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生贄少女と王女様  作者: ココロ
10/12

組織との出会い

 (やっと見つけた・・・)

私は広場にぽつんと一軒だけ建っているログハウスを見てそう思った。

(ほんとに変なとこに集まるんだ)

私はジッと木の扉を見つめ、そして次の瞬間、ノックさえせず、無遠慮に扉を開けた。

当然、中にいたやつらはこちらに鋭い視線を向ける。いや、私が開ける前から既にこちらを向いていたようだ。完全に警戒されている。

「なんやガキやないか。何しに来たんや」

真ん中に偉そうに座っている真っ赤な服を着た男が、くわえていた葉巻を離し、私に問いかけてきた。

「私をここで雇ってほしい」

私は真っ暗な目で男を見つめた。

「おいおい、冗談は止めとけよ嬢ちゃん。ここがどこだか分かってんのか?」

赤い服の男の横にいた、肌が少し黒い男が笑いながら私に言った。

「知ってる。だから私はここに来た」

今度は黒い肌の男を見て言った。

赤い服の男も黒い肌の男も、少し目を見開いた。赤い服の男が問いかける。

「まだガキみたいやけど、お前いくつや?」

「今年で十」

二人はさらに目を見開いた。それもそうだ。こんな“暗殺”組織に十歳になろうという子供が雇ってくれと入ってきたのだから。

「一応聞くが、なんでこの組織に入りたいんや?」

「私は呪われているらしい。街の人は父も含めみんな私の事をそう言う。おかげで母は苦労し、私は父に煙たがられ、外に行けばいじめの対象。だから、そういうの関係無しに雇ってくれる場所を探してる」

赤い服の男の代わりに肌が黒い男が反応する。

「あのなぁ嬢ちゃん。ここはガキの保育園じゃねぇんだよ。それに、ここがどういう場所か分かって来てんだろ?だったら、生きたままこの場所から出られるわけねぇって事もわかるよなぁ」

「雇ってくれるの?くれないの?私はただ、それだけを知りたい」

無表情に彼らを見つめる。

「なっ・・・」

肌が黒い男はたじろいだ。

「あ、お金とかは別にいらない」

すると、赤い服の男が口を開いた。

「お前は、人を殺すっちゅう事がどういう事か、どういうものか分かっとるんか?ゲームやごっこ遊びとは違うんやで?それに技術もないやろ。銃やナイフを人に向けたことはあるんか?その重みを実感した事はあるんか?」

「・・・人を殺すって事はまだはっきりとは分からない。凶器を人に向けた事もない。あんたが言うように、技術もない。だけど、人に感情を向けた事もない」

そう答えると、赤い服の男は一瞬目を見開いた。

「人の生死にすら興味がないっちゅう事か」

私は黙って頷いた。

赤い服の男は何かを考えていた。

「あの、ボス?まさかこいつを雇う気じゃ・・・」

「やらせてみるか」

「ボス!?」

「まぁ、そういいなや。・・・お前、いつでも死ぬ覚悟はあるか?」

赤い服の男は真っ直ぐに私を見た。

「ある。なんなら死ぬつもりでここに来た」

「そうか。・・・ええやろ。今日からお前を雇ったるわ」

「助かる」

私は軽く頭を下げた。

それから、私は『ジスト』というコードネームをもらった。この組織は入ったらすぐにコードネームという仮の名をもらい、本名は誰一人名乗らない。つまり、誰もお互いの本名を知らないのだ。また、赤い服の男はここのボスだからか、決まったコードネームはないらしく、代わりに組織の人達からは『オニキス』やシンプルにボスと呼ばれているらしい。肌が黒い男は『アレキ』というらしい。

「仕事の前に、ジストには武器に慣れてもらう。アレキ、お前の使ってるやつ貸してやれ」

「えっ、俺のですかい?でも、俺のは結構重いっすけど」

「?」

私は首をかしげた。

「やからやないか。お前は武器をあまり使わへんから、余計な施しもしてへんやろうし、あれを基準にレベルを下げてけば丁度ええのも見つかるやろ」

「は、はぁ。ボスがそう言うなら。おら、壊すなよ」

私は、差し出された物を受け取った。

それは、やたらに重い鉄パイプ。

「これが、あんたが使ってる武器?」

私は鉄パイプを見つめたままつぶやいた。

「おいおい、俺は年上だぜ?せめてアレキさんって呼べ」

「・・・」

私はしばらくアレキを見つめて、コクンと頷いた。

「よーし」

「で、アレキ。これがアレキの武器?」

「大して変わらねぇ!・・・もういい、そうだよ!けど俺はあんまし使わねぇよ。俺は武器無しでいくタイプだからよ!」

アレキは自信満々な顔で自分の腕を叩いた。

「・・・そう」

私は鉄パイプを適当に振り回してみた。

鉄パイプはギュンギュンと音を立てる。その勢いによる風で私の短い髪がぱたぱたとはためいた。

(重いけど、いじめっ子達ので慣れてるな)

