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角が生えた少年  作者: 紅いろ 葎
第二部
16/31

ヴィルエッド・グリフォン Ⅱ

ヴィルエッド・グリフォンの姿が見えなくなって、

一時の静まりがスペース一帯を包んでいた。



集まりあっていた生徒達が、何者なのかと

アデルを振り返る。

急に注がれた視線にアデルは驚いて顔を背けた。


『ジェルト、どうしよう』

アデルは混乱してジェルトに向き直ったが

ジェルトもジェルトで混乱していた。

心無しか顔色を悪くして向き合う。

『君、もしかして目をつけられたってやつ?』

怯えた様子で先程握手をしたアデルの手を見つめた。

『いや、そうじゃなくて。......え、そうなの?』



またもクーリングスペースは静まり帰る。



アデルも自身の握手した手を見下ろした。

あれがヴィルエッド・グリフォン。

呑気に見えるのかもしれないが、アデルにはよく分からなかった。彼に会って、話して、握手をした。

しかしどちらかと言えば、この空間一帯からの視線の方が辛いのだ。


そんなアデルの様子を見ていた生徒達は

やがて興味を失ったのか、それぞれまた別の場所へと移動を始める。先程弾かれた少女達もいそいそとどこかへ消えていった。

そして、アデルとジェルトは二人きりになる。




ふいに、見下ろした手をジェルトが引っ掴んで

そのままアデルを奥のテーブルへと引っ張った。

アデルはびっくりして、引かれるままにテーブルまで進むと椅子に座って、ジェルトを見上げた。

ジェルトは向かえ側の椅子に腰掛けると、

ちょいちょいと手でアデルを招き寄せる。


アデルは指示されるまま、身体ごとぐっと

ジェルトに近付いた。



『ヴィルエッド・グリフォンて言うのは、あの亡命した将軍の息子で、次期当主って言われてるんだよ』

『あの、え?何?』

アデルはわけも分からずに聞き返した。

するとジェルトは信じられないと目を丸くして、

一度回りをきょろきょろと見渡した。

誰もいないことを確認すると、さらに声を小さく抑えて早口に言い切る。

『自分の産まれた国を捨てて、裏切ったんだよ。国はそれが致命傷で滅んだんだ。物凄い軍事国家が!』

今度はアデルが目をまん丸にして、信じられないという顔をしてみせた。


『それがどうして、この国にいるの?』

ジェルトは答える。

『分からないけど、何かを企んでると思う。父さんは亡命に反対だったんだ』

ジェルトは腕を組んで、難しい顔をした。

アデルは口にはしなかったが、ジェルトがヴィルエッドに対してあまり良く思わないのは彼の父親に問題がある事を理解した。



『だけどアデル、君って不思議だなぁ』

ジェルトは腕を組んだまま、訝しげにアデルを見た。





それから、二人はまた歩き出して東校舎へと移ると

階段をひたすらに下り、一階へとたどり着いた。

ジェルトは見取り図を確認しながらあたりをぐるりと見渡した。

『ここが、東校舎側の一階だね。間違いない』

アデルは頷いて、左奥に続く長い廊下を見た。

『この奥は......』

呟いたアデルに、ジェルトは答えた。

『ここから先が、闘技場と実習小屋みたいだ』

二人は顔を見合わせた。



その時ふいにどこからとも無く、低く鈍い音が鳴る。

『あっ』

ジェルトは顔を真っ赤にして、お腹をさっと抑えた。

そう言えば、昼時も過ぎる頃なのに昼食を取っていない。生徒は全員、玄関口中央の部屋にある大食堂で昼食をするのだ。

アデルも自分がだいぶお腹を空かせている事に気が付いた。


『これより奥を見る前に、食堂に行こう』

アデルは言った。

『そうだね。お腹が空いていたのを忘れてたみたいだ』

二人は階段から右へと曲がり、大食堂に向かう事にした。





大食堂は先程のクーリングスペースなんかよりも

ずっと賑わいを見せていた。

四人がけのテーブルが前方半分を占めて

入り口付近にはもっと大勢が座れる長テーブルが

横に五つほど置かれている。

壁際は一人でも座る事が出来そうな、カウンター仕様のテーブルで埋められている。




『本当に広いや......』

ジェルトが呟いたのを聞いて、アデルもこくりと頷いた。

どうやら奥に真っ直ぐ進んだ先にキッチンがあって、そこで料理を受け取るようだった。



長テーブルの脇を通り過ぎて、奥へと進んでいく。

テーブルはどれも混みあっている。

注文カウンターも生徒達でひしめいていた。


『ずいぶん人がいるね』

注文カウンターの列に並び、先頭を背伸びして確認するとアデルは言った。

『ガイダンスを終えた上級生もいるみたい』

見てみれば、学年色のタイ止めの色は自分達の青いものだけではなく、深い真紅や明るく淡いエメラルドグリーン、金の光沢がある黄色、闇を見せるような艶やかな紫など、様々だった。



