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彼と出逢ったのは数年前。28歳の冬だった。
「明日、誰も知らない新年会に行くんですけど、一緒に行きませんか」
そう言い出したのは同僚の綾子だった。
お正月も終わったばかりの冷たい風が吹く東京。同世代のライター綾子とデザイナーの雅の3人で、上司をネタに浴びるほど飲んだ帰り道だった。
当時私は上京したばかり。小さな制作会社でデザイナーをしていた。雑誌のちょっとした紙面デザインだ。
決してメインの編集ページを扱う制作会社ではなかったが、田舎の小さいデザイン事務所から転職してきた私にとって、それらはとても魅力的で、刺激的な仕事だった。
「え?なにそれ。大丈夫なの?誰も知らないってどういうこと?」
聞いた瞬間、好奇心がおさえられない。
だって、それは東京に出てきてまだ4ヶ月も経っていない頃の話。