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生贄少女と王女様  作者: ココロ
7/12

買い物

 「なぁ、優ちゃん」

街を歩いているとアロウ様が声をかけてきた。

「何ですか。アロウちゃん」

「わらわ、少し言い過ぎたかのう」

呼び名には、触れないんだ・・・と思いながら私は返答した。

「そんなことないですよ。アロウ様の言うことは、ごもっともです。私も似たようなことお父さんに言ってきましたし」

「そうか・・・。なら、よいのじゃが」

アロウ様はまだ不安そうな顔をしていた。

「そんなことより、買い物しましょう。お母さんへのプレゼント買うんでしょう?」

“お母さん”という言葉を出した途端、アロウ様は嬉しそうな顔をした。

「そうじゃ!母上は何をあげたら喜ぶかのう。母上はいつもおしゃれで綺麗だから、装飾品はいらぬかもしれぬなぁ」

そう言った後、なぜかアロウ様は私を睨んだ。

「どうしました?」

「アロウちゃんとはなんじゃ!」

「え、今さら?!」

「呼び捨てでよい!」

「そっちですか?!」

「城から見ていた友どうしは、呼び捨てで呼んでおったぞ?」

「それは、人それぞれなんじゃないんですか?」

「それでも、“様”はおらんであろう」

「私は、使用人でもありますし。仕えている相手に対して呼び捨ては・・・。それに、アロウちゃんは、アロウ様が先に言ってきたから、お返しに冗談で言っただけですから。普通はアロウ様とお呼びしますよ」

そう言うと、アロウ様はムッとした。

「なら、今から呼び捨てじゃ」

(・・・え)

「よいな」

アロウ様は、ズイッと私に詰め寄った。

「え、えーっと・・・あ!あのお店行きましょう」

私は辺りを見回して目に入った少し古そうな店を指差した。

「話をそらす・・・」

「さー行きましょう」

私はアロウ様の言葉をさえぎって店に歩いた。

「あ、こらー!!」

 店に入ると、外観とは違って意外とおしゃれな内装だった。

(話を誤魔化すために適当に入ったけど、こういう店ってよくわからないんだよなー)

「わらわは、こういう店はよくわからぬぞ」

アロウ様がそう言ったのを聞いて私はドキッとした。まさか私と同じ事を考えているとは思わなかったのだ。

「そ、そうなんですか」

「優生はわかるか?」

アロウ様は私の顔を覗き込むようにして見た。

「いえ、全く。店自体あまり入らないので」

店内を見渡していると、この店の店員が目に止まった。どうやら私達を見て怯えているようだった。私はアロウ様に小声で話しかけた。

「アロウ様。怖がられてますよ。私達」

「勝手に怖がらせておけ。わらわは買い物をしに来ただけじゃ。国民など知らぬ」

(その割には悲しそうに見えるけど)

「そんなことより買い物じゃ!」

アロウ様は暗い気持ちを振り払うように顔を明るくした。

私は無理しなくても、と思ったがそれを口にはしなかった。

「お母様は何が好きなんですか?」

「母上の好きな物・・・」

アロウ様はうーん。と考え出した。

「思い出したら呼んでください。まぁ先に探してもらっても構いませんが」

そう言って私は店の中をうろついた。

アロウ様が視界に入る程度の所で品々を見ていた。すると、後ろから声をかけられた。

「あのー」

「はい?」

振り返るとさっき怯えていた店員だった。

「あなたは、王女様の関係者でございますか?」

「まぁ、そうですけど」

「じゃあ、呪われた目を持つ女とはあなたの事なんですか?」

私はその言葉に不快感を抱いた。

「・・・それが何か」

完全に不機嫌なのを表に出して言うと、男はさらに怯えた。

「い、いえ。そんなつもりじゃ。すみません。ただ、今年から王女様の行動がおとなしくなったと周りの人達がいうもので。噂では今年の贄が何かしたのだと聞きまして」

(それで、どんな人が生贄になったのか聞いたら呪われた目を持つ女だと教えられたわけね)

