居場所
ココロです!いよいよ最終話となりました。今回は少し短めです。気軽に読んでください!
久しぶりに長い夢を見た。私が組織に入っていた頃の夢。すっかり忘れていた。アレキはボスの事を慕っていたのに、撃ってしまって。きっと怒っているだろうな。あのくそボス、死んだのかな。それとも、まだ生きているのかな。生きててほしいなんて、撃った張本人が思ったらいけないはずなのに、思ってしまう。そして、こんなふうに考えていられるって事は、私は助かったってことか。
私は目の奥に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けた。
目の前には見慣れた天井が私を見下ろしている。
(腹を二発も撃たれたのにしぶといね、私も)
そう思いながら私は上半身を起こした。
部屋には誰もいない。いつもと変わらない私の部屋だ。
「うぅ。さすがに痛いな。きっと、冷華さんだよね、この傷手当てしてくれたの」
体には綺麗に包帯が巻かれている。
「ゆ、き・・・?」
部屋の扉が開くと同時に、小さく声が聞こえた。そちらを見ると、アロウ様が戸惑ったような顔をして立っていた。
「おはようございます。アロウ様」
そう言って笑うと、アロウ様の目にぶわっと涙が溢れた。
「?!」
「優生ぃー!!」
アロウ様は涙を流しながら私に抱き付いてきた。というかむしろ、突進に近い。
「うっ、い、痛いです、アロウ様」
「あ、すまぬ。二日も寝ていたから、起きてくれて嬉しくて、つい」
「えっ、二日も寝てたんですか!?私!」
「そうじゃ。おかげで、ちゃんと目を覚ますのかハラハラしていたぞ」
「そうだったんですか・・・」
(私、そんなに長いこと寝ていたんだ)
私は自分の手のひらを見つめた。
アロウ様は椅子を引っ張ってきてベッドの横に座った。
私達は沈黙している。アロウ様は落ち着かないようで部屋をキョロキョロと見回している。膝の上の手も、せわしなく動いている。何か言葉を探してでもいるんだろうか。
「・・・アロウ様」
声をかけると、アロウ様は安心したように微笑んだ。
「なんじゃ?」
「あの後、どうなったのか、聞いてもいいですか?」
そう聞くと、アロウ様は真剣な表情になった。
「・・・あの後、冷が来てくれてな。お前を運んでくれたのじゃ。あの大男はわからぬ。しかし、筋肉のすごい男が担いで行くのをチラッと見た」
(アレキか・・・)
「そこで、伝言を受けた」
「え?」
「よくわからぬが、『俺は気にしてねぇから、お前も気にすんな』だそうじゃ」
私は目を見開いた。
(・・・アレキ。あいつはまったく変わってないな。私はお前の大事な人を撃ったんだぞ。少しは責めなよ・・・)
私は心の中で笑った。
「なぁ優生」
「なんですか?」
「わらわは」
アロウ様が何か言いかけた、その時
「失礼します。優生さんの容態は如何ですか?」
と冷華さんが入ってきた。
「あ、冷華さん」
冷華さんは私を見ると、嬉しそうに微笑んだ。
「目が覚めたのですね。よかったです」
「冷華さんが運んでくれたと聞きました。ありがとうございました。お手数をおかけしてすみません」
「いいえ、いいんですよ。今こうして会話が出来ているだけで、運んできた甲斐がありました」
「冷華さん・・・」
「ふふっ。お食事、とれそうですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「では、お持ちしますね」
冷華さんはニコッと笑うと、部屋から出ていった。
「すみませんアロウ様。話が途中でしたね。何だったんですか?」
「・・・わらわは、あの時、そなたに戻ってこいと言った。しかし、そなたが眠っている間、考えていたのじゃ。わらわが、そなたを迎え入れたせいで、今回このような事になったのではと。だから、聞かせてほしい。優生、そなたはここに戻りたいと思っておるのか?もし、帰りたいと、ここにいたくないと、そう言うのなら、わらわはそれを受け入れようと思う」
(アロウ様・・・)
