狂わされた計画
えもいわれぬ香りに包まれた、豪奢な一室。
輝くばかりの高級な調度に囲まれ、贅の極みを尽くしたその室内で、しかし浮かない顔をした一人の女がいる。
彼女の瞳は青く、腰まで伸びた同色の長い髪は透き通るかのように、細くてしなやか。
不思議な光沢を放つ美しい衣装に身を包み、そこからすんなりとした白い手足が伸びている。
室内のどんな調度品にも見劣りしない──むしろそこにいるのが当たり前のように、美しい姿が室内に調和している彼女は、魔性。
突如として目の前に現れた青年によって、長い幽閉生活から解放され、晴れて自由の身になったばかり。
囚われの身になっている間願い続けて、ようやく叶った自身の解放──だというのに、何故か彼女の表情は暗く、瞳は光を失ってしまったかのように淀んでいた。
「わたくしは、一体どうしたというのかしら……」
窓から外の景色に目をやりながら、彼女──氷依──はぼんやりと考える。
身体は自由になった。魔力を奪われる原因になっていた呪符も取り払われ、まだ完全とは言いがたいものの、力は徐々に戻って来ている。
今ならば、いつでも好きな時に、この場所から脱することができるだろう。
自らにとんだ辱めを受けさせてくれた報復に、ここを破壊しつくしてやることだって、できるかもしれない。
「けれど……」
何故かそうしたくはないという思いが、決断を鈍らせている。
気になっているのは──あの瞳。
自らを助け出してくれた青年の瞳だ。
「何故こんなにも、気になってしまうの……?」
初対面であるにも関わらず、彼は自分をまっすぐに見つめてきた。
魔性であるからといって物珍し気な目をせず、囚われているからといって同情するような素振りも見せなかった。
ただ、氷依の心を見透かすように、まっすぐ、射るような視線で見つめられたのだ。
魔性である自分が、思わず物怖じしてしまうような瞳で。
「そういえば……」
そこで不意に氷依は、その後ぐらいから記憶が曖昧で、どのように助け出されたかなど、何も覚えていないことに気が付いた。
目の前に姿を現した青年が、近づいてきたところまでは覚えている。それから、自分の瞳を見るようにと言ったことも──。
だが、そこまでだった。
その先はいくら考えても、まったく何も浮かんで来ない。
知らぬうちに自分は気を失ったらしく、意識を取り戻した時には既に、この部屋の寝台に寝かされていたのだから。
「わたくしの身に、何が起こったというの……?」
生まれてから今まで何百年と生きてきたけれど、これまで一度として意識を失うなどということはなかった。
眠りを必要としない魔性は、人間のように眠ることはない。だから、意識を手放すこともない。
この世に生をうけた瞬間から命の灯火が消えるその時まで、決して眠りが訪れたりはしないのだ。
「それなのに、わたくしは意識を失った……なぜ?」
忌まわしき呪符を貼り付けられた時でさえ、意識を失う事はなかったのに。
何故、あの時だけ……。
考えようとして顎に手をあてた刹那、扉が躊躇いがちにノックされた。
思考の中断を余儀なくされたことに、氷依は僅かに眉を顰める。
誰……?
自分は誰にも会いたくないというのに。
関わりたくないが故、繰り返されるノックに返事をせず、再び考えを巡らせようとする。
だが、何度ノックしても返事がないせいか、ややあって、控えめな声とともに扉はゆっくりと開かれた。
「失礼するよ」
聞き覚えのある声に、氷依は視線を扉へと動かす。
そうして、そこにいた青年を認めた瞬間、「あっ」 と声をあげた。
「貴様は……」
その青年こそ、つい今しがたまで氷依の頭の中を占めていた人物で。
食い入るような視線でもって、彼の姿を見つめた。
「貴様──ね……」
氷依の言葉に対し、青年は意味あり気な声で呟いて苦笑する。
「なんだ……?」
「べつに、なんでもないさ。そんなことより……身体の調子はどうだい?」
困惑する氷依に微笑みを向け、青年が近づいてくる。
自分を助け出してくれた存在だというのに、彼から得体の知れない何かを感じ、氷依は思わず身を引いた。
「わたくしに近づくな!」
無駄だと知りつつ、鋭い声を発する。
だか、青年は一瞬驚いたように目を見開いただけで、すぐに距離を詰めて来た。
「何を怖がっているんだい? 僕は今更、君に危害を加えたりはしないよ?」
一見優しい微笑みを浮かべていても、よく見ると、彼の瞳は笑っていない。
口にしている言葉とは別に、違うことを言いた気なようにも見える。
この人間の真意はどこにあるのだろう?
