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生贄少女と王女様  作者: ココロ
6/12

変わった少女

 私は部屋で男の悪巧みの電話を聞いていた。

(・・・なるほど。アロウ様のおばあ様を殺したのはこいつらって事か。おそらく、計画実行日は今日。問題は時間だ。明るい時間帯は避けるはずだから、夜なのは確かだが、この時期、暗くなるのは八時を過ぎる頃だ。まぁ、アミス様が一人になった時か、寝ている時と考えるのが妥当だけと、アミス様の睡眠時間なんて知らないし、アロウ様も知らないよな。アミス様には、さっきあんな話しちゃったから、聞きづらいし)

考えていると、電話の続きが聞こえた。

「周囲の見張りは頼んだぞ。今日は娘のアロウも来ている。特にアロウにはばれぬようにな。次はあいつが同じ道をたどる番なのだから」

(っ~!・・・おっといけない。ついあの時のくせが)

「ああ、今夜二時だ。丑三つ時の呪いで死ぬってな」

そう言って、男は高笑いをした。

(しょーもな。そんなことより、ラッキー。あいつポロッと情報言ってんじゃねぇっての)

私は、部屋から離れた。その時、男が扉の方を見てニヤッと笑ったことに私は気付いていなかった。

 「遅いぞ優生!何をしておったんじゃ!」

「すみません。途中ちょっと迷ってしまって。この城私達の生活している城より広いから」

「まったく。今日は帰るぞ」

「えっ?もうですか?てっきり泊まられるのかと思いました」

「なぜじゃ?」

「久しぶりに会うのですから、もっとお話をなさるのかと」

「実はの、来週に母上がわらわの国に来ることになったのじゃ。その時に泊まってもらうのじゃ」

「そうでしたか。楽しみですね」

そう言うと、アロウ様は満面の笑みで頷いた。

 私達はその後、すぐに国に帰った。城から出るとき、アミス様が部屋から手を振っていた。アロウ様も大きく馬車の中から手を振っていた。


ー夜中ー

 チッ、チッと時計の音だけが部屋に響く。そんな静まりかえった部屋に、忍び込む人影。ベッドで寝ている人物に人影は忍び寄る。その影の手にはキラリと光る刃物が握られていた。影は刃物を振り上げ、寝ている人物めがけて振り下ろした。ザシュッと何かが突き刺さる音がした。影は刃物を抜き、布団を勢いよくめくった。しかし、そこにはくるめられた毛布があるだけで、人はいなかった。

「なっ何!?」

人影は声をあげた。

私は部屋の明かりをつけた。

「お、お前は!」

その人影は、私を見て目を見開いた。その人影の正体は、やはりあの男だった。

「やっぱり。このくらいの時間帯だと思った」

私は部屋の時計を見上げた。時計は十二時半をさしていた。

「アロウ王女の使用人。なぜここに。アミスはどうした」

「しらばっくれないでよ。気付いてたんでしょ?私が部屋の前であんたらの計画の話を聞いてたこと。だから、わざと日付と時間を私に聞こえるように言った。私に二時だと聞きかせて、来るのを遅らせ、その時間に来たときにはもう既にアミス様は死んだ後。そうするつもりだったんでしょ?あと、アミス様は別のところで寝ているから安心して。もちろん、どこかなんて教えないけど」

「なぜ、この時間だとわかった?」

「それは・・・ただの勘」

「そんな嘘が通用するとでも?」

「秘密よ。少なくともあんたには一生教えない」

「ミステリアスな子だねぇ。嫌いじゃないよ、そういう女の子」

「気持ち悪い」

私は笑顔で言った。

「酷いなぁ。さて、冗談はこれくらいにして、君をどうするかな~」

「あれ?殺さないんだ。それ以外に選択肢なんてないと思うけど?」

「君を殺しちゃったら、不幸な一族だと思わせられないでしょ?あくまで、アミスが死ぬのは自分の罪を償うため、アロウが死ぬのはその母親を悔いて。そんな筋書きに君が入ったら、殺しだとばれてしまうよ。まぁ、僕らの計画を知ってしまっている以上、見逃してあげるわけにもいかないけどね。本当は迷ってたんだ。知ってるだけなら、まだ大丈夫だと思ってたけど、どうやら君は頭もキレるみたいだからね。ところで、君はこういう事に慣れているように見えるけど、実際どうなの?」