「私は何もしていません。召使いの一人として働いている、ただそれだけです」

「そうですか・・・」

「おーい!優生ー。思い出したぞ」

アロウ様に呼ばれたので男に一礼してその場を去った。

「アロウ様、名前を呼ばないでください」

「?優生は優生であろう」

「まぁそうですけど、あまり他の人に名前を知られるのは」

「なんじゃ?都合の悪い事でもあるのか?」

「いえ、ただ念のために。どこで誰が聞いているかわかりませんから」

「聞かれても問題はないではないか」

「わかりませんよ。誰かが暗殺や潜入をもくろんでいるかもしれませんよ?」

「否定できぬな・・・」

(おっ。アロウ様が言い返さないとは、なんか勝ったような気分)

「それはそうと、何が好きなんですか?」

「あ、そうじゃ!母上は花が好きじゃ!」

アロウ様はお母さんの事になると本当に明るい顔をする。そうとう慕っているのがわかる。

「花ですか?なら花屋さんに行きますか?」

「本物の植物では枯れてしまうし、世話が大変であろう。母上の庭はわらわの城よりもっと多くの植物が植えてあるからあれ以上多くなったら大変じゃ」

「それもそうですね」

私はあのお城の庭を思い出した。

「そこでじゃ。花をモチーフとしたアクセサリーや小物をプレゼントしたい」

「さっき装飾品はいらないって言ってませんでしたか?」

「あれはあくまで考えている途中の発言じゃ。結論は装飾品でも、母上に似合う物を探そうとなった」

「まぁ、いいんじゃないですか。きっと喜ばれますよ。・・・しかし」

「しかし?」

「この店は出ましょう。ここにそういう物は置いてませんから」

勢いで入ったので、特に何の店かは気にしていなかったが大きい物を置いている店のようだった。家具とかそういうのじゃなく、置物?みたいな物の店だ。

私達は店を出た。

「隣町に行ってみましょうか。あっちのほうがそういうものが多く揃っていますから」

「うむ。そうしよう」

 私達は隣町にやって来た。当然、一つの国に街はいくつもある。私の育った街が偶然城に近かったというだけで、私の住んでいた街だけがアロウ様の国の街というわけではない。

「この街は、あまり来たことがないのう」

「私もありません。情報なら複数入手したのですが」

「ほう。ならば聞こう。ここでもっともおしゃれである店はどこじゃ?」

「もう少し行ったところです。距離があるので近くなったら言いますね。もし歩くのがきつくなったら言ってください」

その時、アロウ様は私をキラキラした目で見ていた。

「な、何ですか?」

「そなたは、本当によい奴じゃのう」

「急になんですか」

「仕事も気遣いも完璧じゃ」

「完璧なんかじゃありませんよ。何もかも完璧に出来ません。冷華さんのほうがよっぽど完璧に仕事をされますよ」

「わらわが言っておるのは、同じ年なのにも関わらず、わらわよりもしっかりしておるということじゃ」

「そんなことないですよ」

そう言った時、アロウ様は真剣な顔になった。

「優生。わらわに教えてはくれぬか?昔のそなたを」

「え、生贄の日に言いませんでした?私はずっと呪われた目を持ったやつだって言われて、家でもどこでも一人だったと」

「そうではない。あったのであろう?一時期、何か仕事をしていたことが」

(っ!?どうして)

「どうして、という顔をしておるな。見ていればわかる。そなたの行動、発言。一人で部屋にこもっておった人間のものではない」

「・・・」

私は何も言えず黙っていた。

(どうするべきなんだ?話すか、あの頃の事を。いや、しかしそれは不用意すぎる。巻きこむわけにはいかない。“こちら側の世界”にアロウ様は関わらないほうが絶対にいい。まぁ今は私にも関係ない事だけど)