それを見極めるべく、氷依が青年の瞳を凝視した瞬間だった。
「まさか君の方から、僕と目を合わせてくれるなんてね……」
心底可笑しそうな、青年の声が聞こえてきたのは。
「魔性相手に使うのは初めてだったから、一応様子を見にきたんだけど……どうやら正解だったみたいだね。やっぱり、人間のように一度ではうまくいかないってことなのかな」
真正面から見つめられ、まるで拘束されたかのように、氷依の身体は動かなくなる。
これは、なに? 人間如きが、なぜこんな……。
混乱する頭で、氷依は答えを得るべく懸命に考えた。
触れられたわけではない、何かをされたわけでもない、ただ目が合ったというだけで、なぜ身体の自由が奪われる?
人間の分際で、なぜそのようなことが……。
「なんだか色々考えてるみたいだけど、無駄なことはやめた方がいいと思うよ」
更に距離を詰めて来た青年が、氷依の瞳を覗き込むようにして微笑う。
「うるさ……い……」
かろうじて動いた口で悪態をつき、氷依は間近にせまった土色の瞳を睨みつける───が、そこにあった瞳が土色ではなかった事実に、愕然とした。
「な……っ!」
目の前にあったのは、黄金色の瞳。
いつの間に色を変えたのか、元々黄金だったものを土色と見間違えていたのかは分からないが、今氷依を見つめてきている彼の瞳は、紛れもなく黄金色だった。
魔性にも、もちろん人間にだって、そんな色彩を持つ者などいない。
ならば、この男の瞳の色は一体……?
困惑する氷依の耳に囁かれるのは、彼女の意識を奈落へと突き落としていく青年の言葉。
「さあ、今度こそ僕にすべてを捧げるんだ。自我なんてものは必要ないよ……僕が欲しいのは、操り人形のように従順に働いてくれる駒だからね」
逸らされることなく見つめてくる青年の瞳が、声が、氷依の思考回路を壊していく。
この人間に心を許してはいけない……この瞳は危険だと頭の中で警鐘が鳴り響くのに、最早逃げることなどできなくて。
あの時……。
薄れゆく意識の中、氷依はぼんやりと考えた。
この部屋で目覚めたあの時に、牢でもこうして意識を奪われたことを覚えていたら……。
そうすれば、目覚めた時点ですぐに自分は、ここから逃げ出していたかもしれない。取り返しのつかないことには、ならなかったのかもしれない。
そんな思いと。
牢で青年と出会った時点で、既に手遅れだったのかもしれないという思い。
「我が……君、お許し……を……」
それが氷依の、自我を持った彼女としての最後の言葉で。
黄金の光の中に、たった一人の愛しい人の顔を思い浮かべ、そこで彼女は完全に意識を途切らせた──。
※
「ふう、ちょっと危なかったな」
意識を失った氷依をソファへと横たえ、ルーチェは大きく息を吐き出す。
相手が魔性である分、人間と同じように自分の能力が効くとは思っていなかったが、まさか短時間であそこまで回復するとは思わなかった。
「来てみて正解だったな」
自らもソファへと腰を下ろし、女魔性を見つめる。
出来ることなら自我を残したまま操りたかったが、その為に牢屋での洗脳に若干手を抜いたせいで、あやうく逃げられる所だった。
未だ部屋の中にいたということは、完全には洗脳が解けていなかったのだろうとは思うが、もう少し時間を置いていたら、どうなっていたか分からない。
自分へと向けられた女魔性の口調から、表面的にはほぼ洗脳が解けていたように思う。
だから仕方なく、ルーチェは最大限の力でもって彼女の精神を縛ったのだ。
せっかくの駒を、みすみす逃さない為に。
だが、精神を縛った事により、女魔性の価値は大きく損なわれた。
なにより想いの強さが力へと結び付く魔性にとって、自我を持たないというのは、かなりの能力低下になるに違いない。
それが分かっていたからこそ、洗脳に手を抜いて、自分に惚れさせようと思ったのだが。
「さすがに、そこまで簡単じゃなかったか……」