「さぁね。あんたに教える理由はないよ。強いて言えば、企業秘密」

「企業?へぇ、仕事か。ますます面白いよ。君」

「おしゃべりはこれくらいにしない?私だって寝たいんだけど?」

「そうだね。じゃあ眠らせてあげるよ」

そう言うと、男は私に襲いかかってきた。

戦いながら、私は話をした。

「さっき、アミス様は自殺だと思わせるって言ってたけど、あんたの殺し方、つまりそのナイフで刺したんじゃ自殺には見えないんじゃない?布団の中も確認してなかったし、前ならともかく、後ろを向いてたら背中に刺さって、自分では無理だと周囲は判断するよ」

「大丈夫。腹とかに刺されば、自殺。背中に刺さればアロウがやった殺人として、理由はいくらでも出てくるさ。どちらかといえば、背中に刺さってくれた方が僕としては都合がよかったんだよ。まぁ、邪魔が入ったせいでどちらも叶わなかったけどね」

そう言われた時、私は彼の腹を思いっきり蹴った。男は後ろに吹っ飛び、壁に背中を打ち付けた。男はぐっ!と声をあげて、座り込んだ。ナイフは私の足下に飛んできた。

「アロウ様に罪を被せるのは許さない」

私が男を睨むと、男はニヤッと笑った。

「君、その目は人を殺したことがある目だね。片目は眼帯をしているけど、怪我でもしたのかい?相手に潰されたとか」

「ご心配なく。そんなんじゃないから」

私はナイフを拾って、懐にしまった。

「手慣れてるねぇ。僕じゃ敵わないわけだ。経験者って感じだし」

「・・・あんたの言ったとおり、私は人を殺したことがあるよ。あんたみたいに計画性のある理由じゃないけど」

「じゃあ、衝動的にやっちゃったんだ?」

「それも違う。・・・話は終わり」

(こいつの始末について考えないと。アミス様のためには殺した方がいいけど、アミス様はこいつのこと、普通の優男だと思ってるだろうし、急に消えたら不審がるよな。かといって放っておくのもな~)

そう考えていると、後ろから気配がした。反射的に私は回し蹴りをした。すると、別の男のうめき声がした。見ると、奴よりもがたいのいい男が反対側へ吹っ飛んで、気絶していた。

「あ、強く蹴りすぎた。というかこいつ誰?」

「すごいなぁ、君。何か考えている途中でも気配に気付いて、しかも攻撃まで出来るなんて」

「これ、あんたの仲間?」

「そうだよ。すぐに僕が戻らなかった時、この部屋に来るよう言っていたんだ。君には恐れ入ったよ。僕らの仲間にならないかい?」

「冗談。誰があんたらのところなんかに」

「それは残念。あ、そうだ。もうレイ族は狙わないよ」

「どういうことだ?」

「うまくいこうがいくまいが、二度は狙わないのが僕のやり方なんだ。だけどここから立ち去るつもりもない。僕はここに留まって、情報を得る。この国は一番発展していて情報が入ってきやすいからね」

男はそっと目を閉じた。

「さて、どうする?僕を殺す?それとも生かす?」

「・・・本当に殺さないのか?」

「あぁ」

「保証は?」

「そうだねぇ。・・・僕は君を気に入っている。これでどう?」

「どう?じゃない。そんなんで信用出来るわけないでしょ」

「えぇ~。疑り深いなぁ~」

「あたりまえだ。どうやって一度殺人を起こそうとしたやつを信じろっていうんだ。理由がそもそも嘘だし」

「信じてもらう方法か~。難しいな。じゃあ、監視をつけなよ」

「そんな事に出来るような仲間なんていないよ」

「なら、これをあげるよ」

そう言って男は小さな機械を私に投げて渡した。赤と青のボタンがついている。

「なに、これ」

「僕の首、チョーカーみたいな物がついているだろう?」

「ん?あぁ確かに」

「これは昔、ある人につけられた爆弾なんだ。見ての通り外せるような部分はどこにもない。そして、その機械はこれの起爆装置。赤いボタン

を押すと五秒後に爆発する。青いボタンを押すと停止する。秒数もリセットされる。つまりそれは僕の命がかかったスイッチ。これでどう?」

「確かに、これなら信じてやらなくもない。破った時はこれを押せばいいんだから。でも、なんでそこまでする?私なんかに命を預けるようなまねをして。はっ!まさか、私を狙っているのか?」

