愚王が天下を覆せ
戦況は、およそ最悪と言えるものだった。戦場には瓦礫といくつもの遺骸の山、部隊はほぼ壊滅だ。
そんな中、戦火を潜り抜け残骸の陰に飛び込んだ部隊長、『3』の徽章を付けた男が、通信機を起動させた。
「こちらスリィ。状況を確認する」
抑えた声に、すぐさま反応があった。銃撃の音色を背後に、怒鳴りつけるような勢いで、
『こちらファイヴ、壊滅だ! 残り二人!』
その怒声を皮切りに、次々と報告が届く。
『シックス、三人だ! だが囲まれた!』
『セヴン、四人だが重傷者多数! 戦線に復帰は困難!』
『こちらナイン、二人だ』
『テン、弾薬が尽きた』
「エイトはどうした!?」
『こちらナイン、エイトは我々の脱出のために血路を開き、八つ裂きに…』
「くっ…階段をかけに行ったイレヴンとトゥエルヴの全滅は、確認済みだ」
潜伏中のトゥからの応答がないが、こちらも絶望的だと見るべきか。
やはり事態は最悪だ。
瓦礫に背を預け、スリィは一服する。深々と紫煙を吸い、肩越しにそれを見る。
王城だ。高く堅牢な城壁。それを打ち砕き、新たなる旗を打ち立てることこそ彼らの宿願なのだ。だが、
「ちと、苦しいかね…」
口の端だけで笑む。だが眼光は鋭く、王城の最頂に立つ人影を見据える。
奴こそが王。打倒すべき宿敵。
『…隊長、俺たち、もう…』
通信機から入ってきたナインの声に、しかしスリィは強く返した。
「馬鹿野郎が! 諦めるな…俺たちはまだ終わっちゃいない」
『しかし…もう時間も…』
『な、おい、あれを見ろ!』
弱気なナインを押しのけるように、セヴンの声が響いた。さらには、
『──こちらトゥ、済まない、遅れたが…こちらも確認した。これより反撃を開始する』
スリィもすぐにセヴンやトゥの見たものを目の当たりにし、深く笑った。
「へっ、ようやくおでましか…待ちくたびれたぜ」
咥えていた煙草を吐き出し、スリィは雄叫ぶ。
「行くぞ野郎共! ここから先は俺たちの勝ち戦だ! 全力でぶっ壊してやれ!」
おう、という全員の応答を耳にしながら、スリィは笑う。
見据えるのは、戦場の中心に立つフォウの四つの背。
それぞれが手にするのは、クラブ、ハート、スペード、ダイヤという四つの神器。
「そうさ、あれこそが戦局を根底から覆す、伝説の──」
「革命だァァ!」
真太郎が勢いよく山へ手札をぶちまけた。なに、と全員でそれを覗き込むと、あに図らんや、それぞまさしく四枚の四だった。綺麗に揃っている。
うわぁ、と啓吾が悲鳴を上げた。
「なんてこった! くっそ、出せる札ねぇし…」
「へっへっへ、思い知れ大富豪。貴様の天下はこれで仕舞いだぜ…!」
啓吾を除き山を囲む三人が汚い笑みを浮かべる。そして次々と山へ手札を投げていき、なすすべのない啓吾の目の前で全て出し尽くした。
対する啓吾の手には、幾枚ものカード。何気なく見てみればそれはいかにも強力なものばかりだが、それが全く裏目に出た形だった。
肩を落とす啓吾に、局面をひっくり返した真太郎がにやにや笑いながら言う。
「都落ちだぜ、大富豪。これからお前は大貧民だ…とりあえず、全員にジュース奢りな」
く、と啓吾は崩れ落ちた。畜生、と場のトランプを勢い任せにぶちまける。男子うるさい、と委員長から文句が飛んだ。
昼休みの終了五分前のことだった。