私達の間に気まずい空気が流れた。そんな時、後ろから何かが私の足にぶつかった。

あたっ。という小さな声が聞こえて、私は後ろを振り返った。

するとそこには、小さな女の子がしりもちをついてこけていた。

「大丈夫?」

私は女の子に手を差し伸べて立たせた。

「っ!何をしているの!」

後からお母さんらしき人が駆け寄ってきて、女の子を叱った。そして私とアロウ様をチラッと見ると、青い顔をした。

「どうもすみません!うちの娘が。本当にすみません!」

頭を下げて謝るお母さんに私は、戸惑った。

「い、いえ。大丈夫ですよ?頭上げてください」

そう言うと、お母さんは顔を上げた。かと思ったら今度はアロウ様に頭を下げた。

「申し訳ございません!罰はワタシが受けます!」

「いや、だからお母さん。そんな、罰ってほどのことは何もしてないんですから。アロウ様、何か言ってください」

アロウ様を見ると、アロウ様は冷たい目をしていた。

「何を罰を受けることがある?」

「はい?」

お母さんはおそるおそる顔を上げた。

「そなたはこやつにぶつかったわけではあるまい。ぶつかったのは、そこの娘じゃ。謝るべきなのはそなたではないであろう」

そう言われ、お母さんはさらに青い顔をした。

「娘だけは助けてください!」

「何を言うておるか。当たり前であろう。ぶつかった程度でどうこうするつもりはない」

それのやりとりを見ていると、服の裾をクイッと引っ張られた。

「ん?」

見ると女の子が、小さな手で私の膝まであるコートの裾を引っ張っていた。

「どうしたの?」

女の子の目線までしゃがむと、女の子はもじもじしながら

「おねえちゃん。ごめんなさい」

と小さな声で謝った。

私はフフッと微笑んで女の子の頭に手をのせた。

「大丈夫だよ。気にしないで。だけど、今度からは気をつけて街の中は動いてね。約束できる?」

そう言うと、女の子は顔をパアァァっと明るくして頷いた。

「うん!やくそくするよ。おねえちゃん」

すると女の子は小指を伸ばしてきた。

「なに?」

「やくそくするときはねこうするんだよ!」

女の子は私の手をとって、自分のと同じように私の指を曲げて、小指どうしを絡ませた。そして、上下に振った。

「ゆーびきーりげーんまん、うーそついたーらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」

不思議な歌を歌うと、女の子は指を離した。

「えーっと。これは?」

「ゆびきりっていうの!あたし、おかあさんとやくそくするときは、いつもゆびきりするの!」

「そうなんだ。じゃあ、約束ね」

私がニコッと笑うと、女の子もにこっと笑った。

「話が終わったのなら行くぞ。まだ買い物は済んでおらん」

アロウ様はスタスタと先に歩いていった。

「待ってください」

私はアロウ様を追いかけた。ふと振り返ると、女の子がこちらに大きく手を振っていた。

「ばいばーい!おねえちゃーん!」

私も小さく手を振り返した。そして、アロウ様のすぐ後ろに行き、歩いた。

 「それにしてもアロウ様。あの言葉かっこよかったですね」

「な、なんのことじゃ。わらわは思ったことを言うただけじゃ」

「あの頃のアロウ様からは、想像できませんでしたから。成長しましたね」

「ば、馬鹿を言え!わらわは、もとより成長しておるわ!」

「えっそれ本気で言ってます?」

「どういう意味じゃ!」

「そろそろ着きまーす」

「話を聞けー!」

両腕を上げて怒るアロウ様を私はスルーした。

 「ここです」

店の前に来ると、アロウ様は上を見上げた。

「なかなか大きな店じゃな」

「私もまさかこんなに大きな店だとは。ここならいろいろありそうですね」

「ん?あれは何と読むのじゃ?」

「あぁ、フラワーですよ。店の名前ですね」

店の看板に“flower”と書いてあった。

「優生、そなた英語が読めるのか?」

「アロウ様も一国の王女なんですから英語くらいできたほうがいいですよ」

「わ、わらわも英語くらいできるわ!ただ、fとlの上のところがつながっておったから読めんかっただけじゃ!」

