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プロローグ

窓から射し込むやんわりとした日の光が体を包む。


鳥たちは流麗なダンスを踊るかのように囀りながら羽ばたいていく。


いつもの朝の訪れを感じ、目をゆったりと開ける。


体を起こし一つ伸びをする。


「もう、朝か…。」


眠気の取れない目を擦りながらベッドを降りる。


そして自分の部屋のドアに手をかけ、リビングに赴く。


この家は基本木でできている。


内装は自然の木をより強調している英国カントリースタイルといったところだ。


「む、遅いではないか。」


「もう起きてたのか…。」


すでにそこには一人の人物がいた。


見目麗しいその女性はテーブルのイスに腰をかけている。


着ている服はいつものゴスロリ衣装。


女性といっても中学生ぐらいのガキだが……。


もう朝食は用意されていた。


トーストとジャムだけだけどな。


目の前の幼女はそれを食べ始めている。


俺が起きるまで待ってるとかしないのこいつ。


「いただきます。」


俺もイスに腰かけて朝食を頂く。


唐突ですが、ここは異世界です。


どうしてこんなことになっているのか、それは数週間前に答えがあります。


聞きたいか!俺の武勇伝!





表裏明人。


職業 高校一年生(引きこもり中)。


年齢 16歳。


それは、ある冬の日の昼下がり。


前代未聞の大雪が降り注いだ二日後のこと。


その雪達は温度も上がらず、日もしっかり当たらないとあることが起きる。


それは、氷となって辺り一面スケートリンクに変化するのだ。


俺はいつものようにコンビニへとお菓子を買いに行っていた。


長靴も履かず、スニーカーで出歩いたのが行けなかったのだろう。


だるそうに歩いていたところ急に足元が滑り、思いっきりすっころんでしまった。


今考えるとただのアホですね。


あまり関係ない話しだけどニュースで路面凍結の注意呼びかける時に一般人がこけているところ放送すんのって、ひどくない?こうならないよう気を付けましょう(笑)って感じでバカにされてる感がヤバい。


そして運の悪いことにその光景を後ろを歩いていた小学生5人組に見られてしまった。


「あっははははははははは!だっせー!」


みんな口をそろえて俺のことを大嘲笑いした。


そこで怒りを覚えない明人ではない。


最近の子供の教育どうなってんの?失礼だと思わないの?もはや細菌の子供と呼ぶまである。


「おいガキども。てめぇら埋めんぞ!」


尻をさすりながら凄んでみたが、効果はゼロ。


むしろ態度が悪化した。


「やーい、やーい。全然怖くないもんねー!」


今どきやーいとかいうガキ普通いねーぞ?昭和生まれかお前ら。


そんな子供達は俺に雪玉の嵐を降り注いできた。


その雪玉はもはや氷の域に達しており鈍器をぶつけられているような衝撃にみまわれた。


俺は顔面を守るのに精一杯だった。


だがもう俺の堪忍袋の緒はブチッと切れてしまった。


「てめぇらいい加減にしやがれぇぇぇ!」


発狂に似た声で叫んだ後に全力で小学生の方へ駆け出す。


「やべえ、みんな逃げろ!」


一人の掛け声を合図に逃げ出す5人組。


俺は引きこもりらしからぬ俊敏な動きで着実に距離を縮める。


「止まれガキども!」


「やばい!あの人ほんとにやばいよ!」


小学生達は狂気じみた俺の表情を見て少し涙目になっている。


泣きわめきながら逃げる小学生を追いかける引きこもり高校生。


この光景を切り取って絵にしたら題名は「YO☆MO☆SU☆E」と名付けよう。


そして追いかけていくうちに一人が氷で滑って転倒した。


「鼻垂ー!」


転んだ小学生に仲間の一人が呼びかける。


なにそれ名前なの?


