村人のお話の始まり
「ーーたしたちの子だ!!でかしたデルビア!!でかしたぞ!!!!」
始まりを告げたのは喜色に満ちた知らない若い男の声だった。
目に周りの光景が映り始める、まず視界に映ったのは俺を覗き込む2人の女性と1人の青年であった。
「もうマホスったら叫びすぎよ。この子がびっくりしてるじゃない。」
俺を腕に抱く女性がいうと
男は
「おぉ…スマンスマンその…やっぱり…俺とお前の子が無事に産まれたのが嬉しくてな…」
「あなた………まぁ気持ちはわかります、でもびっくりさせちゃったらきっと嫌われちゃいますよ?」
「それは困る!!!」
だからしーーですよ
デルビアーーそう呼ばれた少し赤みを帯びた茶髪の少女がマホスーー大声出して騒いでいる黒髪の青年を優しくたしなめつつも、その内面の喜びは現在進行形で騒ぎ続ける男に一歩も引けを取らないものであるようだった。
「そうじゃぞ馬鹿ひひ孫、デルビアの言う通りじゃ、ベヒモスのようなお主の声を聞いたひひひ孫が既にお主に愛想を尽かしておるぞ」
「そこまで俺の声は酷かぁねぇよ!!」
視界に入ったもう一人、オババ様と呼ばれた黒髪の少女ーーと言うよりも童女は青年とそんな仲の良いやりとりを交わしながら、カラカラと笑いあっていた。
ーーそんな和やかなひと時が終わりを迎えたのは、三人がひとしきり笑いあった後に童女ーーオババ様が話を切り出した瞬間だった。
ーー主らもう子の名前は決めとるのか
空間がビシリと音を立ててーー割れた、なんの誇張でも比喩でも錯覚でもなく実際に空間にヒビが入ったのだ。
そんな冗談のような現象に俺が呆気にとられる中、
先手を取ったのはデルビアの方だった。
「ねぇ、あなた、男の子だったら二人の名前からとって、デルスにするって話、でした、よね?」
デルビアが今までの優しい微笑みを浮かべたまま、一句一句にどす黒い圧力を込めながら言い放つ。
ーー言葉が可視化して質量を持っているように見えるのは流石に気のせいだよね?どうみても真っ黒い塊が物凄い勢いでマホスに向かって飛んでってるよね?
先手をとられたマホスであったが不敵な笑いを浮かべながら飛来する黒い塊を容易く受け止めーーられず吹っ飛ばされる。
しかしすぐに起き上がると
「いやいややっぱりここはソーキだろう!」
マホスの言葉からは先の様な黒い塊は出なかったが、
再びデルビアが
「デルス、です、よね?」
と言えば再び黒い塊がマホスを吹っ飛ばした。
それを傍目にオババ様は
「まだ決まっとらんかったのか…」
と二人に呆れた視線を向けていた。
それから何度も、言葉に人が吹っ飛ばされるというどっかのゲームか何かのような光景を見ながらーー
おれはーー
ソーキってなんか美味そうな名前だな。
ーーーそんな事しか考えられなかった。
空間が割れる→空間属性の魔力の余波
言葉の可視化+質量付与→闇系の創造魔法