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第2話 イケメンの悩み

ときどき、自分がなぜこの世界に来たのかを考える。


普通は神様のお導きなどにより異世界に転生するというのが基本だ。


だが、俺の場合何の知らせもなく唐突にこの世界にやって来た。


これは神様の手違いなのかもしれない。


世界から何らかの使命が俺に課されてこの世界に来たのかもしれない。


妄想、または夢の世界かもしれない。


はたまた死後の世界かもしれない。


まあ一番有力なのは死後の世界だろうな。


だが心臓も動いているし血液も流れている。


現実に近すぎる。


まさか俺だけしっかりとしていて周りの人間は実は生命という概念が存在しないのかもしれない。


ふとそれを確かめる方法を思いついた。


「なあ、ミネストローネ。ちょっと胸触らして?」


リビングでくつろいでいるミネストローネにお願いしてみた。


「貴様の心臓と引き換えでいいならいくらでも触らせてやるぞ?」


真顔で紅茶を飲みながら条件を出された。


そんな条件飲まねーよ。紅茶は飲むけど。あ、今の上手い!そしてこのお茶も旨い!謎かけの二連鎖とかすごくない?謎かけの定義はよくわからんけど。


「いや、心臓動いてるか確かめるだけだから。」


「動いてるに決まってるだろうバカ者。」


ミネストローネは吐き捨てるように言う。


一応死後の世界じゃないっぽい?いやそもそも死後の世界の人間は心臓がないって考える時点で間違えてるよな。黄泉の国とかいったことないんだしそんなのわからねーからな。


「急になんだ?頭にうじでも湧いたか?いや、いつも湧いてるか。」


「バカにした上に自己完結してんじゃねぇよ!」


俺は紅茶を置いて鋭くツッコミをいれる。


「だから、俺って異世界から来たじゃん?それはなんでだろーな~。てゆーかここどこなんだろーなーと思ってな。」


どこか遠く見つめるような目でカップの中で揺れる紅茶を見やる。


「貴様が異世界から来たのかどうかは知らんが。それこそ神のみぞ知る、じゃないか?」


済まし顔でそっと告げる。


「この世界に神っていんのか?」


あちらの世界では様々な神が逸話に名を残している。


北欧神話や西洋の神話、そして日本の伝説とあげたらキリがない。


ラノベやゲームなどでも度々その神話たちが引用されている。


だいたい神話の人物を知るのはそれがきっかけなのが大半だろう。


そんな神話的なのはこっちにあるのか気になった。


「いるにはいるが多種多様だ。信仰によっても違うしな。まあその中で一番代表的なのはアズリエルという神だな。全世界の調律者として名高い。」


アズリエル、ねぇ。


ありそうな名前だけど聞いたことはなかった。


「なあ、その人に会えるのか?」


ミネストローネは奇っ怪なものを見る目でこちらに視線を送ってきた。


「バカなのか?」


「だっているって言ったじゃねーか。」


「それはあくまで逸話上の話しだ。実際にいるかは知らん。」


ようするに実在してるか不明ってことか。いたら会いに行って色々事情聞きたかったのにな。


そんなやり取りをしていると、ドアのノック音が響いた。


ミネストローネを見やると、もはや無言。


お前が行けと圧力をかけてくる。


マジで何様?


気は進まないが、俺は歩みを進ませる。


ドアノブに手をかけガチャっと開けた。


「こんにちは。」


するとそこには、爽やかな笑みを浮かべる美少年が立っていた。




ミネストローネは紅茶を注いだカップをイケメンのもとへ置く。


「ありがとう。」


イケメンは笑顔を向けてお礼を言う。


「俺はアキト。」


「私はミレイナだ。」


毎度のことながら自己紹介を済ませる。


「で?今日は何のようだ?」


「………貴様、なぜ不機嫌なんだ?」


「は?」


ミネストローネは俺に視線を向け訝しげに見てくる。


俺って今そんな顔してんのか……。まあでもそれはしょうがあるまい。なぜなら俺はイケメンという生物が大嫌いなのだから!