街の子供は、親に言われたのか私の目を怖がって遠目に怯えているのが多い。けど、中には私の目を化け物だ、怪物だなどと言って、暴力をふるったり物をを投げつけてくる子供もいた。その物というのは、自分らの家でいらなくなった物やゴミで、投げた本人達は「片付けとけよー!化け物ー!」と言ってそのまま逃げていく。仕方なく、私がそれらを持って片づけていた。そのおかげで、力が意外とついていたのだ。

(それでもやっぱり、ズシッとする。使いにくいな)

振り回すのをやめて、鉄パイプをぐっと握った。

「これ、使いにくい。もう少し手軽な扱いやすい物がいい。あぁ、でも銃とかはダメ」

顔を上げると、周りの大人達は口をあんぐりと開けて驚いていた。

「・・・?」

「そんだけ振り回しといて、マジか?」

アレキが目を見開いている。

「持てるのと、使えるのは別でしょ?」

私はキョトンとして言った。

ふと、部屋の奥の壁に掛かっている短刀が目に入った。

「あれ、使ってもいい?」

指差すと、アレキはそっちを見た。すると、ギョッとした。

「え、いや、お前、あれは」

「ええ。持たせてみぃ」

ボスが顎をふいっと動かして言った。

「は、はい!・・・いいか、丁重に扱えよ」

(武器なのに・・・?)

そう思いながらもコクンと頷いた。

壁へ歩いていき、掛かっている短刀に手をかける。

「あ・・・」

その短刀はとても軽かった。

試しにヒュンッと振ってみる。

「・・・これがいい」

振った感触を感じ、そう言った。

「は?!」

「ボス、いい?」

真っ直ぐボスを見つめると、ボスは少し考えた。

「ダメに決まってんだろ!それは先代のボスのだぞ!」

「え、先代の?へぇー」

私は持っている短刀を照明にかざして眺めた。短刀の刃は光を浴びてキラッと光った。

「じゃあその人、すごい人だったんだ」

そうつぶやくと、アレキは「は?」と眉をひそめた。

すると、ボスは鋭い目つきで私を見た。

「なんでそう思うんや?」

「暗殺の事はよくわからないけど、これを使ってたんなら、もう少しボロボロでもいいのにこの短刀は刃こぼれ一つしてない。でも、表面に擦ったようか跡がついてる。磨いたって感じの跡じゃない。だから、なんとなくそうと思った」

「そうか・・・わかった。ええやろう。使いや」

「ありがとう」

私はもう一度ギュッと短刀の柄を握った。

「さて、武器も決まったところで早速仕事や」

ボスの目つきが急に変わり、空気も張り詰めた。

「ターゲットは、とある企業の社長や」

「社長を殺すの?」

「そうや。先に説明しとくが、ターゲットの情報はむやみに詮索したらあかん。依頼人が殺れって言ったらそいつがどんな奴やろうと殺る。それがここでのやり方や」

私は黙って頷いた。

「で、今回の担当やけど、仕事を覚えてもらうためにもジストにやってもらおうと思う」

そう言った時、その場にいた私以外の全員が一斉に声をあげた。

「え~!?マジで言ってるんですか?!」

「無理だ。こんな子供に!」

「相手は大人っすよ!」

口々に大人達は言う。

「落ち着けぇ!」

ボスが怒鳴り声をあげた。すると、シーンと部屋は静まりかえった。

「安心せい。相手は素人どころか武術も大して使えん一般人や。が、お前らの言うことももっともや。やから今回、アレキをサポートにつける」

全員アレキを見た。

アレキは自分の顔を指差して目を丸くしている。

「お、俺ですかい!?」

「そうや」

アレキは何か言いたそうだったが、ボスの何も言わせまいというような雰囲気にアレキは了承した。

「決まりやな。なら、早速行け」

そう言われ、アレキは目で、行くぞ、と言って外へ出ていった。

「・・・行ってくる」

私は一言そう言ってアレキを追った。

 外に出ると、アレキは海を見ていた。

私は後ろから近づき、そっと声をかけた。

「海、好きなの?」

「っ!?」

気付いていなかったのか、アレキは勢いよく振り向いた。

「あ、ごめん」

目を丸くして謝ると、アレキは私だと認識してふいっと海に視線を戻した。

「俺が油断してただけだ。お前は悪くねぇ。・・・海は、好きだ」

「そう。私は海は嫌い」

「え、なん・・・」

「今日はよろしく。時間ないから早く行こう」

私はアレキの質問をさえぎって言った。

「お、おう」


 「終わったなー!」

アレキはご機嫌で腕をうーんっと伸ばした。

仕事はすぐに終わり、私達は並んで歩いていた。これからボスに報告に行くらしい。

「・・・呆気なかった」

ポツリとつぶやくと、アレキは「あっはっは」と豪快に笑った。

「お前のやり方、俺は好きだったぜ。ほんとに初心者かよ」

「人の首なんて切ったの、初めて」

「そうそう、あの殺り方、初めて見たぜ。誰かに教わったのか?」

「まさか。私のオリジナル。勝手な持論だけど、人は急所を咄嗟に守ろうとする。いわゆる胸や頭。そこらへんを守ろうとした時が、一番のチャンスかなって思っただけ。そもそも、私の周囲に殺害方法のプロなんているわけない」