「違う。これしか信じてもらう方法がないからだ」

「というか、自分で起爆装置持ってんなら、外せるんじゃ?」

「見てわかるでしょ。その装置にはその二つのボタンしかついていない。外す方法はおそらく無い。これをつけた人ももう死んでるからね」

「ふーん。これ、事故で押しちゃって私が気付かないって事もあるんじゃないの?」

「そこは、大丈夫。横に小さな黒い出っ張りがあるだろう?それを下に下ろすとロックがかかる。そうしていればボタンは押せないよ」

そう言われ、試しにやってみると、ボタンは固くなってなっていて、押そうにも下に下がらなかった。

「なるほどね。わかった。じゃあ、今回は見逃してあげる。聞きたいことは他にもあるけど、あんまり長くはいたくないし。・・・約束破ったら殺すから」

そう言って私は城を出た。

 夜が明け、私は大きくあくびをした。

「ふあぁぁ・・・」

「眠そうじゃな」

アロウ様は私の部屋を覗いていたずらっぽく笑った。

「誰のせいだと思っているんですか」

アロウ様の城からアミス様の城てまでは二時間ちかくかかる。あの後、帰り着いたのは深夜三時。寝ようにも帰ってそうそう、アロウ様に見つかり、さらに一時間寝るのが遅くなった。

「そなたであろう。帰るのが遅い速い以前の問題じゃ。あんな夜遅くにどこに行っておったのじゃ?昨日は結局言わんかったが」

「だから、外の空気を吸いに行っただけって言ったじゃないですか」

(あんたのお母さんの城に行っていたなんて言えるわけない・・・)

「本当かのう」

アロウ様はまだ疑うような目で見ている。

「本当です。それより、今日は来週のために買い物に行くんでしょう?まだ支度されていないようですがよろしいのですか?あと十分以内に用意しないと私一人でいきますけど?」

「なっ何!?ちょ、ちょっと待て。すぐ用意する。というか、朝食もまだだというのに、十分じゃ終わらんぞ!」

「なら、人を疑っているひまはないんじゃないですか。・・・仕方ないですね。三十分に増やしてあげます」

「おお!その時間内なら終わる!はず!」

そう言うと、アロウ様はばたばたと部屋に戻っていった。

「あはは。・・・朝から騒がしいな」

私は、ポケットを探った。手に昨日の機械を取って、それを見つめた。

(今冷静になってみると、このスイッチ意味ないんじゃ。あの話が本当だという確証もなかったのに、なんで了承したんだろ。もう少し慎重になるべきだった。あんな事久しぶりで落ち着いて考えられなかったからな・・・。そういえばあの男達どうなったんだろう。がたいのいいほう、吹っ飛ばしちゃったけど、撤収出来たのかな?そもそも撤収したのか?どこかに潜んでいるなんて事は・・・ないか。あいつが残るのに仲間が残る必要はない。あれ?あいつたしか、“僕”のやり方だって言っていたな。てことは、アミス様の事は誰かに言われてした事ではないってことだよな。じゃあ、あの男は仲間といえるのか?ああいう奴は、その時だけ人を雇う事が多いから、もしかしたらあの男は雇われただけの可能性も。組織的に動いているわけではないのかも。じゃなきゃ、上の奴がいるのに自分のやり方なんてこだわり、持てるはずがない。それとも奴は特別なのか?となるとあいつは組織で上級な位にいるって事になる。でも、力はそんなになかった。私の実力は弱くはないが、特に強いというわけでもない。私くらいの奴はああいう世界の奴らの中には山のようにいる。なのに私に勝てなかったということは、力では上級な方ではないということ。とすると、あいつは頭脳か。情報が入ると言っていたし、作戦もあいつが考えているようだったし。でも、そこまでするって事は独立しているのかも。・・・ああぁ!くそっ。どんなに考えても分かんない!なんなんだあいつは!)

