テロメシ
第7回二代目フリーワンライ
お題:
想定外のパターン
君さえいればよかった
ししょう(変換自由)
心の酸欠
うす味
フリーワンライ企画概要
http://twpf.jp/free1write2
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
…………さて、と。随分長い間放心していた気がするが、そろそろ目の前にある現実を直視しなければならない。
そもそも極力見ないように努めていても、漂ってくるのだから。匂いが。
いや、匂いと言う表現では生ぬるい。刺激臭である。もしくは嗅覚受容体をインファイトで激しく攻め立てるなんらかの匂い格闘技チャンピオン。対峙する挑戦者ノーズ選手はKO寸前ときた。
…………駄目だ。どうしても逃げようとしてしまう。無意識下で認識の排除を試みるのはパニックゆえか。なんだか胸が痛くなってきた。心も酸欠に陥るのだろうか。
液状を通り越して、粘性を持った黒い物体を見下ろす。ところどころ湯気が上がっている辺りは、空爆によって焼け焦げた爆心地のようにも思える。バンカーバスターとか燃料気化爆弾とかそういった類いの超火力の奔流を、一人前の鍋の中に再現したようなブツ。
これでも料理のはずなのだ。一応は。いつも食事の用意は任せっきりでいるから、たまに出かける時くらいは、と請け負った結果がこれだ。いくら普段料理しないからと言って、カレーを作るくらい失敗なんてあり得ないだろうとたかをくくっていた。
そんな慢心の結実した成果がこの水分が不足気味のタール状の何かだ。よもや口にするのに支障が出るレベルの化学物質を合成してしまうとは、完全に予想外だった。
こんなパターンはまったく想定していなかった。自分がここまで不器用だったなんて信じられない。
――いや。胸を張って送り出した手前、自分の不始末は自分で付けねばならない。食べられる物を集めて作ったモノが、食べられないはずがないではないか。これが食べられないなら、元から食べられなかったに違いない。
そろそろ覚悟を決めよう。ドブさらいをするような心持ちでスプーンを先行させる。
大丈夫。意外と何とかなるかも知れない。……食べ物を前にしてそんなことを考えている時点で如何なものか?
……………………
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汚泥の下には不発弾が眠っていた。途轍もない熱が舌の上を、口の中で爆発的に広がる。一瞬のうちに粘膜の表面が焼け爛れ(たような気がして)、次いで死に絶えたはずの味覚に炭でも舐めたかのような激烈な苦みが襲ってきた。
しかもここまで口腔を蹂躙しておいて、辛味と苦み以外の味が何も感じられない。驚くほど味が薄い。意識が遠のくのと同じ速度で記憶の彼方に消えていく塩味や旨味が懐かしい。
味ってなんだっけ……
ああ――こんなことなら、君に――やっぱり君に頼めば良かった――
『テロメシ』了
メシテロをしてみたかったんです。
え? 意味が違う?