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9 覚醒

「いま、なんと言ったのじゃ?」

「ああ、勝てるって言ったんだよ」


周りの魔術師達は何言ってんだという視線をおれに向ける。ギルドマスターがこんなにも脱力している相手を倒せるというのだ当たり前だろう。だが、そんなことに構っている暇はない。この壁が破壊されたらアウトだ。それまでにアイツを消さなければいけない。


「スラさん、甲羅頼める?」

「ふむ、魔法攻撃は効かぬのではなかったか?」

「いや、本で読んだんだがアイツ物理攻撃を修復している間は魔法攻撃が少し通るようになるらしい。おれが下でアイツを攻撃するからスラさんは甲羅お願い、出来ればスルトさんも」

「そのナイフ1本で大丈夫か?」

「スラさんほどでは無いけど、キルさんとも結構長い付き合いだからさ!大丈夫だよ!」

「主様がそういうのならば大丈夫なんじゃろう」

「おう!甲羅頼んだよ!」


そう言って壁を飛び降りる。着地する瞬間に壁を蹴って転げながら衝撃を逃がす。それでも骨折や打撲した所を回復しながら走る。


「前にもこんな事あったっけか?」


あれはまだ現代にいた頃。おれがまだ幼かった頃、スラさんが使えない状況でしょうがなくスラさんを置いてキルさんと2人で敵の基地をまるまる一つ潰したことがある。


「今回はスケールが違うけど2人での作戦はあんまり無いし楽しもうな!」


そう言っても返事がある訳では無い。だけど武器も死地を一緒に乗り越えてきた戦友だ。別に言葉を投げかけてもおかしくはないと思う。


「おおう、ここまででかいと壮大だな…」


ビルがなん10本、なん100本と重なったかのようなその巨体についつい圧巻されてしまう。足元まで潜り込んだ時相手もおれを察知した。


足がゆっくりと持ち上がり振り下ろされる。そこまでスピードはないが、範囲と威力が凄まじいので近くにいたら大怪我、下にいたらペッちゃんこだろう。


ズズンと地を揺らし足が振り降ろされた。


「うおっと!魔法衝撃もあるのか…でも小回りはきかないみたいだし、体力があるかぎりは大丈夫だな」


1歩でもミスったらぺっちゃんこだけどね。だが、地面に接触する瞬間に魔力を足下に生成してそれを踏み抜いて魔力衝撃を作り出しているのは流石に驚いた。防御壁の生成が少しでも遅れたら体は粉々だろうな。


「ま、今度はこっちの番だよ!」


キルさんに伸縮を指示しつつ足に斬撃を加えてすぐに離脱する。思ったよりも柔らかったが、再生スピードはかなり早いことがわかった。


ズガァン!


砲撃が始まったのを確認する。したからでは確認出来ないが、まだ甲羅は剥がれていないようだ。おれは砲撃に間髪入れずに足を切りつける。


「グギャァァァァ!」


斬撃を繰り返していると足から10本ほどの触手が生えてきた。どうやら砲撃よりもこっちを先に対処するようだ。だが、その触手は亀の体の一部なのでこいつを切りつけても再生はストップするようだった。


「にしても!こいつら数が多すぎる…」


対処出来ないほどではないが、どんどん増え続ける触手に押されていた。さらに時々足踏みをしてくるため、苦戦を強いられていた。さらに亀の下を抜けてきた他の魔獣たちが襲いかかって乱戦状態になっていた。


「ちょいとお前らじゃまだって!」


切りつけながら悪態を吐くがそんなことで魔獣が減るはずもなく、さらに量を増やし襲ってきた。亀はチャンスと見たか足を分断しての攻撃を中断して甲羅の修復に取り掛かっていた。


「はは…なめんじゃねえぞ!」


キルさんに伸縮を頼みつつ力任せに横に振る。伸びるスピードとおれの力でかなりのスピードとなり魔獣達は反応すら出来ずに真っ二つになっていた。


ズガァン!


砲撃2発目が着弾した。どうやらかなりガタがきているようで亀は片足の膝を折って苦しそうにしている。これはあと1発ぶち込めばいけるのではないのだろうか。と考えていると


ズガァン!バキバキバキバキ!