意識を失う寸前、女魔性が誰かの名前を呼んだような気がした。
声は出ていなかったから、何と言ったのかまでは分からなかったが、口の動き的に名前のようだった。
状況的に、その時名を呼んだ人物が、彼女の想い人である可能性は高い。
「そんな相手がいるなら、僕を好きにならないのも当然だよね……」
洗脳の効き具合は相手の耐性によるところもあるが、特に魅了するにあたっては、相手に想い人がいるかどうか、又、その相手にどれ程の想いを抱いているかで効果に大きな差が出る。
一時的に自分の事を好きになっても、相手への想いが強ければ、時間の経過と共に元へと戻ってしまうのだ。
人間はそもそもの耐性が低い為、そこまで気を遣う必要はなかったのだが、魔性となるとやはり話が違うらしい。
「そう簡単にいくとは思っていなかったけど、色々試してる時間はもうないしね……」
どうしようか、とルーチェは考えを巡らせる。
なんとなくだが、今回ミルドが見つけたという娘こそ、自分が探し求めていた人物であるような予感がしていた。
そもそも、彼女の住んでいた村が長い間見つけられなかったということ自体おかしいし、彼女を連れ去ろうとした途端に魔性が現れて攫って行くなど、普通では有り得ない事だ。
なぜなら、魔性の目撃証言自体そう多くないうえに、一個人に特定して関わった、などという話はこれまで一度も聞いた事がない。
そこから考えても、その娘には他の人間とは違う何かがあるように感じられてならなかった。
「もしかして……いや、それはないか」
ふと浮かんだ疑問を、すぐに打ち消す。
ルーチェが娘を手に入れたがっている理由に魔性が勘付いたのかもしれないと思ったが、あれはそう簡単に分かるものではない。
かくいう自分も、本人に会うまでは確証を持てない事だった。
「とにかく、早急に策を練らないとね」
長い年月をかけてようやく見つけたと思ったら、するりと逃げる存在。
しかも、ただ逃げるだけに飽き足らず、魔性までもを引っ張り込むなんて。
「このままだと、どう足掻いてもこっちが不利だよね……」
目の前で眠る女魔性が意識を取り戻せば、幾らかの情報は手に入れる事ができるだろうが、それはあくまで魔性に対する情報収集ができる程度であって、娘の行き先を知る事ができるわけではない。
娘が連れ去られた魔性に取り込まれる前に、なんとしても手に入れる必要があった。
「それにしても、毎回詰めが甘いというかなんというか、どうして彼はいつもああなんだろう」
思い浮かぶのは、ミルドの姿。
黙って任務に邁進していればいいものを、何故か事あるごとに王宮へと戻って来ては、ルーチェの機嫌を損ねて行く。
もう来るな、と何度言っても、くだらない報告をしに戻っては、毎回青い顔で出て行くのだ。
ミルドが一体何をしたいのか、何の為にそんな事を繰り返すのか、ルーチェには分からない。
もしかしたら、只の嫌がらせなのかもしれないが。
「思えば、初めからそうだったね……」
ふと、ルーチェは過去の出来事へと想いを馳せた。
初めて会った時から、ミルドは他の人間達とは、何かが違っていたように思う。
てっとり早く王宮の最高権力者となるため、そこに関わるすべての人間を一堂に集め、自らの瞳の呪縛によって心を捉えた時──。
なぜかミルドだけは効き目が悪く、皆が満場一致で玉座に就いた自分を受け入れる中、ただ一人、訝し気な視線を向けてきた。
後からさり気なく様子を窺った結果、まったく効果がなかったわけではないことが知れたが、いつ効き目が切れるとも分からない状況であったのも確か。
その為、後日彼だけを呼び出し、入念に呪縛し直した時のことは忘れようもない。
「たかが一介の人間相手に、この僕が、二度も手をかけさせられるなんて……ね」
それだけでも気に障るのに、何かと自分の心をざわつかせる。
ミルドがいなくなれば、この気持ちから解放されるだろうか?