「確かにな。あ、言い忘れてたが、外では殺害や殺し方、とかいった言葉は禁句だ。どこで誰が聞いてるかわからねぇからな。必ず、殺り方とか殺るって言葉を使うこと。オーケィ?」

私は黙って頷いた。

「・・・そーいやお前、海は嫌いだって言ってたよな?なんでだ?」

「逆にアレキはなんで海が好きなの」

正直、私はアレキの情報に興味などなかったけど、自分の事を語るのはあまり好きではないため、質問を返した。

「そーだなー。広くてでっけぇとこだな。それに泳ぐと気持ちいいぜ!」

「・・・単純な理由」

「うるせぇー。好きな物の理由なんて単純でいいんだよ!」

「そういうものなの?」

私はアレキを見つめた。

「そーだよ。お前にはねーのか?好きなもん」

「・・・・・わからないな。私にはそんなの見つける機会さえないから。必要もないけど」

そう言って視線をそらすと、アレキは不思議そうな顔をした。

「お前、家とかでなんかあったのか?」

さすがに言い回しで悟られてしまっただろうか。それとも顔に出てしまっていたのか。どちらにせよ、アレキには一ミリも関係のない事だ。私は正面を向いたまま黙っていた。

「・・・わ、悪ぃ。こういうことはあまり聞かれたくねぇよな」

アレキは慌てて、髪をかいた。

「・・・アレキは、なんでそんなに私の情報を知りたがってるの」

私は見えてきた海を見つめて言った。

「え?」

「私には、アレキが知って得するような情報なんてない。なのに、何をそんなに聞くことがあるの?私は正直、アレキの情報になんの興味もない」

言うつもりではなかったが、勢いで口から出てきてしまったため、もうそのまま続けた。

返事が返ってこないので、アレキを見ると、アレキは目を丸くしていた。

「・・・?」

「・・・なぁ、お前、いくつって言ったっけ?」

「?今年で十」

キョトンとして答えると

「お前、十歳のわりにクールっていうか、落ち着いてるよな。お前くらいの歳の子供って、もっと明るくはしゃいでるもんじゃねぇのか?」

私はジトッとした目でアレキを見た。

「知らない。そんなの人それぞれなんじゃないの?十歳の子供でも、物静かなのもいれば血気盛んな子供もいるし、内気なのもいれば強気で威張ってるのもいるよ。私の周りは威張ってるのと、臆病なのが多かった」

「へ、へぇー」

その後、ボスの所に着くまで私達は黙って歩き続けた。

 「ボス、戻りました!」

アレキはハキハキと言った。

「おぉ、早かったな。初心者がおったからもっとかかると思っとったわ」

「それがボス、こいつ、ものすっごくやるんですよ!初心者とは思えませんでした」

「ほぉー。お前にそこまで言わせるとは、なかなかやったんやな」

ボスはそう言うと、アレキの後ろにいた私を見た。

「・・・?」

「お前の話してんだよぉ」

アレキは私の頭をガシガシと掻いた。

私はその手を払って、睨んだ。

「やめて」

「はい、すいません・・・って、なんで俺が謝らなきゃいけねぇんだ!」

「別に私は謝ってなんて言ってない。アレキが勝手に謝っただけ」

ツンっとそっぽを向くと、アレキは「ぐぬぬ・・・」とうなった。

それを見て、ボスは「はっはっは」と笑った。

「お前ら、ええコンビやないか」

「どこがですか!」

「アレキ、うるさい」

「なに!」

「まぁでも、私とアレキがいいコンビっていうのは否定させてもらう」

「なら俺はいいコンビだと思ってやる!」

「・・・は?」

私は冷めた目でアレキを見た。

「勘違いするなよ!お前と同じ意見なのが嫌なだけだ!」

筋肉でパンパンの腕を組んで、アレキは言った。

「・・・馬鹿か」

ボソッと私はつぶやいた。

でも、それはアレキに聞こえていたらしく

「あ!?十歳のガキに言われたくねぇよ!」

「そのガキに馬鹿って言われてる大人はどうなの」

「なんだとぉ?」

「まぁまぁ、その辺にして二人とも落ち着けや」

ボスが私達をなだめた。

(私は最初から落ち着いているけど・・・)