あだ名だったら悪意を感じる。


名前だとしたら親はこのガキにどういう願いを込めたんだよ。バカにされること間違いなしだろうが。


俺はようやく捕らえたと思いゆっくりと近づく。


転んだ小学生はもう泣いている。


鼻水を垂らしながら。


不覚にもそこで俺は名前の由来を察してしまった。


仲間達はこの子を見捨てて逃げていったようだ。


さすが小学生。本能のままに生きている。足手まといはいらないってか。それともこいつが俺のことはいい先に行け!とか言ったのか?軽い死亡フラグだぞ。


だが俺にとっては好都合。


ふっふっふっと勝ち誇った笑みを浮かべ拳を鳴らす。


小学生は泣きじゃくっている。


「ごべんなざい!」


「謝るのが遅かったな。引きこもりの力、見せてやんよ!」


そこで一気にガキに距離をつめる。


だがその瞬間、路地から出てきた車両にひかれてしまった。


「あふぅん?!」


それが俺の最後の言葉だった。


朦朧とした意識の中で路地の方に目を向けると、そこにあったのは。


スクーターだった。


それに少し飛ばされ打ち所が悪かったため死亡したということらしい。


俺は小学生を追いかけまわしたあげくただのスクーターにひかれて人生を終えてしまった。


おお明人よ!しんでしまうとはなさけない。


というか情けなすぎてもう二、三回死ぬ勢いだ……。





その後目覚めた俺は暗い空間にいた。


どこまでも漆黒が続く世界。


これが死後の世界というやつなのだろうか。


そんなことを考えていると、不意に一筋の光が見えた。


とりあえずそこへ向かっていき光に突っ込む。


抜けた先は自然に溢れており、周辺全ては緑で覆われている。


植物は唄を歌うようにサーっと風に当てられている。


動物の鳴き声もちらほらと聞こえ、自然を実感させる。


そよ風は気持ちよく、当たる日の光りはとても温かい。


え?なんなの?まさか、これは異世界来ちゃった感じか?それとも死後の世界か?どっちにしろ異世界だな、うん。


見たことない風景に夢とは到底思えないほどはっきりしている意識。


これは異世界に来てしまったと考えていいのではないだろうか。


ひとまず俺はこの世界で生きていくために寝床と食料を探すことにした。


てか俺順応性高いな……。この状況にほとんど狼狽えてないぞ。


俺は自分に呆れながら自賛した。


しばらく歩いていくと、なにやら奇っ怪な物が道に転がっている。


それはうつぶせでううう、と呻いている。


アニメで見るゴスロリ衣装をした少女のようだった。


この少女を………


1 見捨てる

2 放置する

3 見なかったことにする


実質選択肢一つだな……。


俺は三番を選び何事もなかったように横を通りすぎようとする。


だが脇を抜ける足を少女に急に掴まれる。


俺はバランスを崩しそのままビタンと鈍い音と共に地面と熱い口づけを交わした。


「ってぇ~。なにすんだよ!」


打った顔面をさすりながら振り返る。


「血を……」


少女はのっそりと起き上がる。


「え?」


ぼそぼそと喋る少女に聞き返す。


「血を、よこせ!」


しゃあと威嚇する猫のように襲いかかってくる。


「なんだか知らないけどお断りします!」


そう言って俺はバッとその場から退散する。


追いかけたり追いかけられたり。今日は全世界強制鬼ごっこでもやってるの?