彼を殺してしまえば、楽になれるのだろうか。
これまで何不自由なく、一点の淀みさえなかった自らの計画に、初めて影を落とした、あの男。
あまりにも癪に障るから、あの手この手を使ってクビにしようとしたのにも関わらず、今尚食らいついている、鬱陶しくてたまらない男。
女魔性を捕獲したことに関してだけは上出来だと、その時は表面上褒めそやしたが──結局はあれも、計画を狂わされた結果だった。
本当はあの時、彼は任務に失敗し、魔性の手により果てる筈だったのだから。
「運がいいと言うか、しぶといと言うか……君の生命力の強さにだけは、関心させられるけどね」
どんなに無理を強いても、危険な仕事を押し付けても、必ず生きて戻ってくる強靭さには、正直舌を巻く。
こちらとしては、戻ってこなくなること前提で命令を出しているのだから、そのままいなくなってくれて構わないのに。
初めてミルドに魔性退治を依頼したあの時に、死んでいてくれたら良かった──と、これまで何度思ったか知れない。
実際問題、ルーチェは魔性に対し、確かに興味を抱いてはいたが、ミルドが考えている程に、その存在を欲しているわけではなかった。
単に自らが為そうとしている事についての障害になりそうだと思ったから、そうなった場合すぐに手を打てるようにと──今回のように上手く捕らえることができれば、自らの能力でもって使役してみたいという気持ちも、あるにはあるが──彼らのことを調べていただけのこと。
だから軽い気持ちで、魔性捕獲の任務をミルドに下し、さすがに手ぶらで魔性を捕獲してこいと言うのは無理があったため、申し訳程度の軽い気持ちで、作成途中の札を持たせたに過ぎないのだ。
それが魔性に対し有効かどうかなど分からなかったし、効かなければ効かないで、あの時の自分にはそんなことどうでもよかった。
ミルドが魔性の手にかかって果てること──それだけが、ルーチェの望みであったから。
「どこまで僕の気持ちを引っ掻き回せば、君は気が済むんだい?」
初めての魔性捕獲に成功し、満面の笑顔でもって、任務達成の報告をしに来たミルドの顔が忘れられない。
「今でもよく覚えてる……忘れたくても、忘れられない。忌々しい君の笑顔が……」
渡した札の性能が、予想外に良かったせいもあるだろう。
しかし、たった一枚の札を渡しただけで、本当に魔性を捕らえてくるなど──しかも上級魔性といわれる魔人を捕らえてくるなど、並大抵の者にできることではない。
ミルドには、何かがある──。
その時漠然と、そう思ったのを覚えている。
ここまで無理難題を押し付け、任務に次ぐ任務で疲労困憊にさせているというのに、未だ一度も失敗を犯さないミルド。
普通なら、そんなことはまず有り得ない。
だからこそ、ただ運が強いというだけでは済まされない何かが彼にはあるのだと、ルーチェは痛い程に感じていた。
「どうしたら君は、僕の前からいなくなってくれるんだい? 僕が直接手を下さなければ、駄目だとでもいうのかな?」
できれば今度こそ、魔性に始末されてほしいと願う。
これまで激務を強行してきたせいで、ミルドの部下は随分と数が少なくなっているし、小隊長である彼自身も、かなりの疲労がたまっている筈。
そんな状況で、新たな魔性捕獲に自ら志願してきたのだ。
これを好機と呼ばず、なんといえばいいだろうか。
