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彼女がスーパーヒーローだったんだが。  作者: ルキ
第一章 正義のヒーロー
1/1

夜8時。賑わい始めた松本駅前。居酒屋やラーメン屋から聞こえるサラリーマンの楽し気な会話。

真っ暗闇な外を照らす、店舗から溢れる明るい光。道路を走る車。帰宅途中の疲れ切った女性に無視される居酒屋のキャッチ。相変わらずの光景だ。


「おいヒロ!金渡すからお前タバコ買ってこいよ!」


「おー。」


「だってお前老け顔だから余裕だろ?」


「おー。」


松本駅前を歩く二人の中学生、背の低い光一(こういち)と背の高い裕信(ひろのぶ)

彼らは中学生にもかかわらず、喫煙しようとしている輩。つまり『ヤンキー』というやつだ。


「大丈夫だから行って来いよー」


「おー。」


裕信はコンビニに入り数秒でタバコを購入し、光一の元へ行った。


「ヒロナイス!よし路地裏いこうぜ!」


「おー。」


二人は駅前の路地裏へ向かった。


「よしじゃあ二人で10本ずつ分けよ!」


「は?コウちゃんそれマジで行ってる?」


「なんで?」


「俺が買って来たんだけど…」


「はいはい。じゃあヒロは11本。」


「殺すぞ?」


そんな会話をしているうちに二人は路地裏につき、タバコを吸った。


「うめぇ~」


すると二人のいる路地裏に一人の男が歩いてきた。

彼は立花(たちばな)快斗(かいと)。身長170㎝。趣味はゲーム。サッカー部所属。ごく普通の冴えない高校生だ。

快斗は車や人がいる賑やかな場所は苦手で、毎日学校帰りは路地裏を通る。

今日はたまたま部活が長引いたので帰りが遅かった。


(はぁ…顧問の先生の説教長すぎ。)


快斗はいつも通りの道をいつも通り心の中で愚痴を言い、ヤンキー中学生の前を通過した。


(うっわ。中学生がタバコ吸っちゃってるよ。)


呆れながら快斗は何事もなく家へ帰った。



「ただいまー」


「おかえりー」


家に着くと妹の美沙(みさ)が出向いた。


「あれ、母さんは?」


「パチンコ」


「またかよ。」


「とりあえずご飯作っておいたから」


「おう。ありがと」


美沙は中学3年生の14歳で、10歳の時に事故で下半身不全になってしまった為、車椅子で生活していた。下半身が動かない不自由な状態なのにも関わらず、毎日毎日夕飯を作ってくれていた。


「あ、お兄ちゃん食べ終わったら洗い物とかしなくていいからすぐお風呂手伝ってくんない?今日めっちゃ汗かいちゃった」


「おう。了解」


(あ、やべ。陽菜(ひな)に明日の予定連絡するの忘れてた。)


快斗は美沙の料理に手をつける前に快斗の彼女、園沢(そのざわ)陽菜(ひな)にSNSでメッセージを送った。


『明日は学校帰りにストバでいいかな?』


(ストバ行ったことねえからこえー)


快斗は背伸びして有名チェーン店のカフェ、『ストーバッカス』でデートをしようとした。


(お、返信はや)


『いいよ!ちょっと今忙しいから後でね!』


(じゃあ飯食おっかな。)


ようやく快斗は夕飯に有り付いた。




「おいヒロ。お前今何本目?」


「4。」


「お前まだ4本かよ」


現在8時半。今も光一と裕信は路地裏でたむろしていた。


「お前ら!一体何歳だ!」


「14だけど。お前誰?」


二人の前に現れたのは『ティナ』だった。


「おいてめぇだれだよ」


光一はティナに怒鳴った。ティナは一部の人間には知られていたが、かなり知名度が低かった。


「私の名前はティナ!正義のヒーローだ!悪を成敗しに来た!」


「ぶっはははは!あほなん?」


「そのタバコを捨てて家へ帰りなさい!さもないと痛い目にあうぞ!」


「あんま調子乗るなよ?」


光一は立ち上がり、ティナに近づいた。


「殴っても無駄だ」


「てんめぇ!」


ジジジジジ!


拳を振り上げた光一にティナはスタンガンで攻撃した。


「いってぇ…!」


光一はもう一度負けじとティナに殴りかかった。


シュコッ!


「いったぁ!!!」


「もう懲りた?」


ティナは背中に背負っていた小さめのボウガンで光一の太ももを撃った。


「おい…!ヒロ!矢抜いてくれ!」


「わかったから動くな」


裕信が光一の足からボウガンの矢を抜いた。


「いってぇ!!」


光一の太ももからは血が流れ出した。


「未成年喫煙は犯罪だ!分かったらとっとと帰れ!」


「こんな足じゃ帰れねーよ!」


ティナは路地裏を後にし、去っていった。


「やべっ警察きた」


「コウちゃん。俺帰るわ。」


「おまっ。見捨てんのかよ!」


「腹減ったし。かーちゃんの飯食ってくる。」


そう言って光一を置き去りにして裕信は帰宅した。


「そこで何してるんだー?」


「あ、えっと。家帰る途中でした。」


「その足どうしたの?大丈夫?えー松本駅前の路地裏で中学生の男の子が足から出血したまま地べたに座り込んでいる模様。」


光一の元にやってきた警察官は、トランシーバーで状況を別の警察官に伝えていた。


「じゃあとりあえずお家に電話するから。番号と住所教えてくれる?」


「え、えーと…」


光一は警察官に事情聴取された。


「はいはい。ありがとう。で、その足はどうしたの?」


「なんか!変な奴にボウガンで撃たれたんです!」


「ボウガン?どんな見た目だった?」


「覆面してマントをつけていて赤いジャージでした!」


「えー。覆面に赤いジャージ。マント着用。至急捜索願います。じゃあとりあえずパトカー乗ろうか。」


トランシーバーで連絡した後、警察官は光一をパトカーの後部座席に乗せた。


(ボウガンの矢が見当たらないな…。)