「とりあえず、報告だけしてもらおうか」

ボスにそう言われると、アレキはゴホン、と咳払いをした。

「はい。あの社長は─」

それからアレキの簡単な報告があり、納得するなり、ボスが「腹がへったな」と言い出したので、私達は解散した。

 帰り道、私とアレキは並んで歩いていた。別に、一緒に帰っているのではない。どういうわけか、こいつが私についてきたのだ。

「・・・こんな時間に巨体のおっさんが十歳の女の子と歩いてたら誤解されるよ」

「されねーし、俺はまだおっさんじゃねぇ。これでも二十代だ」

「どーせ後半でしょ」

「そうだがなにか?後半でも前半でも二十代は二十代だ」

「その歳は私からすればおっさんなんだよ。というか、私じゃなくてもおっさんだって思われると思うよ。老けてるから」

「お前なぁ!さっきからズケズケとここに刺さることばっかいいやがって!」

アレキは自分の胸を親指で指した。

「そもそも、俺はお前よりずぅーっと年上だぞ!そうじゃなくても先輩だ!もっと敬えよ!」

「私は誰かを敬ったりなんてしない。どうせ最後には裏切られて、捨てられる。そうなるくらいなら、最初から信頼したり、されたりしない方がいい・・・っ!」

私は無意識のうちに余計なことまで言ってしまっていた事に気づいた。

チラッとアレキを横目で見上げると、アレキは驚いた様子で目を丸くしていた。

(しまった。あんな事、言うつもりじゃなかった・・・)

私がうつむいて焦っていると、突然、頭に何かが乗った。顔を上げると、アレキが私の頭に手を乗せて、ニタァと笑っていた。

「・・・何?気持ち悪いんだけど・・・」

そう言って睨み上げるが、アレキはまったく動じず、むしろ嬉しそうに、うんうん、と頷いて笑った。

「な、なに・・・?」

「なーんでもねぇよ」

そう言うと、アレキはわしゃわしゃと私の髪を掻いた・・・いや、撫でた。

その手は、お父さんみたいな大きくて優しい手だった。

(ま、そんな事、こいつには言ってやらないけど!・・・それに、私はお父さんに撫でられた事なんてないしな・・・)

私がうつむいていると、アレキは手を離し、今度は肩に手を置いた。

私はさすがにそれは思いっきりはたき落とした。

「そこまで許した覚えはない・・・」

「悪い悪い」

アレキは苦笑いをして、自分の頭を掻いた。すると、急に顔つきが真剣なものになった。

「・・・あのさぁ。お前に何があったかは知らねぇけどよ、そんなに世界っつうか、周りを怖がる必要はねぇんだぞ?」

「え?」

「みんながみんな、お前をいじめるヤツじゃない。そりゃ、お前口は悪ぃけどよ、お前がほんとに悪い奴だとは、俺は思えねぇし思わねぇ。だから、俺といる時だけでも肩の力抜いて普通にしてても構わねぇぜ?」

私はその言葉に、胸の奥がざわつくような感覚を覚えた。

(なんだ、これ。知らない・・・こんなの、私は知らない)

しかし、私はそれを悟られないよう、冷静に返した。

「別に、私はいい奴じゃないから。そもそも、こんな組織に入ってる時点で悪い奴だよ」

「・・・そういや、そうだな」

「それに、私は周りはみんな敵だと思ってる。組織のヤツらも味方だなんて思ってない。だから、誰も信用なんて出来ないし、しない。肩の力なんて抜く気ない」

「お、おう」

「け、けど・・・」

「?」

「やっぱ、なんでもない!」

「はぁ?なんだよそれー」

(・・・お前だけは、少しは信用してもいいかなと思った、なんて、絶対言ってやらない)

アレキを見ると、アレキは「なんなんだよー」と言いながら、空を見上げていた。

私はそのアレキにバレないように、こっそり、ふふっと笑った。


 しばらく歩いていると、アレキが立ち止まった。

「ん?」

「ここ、俺んち」

そう言って、アレキは私の右手側にある、小さな一軒家を親指で指した。

「・・・普通だ」

「なんだー?もっと金のありそうなとこに住んでるとでも思ってたのか?」

「その逆。わざわざあんなとこに入ってるから、お金無いのかと思ってた。あぁいう仕事ってお金多くもらえそうだから」

「あー。ま、貧乏ってほどじゃあねぇけど、確かに金はねーな。お前の言うとおり、収入は多いほうだけどよ。でもなー、付き合いとかで、金はあっという間に消えるわけよ・・・」

そう言うと、アレキはズゥーンと落ち込んだ。

「付き合い?」

「あぁ。バイト仲間とな」

「え?アレキ、バイトしてるの?」

「おう」

「なんで?組織に入ってるのに」

「いや、組織っつっても基本、夜くらいにしか活動しねぇから、昼間も働いてねぇと生活が安定しねぇんだ。仕事だって毎日あるわけじゃねぇからな。最悪、一年仕事がない事もある。だから、別の仕事もしてねぇと食ってけねぇんだ。それに、俺みたいな成人男性が昼間何もしてないのに普通に生活してたら怪しいだろ?」

