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荒牧は隣町に住んでいた。最寄りの駅も隣だ。都心から帰ると彼の方が一駅先に下車だが、降車駅が近づいても彼は一切降りる気配は見せなかった。
「降りないの?」
一応聞いてみたが、彼は無言のままだった。
前に庄造が泊まりに来たのはいつだったろうか。その時からシーツは変えただろうか。冬場なので毛布も出していた。同じ毛布に違う男の肌が汗が……
今更だが気持ち悪い。
もう手遅れだが気持ち悪い。
とっさに荒牧の最寄駅で飛び降りた。荒牧もびっくりして飛び降りた。
「どうしたの?」
「今日はキミんちにいく」
「…まぁそれもいいかもね、いいよ」
自ら行きたいと言った自分に驚いた。酔った勢いをつけるために、飲んでたことになる。
荒牧のことが好きではないことは明白だ。荒牧は悪いやつではないが、プライドが高すぎる。彼の積み重ねたキャリアのせいか、作家の先生と言われる職業柄か、元々そうであるのかはわからなかったが、言葉や態度の端々に感じた。
ただ、プライドを傷つけられるようなことを言われても、受け流せる強さというか適当さを持ち合わせた男だった。不機嫌な顔をしても、次のリアクションでは受け流せる大らかさがあった。
彼の器はそこなんじゃないかと思う。
そして庄造もまた、そういうタイプであった。
つまり、タイプ的にドンピシャなのだ。
だからといって何ってわけでもない。
私は私自身、何を求めているのかわからなかった。