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「いますよ。遠距離なんです。」
「遠距離か〜遠距離はダメだよー続かない!僕もしたことあるけどね〜…」
黒縁メガネの推定身長165センチが調子良く喋る。オシャレにお金をかけている今時男子といったところだろうか。
「ちなみに、浮気はする方?」
黒縁メガネがそんな質問をしてきた。
正直、上京して若干4ヶ月で私は、事務所の社長と2度寝ていた。1度目は泥酔して気付いたら横にいた。2度目は断りきれず、家に上がり込まれた。
私の恋愛パターンはいつもそうだ。押しに弱いのだ。強引な男を断る術を持っていない。
そして、彼氏がいると言っているにも関わらず、すごい勢いで迫ってくる男がいるのも事実だ。しかしその時の私はまだ、地元の男友達のように面倒見が良く、決して男女関係にならない人間関係が、ここ東京でも成立すると信じて疑わなかった。
誘ってるつもりなんてなかったが、そう捉えられても仕方がない言動だったのかもしれない。
「浮気しちゃいますね。」
黒縁メガネびっくりした顔で私を見た。
「浮気しちゃいますねとかいう女の方が、浮気なんてしませんよーとかいう女より信用できると思う」
「え?どういう意味ですか」
私は最悪な女ですと伝えたかった。
「お前、褒められてんだよ。信用できる正直なヤツってことでしょ」
荒牧が言った。