私は頭をくしゃくしゃとかいた。

「何をしておるのじゃ?」

「っ!アロウ様。支度は済んだのですか?」

「何を言っておる。さっきから呼んでおるのに、一向に返事が返ってこないから様子を見に来たのではないか」

「え、そうだったんですか?すみません」

「よいよい。待っておるのも退屈じゃから、今日は共に食堂へ行くぞ」

「えぇ~」

「ええ~、ではない。そなたが忘れておるのが悪いのであろう」

「それはそうですけど、私がこれから持ってくるんじゃ駄目ですか?」

「なんじゃ?そんなにわらわと食堂に行くのが嫌か?」

「いえ、そういうわけでは。ただ」

「ただ?」

「・・・一緒に食べることになるのが嫌なんですよ」

アロウ様を横目で見て言った。

「わらわと食べるのは嫌なのか」

アロウ様は悲しそうな顔をした。私はそれを見て慌てて訂正した。

「いや、アロウ様と食べるのが嫌なんじゃなくて誰か人と食べること自体が嫌なんです」

「なんで?!誰かと食べるのは楽しくてよいではないか」

「その、慣れてないんですよ。明るい食事という空間に。家では一人で食べてましたし、友達がいなかったので他の誰かと食事をとることもなかったもので。だから別にアロウ様が嫌なわけではないですから、気にしないで下さい。すみません。傷つけるような事を言ってしまって」

「き、傷ついてなどないわ!わらわがそなたの一言や二言で左右されるわけがないであろう!」

アロウ様は腕を組んでそっぽを向いた。

「それもそうですね。まぁ今回は私が悪いのでついて行きますよ。さ、行きましょう」

私が笑うと、アロウ様はなぜか不機嫌そうな顔をしてうつむいた。

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない」

「そうですか。なにかあったら言ってくださいね」

そう言うと、今度は怒ったような顔をした。

「なんか怒ってます?」

「べっつに~。そなたが鈍感過ぎるくらいで怒ったりなぞせんわ」

「鈍感?」

「はぁ~ぁ。そなたはもっと、察するということを覚えた方がよいぞ」

そう言ってアロウ様は先に行ってしまった。

「察する?え?・・・え?」

私はその場で首をかしげた。

 朝食を終え、私はアロウ様の部屋の中で立たされていた。

「あの~。もういいですから早く行きましょう」

「駄目じゃ!まったく。興味がないにもほどがあるぞ。ええっとこれは・・・あ、こっちの方がいいかの」

(また着せ替え人形に・・・)

私はため息をついた。

支度を済ませ、いざ出る寸前のところでアロウ様に引き止められた。どうも私の毎日変わらない服が気になったらしい。私は洗濯しているからいいと言ったのになにか気に入らないらしく私を部屋に引っ張りこんだ。そして、現在服を選ばされている。

「もう、どいてください」

私はアロウ様を軽く押してクローゼットをあさった。

「お、なんじゃ?ようやく興味を示したか」

「これ以上時間を使いたくないだけです。あ、これでいいか」

「これって・・・。いつもとあまり変わらぬではないか!」

選んだのはいつも着ている執事服の色違い。いつものは真っ黒だけど、これは少し青みがかっている。まぁそれでも黒とあまり変わらない。

「いいじゃないですか。時間もありませんし・・・そんな派手なスカートの服を着て歩きたくないですし」

私はアロウ様が持っているメイド服をジトッとした目で睨んだ。

「えぇ~。可愛いのになぁ赤」

「可愛い可愛くないの問題じゃありません!それにそんなに目立つ服なんて着られるわけないでしょう。私にはこれくらい地味な方が丁度いいです」

アロウ様は不思議そうな顔をした。

「どうしました?」

「いや、なんでもない」

尋ねるとアロウ様はフイッと顔を背けた。

「?・・・まぁいいか。それじゃ、着替えてくるので玄関で待っててください」

「あ、あぁ」

少し戸惑ったように返事をするとスタスタと部屋を出ていった。

(なんか様子が変わったような・・・。どうしたんだ?アロウ様)