「僕の名前はアッシュ・レインフォルト。ヴァラン王国の騎士団に勤めてる。えっと、今日は相談に来たんだ。」


頭の後ろを掻きながら笑顔を絶やさない。


名前かっこよ!じゃなかった。こんなリア充っぽい奴に悩みなんかねーだろ。あれか?恋のお悩みですか?俺にのろけ話しを聞かせたいのか?ミーちゃんが最近かまってくれない~。とかそういうのか。


アッシュは意を決したようにこちらに向き合い口を開く。


「僕、モテ過ぎて困ってるんだ!」


「帰れ。」


即効で切って捨てた。


予想を下回りやがったぞ。なんだその悩み。てかそんなの困り事でもなんでもねーだろーが。むしろウェルカムだろーが!俺への嫌味にしか聞こえねぇぞこのやろう!


「何を言ってるんだバカ者が!」


「ぐふぁっ!」


ミネストローネに頭をドゴっと殴られた。


ポカポカと殴ってくるならまだ可愛いんだけどな。こいつの暴力はかなりしゃれになんない。いつも女の子に殴られてる一条くんの気持ちが少しわかった気がする。いや、でもあっちは同級生の可愛い女の子に殴られている。こっちは幼女だ。あぁ…。死にたい。


「え、えっと……。」


アッシュはそんな様子を見て戸惑っている。


「ああ、話しを続けてくれ。」


「わ、わかった。実は………。」





「なるほどな。」


ミネストローネが納得した様子で頷く。


このアッシュ・レインフォルトという男の悩み事。


アッシュのいるヴァラン王国というのは、勇者側の最大の国であるらしい。


そこはどうでもいい。


アッシュはとにかくモテて、周りに女性がいないときはないほどだと言う。


ファンクラブも超大規模で設営されており、王国の女性の多くが所属しているらしい。


そんなアッシュは騎士としては本人曰くまだまだ未熟で、地位のわりには実力が伴ってない。


そんなアッシュはひた向きに修練を積みたいそうだ。


なので騎士団の稽古の他に自主的に修練を始めたらしい。


だがそこで立ちはだかるはAFCアッシュファンクラブ


彼女たちは騎士の仕事の合間を見てはアッシュに話しかける。


それでは留まらず、夜中に呼び出されたりする始末。


だがアッシュも人がよく、誘いなどは断れず全て了承してしまうらしい。


結果、自主修練どころかまともに睡眠もとれないという事態に陥っている。


「どうしたらいいと思う?」


アッシュははぁ、と深いため息をつく。


「俺への暴言にしか聞こえないんだけど。」


よく耳にする言葉だが、モテない人だけじゃなくてモテる人にだってそれ相応の悩みがあるんだよ?ということを聞いたことがある。


その言葉に俺はもの申したい。


モテない男の悩みとモテる男の悩み。


俺はどっちを抱えたいと言われたらモテる男の悩みだ。


なに?そのモテる男も悩んでるんだから嫉妬とか嫌味はやめろみたいな風潮。モテる男の悩みと言ったらようするに色恋沙汰についてだろ?モテない男はそんな悩みを抱える権利すら持ってないんだよ?モテる男だってツラい?なんだそれ。モテない男はもっとツラいに決まってるだろ。色恋沙汰なんてそもそも経験がないんだから。モテない男達がしたくても出来ない恋愛をモテる男達は経験している。その恋愛について悩んでいるなど贅沢な悩みだ。その上で嫉妬もなにもせず同情でもしろというのか?それこそ傍若無人で身勝手な考えだ。ようするにお前らの悩みなんて吐き気がするほどどうでもいいってことだ。