「あ、そっか」

(なるほど。そうやって組織のヤツらは世の中に溶け込んでるのか。・・・もう少し、情報もらってた方がいいかな)

そう思い、家に入れてくれるよう頼もうとした。その時。

「なぁ、せっかくだしあがってかね?」

とタイミングよく、アレキが誘ってきた。

「あ、うん。アレキがいいなら」

私は少し戸惑いながらも頷いた。

すると、アレキは意外そうな顔をした。

「やけにあっさりしてんな。断られるかと思ったぜ。まぁいいや。とにかく入んな」

アレキは扉の鍵を開けて、私にどうぞ、と促した。

「お、お邪魔、します?」

そう言って玄関に足を踏み入れると

「なんで疑問型なんだよ」

アレキは笑ってそう言った。

「人の家って、入ったことないから。でも、窓から外見てたら、人が他所の家に入るとき、こうやって言ってた気がして」

「そうか。人んちに入るときはそれであってるぜ」

「ほんと?ならよかった」

ほっと胸をなで下ろした。

「ほら、こんなとこで突っ立ってねぇで、中に入れよ」

私は初めて入る他人の家にドキドキしながらも、そっと靴を脱いだ。

「そんなに硬くならんでも」

そう言われても、やはり初めてというのは緊張してしまう。

そぉーっと足を廊下の床に乗せた。

冷たく固い床の感触が靴下の上からも伝わってきた。

(おぉー・・・)

廊下なんて自分の家にもあるから、珍しい事でもないが、不思議と他人の家の廊下は、違うものに感じてしまう。

すると、じれったくなったのか、アレキはガシガシと自分の髪を掻くと、私をヒョイと担ぎ上げた。

(!?)

ただでさえ筋肉がムキムキの成人男性だ。わずか十歳の少女の体など軽々と持ち上がる。私はジタバタと手足を振り回した。

「おい!降ろせー!」

「こっちの方がは速ぇーだろうが。ったくいつまでも玄関でもたもたしやがって」

アレキはそのままリビングっぽい所へ私を運ぶと、一人用のソファに私を座らせた。

「じゃ、お茶入れてくるから待ってろよ」

そう言うと、アレキは部屋から出ていった。

私は部屋にポツンと残された。

ソファから投げ出された足をぱたぱたとさせる。

(あーあ。もっと背が高くなりたいなぁ。椅子に座っても足が床に付くくらい)

まだ十歳の私は、椅子に座っても足が床に付かない。いつもぷらーんとした状態だ。

(それにしても、このソファ、ふかふかだ)

私はそう思いながら、手でソファを押してみる。すると、手はズゥーンと沈んでソファの生地の感じが伝わってきた。

(おぉー。椅子にもこんな種類があるんだ)

私の部屋の椅子は、固い木の椅子だった。家にソファが無かったわけじゃないが、私はお父さんに部屋から出るな、と言われていた。だから、座る機会などなかったのだ。

(そういえば、お父さん達どうしてるかな。黙って出てきちゃったけど。・・・二人は、心配してくれてるのかな・・・)

真っ暗になった外を見て、そう思った。

(お父さんは、きっと心配なんて、してないだろうな。お母さんは・・・)

私はいつの間にか、ソファの上で体操座りをしていた。

(お母さんは、気付いてないかもしれない。いや、もしかしたら、お父さんが嘘をついているかもしれない。「もう、寝たよ」みたいな嘘を)

自分でそう思って、胸がチクリと痛んだ。

(私は、いらない子・・・。こんな目じゃなければ、お母さん達は幸せに暮らせてた。街の人達から批難の目で見られる事もなかった。こんな目の私は、きっと誰もいらない)

私は右目の眼帯を押さえた。

「こんな目じゃなければ・・・」

「目がどうかしたのか?」

声をかけられ、私はドキッとした。

顔を上げると、アレキが湯飲みの乗ったおぼんを片手で持って立っていた。

「い、いや、別に」

「あー?お前今、目がどうとか言ってなかったか?」

どうやら、無意識のうちに口から出てしまっていたらしい。

「いや、別になんでもない」

「ん?まぁ、お前がそう言うなら深入りはしねぇけどよ」

不思議そうな顔をして、アレキはおぼんをテーブルの上に置いた。

「ほらよ、熱ぃから気をつけな」

そう言って、小さめの湯飲みを私に差し出した。アレキの湯飲みは私のより一回りくらい大きい。

「あ、ありがとう」

私は両手でそれを受け取り、湯飲みの中のお茶を見つめた。

「あっち!」

突然そう聞こえて、私が顔を上げると、アレキが舌を出していた。

「・・・何してるの?」

ジトッとした目で、アレキを見た。

「や、やけど、しちまってさ。ははは・・・」

私は呆れてため息をついた。

「まったく。さっき気をつけろって言ったのはどこの誰だったか・・・」

「はっははは」

少し恥ずかしそうに笑うアレキに、私はもう一度ため息をついた。

 一息ついて、私達は黙って向かい合っていた。そんな中、アレキが話を切り出してきた。

「なぁ。ジスト」

「ん?」

「お前、なんでこの組織に入ったんだ?」

「最初に言わなかった?私は周りに煙たがられてるんだ。だから、そういう呪いだとか、煙たがられてるとか関係なく自分を置いてくれる所を探して、この組織にたどり着いた」

「それは聞いたけどよ。一員の俺が言うのもなんだけど、なにもこんな組織に入ることなかったんじゃねぇのか?まだお前はガキだし、そんな若ぇうちから人を殺めることを覚えなくても」