「そうですねー」

「そなた、信じておらんな!」

「そんなことないですよー」

目線を斜め上に向けて笑っていると、アロウ様はポコポコと私を軽く叩いた。

「いらっしゃいませ。うちの店に何かご用ですか?」

私達が騒いでいると、中から茶髪の女の人が出てきた。

「あ、すみません。店の前で」

「いいえ。それよりも何かお探しですか?」

髪を揺らし笑って店員さんは言った。

「はい。花をモチーフとした小物やアクセサリーのような物を探しているんですが、こちらの店にありますか?」

「もちろんです。うちの店はそういう物を専門に扱っていますから」

「じゃあ、中を見せてください」

「どうぞ。お連れの方も」

「いや、あの。私のほうが連れなんです」

なんとなく訂正しておいたほうがいいような気がして、私は訂正した。

「あら、これは失礼しました。どうぞ」

にこやかに言って店員さんは中に案内してくれた。

 中は、シックな感じでとても安心するような内装だった。

「では、ごゆっくり見ていってくださいね」

店員さんはお辞儀をして奥に消えていった。

「アロウ様、このお店・・・」

どうですか?と聞こうとしたが、アロウ様の顔にすでに答えが出ていて聞くのをやめた。

「どうしよう優生!キラキラして見えるぞ!」

普段滅多に崩れない口調が、少し崩れた。それからアロウ様がとても気に入っているのがよく分かった。

「そうですね。だったらお母さんにもキラキラしてもらえるような物を探しましょう」

アロウ様は、さっきの怒りなど忘れたかのように満面の笑みで頷いた。そして、お菓子を選ぶ子供のように店中の商品を見て回った。

私にはその顔のほうがキラキラして見えた。

「花、か」

バラのブローチを見つめて私は小さくつぶやいた。

(そういえば、花には一輪一輪に言葉があるって本で見たことあるな。確か花言葉っていったかな。アロウ様は花言葉知ってるのかな)

ふとアロウ様のほうを見ると、さっきの店員さんと何か話していた。

(珍しいな。アロウ様が普通に会話をしているなんて)

私は声をかけず、その様子をじっと見ていた。

アロウ様は店員さんに何かを言われて目をキラキラさせていた。その店員さんも楽しそうに話していた。

「友達・・・」

私はそうつぶやいて顔をそらした。

(そうだよ。アロウ様は元々、悪逆非道なんかじゃなくて普通の明るい女の子だ。私なんかと違って親しみやすい。ああいうふうに友達が出来るのも必然的なことなんだ。・・・もし、アロウ様に気の合う友達が出来たら、私は捨てられちゃうのかな。そもそも、友達ってなんなんだ?あんなふうに楽しく会話できる相手をそういうのだろうか。なら、私は単なる使用人。友達といえるのか。アロウ様が錯覚しているのかもしれない。私もアロウ様も友達は出来たことがない。知らないから、少し近くにいるというだけで友達だと勘違いしているのかもしれない。お互いに。そういえば、昔窓から見えた友達同士であろう二人はとても親しげに話していたり戯れていたりしていた。つまり、私は友達としてふさわしくないのかも。気の利いた会話など出来ないし、あんなふうにアロウ様を楽しませることも出来ない。はっ!それって使用人としても駄目なのでは?!・・・はっ、とんだ笑い話だ。私は何をしたって駄目なのに王女の直属の使用人。情けない使用人だな・・・・・・・。わからない。なんでアロウ様はそんな私を友達だと言うのか、なんで私をそばにおいておくのか、私を必要としているのか。なぜだ)

「聞いておるのか?優生」

「えっ・・・?」

急に声をかけられ、振り返った。

「ア、アロウ様」

「やはり聞いておらんかったか。まったく。さっきから呼んでおるというのに一向に返事が返ってこん。何をそんなに考えておったのじゃ?」

「いえ、なんでもありません。少しぼーっとしていただけです。それよりも何の用だったんですか?」

「そうじゃ!聞いてくれ。花にはのう、一つ一つに花言葉というものがあるそうじゃ!さっき、あの店員に聞いたのじゃ」

(やっぱり知らなかったか・・・)

