始まりの扉
俺はいつものように、大学が終わるといつものように、資料室に足を運ぶ。
そこは誰も寄り付かない。友達もいない僕には最適の場所だ。バイトまでの時間はいつもここで時間を潰す。
つまらない、退屈な毎日。俺は何か大切なものを、ことを忘れている。
両親もいない。身寄りもない。俺には幼い頃の記憶もない。よくもまあ、ここまで生きてこれたもんだ。
ガチャ。
ドアを開けると時が止まった。
とても、綺麗だと思った。見たことのある気がした景色。過去の景色。
「おまえは、だれ?」
無作法にそう聞く。
そこには女の子がいた。全く、とは言えないが最近では見覚えのない女の子がいた。
女の子と言う方が適切なくらいの容姿をしている。
質問に彼女は答えた。俯いていた顔を上げながら、答えた。
「私はルノン。私を探して」
そう言いながら、何かを持った手を僕の方に差し伸べた。その手と腕はとても細くてか弱い。折れてしまわないか心配だった。
黒くて長い髪がそれに合わせて揺れる。
前髪の間から見えた目には光を感じられなかった。どこか、冷たい目をしている気がした。
「それってどういう、、!」
僕は彼女を探さないといけない。彼女の手をつかみ取らなくてはならない。
どこかで僕は彼女と会っている気がしてならなかった。
そんな焦燥感に急かされた俺は彼女の元に駆け寄った。
カラッん!!
そこに響き渡ったのは鍵の音だった。
彼女が手に持っていたのは鍵だったのだ。
僕はそれを拾い上げる。
ガチャっ!!
それと同時にドアの開く音がする。
「どいてどいてぇーーー!!!」
「うわぁーーーーーーー!!!」
それは僕の上に覆いかぶさるようにぶつかってきた。
「イッテェ、、、、。」
「ちょっとアンタ!今ここに女の子居なかった?!」
「ふぁりけるぬよ」
「ちゃんと喋りなさいよ!!」
無理な話だった。何故なら彼女のケツが僕の口を塞いでいたからだ。
「キャっ!!!何してんのよ!!!」
と、彼女は立ち上がり。ぼくの頬をひっぱたいた。
それはこちらのセリフじゃないか?ぼくは何もしてなかったんだけども。
「だから、さっきまでいたよ!!てか、いてぇ!!」
「また、間に合わなかったのね。あと、ごめんなさい。少しは悪いと思ってるわ。」
そう言って、俯いた。
彼女、の目にも光を感じた。とても似ている光だった。
けど、一つ小さくて大きな違いがあった。それは彼女の目には暖かさを感じたことだ。それはきっと誰かに彼女は良い人間だと思わせるような瞳をしていた。
「探してって言ってた。探してるの?」
俺は彼女の瞳を正面から見ようと、声をかけてみる。
「うん、少しね。あ!!それ!!」
そう言って、彼女は僕の手を指差した。その中にはさっき拾った鍵がある。
「それ、どこで拾ったの?!」
「いや、ここに居た女の子が。たぶん、俺に?」
「手伝って」
「なにを?」
「探すのを」
「なにを?」
「あーーーもう!!だから!!その女の子を探すのを!!!」
痺れを切らしたように、頭を少しかきながらそう言った。
「どうして?」
パンっ!
僕の頭に衝撃が走った。殴られたみたいだ。
「だからなんでだよ!てか、イタイよ!!」
「その鍵持ってるから、仕方ないじゃない!」
「じゃあ、やるよ!これ!」
そう言って、鍵を彼女の目の前に差し出す。
思った通り、とても綺麗な瞳をしている彼女に向けて。
「ダメなの!その鍵はあなたが使わないといけないの!」
「だから、どうして!」
「ルノンがあなたを選んだから。」
さっきまでとは少し違う。少し真剣な声でそう言った。
聞き覚えのある言葉。それはさっき鍵を残して何処かに消えた女の子の名前だった。
「君は彼女の知り合いなの?」
無言で頭を縦に振る。
「私の妹なの。少し、トラブルに巻き込まれてて。妹を助けるために今日もそうしてた。」
「勢いよくドアを開けて、男性に覆いかぶさることを?」
「チ、ガ、ウ!!!!」
バコ!!!
さっきよりも強い衝撃。どうやら、少し怒らせたみたいだ。
「じゃあ、どうしてさ?それに、イタイよ。」
優しくそう問いかける。
「話したら、協力してくれる?」
「さあ、話次第かな?」
「なら、話さない」
「するするするする。するから、話してくれよ。僕も彼女のことが気になるんだ。何処かで会ったようなそんな気がしてて。」
やっぱり、思い出せない。少しでも、思い出したい。とても、大切な事なきがするから。
「そう。やっぱり、運命なのかもね。こうなったのも。話すわ。」
彼女は意を決したように話し始めた。
「今は時間がないから。簡潔に話すわ。妹は魔女によって眠らされている。私はそれを助けるために扉から扉へ、時間を進んで、来たの。」
「それって、、、」
「はは、やっぱり信じられないよね。こんな話、、、、」
「最高じゃん!!!!」
「はぁ?!?!?!」
今日一番に大きな声を出した彼女はとても驚いていた。
「なんで!!!」
「だって、僕がヒーローだろ!彼女はヒロイン!運命に選ばれた俺!!!」
僕は退屈してたんだ。友達もいない。ただ、水道の蛇口からこぼれ落ちる水滴のようにただただこぼれ落ちる俺の時間と人生、無為に過ぎて行く日々に。
諦めていた。こんなもんなんだって。これが人生なんだって。でも、違う。今日からは違う。俺がこの世界の物語の主人公になれるんだ。俺はそういう運命だったんだ!
「行こう!今すぐに!」
そう言って彼女の手を握りる。
「ちょ、鍵の使い方とかわかるの?!」
「当たり前だろ!鍵ってのはこうやって、、、!」
さっき入ってきたドアの鍵に鍵を指しこむ。
「扉の鍵を開けるもんだろ?」
そう言いながら、彼女の瞳を見る。
気づかなかった、少し涙ぐんだ瞳に。
俺は笑顔で答える。心配はないよ。僕がヒーローで主人公だ。必ず、妹を、ルノンを助けるよ。
俺も気になってる。必ず、彼女を助けなくてはならないと。
俺が感じていたのは使命感とか同情とかじゃない、運命だったんだ。そう気づいた。
忘れている何かを取り戻せば、何かが変わる。何かを変えるために生きてきた気がする。
「俺の名前はユクトキ。君は?」
笑顔でそう問いかける。
「クロノ、、、私はクロノ!」
彼女も笑顔でそう答える。
僕は今日、二度目の扉を開く。ドアなんかじゃない。扉を開く。俺の旅の始まりの扉だ。必ず、彼女を探し出して助ける。俺の忘れたものも取り戻す。
そうして、俺たちは勢いよく、始まりの扉を開いた。
ガチャ、、、、、。