そう言われ、私は「ふーむ・・・」と考える素振りをした。

「別に、何だってよかったんだろ?自分の居場所さえ見つかれば」

「え?」

私は目を丸くした。

「ん?違ぇのか?お前、居場所が欲しくて自分を置いてくれるとこ探してたんだろ?」

私はそれを聞いて、心臓がドクンと脈打った。

「居場所・・・?」

そうつぶやいて手元の湯飲みを見つめる。

「え、違ったのか?!」

「わからない。ただ、立っていられる場所を求めてた。私が存在しても、文句を言われないような場所を・・・」

「それ、居場所だろ」

私は顔を上げてアレキを見た。

「そう、なの?」

「あー、そうか。お前、十歳だから言葉なんてそんなに知らねぇか」

「学校には、行ってる」

「語彙力が足りねぇっつってんだよ。お前の知ってる言葉なんてほんの一握りの言葉でしかねぇんだ。・・・けど、なんかちょっと安心したぜ」

「安心?」

「だって、お前雰囲気、もう何でも知ってますって感じだからよ。居場所なんて簡単な言葉を知らねぇってわかって、やっぱ十歳なんだなぁって安心すんだよ」

私は眉をひそめた。

「何言ってるの。私は初めから十だと言っていた」

「そうじゃねぇ!ったく」

私はガシガシと自分の髪を掻くアレキに首をかしげた。

そして、今度は私から話を切り出した。

「ねぇ、アレキはどんなバイトしてるの?」

そう聞くと、アレキは目を丸くした。

「何・・・?なんか変なこと言った?」

「いや、まさかお前が人の事聞いてくるとは・・・」

「なにそれ、地味に失礼」

「お前が自分で言ってたんだろ?他人の情報に興味ないって」

(あー、なんか言ったな。そんなこと)

「勘違いしないで。私はただ、自分が生き抜くための情報をもらおうとしてるだけ」

「素直じゃねーの」

(本心なんだけど・・・)

「で?なんのバイトしてるの?」

「あててみろ」

(ムカッ)

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと教えろっ」

私は、机の上にあった鉛筆をアレキに投げつけた。鉛筆はアレキの額に見事にヒットした。

(よしっ)

「いってぇ!え、鉛筆?鉛筆って当たったらこんな痛ぇのか」

アレキは当たった所を押さえて言った。

「そんなのどうでもいいから、教えろって」

私はもう一本鉛筆をとって構えた。

「わぁった、わぁった!ったく。女の子がそんな暴力的になるなよ!」

そう言われて、私は鉛筆を机に置いた。

「暴力的になんてなってない。仕事の練習」

「ものは言い様だな!」

「結局、なんなの?」

「普通に大工だよ」

「だいく?」

「あー、十歳のガキには大工はわかんねぇか」

馬鹿にしたような態度にムカついて、私は一度置いた鉛筆をもう一度取って、アレキに投げた。

「こら、おい!ったく、しつけのなってねぇガキだな!」

今度は、鉛筆をキャッチしてアレキは言った。

「しつけなんてするような大人、周りにいなかったんだよ」

「・・・やっぱ、家でなんかあったのか?」

「今は私が質問している。先にそっち」

「それもそうだな。大工ってのは、建物とか物を作る仕事だ。お前の家も大工が作ってんだ」

「へぇー。この家も?」

「そうだ」

「へぇー、これを人間が・・・」

私は部屋を見回した。

人間の技術も悪いものばかりではないな、と少し感心していた。

その時、アレキがハハッと笑った。

「何?気持ち悪いんだけど」

私はジトッとした目でアレキを見た。

「いや、俺の歳ならお前くらいの子供がいてもおかしくねぇし、いたらこんな感じなのかなぁと思ってよ。というか、気持ち悪いって言うな」

「お前の歳で私と同じ歳の子供がいたらやばいでしょ。少なくとも二十八はないと、犯罪だよ」

「そういえばそうだな。ってかお前、大工とか居場所とかは知らねぇくせになんでそんなことは知ってんだよ」

私はふいっと目をそらした。

「・・・誰も教えてくれないから、犯罪についてはここに来る前に自分で調べた。何も知らずに世に出て、捕まったりしたくないから。まぁ、この仕事に就いた時点ですでに犯罪だけど」