私はそう思ったが、知ってましたよ、とは言わず

「そうなんですか?すごいですね」

と言った。

「そこでじゃな。わらわは母上に合うような花言葉の花をモチーフとした物を贈ろうと思うのじゃ」

「いいですね。きっと喜ばれますよ」

笑って答えたが、アロウ様はキョトンとした。

「どうしました?」

「いや、なんでもない。ところで、優生は母上にどんな言葉が合うと思う?」

目をそらしてそう言うアロウ様を不思議に思いながら私は答えた。

「そうですね。あの方は、純粋、とかですかね」

「純粋か・・・。ここにそういう花言葉のものはあるか?」

アロウ様は後ろを振り返り、店員さんに尋ねた。

「はい。ありますよ。例えば、えーっと」

「スズラン」

私は小さくつぶやいた。

「そうです!スズランにはそういう花言葉があります」

「スズラン?確か白い鈴のような花か?」

「はい。スズランがモチーフの商品、持ってきますね」

そう言うと、店員さんは「確かこの辺に」と言いながら店の中をうろつき始めた。

「よく知っておったな。スズランの花言葉。花に花言葉があること、本当は知っておったのではないか?」

「ええ。知ってましたよ。まぁスズランの花言葉を知っていたのは特別ですけど」

「ん?なぜじゃ」

「お母さんが好きなんですよ。スズラン。お父さんもよくお母さんにスズランをあげていましたし。それで気になってスズランだけ調べたんです。あの頃は誰も何も教えてくれませんでしたから。あ、そういえば調べている時に一つ、いいなと思った花言葉を持つ花を見つけたな。なんて名前だったかなー」

「ほー。そなたにもそういうものがあったのか。ちなみに、好きな花はなんなのじゃ?その調べる前にもあったであろう」

「そうですね。花言葉とか関係なく」

そこまで言いかけた時、店員さんがこちらにやって来た。

「おまたせしました。こちらなんてどうでしょう」

店員さんが手を広げて見せたのは、スズランの形のイヤリングだった。

「うわ、かわいい」

つい、口からそうこぼれた。

「ありがとうございます」

店員さんは笑顔でそう言って、アロウ様にイヤリングを渡した。

アロウ様は「おおー」と感嘆の声を漏らすと、私の耳にイヤリングをつけた。

「え、なんで私に?」

「イメージじゃ。母上につけたらこんなふうかなーというイメージ」

「私はマネキンですか」

「でも、似合っておるな」

「や、やめてください」

急に褒められて、顔が熱くなった。

「お、照れておる照れておる」

満足そうに笑うアロウ様を見て、私はなぜか複雑な気持ちになった。

「照れてないです」

しかし、それを悟られないようにそう言って、イヤリングを外した。

「はい。これはお母様に渡すんでしょう?しっかり品定めしてください」

「優生・・・?」

首をかしげるアロウ様は気にせず、私は店の奥へいった。

(私は何してるんだ・・・)

頭に手をあて、横に弱々しく振った。

(なんだったんだ。あの複雑な気持ち。いつもと変わらない会話だったはずなのに。私は、何がしたいんだ。自分のことなのにわからない)

その時、ふと一つの小物が目に入った。

それは、紫色の・・・

「ミスミソウ。のブレスレット・・・」

この花はさっきアロウ様に言おうとした、昔から私が好きな花だ。特に紫のミスミソウが好きだ。

(花言葉は『自信』。今の私に足りなさすぎる言葉だな)

ネガティブ思考で閉じこもっていた私にいつも足りなかった部分。昔からこの花が好きなのはなんでだっただろうか。もう忘れてしまった。今は花言葉を知ったから。なぜか人というのは自分のないものを持っているものに惹かれてしまう。私の場合、人になど特に感じることがなかったため、対象が花となったのだが、少し憧れたのは確かだ。自信という言葉を持つことができたこの花に。

(というか、よくもまぁ世間にあまり知られてなさそうな花までモチーフにできるものだ。相当花が好きなんだな。あの店員。アロウ様も花は好きだが、多分ミスミソウなんて知らないだろうな。手入れしてるのは冷華さんだし。あ、なら冷華さんは花に詳しいのかな。あの人いろんなこと知ってるし)

