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仮面姫  作者: 雲居瑞香
番外編
53/55

ナタリーの考察

今回はナタリー視点です。










 シャリエ公爵令嬢ナタリーには、最近気になることがある。兄アルフレッドと、その恋人ミシェルの進展具合だ。ミシェルはナタリーの友人でもある。

 妹のナタリーが言うのもアレだが、兄のアルフレッドは非常に整った甘い顔立ちをしている。その上、女運がなく、変な女によく引っかかっていた。そんな彼が好きになったのが、仮面をつけた引きこもり令嬢ミシェルであった。


 社交界に出てすぐ顔の右上半分を焼かれたミシェルは、そのやけどの痕を隠すために仮面をつけるようになった。以来、彼女は引きこもっていた。彼女と友人になって一年。やっとナタリーも彼女の顔を拝むことができたが、気にするほどやけどの痕がひどいわけではない。しかし、そのやけどの痕を見て心無いことを言う人もいるだろう。だから、仮面はしたままでもいいのかもしれない。


 話がそれた。


 アルフレッドがミシェルを選んだことは、ナタリーに言わせれば壊滅的な女運のなさであるアルフレッドにしては奇跡的な出会いであると思う。仮面をつけており、趣味が少々変わっていることをのぞけば、ミシェルは基本的に素直で優しいいい娘だ。

 アルフレッドも、顔から勘違いされがちだが、別に顔を利用した詐欺師であるとか、遊んでいるとか、そう言うことはないまじめな人間だ。むしろ、不器用でヘタレだ。


 めでたく両思いになり、恋人同士となった二人だが、問題がある。二人とも押しが弱いのだ。


 これまで恋人がいなかったわけではないアルフレッドだが、先述したように不器用でヘタレだ。これまでは言い寄ってきた女性としか付き合ったことがないため、本当に好きな相手にどうすればいいかわからないのだろうとナタリーは思っている。

 そして、ミシェルだ。彼女も彼女で社交界デビュー直後に引きこもってしまったため、少し世間からずれている。彼女は膨大な知識と論理的な思考力をもつが、それは自身の感情には向けられないらしい。

 ゆえに、この二人はじれじれである。それを見ているのは楽しいが、しかし、お前ら、いい加減にしろよ、と思うこともある。


「一緒に植物園に行ってきたのでしょう? どうだった?」


 シャリエ公爵邸を訪れていたミシェルに、ナタリーは身を乗り出すようにして尋ねた。現在、王太子妃リュクレースに仕えているミシェルだが、今日の午後からは珍しく休みをもらったらしい。そこで、ナタリーは一緒にお茶をしようと誘いをかけたのだ。


 そして、現在に至る。


 質問を受けたミシェルは、にこりと笑って答えた。いや、いつも通り仮面をつけているから、実際のところはよくわからないけど。

「楽しかったですよ。珍しい植物がたくさんあって」

 とちょっとずれた答えが返ってきた。これでこそミシェルだが、ナタリーが問いたいのはそこではない。

「そうじゃなくて、お兄様とデートだったんでしょ。どうだった?」

「……」

 ミシェルが無言でうつむいた。以前、アルフレッドが仕事でミシェルとの約束をすっぽかす事態になったことがあった。あの時はアルフレッドの代わりにナタリーが一緒にオペラを観に行った。その時は楽しげだったのだが、その後、ミシェルと会ったアルフレッドの様子を見るに、ミシェルもそれなりに怒っていたようだった。

 まあ、ミシェルも『仕事と私、どっちが大事なの』タイプではないので怒ると言うよりすねていたと言う方が正しいのだろうか。


「ええと……楽しかった、ですよ?」


 こてん、と小首をかしげるミシェルだ。同じ言葉を繰り返すミシェルに、ナタリーはツッコんで聞いてやろうか迷う。相手がアルフレッドなら根掘り葉掘り聞いてやるのだが、ナタリーとて貴重な友人を失いたくない。まあ、ミシェルはあまり気にしないと思うが。