私はそっと目を閉じた。
「アロウ様。私は初め、ここに来た時心底帰りたいと思っていました。人を平気で葬るような人の召使いだなんて冗談じゃないと。ですが、アロウ様と毎日を過ごしていく度、帰りたいと思わなくなっていったんです。たまにお母さん達の顔が見たいなと思うことはありましたが、辞めたいなんて思いませんでした。きっとそれは、アロウ様といるのが楽しかったからなんだと思うんです」
目を開けると、アロウ様は目を丸くして私を見つめていた。
「私は、居場所が欲しくてあの組織に入りました。私が存在しても、文句も批難も受けない場所。それはあの場所なんだと思っていました。でも、それは違って。あの場所は、たまたま席が空いていただけで、私のための席ではなかったんです。そして、この城には空いている席さえありませんでした。私一人がぽつんと立っている、そんな感じで。私自身、それでいいと思っていました。だけどそこに、アロウ様が材料を持ってきてくれたんです」
「材料?」
「はい。私の椅子を作る材料です。ただ立っている、それでいいと思っていた私が、座りたいとそう思ったのは、その材料がとてもキラキラしていたからなんです。この材料でアロウ様の隣に座れる椅子を作りたい。そんな気持ちが知らないうちに溢れていて、気が付くと、手が勝手に作り出していたんです。何度も歪んで、何度も作り直して。でも、ようやく出来たと思ったら、呆気なくそれは形を消してしまった。その時私は思いました。『あぁ。これは、私が勝手に見ていた幻覚だったんだ』と。それなのに、アロウ様はまたしても新しい材料を持ってきたんです。まるで『幻覚じゃない!』とでも言ってるかのように。そして今度は呆気なく椅子を完成させてしまいました。あの時、アロウ様に『ワタシの名前を呼んで』と言われた時、私には『早くこの椅子に座れ』と言われているような気がしました。それで、私、わかったんです」
私は少し間を空けた。
アロウ様は不思議そうに首をかしげた。
「・・・アロウ様。居場所って、もらうものじゃなくて、作るものだったんですね」
そう言ってアロウ様を見ると、アロウ様は瞳を揺らしていた。
「今思うと、私は自分の椅子を作るのに必死で、アロウ様の椅子に目を向けていなかったみたいです。私が道具を使っている間、何の手も施されないアロウ様の椅子は、古くなって、傷んでいくばかり。それに私は気付けていませんでした。だからこれからは、アロウ様の椅子をしっかり整備していきます。・・・なので、もう少し、ここにいてもいいですか?」
私はポカンと見つめてくるアロウ様に微笑んだ。
すると、アロウ様は少しの間の後、パアァァッと顔を明るくして大きく頷いた。
「もちろんじゃ!少しと言わず、これから先、ずぅーーーっと、ここにいるのじゃ!」
「っ!」
私は、その返事を待っていたはずなのに、涙が出てきた。
「えっ、ちょっ、優生?!」
アロウ様はギョッと目を見開き、おろおろとした。
「あ・・・」
「あ?」
「ありがとう、アロウ様」
私は涙を拭いながらつぶやいた。
溢れてくる涙で視界がぼやけてはっきりとは見えないが、アロウ様は嬉しそうに笑っていた。
「ワタシもありがとう!優生!」
そう言ったアロウ様の目からも涙が溢れてきた。
「なんでアロウ様まで泣いてるんですか・・・」
「な、泣いてない!」
「お二人とも、素敵な友情ですね」
「っ!?」
バッと声の方を見ると、ワゴンを持った冷華さんが微笑んでいた。
「れ、冷華さん。いつからそこに・・・?」
「優生さん。椅子の話、すごくわかりやすかったですよ」
(そんな前から!?)
私はなんだか急に恥ずかしくなり、布団を頭から被った。
「おーい?優生ー?」
アロウ様が布団の上から体を揺すってくる。
「い、痛いです」
「あ、すまぬ」
アロウはパッと手を離した。
「あらあら」
布団の外から、ふふふっと笑う冷華さんの声が聞こえていた。
(あ~も~!今さらだけど、すっごく変なこと言ってたな私!何だよ椅子って!)