「追い詰められているんだね……さすがの君も、もう後がないことに気づいているってことなんだ」
魔性相手に露と消えるか、はたまた二度目の捕獲に成功するのか。
今回もまた、任務を見事果たして帰還してくるというのなら、その時こそ何かしらの手を打たなければならない。
赤の魔性を捕獲して戻るということは、すなわち自分の欲する存在をも、共に連れてくるということ。
そうなってしまえばもう、如何なる難癖もつけようがない。
ミルドに褒美を与え、昇級もさせなければならなくなる。
昇級させてしまえば、その立場的に、さすがに今と同じような扱いをするわけにはいかなくなるだろうから。
「あの時の選択は、やっぱり甘すぎたかな」
自嘲の笑みを浮かべ、ルーチェは乾いた笑い声をあげる。
赤の魔性については、自らの目的のためにも必ず始末してしまいたいという思いから、ミルドを始末する絶好の機会をふいにしてまで、捕獲の方を優先させたのだが。
やはりあんな男は一刻も早く始末して、他の人間に任務を任せるべきだったと、今更ながら後悔した。
たとえ赤の魔性を見事捕獲し、ルーチェの思い通りにことが運んだとしても、それがミルドの為したことであるというなら、必ずどこかでまた、狂いが生じる筈だから。
「だけど僕には、まだ打つ手が残されているんだ……」
そこでふっと笑みを漏らし、女魔性の青い髪を一房掬い上げると、口付けた。
「せっかくだから、君に重要な役割を与えてあげよう。役立たずのまま終わるのは……君にとっても本位ではないだろう?」
誇り高い魔人から、今では自らの傀儡と成り果てた彼女に対し、ルーチェは優しい声で囁きかける。
「君がこうなった原因の大半は、ミルドという男にあるんだよ。彼を殺せば、もしかしたら……君は自由になれるかもしれないね」
もちろん嘘だが、ルーチェは何の罪悪感を抱くこともなく、さらりとそんな言葉を口にした。
彼女はもう、自分の言いなり。自らの願いを叶えるためだけに存在する、ただの美しい人形。
「可哀相にね。ミルドなんかに捕まったばかりに、意に沿わないこんなことをされて……そのうえ、抗うことすらできないなんてさ」
本当に、勿体無いよ──。
次に目が覚めた時、恐らく濁っているであろう女魔性の瞳のことを思い、ルーチェは小さくため息を吐いた。
自らの意のままに操られた者の瞳は、二度と輝くことがないのを知っているから──。
「でも安心していいよ。瞳は輝かなくとも、その他の部分は僕が最高に輝かせてあげる。君の能力を最大限に引き出して、そこらにいるどんな魔人よりも輝けるように……そうだな、魔神にすら匹敵するようにしてあげてもいい。僕にはそれが可能なんだ」
そうして第二、第三の傀儡を自分は手に入れ、いつかは魔神さえも使役する存在へと変貌を遂げる。
それこそが、ルーチェの何よりの望みであり、願い。
その為にも、探している娘を絶対に手に入れなければならなかった。
「だけどそれには、どうしてもミルドが邪魔なんだ。彼が存在している限り、僕の望みは達成されない」
だから、始末する。
忌々しいだけの存在を、自らの目の前から完全に消去してしまうために。
「君なら、僕の願いを叶えてくれるだろう? 人間一人を消すぐらい、息をするより簡単なことだよね……」
うっとりするような声で、語りかける。
そうして窓の外へと目を向けると、ルーチェは残忍な光を黄金色の瞳に宿し、嘲るように微笑った。