その場から数十メートル離れたところで振り返ると遠くでまたゴミのように転がっている黒い物体があった。


なにしてんだあいつ。


俺は来た道を戻り少女のもとへ赴く。


「お前、なにもの?」


単刀直入に聞く。


「すまぬ、その話しはあとで……。とりあえず血を、吸わせて貰えぬか…。」


か細い声で懇願する少女。


俺も人並みの善意は持ち合わせているつもりなので、こういうのはちょっと放っておけない。


「はぁ、まあ、少しならいいけど。」


「本当か?!」


少女はバッと顔を上げ目を輝かせる。


その顔はこの世の者とは思えないほど可愛らしく、俺の心は一瞬奪われた。


ロリコンなら確実に手を出してたレベル。もう少し歳をとってればよかったのにな~。残念、また来週。





少女は俺の首筋に後ろから噛みつく。


そしてそこから溢れ出たさらさらとした血液を啜っている。


俺はぞくぞくとした寒気と妙な興奮を覚えた。


姫柊さんもこんな気分だったのか。そりゃあんな色っぽくもなるわ。


しばらくすると少女は口を外す。


「ふぅ~。中々、いや絶品だったぞ、人間。」


血の味誉められてもなんも嬉しくない。


「そうかよ。それはよーござんした。」


俺はぶっきらぼうに返答する。


「で、お前はなんなの?」


「おお、そう言えば教える約束だったな。よかろう、特別に教授してやる。ありがたく思うがいい。」


少女は自慢気にふふんと鼻を鳴らす。


その上から目線どうにかなんないのか?あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ。


「私の名はミレイナ・ネル・アウストローネだ。」


「なんて?」


名前長っ。魔王の赤ちゃん並の長さだぞ。


あっちはベル坊と略していたので、こちらもてきとーに短くする。


「だから、ミレイナ・ネル・アウストローネだ。ミレイナと呼ぶがいい。」


「あーはいはいよろしくなミネストローネ。」


「変な略し方をするな!」


この少女がミネストローネを知っているかは定かではないが、気に入らないらしい。


いいと思ったんだけどな~と呟く俺をミネストローネは訝しげな目で見てくる。


「貴様、私を甘くみてるな?」


「いや、むしろお前の場合酸味が効いているんじゃないかと。」


「ミネストローネの話しはもういい!」


「知ってるのかよ……。」


まあ普通は酸味を抑えるように工夫して作るのがミネストローネだ。お前は酸味すら抑えられずトマトにやられる愚か者だと遠回しに言ったのだが、まさか微妙に通じるとは…。


「まあ私は寛大だから、今の発言は水に流そう。それより、命を救われたのだ。なにか願いを言え。可能な限り叶えてやろう。」


「ふーん、じゃあ当分の寝床と食料をくれ。」


率直に用件を言った。


「即答だな…。ふむ、寝床と食料か。ならば私の家に来るがよい。」


案内された場所は森だった。


そのなかを数十分歩いた後についたのは、一つの大きな泉。


そしてそれより一回り小さい木の家が、泉の真ん中にあった。


かけられている橋を渡り、家の中へ入っていった。





そのあとは、ミネストローネに色々なことを教わった。


まずこいつが倒れていた原因は鉄分不足。


吸血鬼らしく、食とは別に一定時間以上鉄分を摂らないと死んでしまうらしい。


凄まじい距離を移動をしてしまい、鉄分が足りなくなってきたと自覚したのはこの家から遥か遠くの地点。


この家にあとちょっとのところというところで力尽きてしまったらしい。


アホだ。


そしてこの世界は勇者と魔王の抗争している世界。


領土はほぼ半分半分。


今は大きな戦はなく、冷戦状態らしい。


なにげに今の状況は、魔王側にとっても勇者側にとっても平和に満ちているらしい。


だったら和解しろよ。まおゆう展開もワンチャンあるだろ。


その魔王の娘がこのミネストローネ。


戦闘力最強の実力を持っていると言うが本当かどうかはわからない。ちょっと中二病をこじらせたただの痛い子かもしれない。全く最近のガキは……。


この世界の状況を知ったあとは、言語を教わった。


言葉は通じるが、文字は違うらしい。


最初にミネストローネの綴りを教えてと言ったら、蹴りで真上に吹き飛ばされた。


屋根を突き抜け宙を舞い、重力のまま泉に落ちた。


戦闘力最強は本当かもしれない。


そんなことをしながら1週間が過ぎた。


