表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面姫  作者: 雲居瑞香
本編
43/55

Stage.14

今回は浮かれているアルフレッド視点。リア充爆発しろ。












「お前……顔がゆるみ過ぎて気持ち悪いぞ……」


 ついに王太子にまで言われた。アルフレッドはさすがにちょっとショックだった。常に頭のねじが緩んでいるような王太子に言われてしまうとは。


 昨日、ミシェルに好きだ、と言われたアルフレッドは、自分でも浮かれている自覚があった。かなり間は開いたが、アルフレッドの告白の返答が帰ってきたと言ってもいい。

 アルフレッド的にはうれしい返答ではあるのだが、なぜ突然言う気になったのか気になるところではある。実際に、尋ねてみた。


『私……自分なんかがアルフレッド様の隣にいてもいいのかと思って。でも、居心地が良くて、だ、誰かにとられてしまうくらいなら、言った方がいいと思って』


 理知的な素顔を裏切らぬ理性的な彼女にしてはしどろもどろな口調だったが、だからこそ、彼女の本音なのだとわかった。

 ミシェルが婚約に対する返事はくれなかったので恋人同士となるわけだが、それでも満足だ。婚約はしり込みされたが、恋人になるのは拒否されなかった。彼女の基準が良くわからない。

 そんなわけで、アルフレッドの機嫌がいいのだ。そして、自分でも顔がゆるんでいる自覚はある。

「いや、まあ……よかったな。仮面云々はともかく、ミシェル嬢はいい子だし、まともだから、シャリエ公爵夫妻も一安心だな」

 王太子がさりげなくひどいことを言っているが、アルフレッドもいままでに『まとも』ではない令嬢に引っかかった自覚はあるため、否定できなかった。いや、仮面をつけているミシェルがまともかと言われたら疑問を覚えずにはいられないが。

「……まあ、そうかもしれませんね」

 実は、まだ家族には言っていない。言ったらナタリーとジョゼットは大喜びしそうだが、まだ言っていない。そのうち言わなければ、とは思っているのだが。


「……それより、ミシェルが面白いことを言っていたのですが」

「なんだ突然。のろけ話なんて聞かないからな」


 王太子が言った。なら、いつも王太子夫妻ののろけ話を聞いているアルフレッドの立場は。そもそも、別に付き合うことになったというだけで、のろけるようなことは何もない。


「そうじゃなくて、反王政派のことを聞いてみたんです」


 政治関係には詳しくないと言っていたミシェルであるが、だからこそ見えてくるものがあるのだろう。そもそも、彼女は順序立てて考える、という行為が得意な人間である。参考までに聞いてみたのだ。

「お前……可愛い恋人に浮かれて情報漏洩するなよ?」

「別に詳しいことは言っていません。まあ、彼女だから察した可能性はありますが、反王政派が何を考えているのか推測してもらいました」

「やっぱり官吏に欲しい人材だよなぁ」

 王太子がしみじみと言った。この国には女性官吏がいないわけではないが、少ない。

「ちなみに、その話もふってみたら、『興味はあるし宮殿内をうろつけるから魅力的だけど、縛られるから嫌』って言われました」

「……まあ、確かにな」

 王太子妃の侍女だからできることを、ミシェルは求められている。官吏になったらそれができなくなるのだから、ミシェルの反応は当然だ。


「で、ミシェル嬢の見解は?」


 結局聞くのか、と思いつつ、アルフレッドは答えた。

「とりあえず、反王政派の動きがおかしいことと、彼らがかつての王朝の末裔を祭り上げようとしていることを話しました」

 それで、と王太子が続きを促す。

「前提からして間違っているのではないか、と言われました」

「……ぜ、前提?」

 動揺した王太子の言葉に、アルフレッドはうなずく。

「私たちは現在の王政を否定している彼らを反王政派と呼びますが、末裔を祭り上げようとしているのなら、反王政派と言う呼び名はおかしい、という話から始まりました」

「ま、まあそうだな」

 便宜上、そう呼んでいるだけであって、アルフレッドたちも現実にそぐわないことを理解している。


「彼らが『祭り上げよう』としているのではなく、その末裔が自分を『祭り上げさせよう』としているのではないか、と言っていましたね」


 王太子がキョトンとした。しかし、じわじわと理解してきたのか、ゆっくりと口を開く。

「……そう、だな。自分からなりたい! というより、周りから推薦されている方が周囲からの印象がいいからな……」

「まわりがこの人がいいって言ってるからきっといい人なんだろうって思うんでしょうね」

 アルフレッドが言うと、王太子は彼の方を見た。

「それ、ミシェル嬢からの受け売りか?」

「否定はしません」

 アルフレッドは目を閉じてミシェルが言っていたことを思い出す。


「……過去の王朝の末裔が、周囲に反発されずに王位を継承するにはどうすればいいと思いますか」


 唐突な質問に、王太子は「えっ」という表情になる。実際に声にも出ていたかもしれない。まあ、これもアルフレッドがミシェルにこの質問をされた時も戸惑った。

 もともと、王位を継承するはずでない人間が王になるためには、どうすればいいのだろうか。一番に思いつくのはクーデターだろうか。

 だが、ミシェルはそう言うことを聞いたのではないと思う。だが、過去の王朝の末裔だ。現在の王朝とは流れが違う。過去の王朝は、過去に権力争いに負けたから『過去』になったのだ。

 過去に王族と呼ばれていたからこそ、現在の王族は彼らを警戒する。そんな彼らが、再び王に返り咲くには、クーデター意外に何をすればいいのだろうか?