さらに砲撃があり、音を聞くに甲羅が割れたらしい。だが、その一瞬の慢心がおれの感覚を鈍らせた。


「ヌギャァァァァ!」


亀が下を向いている。そして口先にはかなりの魔力が溜まっている。


「っ!まずい!」


急いで魔力障壁を発動させる。が、それでも完全には間に合わず衝撃波で吹き飛ばされてしまう。


「あっぶね!しまった!?」


そして最悪なことに気づいてしまう。あの亀のブレスはおれを殺すためではない。おれの武器を奪うための事だったことに気づいてしまった。障壁を発動する時とっさにキルさんを離してしまった。そしてキルさんは今亀の足に潰されようとしていた。


「ちっくしょ!まにあえええええええ!」


おれは亀の下に滑り込み物理障壁、魔法障壁を発動させた。何とかキルさんを救うことには成功したが、かなり絶体絶命だった。この魔力量と重量では長い時間は耐えられないだろう。だが、こんな所で死ぬわけにも行かない。おれはありったけの力を振り絞り少しでも押し返そうとした。


「どうして…きたの?」


不意に声がかけられた。だが、確認する暇などないしこの状況からすれば話しかけているのはキルさんだろう。てかマジで死にそう


「おれの武器なんだから当たり前だろ!ぐっ!」


少しでも集中を切らすと押しつぶされそうになる。そんな緊迫した状況でもキルさんはマイペースにゆっくりと言葉を紡いだ。


「私は…武器…使い捨ての武器…なのにあなたはなぜ自分を危険にしてでもきたの?」


こんな状況でのらりくらりと話しているとなんだか試されている気にもなる。しかも当たり前のことを聞かれておれはさっきよりも声を張り上げて叫んだ。


「んなもん!お前は武器とかなんとか以前に戦友だからに決まってんだろ!」

「戦…友?」

「そうだ!確かにお前を拾った時にもお前は捨てられていた!でもな!そんなこと関係ないんだよ!おれとお前は同じ戦線をくぐり抜けてきた!そしたら武器もクソもねえよ!お前も戦友だ!」


叫ぶと息が切れて重みに耐えられずに膝を付いてしまう。もうこれまでかと考えた時目の前に一つの人影が見えた。


銀色の綺麗な長い髪を揺らしながらおれの服を掴む。その体は小さく弱々しく、なにより裸だった。


「私は…武器。だけど…武器だけど…」


唇がキュッと結ばれるが、目は真っ直ぐにこちらを見つめていた。


「あなたを、愛してもいいですか?」


愛なんて考えたことも無かった。おれの周りにいたやつは男も女も年上も年下もみんな平等に死んでいったからわからないが、これはおれにもいえる。


「おれも、体は人間だけど心は使われる側の武器だ。おれに愛する権利があるなら…」


正直権利なんてものがあるなんて分からないなと考えて苦笑する。そしてなるべく柔らかく笑って答えた


「お前にも愛する権利はあると思う」


おれはキルさんに手を差し出し、キルさんはゆっくりと手に差し出した。おれはキルさんの手を握って笑った。


「さってと、いっちょやったりますか!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私はどこにでもある普通のサバイバルナイフだった。最初のマスターは私のことをあまり使ってはくれなかったが可愛がってはくれた。


だが、ある日マスターがほかのナイフを持ってきた。殺した敵から奪い取ったのであろう。しょうがない。私たちナイフには良くあることだと納得できるほど私はまだ出来ていなかった。だが、どれだけ叫んでも呼びかけても振り向いてくれない。私は他のマスターの手に渡ってしまった。


次のマスターは使い方がとにかく荒かった。着いた血は吹いてくれないし、石とかに良く叩きつけるし、カッコつけてよく落とすし。そんなことをしていれば私の心も体も持たないわけで、気づけば私は傷がないところを探すのが難しいほどボロボロになっていた。


「こりゃもう使えんわ」


そう吐き捨てて私は捨てられた。これが武器の運命なのだろう。運が悪かったとしか言いようがない。私たちにはどうすることも出来ないのだから。


捨てられて数日経ったある日1人の少年を見た。その身に合わない大きなスナイパーライフルを背負っていた。驚いたのはその人の装備はスナイパーライフル1丁だった。ああ、愛されてるんだな。少し羨ましかった。


「ナイフ…」


何故か少年は私を手に取り隅々まで眺めていた。自分の手が汚れることなんて気にせずにボロボロになった刃をなぞりながら彼は呟いた。


「まだ、熱がある。」


熱?なんのことを言っているのか分からなかった。彼はどうやら物好きのようで私を持って帰って隅々を綺麗にしてしっかりと刃も研いでくれた。だが、彼もいずれ私を捨てる。私はどうやら傷つきやすいようで私の心はもう完全に閉じきっていた。


彼は本当の変わり者のようだ。彼はハンドガンを持たない。持っているのはグレネードと私とスナイパーライフルだけ。そのため近接戦闘では必ず私を使ってくれた。そしてひと段落つく度に私にこう言った。


「ふう…ありがとキルさん」


どうやらキルというのが私につけられた固有名称らしい。名前を付けられるなど初めてであった。帰ると毎日丁寧に刃を研いでくれて私はこの男が分からなくなっていた。


だが、この世界に来て私には前の世界よりももっと強い自我を持つこととなった。人化もできるようになった。だからなんだと言うのだろう。私は武器なのだ使い捨ての武器。どれだけ丁寧に扱われようとその事実だけは変わらない。