 着替えて庭に出ると、門のところでアロウ様が待っていた。

「お待たせしてすみません。同じように見えてこの服いつものと違ってて」

「当然じゃ。まったく同じ物など、わらわは滅多に買わぬ」

「へぇ~。そういうこだわりがあったんですね。なんだか嬉しいです」

ニコッと笑うとアロウ様は小さな声で

「やっぱり考えすぎか・・・」

とつぶやいた。

「考えすぎって、なにか悩んでいたんですか?」

「いや、なんでもない!それより、何を嬉しがっておるのじゃ」

「いやぁ。アロウ様の事が知れて嬉しいんですよ。アロウ様、あまり好みとかおっしゃいませんし。思いつきで動かれることのほうが多いですから」

「言う機会がないだけで、わらわにだって好きな物やこだわることの一つや二つあるわ!」

「普通はやっぱりそうですよね」

私は小さくボソッと言った。

「え?」

「あ、いえこっちの話です。そんなことよりも早く出発しないと、買う時間なくなりますよ」

「そうじゃな。では行こう」

そう言ってアロウ様は歩き出した。

「あれ?歩いて行かれるんですか?珍しいですね」

「たまには歩くのも悪くないしな。それに、ゆっくり見たいのじゃ。まぁちょっと遠出をするときは馬車を呼ぶが、今日はできるだけ歩こうかと」

「そうですか」

私は先を行くアロウ様を追いかけた。

「だから、今日はいつもより丈の短い服になさっているのですね」

「あぁ。いつもの地面すれすれのドレスでは歩きにくいからの」

「そうですね。そういえば今日は何を買うんですか?」

「ん~そうじゃな。服と装飾品かの。あ、あと母上へのプレゼントも買いたいぞ!」

「プレゼントですか。いいですね。それならとびきりの物を選ばないとですね」

「うむ!だから今日はいろんな町に行くぞ。途中でバテるでないぞ」

「それは私の台詞です。アロウ様こそ途中で折れたりしないでくださいよ」

私達はお互いの顔を見て笑い合った。

 「さて、ようやく町に着いたが、どこから見るかの」

(私が住んでた町だ)

最初にアロウ様が来た町は私が城に仕える前に住んでいた町だった。

「アロウ様。ここにはそんなにたくさんの店はありませんよ?」

「ここはわらわの国の町であるぞ。それくらい知っておる。最初にここに来たのは用事があったからじゃ」

「用事、ですか?」

「うむ。なぁ優生よ。そなたの家まで案内せい」

「はい。・・・え?!」

「だから、優生の家じゃ。住んでおったのじゃろう。この町に」

「そうですけど、どうして知ってるんですか?」

「馬車の操縦者に聞いたのじゃ」

(あの野郎。余計なことを)

「なぁよいであろう。一度そなたの両親の顔を見てみたいと思っておったのじゃ」

「まぁ構いませんが。買い物はいいんですか?」

「そこまで長居する気はないから大丈夫じゃ」

 町を歩いていると、周りの視線がこちらに集まった。無理もない。自分たちの町に王女様と呪われた目を持っている人間が来たのだから。さっきからその視線がグサグサと背中に刺さっているような感じがしていた。