「……どうすればいいんだ?」


 答えが見つからなかったからか、王太子はそう尋ね返した。まあ、アルフレッドもミシェルに答えられなかったから、王太子を責めることはできない。

「……先に謝っておきますが、私に他意はありませんから」

「いや、それは謝ってないだろ。言い訳だろ」

 ツッコまれた。しかし、今から言うことは不敬罪にも匹敵する言葉である。ミシェルもそう言うことを言ったと言うことだが、彼女はそう言うことをさらっと言うから怖い。

「……たとえば、今、殿下が亡くなったとしたら、王位はどこに行くと思いますか」

「……ホントに不敬罪に匹敵するな」

 王太子は苦笑を浮かべて言ったが、怒っている様子はない。もともと、王太子はこんなたとえ話で怒るほど狭量ではない。


 現在、王太子カジミールが次に王位を継ぐことが決まっている。もし、彼が亡くなれば、その王位はどこへ行くのか。

 継承権第二位は、ヴィクトワールになるだろうか。続いて、エリクになる。おそらく、男系の王族として数えられるのは、この二人だけのはずだ。

 現国王には妹も、あと二人、男女の子供もいるが、三人とも他国で結婚している。そのため、普通に考えれば、王太子が亡くなるとヴィクトワールに王位が譲られるだろう。おそらく、ヴィクトワールとエリクの縁談が進められるはずだ。

「自分が死んだ時の話なんて、考えたことないけど、確かにありえなくはないわなぁ。カロリーヌはまだ小さいし、リュカの腹の子も性別がわからないからなぁ」

「ミシェルはたぶん男の子だろうと言っていましたが」

「そんなことまでわかるのか!?」

「……冗談ですよ」

 さすがのミシェルも、腹の子の性別まではわからないそうだ。まあ当たり前か。


「まあ、今の状況で私が死んだら、カロリーヌに王位が行くことはないな。まだ二つだし、成長するまで待って、と言うことになっても、そのまま王位が戻ってくることはないだろうし」

「と、なったら、やはり第二王女がヴェルレーヌ公爵と結婚して、女王になる公算が高いですね」

「と、ミシェル嬢が言っていた?」

「……そうですね」


 アルフレッドの話す推測は、全てミシェルが考えたと思われているらしい。

「でも、その前にヴェルレーヌ公爵が結婚していたら、どうなると思います?」

「エリクがぁ? 結婚するなんて話、聞かないぞ」

「……うちの妹と、婚約の話が進んでいます……」

「……うわぁお」

 身分的にも一番可能性が高い。ナタリーも嫌がってはいないようだし。

「あー……何となくわかってきた。エリクが結婚していたら、ヴィッキーの配偶者を誰にするか、という話になるよな。その時に、過去の王朝の末裔を! という声が上がると言うことか……」

「そう言うことですね……」

 反王政派は、それを狙っているのではないか、とミシェルは指摘した。だが、これは彼女の予想でしかないので、事実であるとは限らない。

「待てよ。と言うことは、危ないのは、私か?」

「そう言うことですね」

「……わぁ」


 王太子が背もたれに背を預けた。手を額に当てる。

「だが、それでも見取り図の話はどうなったんだ?」

「それは不明です」

「ミシェル嬢は?」

「わからない、と言っていましたね」

 一般人であるミシェルに意見を求めるのはいろいろと間違っているとは思うが、実際に、彼女の方が推理力が優れているので仕方がない。

「ですが、今年の社交シーズン最初の夜会で何かあるかもしれない、という可能性は消えていません」

「それなんだよな。夜会の警備って大変なんだぞ。警備担当、エリクだけど」

 どうやら、シュザン城のことがあってもエリクは信用されているようだ。まあ、ルシアンたちも罰せられていないので、おそらく、誰も何も言っていないのだろう。ヴィクトワールが幽霊を見た、と言って騒いだと言う話は聞いたが、王妃が一喝してたしなめたらしい。


 王太子も王太子妃も狙われている可能性がある以上、夜会は中止するのが望ましい。しかし、そんなことをすれば、相手を刺激してしまう。こちらが、その可能性に気が付いたと悟らせてしまうからだ。

 なので、できる限りいつも通りに行動するのが好ましい。

「……夜会は予定通り行うからな」

「わかっていますよ」

 アルフレッドと王太子は同時にため息をついて仕事に戻った。数日後に迫った夜会が憂鬱すぎる。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


果たして、さらっと不敬罪に匹敵することを言ってのけるミシェルはまともなのでしょうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