「光一君。撃たれた時の矢は持ってたりする?」


「いや、ないです。」


(回収されたか。)



その頃ティナは、松本駅のトイレで着替えていた。


(あちゃー。今回派手にやっちゃったなぁ。)


スキーゴーグルとバンダナを外し、本当の姿、園沢陽菜が現れた。


「あっつー」


快斗の彼女、園沢陽菜は実はスーパーヒーローのティナだったのだ。

陽菜は衣装を脱ぎ制服に着替えると、焦ったような表情で家へ一目散に帰った。


「あのー。すみませーん」


ビクッ


警察官が陽菜に声をかけた。


「この辺で不審者が出たんですが、赤いジャージにマントと覆面を着用してたらしいんですけど見ませんでしたか?」


「い、いえ」


「そうですか。申し訳ないんですが鞄の中身とか調べさせてもらってもいいですかね?」


「鞄です…か?」


「一応皆さんに聞いて回ってるので。」


(まずい…。)


陽菜の額からは汗が流れ出し、頭の中が真っ白になり沈黙が続いた。


(どうしよう…。)


すると警察官のトランシーバーから声が聞こえた。


ジジジ… 怪しい人物を発見…ブツッ


「了解!すぐ向かう。」


どうやら別の警察官がどこかで不審者を発見し、警察官はこの場を去り不審者の元へ向かおうとしていた。


「ごめんねー。行かなきゃいけないから。協力ありがとねー。」


「は、はい…」


(あぶなかった…。)


陽菜は幸い中学生の件が警察官にバレることはなかった。


(あ、快斗に連絡しなきゃ)


陽菜はスマホを取り出し、快斗にメールをした。


『ごめん!遅くなった!』


その後陽菜は家に帰り即効寝てしまった。




「行ってきまーす」


「快斗ー。お弁当持ったー?」


「あ、忘れた。」


朝7時。相変わらず快斗は怠そうな顔をして学校へ向かった。


「おい快斗ー。昨日のニュースみたか?」


「ニュース?」


快斗に話しかけてきたのは快斗と同じクラスの神谷みたに悠介ゆうすけ

悠介は小学校から快斗と一緒で、『ホモカップル』と言われるくらい学校ではほぼ毎日一緒にいる。


「なんかさー。ティナとか言うスーパーヒーロー?が喫煙してる中学生2人を撃退したらしいぜ?」


悠介は後ろの席の快斗の机に肘をつき、話し始めた。


「なんじゃそりゃ。そういえば昨日俺も喫煙中学生2人組見たわ。」


「そうなんだ?」


「でもあれだろ?注意しただけだろ?」


「それがよ。なんかボウガンで中学生の足撃ったらしいんだよ。」


「エグっ」


2人が熱く語っていると、授業の始まりのチャイムが鳴り響いた。

快斗はこっそりと机の下でスマホを起動した。


(さっき悠介が言ってたの、ちょっと気になるな。)


そう思った快斗は即、ティナの件を調べ始めた。


『現場には犯人のものと思われる所持品が落ちていた。』


そう書かれたページをスクロールすると、本文の後に貼られていた一枚の画像に辿り着いた。


(これって…。)


その画像に写っていたのはなんと、陽菜がいつも鞄につけている快斗と色違いのアヒルのキーホルダーだった。


(いやまさか…。たまたまだろ。)


「おい立花。なにしてる。授業中だぞ。」


「はっ!すみません!」


スマホに集中していた快斗は先生に見つかってしまった。

いつもは怒られると機嫌が悪くなり机に伏せて寝てしまう快斗だったが、ティナの件が気になり、落ち着かずに自分の席でモヤモヤしていた。


(よし、今日聞いてみよ。)


少し迷ったが、快斗は陽菜にティナの真相を聞くことにした。




「学校終わったー。おい快斗ー。今日もマック行こうぜ。」


「ごめん。今日は園沢さんと会うから。」


「は!?お前あの園沢さんと!?」


「お前誰にも言うなよ?実は付き合ってんだよ。」


「お前それバレたらまじでヤバいぞ?」


悠介は快斗と長い付き合いだった。だが陽菜が彼女だという事を悠介は知らなかった。何故なら快斗は陽菜と付き合っている事は誰にも話していなかったから。園沢陽菜は美人で頭も良くて学校内では有名で、彼女に憧れている女子も少なくない。アイドル的存在。

園沢陽菜と付き合うという事はタブーとされているのだ。


「まぁそういうことだから。じゃあな。」


「おい!…」


快斗は悠介を置き去りにし、陽菜の元へ向かった。

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