そう言って、少し冷めたお茶をすすって一息ついた。

「ふー。・・・アレキ。ここに本ってある?」

「え?あ、あぁ。一応そっちの部屋に。そんなにたくさんはねぇが」

アレキは私の後ろの部屋を指差した。

「そっか。入ってもいい?」

「別に構わねぇけど?」

「ありがとう。お邪魔します」

私は湯飲みを置き、立ち上がって部屋に近づいた。

「あ、もし触ってマズい物があったら先に言っといてほしいんだけど。そういうの、ある?」

ドアノブに手を伸ばしかけて、私はふと、振り返った。

「ねぇーよ、そんなもん!」

(なにちょっとムキになってるんだ?大事な物がしまってあったりしたら、壊したくないと思っただけなんだけど。それとも、私何か余計なことを言ってしまったのか・・・?)

「ご、ごめん。無いならいいんだ。よく考えたら、自分の大事な物は自分の部屋に置くよね」

そう言うと、アレキは一瞬ポカンとした。そして、段々と、顔が赤くなっていった。

「そ、そうか。そうだよな。お前まだガキだもんな。俺、なに考えてんだ、ははは」

慌てるアレキに私は首をかしげた。

「ほんとに無い?大事な物」

「お、おう。そこには置いてねぇよ。ははは」

「・・・変なの」

私はそうつぶやいて、部屋に入った。

 部屋の中は真っ暗だった。

(ちょっと、ほこりくさい)

私は手探りで電気のスイッチを探した。

(あ、あった)

パチッと音がして、何度か光が点滅して部屋は明るくなった。

(わっ!)

私は目を見開いた。

その部屋は、天井に付きそうな背の高い本棚が二、三台置いてあって、その本棚には本がびっちりと綺麗に並んでいた。

(アレキのやつ、どこがそんなにたくさんないんだよ。私の本なんかよりずっと多いじゃないか。それに、あいつがさつそうなのに、結構整頓してるんだな。意外・・・)

私は本棚の上の方を見上げた。

(あんなとこの本、どうやって取ってるんだろ)

そう思ってキョロキョロと近くを見回すと、部屋の隅に脚立が置いてあるのを見つけた。

(あ、あれ使ってるのか。・・・でも、あれ使っても私の背じゃ届かなさそう。はぁ。チビって不便だな)

私は、改めて強く背が高くなりたいと思った。

私は目に留まった一冊の本を手に取った。

その本は、私が見たことのない本だった。内容は、絵や写真と、その下に文字や数字が並んでいるというものだった。

「なんだこれ。物語の本とかじゃなさそう。でも、これらは全部、花だよな」

この本に載っている写真は、どうやら植物ばかりで、文字は説明文のようだった。

興味津々でページをめくっていくと、黄色い小さな花を見つけた。

「あ、これ道の隅で見かけたことあるかも・・・。えーっと?た、ん、ぽ、ぽ?へぇ、この花、タンポポっていうんだ」

私は本の情報に感心して、少し心が弾んだ。

(すごい・・・!本って物語が書いてあるか、言葉や決まりを調べるためだけにあると思ってたけど、こんなのもあるんだ)

私は本を閉じて表紙を見つめた。

「しょ、植物図・・・これ、なんて読むんだろう」

本のタイトルの漢字四文字を読もうとしたが、最後の「鑑」という字が読めなかった。

「漢字辞書とか無いかな・・・」

部屋の本棚を見渡してそうつぶやいた時、頭に重いものが、乗っかった。

「何探してんだー?」

それは、アレキの腕だった。

「三秒だけ待ってあげるから、今すぐその腕をどけろ」

そう言うと、アレキは

「おーおっかねー」

と言って腕をどけた。

「で、何探してたんだよ。・・・ん?おお、植物図鑑じゃねぇか」

アレキは私の手にある本を見て言った。

「これ、『かん』って読むの?」

そう聞くと、アレキは目を丸くした。そして、納得したように手を打つとニィと笑った。

「え、なに、気持ちわるっ」

「いやー、そうだよなぁ。お前まだ十歳だもんなぁ。読めねぇ漢字くらいあるよなぁ。しょーがねぇなー。読めねぇ漢字あったら持ってこい。俺が読んでやるぜ?」

アレキの言うことは事実だが、言い方がなんか腹立ったので、思いっきり脛を蹴ってやった。

「ってぇー!おま、脛って!」

アレキは、窓側にある椅子に座って私が蹴ったところををさすった。

「読み方はいいから、辞書の場所教えて」

私はそれをスルーして尋ねた。

「自分で探せ!ったく」

「・・・わかった」

(ここが図鑑だから・・・こっちか?)