『本当だ......』

アデルもそれを確認して呟いた。

全部の学年が一同に揃っているようだ。

二人は列がじわじわと進んで行く中、回りをずっと眺めていた。

大食堂も、どこか城の広間でも思わせるように

天井は高く、古めかしくも厳格で、どこか暖かい雰囲気で占めていた。


二人の順番がやって来ると、大きなバンダナで髪を纏めた女性達が忙しなくぱたぱたと、奥のキッチンとカウンターを行き来しているのが見えた。

女性の一人が二人の前に立つと、ぶっきらぼうに

どちらで?と聞いた。


『えっと、何があるんですか?』

アデルは女性に聞き返した。


女性は二人をちら、と見るとあぁ。と呟いて

『ライスですか、パンですか、それとも麺を?』

と聞き直した。

二人は顔を見合わせた。

ジェルトがライスを、と答えてアデルはパンでと答える。

女性はそれを聞くとキッチンに向かって『A、B、ワン!』とひと叫びして、大きなトレイを二つ取り出すと、また忙しなくキッチンの中に去っていった。



しばらくすると、トレイにほかほかの食事を載せて

女性が戻ってくる。そして二人の前にトレイをさっと置いた。二人はそれを受け取ると、他の生徒達について行くようにカウンターの左端に進んで行った。




生徒達はカウンターの済に行き着くと、敷き詰められた大きなジョッキグラスを一人ひとり取り出して、ガラス製の巨大なポットで水を注いでいた。


アデル達もそれに続いて、グラスに水を注ぐ。


列から解放されて、二人は部屋を見渡した。

『どこに座ろう』

席はどこも賑わって、ずいぶんと混みあっている。

どうやら誰かとの相席は免れない。


『せめて、一年生のテーブルを探そう』

ジェルトがそう言って、テーブルをかき分けるように進んで行くのを見て、アデルはその後に続いていった。







そんな頃食堂にまた、ガイダンスを終えただろう生徒達がぞろぞろと入り込んできた。

長テーブルに数人の生徒と座っていたヴィルエッドが、一人の生徒に気が付いて声を上げる。


『兄様!』

こちらです!と立ち上がって大きく手を振っている。

入り込んで行く波の中、それに気が付いたアディが、

隣のリヴを肘でとん、とつついた。

『弟君だ、リヴ』

『うわ、本当だ。最悪なタイミングだな』

リヴは思わず顔を顰める。

しかし、大きく手を振ってこちらをじっと見つめる弟に観念したのだろうか。二人はそのテーブルへと近づいて行った。




『兄様、お疲れ様です。ガイダンスは終了ですか?』

ヴィルエッドは目をキラキラと輝かせ、兄の顔を見つめる。そんな弟を、内心困ったものだと思いながらリヴは答えた。

『あぁ、そうだ。ヴィルエッドはどうだ?』

『はい!学校を見て回りました。闘技場も見ました』

ヴィルエッドは兄を尊敬の眼差しで見つめている。


アディはその様子を一歩後ろで眺めながら、あぁなるほどな。と思っていた。



『兄様、午後もし予定が無いのであれば是非!闘技場で兄様の剣術を見せてもらえませんか!』

そんなお願いをする弟に困ったリヴが、ちらりとアディを振り返った。

ヴィルエッドもつられて、アディに視線を移す。


アディは肩を上げてそんな二人の様子を見つめ、

『予定はないな』と答えた。

リヴがお前、と呟いて目を見開いた気がしたが

アディは面白くなってきて

『見せてやったらいいだろ』と続ける。


『兄様!』

ヴィルエッドが兄に縋りキラキラとした目をまた向けると、リヴは仕方が無くため息をついた。


『わかったよ、ヴィルエッド。昼食の後だ』

ヴィルエッドはまた一段と目を輝かせるとありがとうございます!と声を上げて、深々と頭を下げた。

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