そんなことを思いながら、ブレスレットを見つめていると

「優生、どうした。そんなに下を見つめて」

アロウ様が肩をトントンと叩いて言った。

「い、いえ。あまりにもたくさんあるのですごいなと思いまして」

「確かに。ここの店は素晴らしい。わらわの城の近くにも欲しい店じゃ」

「城の近くの街は食料のほうが多いですからね」

「そのおかげで食料に困ることはないが、楽しみが少ないからのう。さっき誘ってみたが、駄目じゃった」

「そりゃそうですよ。それよりも、決まったんですか?」

「うむ!さっきのイヤリングに決めたのじゃ。今、持ってきてもらっておる。ここにあるのはサンプルだそうじゃ」

「あぁ。なるほど」

すると、アロウ様は半目になり笑いながら

「ところで、そなたは何をそんなにその花を見ておったのじゃ?」

「だから言ったでしょう。こんなのもあるんだと思っただけですよ」

「嘘をつけ。しばらくそればかりを見ておったではないか。興味だけで見ていたようには見えんかったぞ?」

「それは、考え事を、していたからです」

「ほぉー。あんなに真剣な顔で何を考えておったのじゃ?」

「え、そんなに真剣な顔してました?」

少々、自分で驚きながら尋ねると、アロウ様は腕を組んでうんうん、と首を振った。

「しておったぞ。気付いていなかったのか」

「すみません。そういえばあの店員さん遅いですね。サンプルを持ってきた時は速かったのに」

「まぁ、奥の方にあるみたいだったから時間がかかっておるのであろう」

「でも、何かあったのなら大変です。様子を見てきます」

「あ、こら」

私はアロウ様の呼び止める声をスルーして店の奥に入った。

 店の奥は結構薄暗く、段ボールが山積みになっていた。

(店員さん?どこだ)

店員さんを探してうろついていると、奥で段ボールをガサゴソやっている店員さんを見つけた。

「大丈夫ですか?」

私が声をかけると店員さんは、一瞬ビクッとしてこちらを振り返った。

しかし、私を見て安心したように微笑んだ。

「あら、アロウ王女様の使用人の方ではないですか。どうしました?」

「あ、いえ。少し時間がかかっていたようなので様子を見に来たのですが、あなたこそどうかしたんですか?商品が見つからないとか?」

「いいえ、スズランは見つかったのですが、別の商品が。すみません。とりあえずこれをアロウ王女様に」

「あの。どんなやつなんですか?」

「え?」

「よければそれをアロウ様に届けている間だけでも探しておきますよ」

「そんな、悪いですよ。お客様に商品を探していただくなんて」

「気にしないでください。私、今ちょっとアロウ様から逃げているので」

小声でそう言うと、店員さんはえっ?と目を丸くした。そして、ふふっと笑うと

「わかりました。お願いします。探しているのは、クローバーの花です」

私はその時、少しハッとした。

店員さんは、商品の写真を見せてくれた。

そこには、白いクローバーの花と葉っぱが二枚しかないクローバーのヘアゴムが写っていた。

「うわ、すごいですね。でもこれ、なんで葉っぱが二枚しかないんですか?」

「あぁ、これは二人用なんですよ。ペアルックみたいな感じで、これを二つにすると、四つ葉のクローバーになるんです。友達どうしや恋人どうしで買っていただけたらと思って作ってみたんです。今のところ売れてませんが」

「へぇー。かわいくていいですね。でも、これが売れないのは意外です」

「実は、この店開いたの、一週間前なんです。ここは少し街から離れていますし、この商品は二日前に作ったばかりで」

「そうなんですか。では、なおさら見つけないとですね。これを売るために」

(よく、二日前に作った物を見つけられないものだ。記憶をたどれば見つかりそうなものだけど)

「では、すみません。すぐに戻ってきますので、それまでよろしくお願いします」

店員さんはぺこりとお辞儀をして、出ていった。

(さてと、どこから探すかな。二日前に作った物が奥にあるとは思えない。だとしたら、手前の段ボールの中に)

私は手前の方にある段ボール五、六箱に目を向けた。

(えっと、この箱はさっき店員さんが探してたな。中は・・・なさそうだな)

そして次々に箱を見ていった。・・・しかし

(・・・はぁ~あ。全然見つからない。一体どこにやったんだ。たった二日で)

