7 覚悟
おれは何故かギルドに呼び出されていた。正確にはC級以上の冒険者が収集されていた。昼飯もまだだったのでとりあえず昼食を済ませながら聞くことにした。
「よく集まってくれた皆の者、今回集まって貰ったのは他でもない。1週間後に起こる暴走についてだ!」
ザワザワとどよめく。暴走がなんだか分からないのでおれはとりあえずスルー。隣をちらっと見るとスラさんがリスみたいに口いっぱいに食べ物を入れて咀嚼していた。いや、頬どうなってるんだよと言いたくなった。
「そ、それは絶対に起こるのか!?」
「今回は姫様に見てもらった。間違いない」
「じゃ、じゃあ…おれたちは勝てるのか!?」
「……………」
そこで言葉が詰まってしまう。言うか言うまいか姫から聞かされた時から葛藤を続けたのだろう。
「姫様は、、見えない…と申しておられた…」
「見えない…それって…」
まあ負けだろうな。軽く死刑宣告だ。
「だが、負けるという訳では無い!見えなかったのだ。負けたのではなく…」
「一緒だろ!姫が早々に死んで未来が見えなかっただけじゃねえかよ!」
「そ、そうだ!」
「やってられっか!おれは逃げるぞ!」
「ちくしょう!家族連れて身支度して!ちくしょう!」
「お、落ち着いてください!」
「うるせえ!離しやがれ!」
ギルドの受付員がなだめようとしている。アルミアさんも必死に呼びかけているが数の暴力で全く意味をなしてなかった。おれはパスタの最後の一口を口に入れて席を立った。その拍子に後ろでアルミアさんを振り払おうとしていた冒険者の足を引っ掛けてしまった。ワザトジャナイヨー
「あ、すみません」
「て、てめぇ!!」
「いやいや、こんなことしてる場合じゃないでしょう?逃げなくていいんですか?」
そう言いながら食器を酒場に出してクエストボードに向かい、1枚適当に討伐クエストを選んで受付に渡す。
「あ、あのこれは…」
「え?クエスト行きたいんですけど」
「え、いや…」
「ギルドマスター、集合場所と時間は?」
「え?ああ、1週間後の早朝に東門じゃが…」
「了解っと、んじゃこれお願いします」
冒険者、受付員、ギルドマスター。その場に居合わせたものは全員が口をつぐんで唖然としている。スラさんに行くぞと催促してギルドを出ようとすると声がかかった。
「お、おい!お前は…逃げないのか…?」
「逃げる?この国を捨てるのですか?捨ててどこに逃げるのですか?」
「そ、それは隣の国に…」
「確か他国でもA級以上の冒険者は国を出ているのでしょう?どこに逃げても同じだ。」
「そ、それは…」
「まあ、逃げることが悪いとは言いませんし、止めもしません。逃げたい人は逃げればいい」
死は誰だって怖い。人間が誰でも感じる当たり前の感情だ。それを克服出来る者はかなり少ないだろう。
「死ぬとしてもおれは戦う。おれは使う側じゃない。使われる側だから。」
そう言い残してギルドを出た。扉を閉めるときにギルドマスターと目が合ったが、とりあえずやれることはやった。あとはギルド側に任せるとしよう。
「さて、森の前まで来ているわけですが…」
「そうじゃの…」
森についたまではいい。今日は森にナインさんとキルさんのテストをしに来たのだ。そこはいいのだが…
「これ…前回来たところと同じだよな?」
「残念ながら一緒の場所じゃ」
入ってすらいないのにこの殺気具合。奥にはめちゃくちゃ大きな気配がするし、正直入りたくない気持ちを抑えながら索敵を開始する。
「えーと、キングゴブリンが5にゴブリン20くらいか」
「格段に増えてるの」
「じゃあ、とりあえずナインさんから行きますか」
ナインさんは
レベル1→29
HP:1020
MP:1000
スキル:デュアル、オリジナルバレット、オートリロード
キルさんは
レベル1→40
HP:1500
MP:1200
スキル:伸縮、???