そうするとこのガキは食料がないと言い出した。


「どうしたものか……。」


「いやいやいや、今までどうやって生活してたんだよ。」


食料の供給をどこからかしているのだろうと思っていたがそうではない様子だった。


「実は、私はお父様とケンカしてプチ家出をしていてな。ありったけの食料を持って家を出てそれきりなのだ。」


マジかよこいつ…。


「じゃあなにか?食料のあてはないと。」


「その通りだ!」


「どや顔でいってんじゃねえよ!てかじゃあこの家とかどうやって手に入れたんだよ。」


「魔王軍のものが昔別荘にしていたものだ。もう使わないだろうからリフォームしたのだ。中々住み心地がよかろう?」


「そーだな~。じゃねぇよ!これからどうすんだ!」


ふむとミネストローネは顎に手を当てて考える仕草をする。


「自給自足というやつか…。」


「それじゃあちょい厳しいだろ。それに日用品とかはちゃんと買わないとだろうし。」


「じゃあ商いとかか?」


「お前できんの?」


「できん……。それじゃあ、どこか人のもとで働くとかか?」


「お前できんの?」


「できん、というかあまり気は進まんな……。それじゃあ、曲芸とかで稼ぐか?」


「お前できんの?」


「できんな……。というか貴様私任せにしようとしてないか?」


「そりゃお前任せだよ。」


「貴様居候の分際でその態度はなんだ!」


「お前の命救ってやったんだぞ!これはちゃんとした対価だ。お前が働くのは当然だろ!」


額をぶつけ合い歪み合う。


だが二人ともすぐにため息をつきぐたっとする。


「本当にどうしたものか……。」


「……はあ、仕方ない。」


「なにか案があるのか?」


ミネストローネはさして期待をしていない目で俺を見る。


「お悩み相談、てのはどうだ?」


「………はあ?」


ミネストローネはなにいってんだこいつという表情でこちらを見やる。


「変に商いとかをするより、こっちの方がいい。」


「その心は?」


俺は利点を一つずつ伝えていく。


「まず、報酬は自営業だし人を雇わないから全てこちらのもの。」


ミネストローネに反応はない。


無言で続きを促しているのだろう。


「次にこの家から必要な時以外動かなくていい。お前が貧血で倒れる不安も減る。」


「そのことについては貴様がいればいい。」


お前がいればいいなんて嬉しいセリフ言うじゃねえか。でもそれはもう非常食に近い感じのいればいいなんだよな……。俺をカンパンとしか見てないのかこいつ。


「そんな一々血を吸われてたまるかよ…。」


俺ははぁ…と幸せが逃げていくような息を吐く。


「まあいい。最後に、人のもとで働きたくない。商いもできない。それで稼ぐとしたらまあこんくらいのことだろう。」


最後は消去法による利点。


他の利点は、俺がより詳しくこの世界を知るためでもある。


この世界を表面的に知るだけならば、図書館にでもいけばよい。


だが時代は流れるもの。


より詳しくリアルタイムのことを聞くには他人とコミュニケーションをとるのが手っ取り早い。


「で、具体的にどうやるんだ?」


ミネストローネはこの案に納得したようで話しの続きを促す。


「チラシとか配って人を呼ぶ。そんでその人の悩みを聞いてあわよくば解決方法を見いだす。」


ざっくりと説明をした。


こんな説明でも理解を得たようで、ミネストローネは一つ頷いた。


「その提案、乗ったぞ。」


「ああ。」


そもそもお前がパパと仲直りすれば全て解決なんだけどな。


そしてミネストローネと俺はチラシを作り、魔王側勇者側問わず少ない数だがチラシを配った。


チラシ内容はというと……。


お悩み相談なんでもござれ!など、他にはチート能力はないけどニート能力なら誰にも負けない!とか書いておいた。なにを自慢してんだ俺は。






そんなこんなで今に至る。


人の入りはまちまちで、1日に数人来る日もあれば一週間音沙汰がない時もあった。


まあ盛況とは言わないが、暮らすには十分だった。


俺は別にチート能力で無双するわけでもハーレムを作るわけでもない。


魔王を滅ぼそうとしたりもしないし、当然勇者になりたいとも思わなかった。


俺はただ、新しくもらったこの命。


のんびりほのぼのスローライフを送りながら使いきろうと思った。

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