「はぁ~あ。この視線、久しぶりだと意外に堪えるなぁ」

「そうなのか?」

「ええ。昔は慣れていたんですが。最近はこんな視線浴びることは無かったですから。ずっと城にいましたし」

「そうか。なんか悪いのう。場所を変えるか?」

「いえ。このくらいの視線、耐えられるように戻っておかないと、この先初めてこの目を知る人からの視線に耐えられませんから」

「強いのう。そなたは」

「あはは。アロウ様には負けますよ。あ、ここです」

話しているうちに私の目の前に着いた。

「おお。ここが優生の家か」

「そうです」

私は扉の前に歩いていき、ノックした。すると食器が落ちるような音がしたあと、返事が返ってきた。

「はーい!すみません。妻が調理器具を落としてしまって・・・。っ!」

扉を開けて出てきたのはお父さんだった。

「お、お前っ」

お父さんは私の顔を見ると、驚きを隠せないようで口をぱくぱくさせた。

「お、お父さん?大丈夫?」

「ゆ、優生なのか?」

「あたりまえでしょ」

「だ、だって服が」

「これは、城で着せられてる服。といっても今日のは外出用でアロウ様がどうしても服を替えろって言うから自分で選んだんだけど。結構動きやすいんだよ」

「お父さん?誰だったの?・・・っ!」

お母さんが奥から出てきて、私の顔を見ると、お父さんとまったく同じ反応をした。

「えっ、え!?優ちゃん!?どうしたの?!」

「ちょっと用があって」

「用?まぁとにかくあがって。お父さん、悪いんだけど、食器片づけてきてくれる?後で私も手伝うから」

お母さんは優しく笑った。

「あぁ、わかった。すごい量の器具が落ちたからな」

「ごめんなさい」

今度は困ったように笑った。

「構わないさ」

お父さんは笑ってそう言って、私を優しい顔でちらっとみると、奥に入っていった。

「ささっ、入って」

「あー。えっと、アロウ様もいるけど、というか用があるのはアロウ様で」

「アロウ様?」

お母さんは私の後ろを覗いた。

「まぁ!すごい服ね!お城の方?」

「え?」

疑問に思ったが、前に帰ってきた時のお父さんの話を思い出した。

(そういえば、お母さんは王女様の顔知らないって言ってたな)

「それは中で話すから。いいですよねアロウ様」

小声で聞くとアロウ様も小声で返した。

「わらわは構わぬが、そなたの両親はいいのか?わらわは、この国では悪逆非道の王女。わらわの事がわかれば追い出されかねんぞ」

「お母さんは大丈夫です。優しいですし、アロウ様の顔をあまり知らないらしいので。お父さんも多分大丈夫だと思います。お父さんはアロウ様の顔を知っています。前に帰った時に少しアロウ様の事も話しましたし、もし追い出されそうになったら私がなんとかします」