だが、今あげたのは頭が弱いけど顔だけでモテちゃう嫌なやつの話しだ。


イケメンだけど友達思いで優しい。


そんなやつから恋愛について悩んでると言われたらお、おう。という反応を返すだろう。


ようはその人次第というわけだ。


いったい俺は何の話しをしているのだろう。


「なんだ?嫉妬してるのか?自分があまりにも地味な顔だから。」


ミネストローネはものすごく嫌な笑みを浮かべる。


「なっ!地味じゃねーし普通なだけだし!」


俺は必死に反論した。


そう、俺の顔は普通なのである。


特別イケメンでも特別ブサイクというわけでもない。


よく言えば平凡。悪く言えば地味。


イケメンじゃなくてもかえって思いっきりブサイクの方が愛嬌があっていいのかもしれない。


俺は人ごみの中に入ったら真っ先に霞み、印象に残りづらい。


「いや、モブ顔だ。村人Aだ。」


「うるせー!チビが!」


「チビとはなんだ!」


アッシュは言い争っている俺らにあの~と声をかける。


「それで、これからどうすれば……。」


「「ああん?!」」


二人してガンを飛ばす。


アッシュはなんとも言えない表情になる。


俺とミネストローネは一息つき、お互い離れる。


「そうだな~。まあ一番いいのはお前が迷惑ですから控えてくださいって一言言うことだけど。」


「いや、それは、気がひけるというか。純粋に応援してくれているのにそれをはね除けるのはちょっと……。」


アッシュは少し下に目線を向けて話す。


いやいやいや、確実に下心を持った人たちが大半でしょ。気づいてないの?鈍感なの?


すぐ勘違いするのもあれだが鈍いというのも中々に問題である。


「ふむ。例えば時間を指定してその間だけなら自由に話せるというのはどうだ?」


ミネストローネは久々に意見を出した。


だがあまりいい策とは言えない。


「そんなんで解決するとは到底思えねーな。」


女の執念とは恐ろしいもので、そこだけでは留まらずやはり夜中などに来てしまうだろう。


それに一々対応してしまうのもこの男だ。


「てゆーか女の人たちマナー悪すぎじゃね?」


本当にアッシュのファンというのなら決まりを守って迷惑をかけないようにするのが普通だ。


やはりどこにでも人の事を考えないバカっていうのはいるもんだな。それとも女の人をそこまで惹き付けるほどアッシュは魅力的なのか?チャームの力を宿してるとか?でも右目下に泣き黒子ないしなー。そもそもこいつ第四次聖杯戦争に出てねーだろ。


「それほど魅力的なんだろう。誰かさんと違ってな。」


ミネストローネはそう言って笑いながらこっちに目を向ける。


「はいはい普通顔で悪かったな。」


「モブ顔だ。」


「一々嫌な言い方しなくていいだろ!」


この子ほんと口悪いわ~。


「いったいどうすればいいんだろう。」


イケメンは頭を抱えるところまでいっていた。


かなり追い詰められているのが見てとれる。


この男を見る限り頭の悪いやつでも性悪なやからでもない様子。


イケメンというところには腹が立つが、こいつはすごくいいやつだ。というかそのオーラがびんびんに伝わってくる。


正直こんな善良なやつはあっちの世界では見たことがない。


これも仕事だしこういうイケメンの力にならなってやってもいいかもしれないと思えてきた。


だが、まだ足りない。もうちょいやる気が出るスパイスが欲しい。


「唐突だけど、お前女の人が好きか?」


「え?」


アッシュは困惑の顔色を見せる。


「まあ、そうだけど。」


おー、女にはうんざりしてるかと思ったら普通に好きなんだね。男の子なんだね。


俺は次の質問に移る。


「今までの経験人数は?」


「け、経験人数?!」


アッシュは顔を赤くして狼狽える。


どうせ童貞じゃないんでしょ?そうなんでしょ?


「いや、まだ、だよ。」


目を逸らし恥ずかしげに言うアッシュ。


え?まだなの?俺と同じ童貞なのか!おー、なんか安心感が出てきたわ。ていうかこいつ可愛いな。男の娘属性でもあるのか?


「じゃあ今まで交際した女性の数は?」


「いや、1人もいないよ。」


アッシュは何の話しだかよくわからないという顔で答える。


え?こいつ誰とも付き合ったことないの?俺と同じか!うおおお、何か親近感湧いてきたわ!


心の中でガッツポーズをしている俺に一人の女が冷たい声音を吐き出す。


「何を考えてるのか知らないが、それは必要な情報か?興味本意で聞いたんじゃないだろうな?」


「なっ…!べ、別にいいだろ!気になっちゃったんだから!」


ミネストローネに見抜かれてしまっていた。


この表情は怒っているというより見下してる感じの目だ。冷たい!というかもはや痛い!いいじゃん聞きたかったんだから!プライバシーの侵害だとでもいいたいのか!


