが鋭い目でアレキを見る。

「どうした」

「奴が対策をとってたみたいで、皆、別の場所へ行ってしまい本来の場所に誰もいない状況で」

「なんやとっ!」

「それ、ターゲットが別の所にいるって事?」

「あぁ。ボスに言われた所に行ったんだが、奴の手下はいたが、本人はいなかったんだ」

「ボス。今回のターゲットって?」

「別の暗殺組織のボスや」

「なるほど。アレキ、場所は分かってるのか?」

「あぁ。なんとか二人ほど追跡していて、今は様子見してる」

「ボス。私に出動命令を」

「しゃあないな。行け!アレキ、ジスト!」

「「了解」」

私とアレキは同時に返事をして、宿から出た。

こうして、私は再び殺し屋の組織に入り、暗殺者となった。

ココロです!今回も作品を読んでくださりありがとうございます!優生の仕事がわかってしまいましたね。何とも穏やかではない様子・・・。アロウ様はこれからどうするんでしょうね。これからもマイペースに投稿していくので、よろしくお願いします。改めまして、ここまで読んでくださりありがとうございました!

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