となった。
デュアル
銃が2本に増える。
オリジナルバレット
魔法を織り込んだ弾を生成できる。
オートリロード
リロードが不要になる。なお、コッキングは適応されない。
伸縮
刃を伸縮する事ができる。伸ばせば刀の形に、縮めるとメスの形に変わる。
個人的に???が気になるところだが、キルさんを使っていけばそのうち解放されるだろうと思考を停止させた。デュアルと念じながらナインさんを上に投げると2つになって落ちてきた。これには正直とても驚いた。
深呼吸してもう一度敵の位置を索敵。爆発弾頭をナインさんにお願いして。飛び出ながら引き金を絞っていく。パンパンパンパンパンパンと聞きなれた音が鼓膜を叩く。着弾するとゴブリンの頭が木っ端微塵に吹き飛ばされた。なかなかの威力の爆発だ。
少しするとキングゴブリンたちが異変に気づいて襲ってきた。まだゴブリンをすべて倒せていないが、しょうがない。精進あるのみだ。
5体のキングゴブリンたちが襲いかかってくるがなぜだかとても落ち着いている。そして体が異様に軽い。おれは棍棒を避けながらがら空きの首に伸ばしたキルさんを刺していく。流れるように2匹目、3匹目と首に刺していく。返り血を浴びながら考える。
(凄いな、前回あんなに苦戦したのが嘘みたいだ。それに、方暇に考え事をすることも出来るくらいに落ち着いている。殺しをするだけでレベルが上がってレベルが上がると強くなる。強くなるとまた殺せて、また強くなって…)
この世界はおれに優しすぎる。そう考えると嬉しくなって余計に笑顔が抑えられなくなる。それを見たキングゴブリンたちの恐怖が手に取るように伝わってくる。悪いなお前ら、おれのために死んでくれ。
捕食で回復をはかるキングゴブリンの首をはねながら心にも思っていないことを考えた。
「おおう…主様全身真っ赤っじゃの」
「図体でかいから血の量も半端じゃないね」
「どうじゃった?」
「スゲェ動きやすかった。自分の体じゃないみたいだ」
「なるほどの、では少し早いが帰るか?」
そうだなと応えようとするとドドドドドドドという足音が近ずいてきた。
「これは、もうちょい帰れそうにないな」
「そうじゃの…ワシも手伝うぞ」
「頼むわ…」
はぁとため息をついて肩をすくめるのだった。
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予想通りの事態が起きた。目の前の死刑宣告の事態を受け止めきれず、逃げ出そうとする者が多発し暴動が起こる。今はその予備動作と言ったところだ。だが、それはある少年により未然に防がれた。
ワシの話に顔もあげずに昼飯を食い漁っている少年。つい最近ギルドに入ったのだが、1日でキングゴブリンを狩ってきたり、ワシに殺気を正面から当ててきたりと随分と面白い少年だ。
その少年がアルミアを振り払おうとしている冒険者の足を掛けて倒した。そしてそのまま食器を片付けてクエストを受けたいと言ってきた。これには流石のワシも驚いた。逃げないのか?と問われると彼はこう答えた。
「まあ、逃げることが悪いとは言いませんし、止めもしません。逃げたい人は逃げればいい」
仲間になにも期待をしていない。いや、信じられる仲間が片手で数える程しかいないのだろう。彼は例え1人でも戦い続ける。何故かそう直感した。
「死ぬとしてもおれは戦う。おれは使う側じゃない。使われる側だから。」
そう言い残したが、それは自分に言い聞かせているような気もした。扉を閉めるときに目が合った。何かを訴えるような眼差しをしていた。
彼の出ていった後のギルドは静まり返っていた。彼の思いもよらぬ行動に唖然とし動けないようだった。
「死ぬのが惜しいものは…この場から立ち去って良いこととする…」
自分でも何を口にしているのかは分からなかったがそんな気持ちとは裏腹にゆっくりと言葉は紡がれて言った。
「勝てないのかもしれん…死ぬかもしれん…じゃが、ワシは戦う…国のため、民のため、それもあるがな……」
あんな子供があんなに堂々としているのに最初から諦めていた自分が恥ずかしくなった。
「あんなガキに先頭に立たれて逃げるなんてワシはできんからな!ここで逃げたらワシの立場がなくなるからの!」
これが正真正銘の自分の気持ちだった。ふう、と一息つくと一つ声がかかった。
「誰が…逃げるって?」
声は一つ、また一つと増えていく。
「あんなガキにあそこまで言われて…やらないわきゃねえだろ」
「お前逃げる準備はいいのか?くくく」
「うるせぇ!てめぇもチビっちまうくらいならさっさと逃げやがれ!」
「おれはやるぞ!」
「おれもだ!まあ、逃げる気なんて無かったしな!」
やるぞ!と鼓舞する声がギルドに満ちていく。
「お前ら…」
「マスターのためじゃねぇぞ、おれはおれのために戦うんだからな」
「…死んでもワシに文句言うなよ」
「あんたもポクっと逝っちまわないようにな!」
ドッと笑いが起こる。そしてそのまま昼から宴が始まった。今回は皆の命のためにギルドの負担になった。結局はあの黒い子供の手のひらの上で転がされたのだろうかという疑問は酒と笑い声にかき消された。
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数時間後
あの後襲ってきたブルータイガーの群れを全て壊滅させて全身を真っ赤に染めてギルドに向かった。ドアを開けると大声を出している人、笑っている人で溢れかえっていた。
「あの、何かあったんですか?」
近くでチビチビと受付員の女性とお酒を飲んでいたアルミアさんに声をかける。
「うわぁ、黒さん真っ赤ですねー。ああ、皆さん全員が戦うことを決めてくれたのでそのお祝いですね。黒さんもご一緒にどうですか?」
あのあとギルドマスターが上手くやったらしい。
「流石にこの格好なので辞めておきます」
「そうですか…」
酔いが回っているのか残念そうにしているのを隠そうとしていない。酔いが回ると子供っぽさが出てくるが、そういう大人を見るのが好きだったりする(行き過ぎはNGだが)
「今日は皆さんお楽しみそうなのでまた後日来ますね。では」
適当に挨拶して宿に向かう。通りすがりにチラチラと見られたが体にまとわりつく気持ち悪さに意識がいって、たいして気にならなかった。宿に入る前に外で水を被って汚れを大雑把に落として部屋に戻る。
ブルータイガーの惨殺にMPを使い果たして意識を保っているのが精一杯の状況だったので布団にダイブすると共に意識もダイブしてしまう。スラさんがなにかかけてくれる感触を最後に意識を経った。