「そうか。なら、少し邪魔する。買い物があるからすぐに出るぞ」

「はい」

「何を話しているの?」

「ううん!なんでもない」

「そう。じゃあ、入って」

お母さんはニコリと笑って私達を家の中に入れた。

「ただいま」

そう言ってあがろうとすると、服の袖をくいっと引っ張られた。見るとアロウ様が袖を掴んでいた。

「どうしました?」

「こういう時って何と言ったらよいのじゃ?」

「あぁ。お邪魔しますでいいんですよ」

「そうか。お、お邪魔します?」

「はい。どうぞ」

私は笑ってアロウ様の手を引いた。

「貴方たち仲がいいのねぇ」

「まぁね」

私は普通に返したが、アロウ様は顔を少し赤くして手を振り払った。

「そっそんなことないわ!」

「あら?顔が赤いわよ。大丈夫?」

「おーい。お茶入れたぞー」

台所の方からお父さんの声がした。

「はーい」

部屋に行くと、テーブルにお茶が四つとお茶菓子が置いてあった。

「さぁ、座っ・・・!?お、王女様!?」

お父さんは部屋に入ってくるなりアロウ様を見て、驚いた。

「な、なぜ王女様がこちらに!?」

「え?!この子王女様なの!?」

お父さんの発言を聞いて、お母さんも目を丸くした。

「うん。この国の王女、アロウ様。私が仕えている人」

「え~!そ、そういうことは先に言ってよ~。詳しい話は座ってしましょう」

お母さんにそう促され、私達は椅子に座った。

 「なぁ、優生。すごく居心地が悪い」

アロウ様は小声でそう言った。無理もない。さっきから沈黙が続いていて、私も気まずいと感じている。

「アロウ様何か話してください」

「無理じゃ。そなたも知っておるであろう。わらわは初対面だと、そなたと話すみたいにはできん」

「そうでしたね。でも、私も何も話題がうかびません」

私達がヒソヒソと話していると、お父さんが口を開いた。

「最近どうだ?」

「え?」

「だから、最近、生活はうまくいっているのか?」

「あ、うん。王女様と」

そう言いかけたが、横から小声で

「アロウじゃ」

と言われ、言い直した。

「アロウ様とよく話すし、今日も買い物に」

すると、急にお母さんが目を輝かせた。

「あら!買い物?この辺はね食べ物とかがたくさんあるわよ!この間買い物したらおまけしてもらったの」

「母さん」

「あ、ごめんなさい」

お父さんが制止すると、お母さんは恥ずかしそうにうつむいた。

「すみません。王女様」

お父さんは苦笑いをした。

「なぜ止める?」

「え?」

「今、そこの者は楽しそうに話しておった。なぜそれを止めたのじゃ?」

「あ、いえ。こちらの話を一方的にしてしまって失礼だと思い」

「構わぬ。そなたらは優生の両親じゃ。多少のことは目を瞑る」

「あ、ありがとうございます」

お父さんは頭を深々と下げた。

「顔を上げよ。今日は優生の身内と会ってみたくて来たのじゃ。そう堅苦しくては、肩が凝ってしまう」

「は、はい」

するとまた、沈黙の空間に戻った。

「ど、どうしよう優生」

「どうしようって。アロウ様の口調が上からだからでしょう。この沈黙は」

「だ、だってそなたの母上が話しておったのに、父上が止めたから・・・」

「そんなに話を聞きたかったんですか?」

「いや、途中で止めたのが気に入らず。すまぬ」

「あ、いえ謝らなくても」

「ねぇ、王女様」

急にお母さんがアロウ様に声をかけた。

「な、なんじゃ?」

「どうして、優ちゃんを直属にしたのか聞いていいかしら?」

お母さんにそう聞かれ、アロウ様はキョトンとした。

「気に入ったから。ただそれだけじゃ」

「気に入った?」

「うむ。こやつのこの目と性格がな」

「まぁ。あなたは優生の目を見たの?」

「初めて会った時に見せてもらった」

「強引にだったけど・・・いてっ」

ボソッと言うと、アロウ様に肘でお母さん達には見えないようにごつかれた。

「とても綺麗で優生だけの素敵な目だと思うのに、優生自身はこの目が嫌だと言うのじゃ。わらわは、良いと言っておるのに」

「その目を見て、気味が悪いとかは思わなかったの?」

「何を気味悪がることがあるのじゃ?両目とも同じ色の人間は山のようにおるが、片目だけ色違ってしかも毎日変わるなんてそんな人間は優生くらいしかおらぬ。この目は優生が優生であることの証明になる。それに、色はいつも綺麗でわらわは大好きじゃ」

「そう」

お母さんは嬉しそうに目を細めた。

「でも、それだけじゃ関係は続かないんじゃない?この目にも毎日見てて飽きたりしない?」

「母上殿はどうなのじゃ?飽きるのか?」

「いいえ。だって自分の娘だもの。どんな姿見た目でも愛しているわ」

「お母さん・・・」

「そうか。わらわも飽きぬぞ。この世に色は何色もあるし、それに最初は理由は目であったが」

(やっぱりそうだったのか)

「初めてだったのじゃ。わらわの話を聞いて意見をくれた人間は。今までは皆、わらわの言葉に従うだけで何も言うてはこなかった。でも、優生は賛成して笑ってくれたり、反対して怒ってくれたりした。そして・・・友達になってくれたのじゃ!」

私は飲んでいたお茶を吹き出してむせた。

「大丈夫か優生」

「ゲホッゲホッ。だ、大丈夫です。ってなんて爆弾発言してくれてるんですか!」

「爆弾?」

「・・・もういいです」

私ははぁ~とうなだれた。

すると、急にお母さんが笑い出した。

「?どうしたのお母さん」

「お、おい母さん?」

「ふふ、ごめんなさい。優ちゃんがこんなふうに話しているの見てたら嬉しくてつい。王女様。国民にこんなことを言われるのは嫌かもしれないけれど、これからも優生と仲良くしてね」