次から次へとこみ上げてくる恥ずかしさに、私はギュッと布団を握る。
「優生、椅子の話、すっごくわかりやすかったぞ!」
「あーもー!今それ蒸し返さないでください!恥ずかしくて死にそうなんですから!」
私はガバッと起き上がって怒鳴った。
すると、ズキッと傷が痛んだ。
「イッツツ・・・」
「大丈夫か?優生?」
「だ、大丈夫です」
「これは大変。早く食事をとって回復に専念しないとですね」
冷華さんはそう言って微笑むと、ワゴンをベッドの横まで押してきてくれた。
「ありがとうございます。冷華さん」
「いいえ」
「あ!そうじゃ!忘れておった!」
そう言って急に立ち上がると、アロウ様は部屋から飛び出していった。
「相変わらず慌ただしい・・・」
私は唖然として開きっぱなしの扉を見つめた。
「優生さん」
「はい?」
「しっかり決めたのですね。あなた自身のやりたいこと」
「! ・・・はい」
少し微笑んで返事をすると、冷華さんも優しく笑った。
「さ、早く食べないと冷めてしまいますよ」
「あ、いけない。いただきます」
「どうぞ」
数日ぶりの冷華さんの料理は、そんなに経っていないはずなのに、なんだか懐かしい感じがした。その味が、帰ってきたという事を自覚させ、私はまたうるっときた。今度は耐えたけど。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「ありがとうございます。ではお下げしますね」
そう言って冷華さんはワゴンに食器を乗せ、部屋から出ていった。
(相変わらず仕事速いなー)
するとその時、アロウ様が部屋に駆け込んできだ。
「アロウ様。王女がそんなに城内をばたばたと走り回らないでください」
「おお、すまぬ」
「はぁ・・・。で?何なんですか?」
「そうじゃ!はいっ!」
アロウ様はそう言って手鏡を差し出してきた。
「・・・なんですか?」
「鏡じゃ!見てわからぬのか!」
「いや、それはわかりますが、何故鏡を?」
聞くと、アロウ様はよくぞ聞いてくれた!と言わんばかりの顔で笑った。
「そ・れ・は~」
弾んだ声でベッドの上に座る。
「?」
アロウ様は私の隣に来ると二人の顔が映るように手鏡を持った。そして、私の目に手を伸ばした。
「っ!あ、ちょっと!」
防ぐ間もなく、アロウ様は素早く眼帯を取った。
「一緒にこれを見るためじゃ!」
「これって・・・。・・・!」
私は呆れながらも鏡に目を移した。すると、そこに映っていたのは、赤い目をした私だった。
「また、赤に・・・」
「綺麗じゃのう。久しぶりに見た優生の目がわらわの好きな色で嬉しいのじゃ!」
アロウ様は私の腕に抱きついて笑った。
「アロウ様、近いです」
「・・・さっきから思っていたが、何故そんな他人行儀なのじゃ?倒れる前はアロウと呼び捨てにまでしておったではないか」
「じゃあ、これからは様付けで統一しますよ」
「何故じゃー!」
「世間体です」
「うぬぬ・・・」
腑に落ちないと言った感じのアロウ様を見て、私はそっと微笑んで、アロウ様の頭に手を乗せた。アロウ様は目を丸くして私を見つめている。
(あぁ─。帰ってきたんだ。私の目を見てくれる人のいる、私の居場所に)
どうして私の目は、片目だけ色が変わるのか、それはまだわからない。だけど、私はそんなこと、もうどうでもいいと思えた。だって、私の目を見て、笑ってくれる人が、ここにいるのだから。
「今だけですよ」
「え?」
私はにっこり笑った。
「ただいま。アロウ」
「─っ!おかえり!優生!」
これは、とある国の悪逆非道の王女様と呪われた生贄少女の物語。いや、ただのわがまま王女と生意気な使用人の物語─かもしれない。
─数日後─
「優生!起きるのじゃ!」
アロウ様は扉を思いっきり開けて叫んだ。
「もう起きてますので朝から大声出さないでください」
置き忘れてきたはずなのに、何故かある執事服を着て、私は振り返った。
「その姿も久しぶりじゃのう!」
「なんでこの服、あるんですか?私、持ってきてないんですが」
「あぁ、それは冷が持ってきたのじゃ」
「さすが冷華さん・・・抜かりない」
「当然じゃ!わらわが選んだ使用人なのじゃからな!」
「つまり、私は役に立たない、と」
「何故そうなるのじゃー!」
アロウ様は拳を突き上げた。
「ははは。冗談ですよ」
「むぅ。・・・そうじゃ!」
「なんですか?」
するとアロウはにっこり笑って聞いた。
「今日の目は何色じゃ?」
ココロです!最後まで読んでくださってありがとうございます!感謝してもしきれません!最終話ということで、この作品の登場人物三人に挨拶していただきましょう!
優生:優生です。こんな大したことのない作品を読んでくださりありがとうございます。読んでくれた方が時間の無駄だと思わないような作品であれば光栄です。
アロウ:アロウじゃ。まったく優生は素直ではないのう。純粋にありがとうだけでよいというのに。おっと。わらわも言うのが遅れてしまった。「生贄少女と王女様」を読んでくれて感謝するぞ。
冷華:皆様。こんにちは。冷華です。ここまで「生贄少女と王女様」を読んでくださり、誠にありがとうございます。皆様の娯楽の一つになれば幸いです。
はい!皆さんに挨拶していただきました!私からも再度お礼を申し上げます。本当にありがとうございました。よろしければ、最後なので感想なんかを一言でもいいので添えていただけると嬉しいです。
それでは、長々と失礼いたしました。
ありがとうございました!