 だが、やはり気になる。


「それはもう聞いたわ。お兄様と出かけて、こう……お兄様と何かあったりした?」

 結局、直球で聞くナタリーである。やはり、ミシェルは気にした様子もなく「何か、ですか?」と首をかしげている。

「とくに事件などは起きませんでしたが、ナーシャさんが求めているのはそう言う答えではありませんよね」

「そうね」

 興味津々でナタリーは身を乗り出す。思春期のほとんどを引きこもっていただけあり、ミシェルは一般の女性が好む恋物語などには詳しくないようだが、それなりに興味はあるようだ。


「ええっと……」


 少し口ごもったミシェルだが、小さな声で「手をつなぎました……」と答えた。それで? と促すがミシェルは顔を赤くしてうつむかせ、答えない。

 本当に手をつないだだけだったら子供のお付き合いか! と言うところだが、彼女の反応的にさすがにそれはなさそうだ。これは帰ってきたらアルフレッドを尋問しなければ。思わずにやつく。

「そ、そう言えば、ナーシャさんとヴェルレーヌ公爵の方はどうなってるんですか?」

 ミシェルがやや強引に話を変えた。にやついていたナタリーは、すっと表情を消した。

「うん。可もなく不可もなくって感じで、このままいくと今年中に話がまとまって婚姻を結ぶことになりそう」

「そ、それはすごいですね……」

「政略結婚なんて、そんなものでしょ」

 あっさりとしたナタリーの言葉に、ミシェルが口をつぐんだ。自分は初めての恋を楽しんでいるが、友人であるナタリーは政略結婚だ。そう考えると、居心地が悪いのはわかる。


 しかし、ナタリーは自分が恋愛には向かないのを自覚していた。頭の出来のよさではミシェルの方が上だが、処世術に関してはナタリーの方が上だろう。社交界を知り尽くしてしまったナタリーには、あの世界で恋をしてみようなんて思えない。だから、ミシェルや、同い年と言うだけでよくつるまされる第二王女ヴィクトワールのようにはなれない。


「まあ、エリク様と一緒にいるのは楽しいわよ」


 主にミシェルとアルフレッドを尾行しているときが。エリクは欲しいときに欲しいツッコミをくれる。そう言う意味では、気が合うのだと思う。

「確かに、私たちをつけているときは楽しそうですね、お二人とも」

 ミシェルがさらりとそう言ってティーカップを傾けた。ナタリーは言われたことが理解できなくて、数秒間を置く。

「……え。気づいてた?」

 そう言うと、ミシェルは驚いたように言った。

「むしろ、気づかれていないと思っていたんですか?」

「……あー……」

 ナタリーはがっくりした。ミシェルの洞察力をなめていた。いや、これは洞察力云々の話なのか?

「尾行の見つけ方は、キトリさんに習ったんですよ」

 不思議そうなナタリーに、ミシェルが答えをくれた。キトリ。ミシェルの義母。ハンサムな女性であるキトリは、元騎士であるらしい。素人の尾行など簡単に見つけられるだろうが、教えてもらったことを実行できるミシェルもすごい。


「でも、植物園の時はいかなかったわよ」


 ナタリーが言い訳がましく言った。ミシェルは「知ってますよ」とうなずく。その日、ナタリーにはお茶会に出ていたと言うアリバイがあるのだ。


 まあ、それはともかく。


「ま、まあ、私たちの付き合い方が子供っぽいのは理解していますが……」

 あ、やっぱりミシェルも自覚があるのか。ヘタレなアルフレッドと押しが強くないミシェルだ。だが。

「まあ、私とエリク様も婚約者と言うにはおかしい関係だと思うけど……」

 自由に振る舞うナタリーに、エリクは付き合ってくれる。大人の余裕と言うことだろうか。わがままに付き合ってくれるし、呆れながらもナタリーを抑制したりせず、必要とあれば手伝ってくれる。話がそれそうになったら軌道修正してくれる。

「……」


 あ、やばい。改めて考えると、かなりいい人だ。


「ナーシャさん?」

 突然黙り込んだナタリーに、ミシェルは小首を傾げた。ナタリーは軽く笑って「うん。何でもない」と答えた。ぬるくなった紅茶をすこし口に含んだ。


 とりあえず、他人の恋路に首を突っ込むと、自分にも返ってくることが良くわかった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ナタリーに返ってきた思わぬカウンター(笑)


次はミシェルの弟、マリユス視点。



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