私は本棚を端から見ていった。

(へぇー、絵本とかもある。今でも読むのかな。あ、辞書あった。ええっと、英語、韓国、中国、国語・・・お、漢字発見)

私は数ある辞書の中から背表紙に「漢字辞典」と書いてある本を抜き取った。

すると、窓側にある椅子に座っていたアレキが

「お前、こう、人に頼るとかはしねぇのか?」

振り返ると、アレキは机に頬杖をついていた。

「は?何言ってんの?最初に聞いたでしょ本の場所」

「そうだけど、そうじゃなくてよぉ。なんかお前の、一回駄目ならもう自分でやろうってかんじがな・・・」

「?だって、一度してもらえなかった事を何度も言ったってしょうがないでしょ?」

そう言うと、アレキは目を見開いた。

「ちょっとこっち来い」

「ん?」

私は本を持ったままアレキのところに歩いた。

「なに?」

「そこ座れ」

アレキは向かいの椅子を指差した。

「うん」

私は机に本を置いて座った。

「お前の両親って、お前がこの組織に入ること知ってんのか?」

「は?知るわけないでしょ。誰が言うの。こんなこと」

「だよな?ってことはつまり、この仕事において、頼るヤツがいねぇってことだ。なのにそんなんじゃ、お前わからねぇこと解決しねぇままずっと仕事しなきゃなんなくなるぞ?いいのか、それで」

「私は分からないことをそのまま引き延ばしにするつもりはないよ。自分で調べる。情報収集も仕事の内だろ?最初から人に頼ってばかりのやつよりは幾分かマシだと思うけど」

「幾分って・・・お前、知ってる言葉と知らない言葉のバランスがぐちゃぐちゃだな。簡単な言葉はそんなに知らねぇのにどこで覚えるんだ、そんな難しい言葉」

「・・・このページに載ってた。ほら」

私は眺めていた漢字辞典をアレキに向けた。

「一度見ただけで使えるのか・・・?」

「だってここにそう言う意味だって書いてあるし」

私は首を傾けた。

「お前、頭いいのが悪ぃのかわかんねぇな」

「悪くは無いと自負しているけど」

「・・・それも辞書か?」

「ううん。前に私の本に出てきたの。私の家、小説ばっかりあるからそう言う言葉はよく目にするの」

「どんな小説だよ・・・」

アレキは頬杖をついて辞書を眺めた。

私は植物図鑑を開き、並んでいる写真を眺めた。

「・・・あ」

「どうした?」

無意識に出てしまった言葉にアレキは反応した。

「なんでもない」

(この花、周りの子供が母親にあげてたな。これ、カーネーションって言うんだ。でも、なんで母親にこの花をあげるんだろ。それも決まった日にほとんどの子供が。この国の女性の誕生日がそんなに重なってるのかな・・・?)

私が一人で考えていると、写真を見たのかアレキが

「おー、カーネーションか。そーいや、最近は母さんに会ってもいねぇなぁ。今度の母の日にでもカーネーション持って会いに行くかなー」

私は出てきたワードに顔を上げた。

「母の日?」

「え、お前、母の日知らねぇのか?一年に一度の大事な日じゃねぇか。日頃の感謝を込めて、母親にカーネーションを贈るっていう」

「なんでカーネーションなの?感謝の気持ちなら別の花でもいいのに」

「花言葉っていってな、花一輪一輪にそれぞれ言葉があるんだ。カーネーションには、『母への感謝』っていう花言葉があるんだよ。だから母の日にカーネーションを贈るんだ」

「そうなんだ。・・・花言葉か」

「・・・それ、花言葉は載ってねぇだろ。確かあの辺に花言葉の本があったはずだ」

そう言って立ち上がると、アレキは本棚を調べた。

「・・・お、あった。ほらよ」

アレキはその本を見つけると、机の上に置いた。

本の表紙には「花言葉大辞典」と書いてある。

「アレキの家ってほんとにいろんな種類の本があるんだな」

「本だけにな」

私はアレキの言った意味がわからなくて、ポカンとした。

「・・・だああー!忘れろ!ガキにはまだ早かったな!」

「なんなの・・・」

赤くなり頭を抱えるアレキに私は首をかしげた。


 少し時間が経ち、さすがにアレキは机に突っ伏して寝てしまっていた。無理もない。もう日が昇り始めている、そんな時間だ。

私はそんな時間でもただ黙々と本を読んでいた。

静かな部屋に本をめくる音だけが聞こえている。意外にもアレキはあまりいびきをかかなかった。

(・・・ふぁ~あ。さすがに私も眠くなってきた。ってもう朝になりかけてるけど)

私は重くなってきたまぶたをこすった。

(このページまで読んだら、少し寝よう・・・)

そう思い再び本に目を戻した。

(えっと、ここまで確か読んだから・・・)

机に頬杖をつき、うとうとしながら本を眺めていたが、そのうち睡魔に勝てなくなり、私は頬杖をついたまま寝てしまった─。

ココロです!いつも読んでくださり、ありがとうございます!今回は優生の過去のお話でした。次回もこの続きで過去のお話です。設定がぶっ飛んでいますが、そこはスルーして生温かい目で読んでください!よろしくお願いします。

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