と、おもっていた。


武器のために命をかける。私たちからしてみれば夢物語だが、この人間は顔色一つ変えずに自ら窮地へ飛び込んできた。理解ができなかった。気づいた時には私は人化して話しかけていた。そして彼の本心を聞いた気がした。「戦友」初めて聞くその言葉は私の胸に突き刺さり抜けなかった。だが痛くない。何故か不思議と心地いいのだ。


もう一度だけ、もう一度だけ。信じてみよう。そう思った。私は少しだけ迷ってから差し出された手を握るのだった。手を握ると彼は心底嬉しそうな顔をして笑ったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


主様が亀の足の下に一直線に駆けて行った。どうやら先程の亀の攻撃時にキルを落としたようだ。何とか障壁を生成して耐えてはいるが恐らくあと数分も持たないであろう。亀の甲羅も完全に修復していた。


「こりゃダメみたいじゃの」

「………」


ギルドマスターがポツリとこぼし周りのものも涙をこぼし始めた。


「なにが…なにが勝てるだよ…ダメじゃねえかよ…」


若い魔術師が嗚咽を漏らす。まあ、無理もないだろう若くして死ぬというのは怖いものだ。だが、その矛先はあろうことか私に向かってきた。


「おい!何とかいえよ!お前の主頭おかしいんじゃ無いのか!ぁあ!?」

「おい、やめとけ…」


詰め寄りながら怒鳴られる。ギルドマスターの静止も聞かないほどに酷く混乱しているようだ。が、私は振り向かない。


「こっち向いて答えろや!おい!」

「はぁ…」


ため息をこぼしてしまった。まだ若いのは分かるがここまでピーピー騒がれると多少イラッときても仕方が無いことだと思う。ましてや主が若い頃からアレだったからさらにイライラした。ため息を漏らしたことにキレたのか若い魔術師はワシに殴りかかってきた。


「ピーピーうるさいんじゃ若造が!」


腕を掴んで合気道の要領で地面に叩きつける。魔術師は体術が得意ではないようですんなりと地面にキスしてしまった。


「いいか?一度しか言わんからよく聞け若造。主様は勝てると言ったら絶対に勝ってくるのじゃ。それまで大人しくそこで見とれ」


そんなワシの言葉とは裏腹に亀の足は無慈悲にズズンと音を立てて踏み抜かれてしまった。わしらの砲撃で一時はむき出しになっていたコアも今でまた甲羅で覆われていた。


「ほらな…無理じゃねえかよ…ちくしょう…」


泣きじゃくる若造を見て一瞬だけワシも無理なのではと思ってしまう。ふと亀を見ると足に巨大な魔法陣が縦に生成されていた。


「あれは…」


カチ


時計の針が進むような。鍵が外れるようなそんな音がした。瞬間亀の足は真っ二つに割れていた。


「な…なんじゃあれは」


そして血の雨を浴びながら主が姿を表した。安堵で胸が一杯になったが、様子が少しおかしい。体の周りに黄色い電気の様なものが漂っている。そして手には1本のサバイバルナイフ。一体化したのだと瞬時に分かった。そしてワシは勝利を確信した。


「なんじゃあいつ、結局やるのじゃな。」


その戦いの決着はすぐに訪れた。亀の頭から尻尾に巨大な円形の魔法陣が生成された。亀はその魔方陣に不吉なものを感じたのか全力で後退したが、それに勝るスピードで主様は亀に駆けて行った。伸縮で長さを伸ばし剣を振った。その剣は亀には当たらなかったが魔方陣に当たった。


カチ


その音を聞いた瞬間亀が真っ二つに割れた。一同はなにが起こったのか分からずにただただ亀が真っ二つにされ血の雨が降り注ぐ所を眺めていることしか出来なかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「つっかれたぁぁぁ!」

「はぁはぁ…」


一体化を解除して一息つく。今回は魔法陣の大きさが尋常じゃなかったのでいつもよりかなり疲れた。地面にヘタっているとキルさんが近づいてきた。


「キルさんお疲れ様」

「ちがう」

「違うってなにが?」

「名前…私の名前に敬称は要らない」

「なるほどね。キルお疲れ」


名前を呼ぶとキルは俺の上にまたがってきた。裸なので目のやり場に少々困る、という訳でもない。おれはキルの目をじっと見つめた。


「マスター!愛してる!」

「んん!?」


いきなりキスをされた。舌が入ってきておれの口の中をかき回す。こいつキス上手いなと考えつつ逆に舌を絡める。


「ん!ぷはぁ」

「なかなかディープなんだなキルは」

「私は出来る大人の女だから」


ゆっくり話しながらほぼない胸を張っている。おれはキルを抱きしめておれも愛してると答えた。

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