手前にあった五、六箱の中にはそれらしき物は入っておらず、それどころか素材ばかりで商品すら入っていなかった。

(手前は材料。ということは、他にありそうなところは・・・)

私は思いついたところに歩いていき、改めて探した。

(えーっと・・・・・・あ。これか)

ようやく私は段ボールにたくさん入っているクローバーを見つけた。

(やっぱりな。役に立つ事もあるんだな。あの頃の経験と知識)

その中の一つを手に取り考えていると、店員さんが戻ってきた。

「すみません。遅くなってしまって。見つかりました?」

「ん」

私はスッとクローバーを差し出した。

「え、すごい!よく見つけましたね。ありがとうございます。助かりました」

笑顔でそう言う店員さんに私は少し照れくさくなり、頬をかいた。

「私、探すの得意なので」

「ほーう。それは今度から探し物はそなたに頼もうかのう」

「えっ」

急にアロウ様の声がして入り口のほうを見ると、ニヤニヤと笑ったアロウ様がいた。

「それは勘弁してください。非常時以外は基本やりませんから」

私は立ち上がり、アロウ様のもとに歩いた。

「それに、今回はこの倉庫の中だけだったからすぐに見つかりましたが、アロウ様の城は広すぎてそう簡単に見つかりませんよ」

「そうか。それは残念じゃのう」

「諦めていただけてよかったです」

「あの」

二人で話していると、店員さんが声をかけてきた。

「これ、どうぞ」

店員さんが差し出してきたのは、さっきのクローバーのヘアゴムだった。

「これ、なんで・・・?」

「お二人に渡したくて探していたんです」

「え、私達に?」

私とアロウ様は顔を見合わせた。

「はい。仲良しなお二人にいいと思いますので」

私達は戸惑いながらそれを受け取った。

「花言葉は『幸運』です。お二人に幸運がおとずれることを願っています」

店員さんはにこっと笑ってそう言った。

「あの、どう見て私達が仲良しだと?」

「どういう意味じゃ」

アロウ様はムッとして私を睨んだ。

「見ていればわかります。お二人は、信頼し合っているんだなって」

「私は別に」

「もちろんじゃ!わらわ達は友達じゃからな!」

私が否定しようとしたのをアロウ様がさえぎった。

「もう・・・。店員さん、ありがとうございます。頂きます。値段は・・・」

「いえ、お金なんてとんでもないです!こちらが勝手に差し上げたのですから!タダでもらってください」

「いや、でも」

「おい、店員。会計を済ませたい。どこで出来るのじゃ?」

「あ、すみません。こちらに」

慌てて店員さんはアロウ様を案内した。

アロウ様はその後を追い、私は一人残された。

私は手の中にあるクローバーのヘアゴムを見つめた。

(クローバー。私が花言葉を知って好きになった花・・・。花言葉は『幸運』『約束』『私を思って』そして・・・『復讐』)

「おーい優生!何をしておるんじゃ。帰るぞ」

(ハッ。いけない。今日はなんだかネガティブになってばっかりだ。疲れてるのかな・・・)

アロウ様に呼ばれて、私は店先に向かった。

 店の奥から出ると、アロウ様は会計を済ませて、店の出口に立っていた。

「あ、荷物持ちます」

私はアロウ様から荷物を取った。

「では帰ろうか」

「はい。今日はありがとうございました」

店員さんにお礼を言うと、店員さんも

「こちらこそ、見つけていただいてありがとうございました。これで買いに来た人にも渡すことが出来ます。あ、またのご来店お待ちしています」

と言ってにこっと笑った。

「ええ。また来ます」

私はふっと笑って店を出た。

その時、ふとアロウ様が立ち止まって店を振り返った。

「どうしました?」

「いや、なんでもない。気のせいじゃ」

「はぁ。そうですか」

私達はお互いの腕にヘアゴムをつけて城に帰った。

その間、アロウ様は満足そうな顔をしていた。

ココロです!ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。本当に感謝です!そろそろネタが尽きたので、普通に後書きを書こうと思います。段々と優生がネガティブになっていますが、呆れずにこれからも読んで欲しいです!

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