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角が生えた少年  作者: 紅いろ 葎
第二部
14/31

真偽の間にて

真偽の間と言うのは、とにかく大きくて広かった。

ステンドグラスが高い位置に張り巡らされて

外からの陽を浴び、白と金を基調とした室内に

ちらほらとカラフルな光の筋を作っている。

高々と作られたドーム型の天井も、部屋全体を神々しく神秘的に演出していた。


奥に金の細い螺旋階段があって、階段を登りきるところに台座がある。

大人一人が収まる程度だが、この台座も精巧な木彫りの細工で出来ていた。

左右にはその台座より幾らか低く、コロッセオ闘技場にあるような、五段のひな壇になっているデスクがある。

生徒達が集められている一番低いところには、赤い絨毯が敷き詰められていた。





何をするところなんだろう......とアデルは考えた。

ミーゼル先生はそこに生徒が全員並んだのを確認すると、

奥の台座の影にある小さなドアの中へと消えていった。



そうして、この大きな真偽の間には新生徒のみが残された。次第にそれぞれがこそこそと隣合った学生同士で話し始める。


アデルは回りを見渡して、どうにも浮いているような変な不安感を覚えた。

もう学生達はいくつかのグループを作って

自己紹介を始めたり、はしゃぎ合ったりと賑やかになり始めていた。




そんなアデルを後ろから、誰かが肩を叩いた。

『うわぁ!』

アデルは思いのほか驚いて、さっと後ろを振り返る。

するとそこには先程迷子になったと後から連れられてきた、小柄な少年が立っていた。

くりくりのアッシュグレー髪がちょいちょい、とところどころ跳ねている。

少年の方も、アデルの驚きようにつられてびくりと肩を強ばらせひっ、と声を上げた。


『あ......ごめん。驚いたよね』

『ごめんなさい!』

どちらからともなく、二人は謝り合う。

揃っておどおどと緊張しているのがわかると、

おかしくなって今度は笑い合う。



そんな笑い合いもさっと落ち着くと

目の前の少年はアデルにもう一度しっかりと向き直って自己紹介をした。

『僕、ジェルトって言うんだ。ジェルト・ゴージ』

アデルもすかさず、自己紹介する。

『僕は......アデル・キャンベル。です』

アデルは無意識に、両の手を握りながらジェルトを見た。

そうして自己紹介を終えると、しばしの沈黙が二人を迷わせる。



アデルはなんとか話題を探さなきゃと、頭の中から何か言葉をひねり出そうとしたが、先に口を開いたのはジェルトの方だった。


『あの、僕地方から通うことになるから、誰も知り合いがいないんだ。君は?』

どうやらジェルトは遠くから来たらしい。

アデルはそんな事もあるのかぁ、と感心した。

『僕は家が近いんだ。君は家はどうするの?』

『寄宿寮があるんだよ。そこで暮らすんだ』

ジェルトは少しばかり落ち込んでいるようだった。

アデルにも気持ちは良くわかる。

自分だって、知らない人しかいない上に、知らない場所で暮らすのは想像しただけで心細い。


『君はすごく勇気があるんだよ。僕には出来ないと思う』

アデルはジェルトを元気づける気持ちで、そう言った。

『そんな。僕は臆病だから、心配なんだ』

ジェルトは俯いた。

『大丈夫だよ。君は僕に声を掛けてくれたし』



そう言ったところで、ミーゼル先生が戻って来たのだろう。

『静かに!』

と叫ぶ声が聞こえた。

部屋の入り口近くにいる二人には姿が見えないが。




学生達が一斉に、台座の方へと振り返る。

『寄宿寮に入寮する事になる学生は、前へ来て部屋番号と相部屋の生徒の名前を確認するように。鍵と寮の規則項目をお渡しします』



ジェルトはアデルに向き直った。

不安そうな目である。

アデルは肩を上げて、ジェルトを見返した。

『ここで待ってるよ』

アデルはジェルトに言った。

『本当に?じゃあ僕、行ってくる』

そう言うとジェルトは、生徒達を掻き分けて奥の方へと進んでいった。



アデルはそんなジェルトを見ながらぼんやりと思った。ジェルトはきっとすごく優しくていい子なのだ。

あんまり緊張せずに話ができた。

考えてみれば、同じような年頃の話し相手はジェルトが初めてだったのだ。

嬉しかった。そして少しほっとした。




ジェルトが帰ってきてからしばらくすると

ミーゼル先生はまた声を張り上げて言った。

『皆さん、先頭から五列に並んで下さい。在校生が参りますよ。在校生が左右に着席したら学校長先生が参ります。名前を呼ばれたら返事をするように。いいですか?さぁ並んで!』


それから一歩遅れて、生徒達はお互いに譲り合いながら、横に五人並ぶ形でぞろぞろと動き出す。

アデル達も、最後尾で隣同士並びあった。


後ろにある大きなドアが開かれると、そこからぞろぞろと学生達が入場してきて左右のひな壇へと着席して行く。



全員が着席したのを確認すると、どこからか鐘の音ががらん、がらんと部屋中に響いて、しんと静まり返った。

奥のドアが開いたと思うと、背の高い黒く大きな髭を蓄えた老人がゆっくりと出てきて、金の細い螺旋階段をゆっくり登っていく。

そして台座の前に立つと、一呼吸置いた。


そして口を開く。




『新しい学生の皆さん。ようこそおいで下さいました。学校長を務めるバードン・ガランドだ。よろしく頼む。これから新入生の紹介と称して、一人ずつ名前を読み上げるのでな。呼ばれたら生徒は元気に返事をして欲しい。よろしいかな?』


中央に集まっている新入生は、それぞれに小さく頷いた。アデル達も緊張しながらそれぞれ頷く。



それを確認したバードン学校長は、台座の上にくるくる巻かれていた大きな紙を広げると、ひとりひとり名前を読み上げ始めた。


ジェルトが呼ばれてからしばらくして、アデルの名前も読み上げられて、アデルは小さな声で返事をした。


そして次に、学校長が

『ヴィルエッド・グリフォン』と名前をあげると

左右の在校生達が、ほんの少しざわついたように感じた。

ジェルトの方を見てみると、ジェルトが青ざめた顔で呟いた。

『グリフォン?まさか同い歳だったなんて......』

『どうかしたの?』

アデルは小さなこそこそ声で、ジェルトに尋ねる。

『君、知らないの?』

『え?......知らない』


そこで、学校長のこほん、という咳払いが響いて

二人は慌てて向き直った。



『良いかな?これでこの年の新入生全員の紹介としたい。新入生53名が加入して、今年は総勢251名の生徒がこの学校で学ぶ事になった。皆、仲良く慎ましく勉学に励むことを望みたい。それでは、解散としよう』


学校長の解散の宣言と同時に、またどこからか鐘の音が響いた。

学校長が螺旋階段を降りて、また小さなドアの向こうへと姿を消すと、在校生もいそいそとひな壇から降りてそれぞれ部屋を出ていった。






アデルはさっきの話の続きを聞こうと、ジェルトの方を向き直ったが、ジェルトはそれ以上ヴィルエッド・グリフォンについて語ろうとしなかった。

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