そこでアッシュがきょとんとした顔をしている。


俺は一つ咳払いをした。


まあ、こいつのためなら知恵を絞ってもいいだろう。


そしてしばらく本気で考えた。


その後、一つの結論を導いた。


「方法はある。」


「本当?!」


アッシュは目をキラキラさせてこちらを見る。


餌を目の前にした犬のようだ。やだ食べないで。


「だけど完全な解決にはならないと思うしお前にもリスクがある。それでもいいか?」


「うん!」


俺はアッシュに俺の考えを全て告げた。






それから数日後、手紙が届いた。


相談後は手紙とかで伝える感じなのね。


俺は手紙をそっと開く。


すると自然とミネストローネが近くに来て手紙を見やる。


アッシュからのようだった。


「先日はお世話になりました。アッシュ・レインフォルトです。アキト君の言う通り、僕は男の人に興味があるとファンクラブに告げたんだ。」


あー、あれほんとに言ったんだ。


案はいくつかあった。


一人の女性に恋人のふりをしてもらい他の人に遠慮させるというニセコイ作戦。


だがこれは恋人役の女性の身があまりにも危険なので却下だ。


そこでやはり一番有効的なのは、同性愛者と公言することだ。


こうすればさすがに女の人たちも幻滅して諦める人が多くなると思った。


それに騎士団というのは男が多いイメージだ。


だから必然的にアッシュは男の人といるときが多くなる。


そこで割って入るようなうつけはいないだろう。


なぜならアッシュが同性愛者なら、男の人と一緒にいるときは至福の時間になるだろうからな。


これで騎士の仕事中に迷惑がかけられることはなくなった。


そして必然的に時間外、深夜なども呼び出しは少なくなるだろう。


これは単なる俺の偏見だが、人の迷惑も考えず夜に出歩く女などろくでもないやつらだ。


そんなやつは大抵顔がいいからとかそんな性欲剥き出しのアホな理由で深夜に呼び出してアピールしてたんだろう。


そういうやからは思いも薄っぺらいから同性愛者と知ったらすぐに諦めるだろう。


以上のことから同性愛者が一番いいと思われた。


だがこれは奴にリスクを背負わせることになる。


それは周りからの評価が変わってくるかもしれないことだ。


どんなに顔や性格がよくても同性愛者というのはいい目では見られない。


極端に言えば異端扱いされることも少なからずあるかもしれないということだ。


まあ奴は人徳もすごそうだからそういうのは平気だとは思うが。


このことを説明したとき二つ条件、というか約束をした。


もしアッシュに好きな人が出来たときの話しだ。


その人に同性愛者は無理という理由で断られたら、俺のところへくるという約束だ。


アッシュ一人の説明だけじゃ信じてもらえないかもしれないから、俺とミネストローネで全力でアッシュの事情説明と同性愛者というレッテルの偽りについて語ってやる、ということだ。


これでおそらく誤解は解けてアッシュは交際へともっていけるだろう。


そして交際が始まったあかつきには、その女の人が他の人から怨みを買ってしまう危険がある。


そんな時にもなんとかしてやるからうちにこいと約束した。


俺優しすぎだろ!でもまあ、今回は報酬はもらったけど解決に至らなかったわけだからそれくらいはしてやらないとな。あとアッシュはいい人だしな。うん。


「すると、自分の周りから女の子の気配が一気に消えるようになったよ。本当にありがとう。僕の同性愛については親しい人達だけに説明したんだ。そしたらすぐにわかってくれた。あの人たちはいい人だ。」


お前もな。


「でもちょっと気になってることがあって……。最近女性達が遠巻きに自分を見ているんだ。それは前と変わらないんだけど僕が男の人といるときだけ、なんというかねっとりとした視線を感じるようになったんだ。これはいったいなにかな?」


あちゃー。マジか。この世界にもいるのか。男同士の愛を愛して妄想にふける伝説的な女子。ギャルとは対をなす存在。


腐女子が!


そこまでよんでなかったわ。すまんな、アッシュ。しばらくは女子たちのおかずになってくれ。


こうして一応一件落着したのだった。

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