お母さんはにこっと笑った。

「おい母さん。敬語はせめて使わんか。年下とはいえ、この国の王女なのだから」

「いや、よい。優生の母上殿。それはこちらの言うべきことじゃ。これからもこやつと、優生と一緒にいさせてはもらえないか?」

アロウ様がそう言うと、お母さんの顔がぱぁっと華やいだ。

「もちろんです!」

お母さんはそう言うと少し真剣な顔になった。

「本当は初め、この子が生贄だと言われた時、怖かったわ。あなたの噂はみんな悪いものばかりだったから。酷いことされてるんじゃとか、つらい思いをしてるんじゃないかとか毎日心配してたわ。でも全然そんなことないみたいで、最初に優生が帰ってきた時、笑顔で城のことを話してくれて、あ、王女様はみんながいうような人じゃなかったのねってそう思ったの。だって優生が笑って誰かの事を話すなんてなかったことだから」

「ほ~。笑顔での~」

アロウ様はニヤニヤして私を見た。

「うるさいですよ。アロウ様」

横目でアロウ様を睨むと

「おー怖い怖い」

「いい加減にしないと怒りますよ?」

アロウ様に笑顔を向けた。

「さらに恐ろしいのう」

「お母さん。続けて」

「うふふ。本当に仲良しね。あなた達」

「どこをどう見たら、そうなるの?」

「優生ちゃんが自分から意見を言ったり、王女様が笑ったり、仲がよくないとできないわ」

そう言ってお母さんは優しく笑った。

「あ、もうこんな時間。アロウ様行きましょう」

「おお!もうか。なんだか早く感じるのう」

「あら、もう行ってしまうの?またいつでも来てね」

「もちろんじゃ!その時は母上殿の手料理が食べたいのじゃがよいかの?」

「あらもちろんよ!腕によりをかけて作るわね。アロウちゃんの好物は何かしら?」

お母さんがそう言った途端、お父さんが飲んでいたお茶を吹き出した。

「お前、あ、アロ」

「あら?アロウちゃんじゃなかったかしら?」

「そうではなくてだな。彼女は王女様だぞ!名前でしかもちゃん付けで呼ぶなど失礼にもほどが」

「父上殿」

「は、はい」

「そなたは、わらわが嫌いかの?」

「い、いえ。そんな滅相もない」

「ならば、なぜそうも取り乱し、わらわと距離をとろうとする?アロウちゃんと呼びたいのならそれでよい。そして、善し悪しを決めるのはわらわじゃ。そなたではない。あまり周りばかりに合わせるのはよいことだとは思わぬぞ。いくぞ、優生」

「え、あ、はい」

アロウ様はスタスタと玄関へ歩いていった。

私は、ついて行きながら途中で止まってお父さんを見た。

「お父さん。そんなに怯えなくても、アロウ様は悪い人じゃないよ。みんなはアロウ様の事を知らないだけ」

「優生!何をしておる!早く行くぞ!」

アロウ様が玄関から叫んだ。

「それと、もう周りに合わせる必要はないよ。私は向こうでうまくやってるし、お母さんも病気は軽くなってるみたいだし。だからもう守ろうとしなくてもいいよ。じゃあまた来るね」

私はニッと笑って玄関へ走った。

「すみません。行きましょう」

靴を履いて、ドアを開けてアロウ様を先に行かせた。私もそれに続いて出ようと足を踏み出した。すると

「優ちゃん」

後ろからお母さんが声をかけてきた。

「お母さん・・・」

「素敵なお友達ね」

「・・・・・まぁね!」

私は、アロウ様を少し見つめて明るくそう言った。

「それじゃ、行ってきます」

私は手を振って家を出た。

ココロです。ここまで読んでくれてありがとうございます!

優生「優生です。今回はちょっと裏の私がバレちゃったみたいですね。画面の前のそこのあなた。この事は、アロウ様には内緒でお願いします。では、また」

今回は少し影のあるバージョンの優生さんに挨拶をしてもらいました。段々ミステリアスになってきましたね。

これからもよろしくお願いします。

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