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仮面姫  作者: 雲居瑞香
本編
30/55

Stage.1

皆さん、雪は大丈夫でしたでしょうか。私は意外と大丈夫で拍子抜けしました。


第二部開始です。たぶん、第二部で決着がつきます。たぶん。

まずはミシェル視点です。










 三月初め。レミュザ伯爵家の領城であるトラントゥール城で、ミシェルは修道院に入る準備をしていた。


「お嬢様~。本当に行くつもりですか」

「本気だから準備してるの。ポーラ、それとって」


 ミシェルが指さした本をポーラが差し出した。ミシェルは受け取り、箱に詰める。

「ねえ、お嬢様。やっぱり考え直しません?」

「もう決めたの~」

 しつこいポーラに、ミシェルは答える。ミシェルの部屋は、これまでにないほど片付いている。しばらく黙っていたポーラだが、やがて意を決したように言った。


「なら、私もついて行きます」


 その言葉に、ミシェルは仮面の奥で目を見開いた。

「ええっ。ポーラはついてこなくてもいいよ」

「いいえ。お嬢様が行くところには私もついて行きます。だってお嬢様、一人で生きて行けます?」

「家事は一通りできるよ」

 炊事洗濯、掃除など、ミシェルは一通りの家事ができる。薬づくりに関連して料理もするし、汚れた服を自分で洗濯することもある。


「そう言う意味ではなくて、お嬢様、どこかぽやっとしてるから一人にすると不安なんです。こっちが!」

「……」


 それは否定できないかもしれない、とミシェルが沈黙したところで部屋にノックがあった。ポーラが「はーい」と扉を開ける。

「お嬢様。お手紙が届いています」

 トラントゥール城のメイドだ。いつも雑然としているミシェルの部屋が片付いているのを珍しげに見ながら、メイドは部屋に入ってきてミシェルに手紙を手渡した。

 見覚えのある封筒に封蝋がしてある。前回この封筒が届いた時、王妃の封蝋が押してあったのだが、今回は同じ妃でも王太子妃の封蝋が押されている。宛名が間違いなくミシェル宛であることを確認すると、ミシェルは封を切って手紙を取り出した。


 間違いなくミシェル宛の手紙で、そして王太子妃からの手紙だった。


 簡単に内容を要約すると、よければ一年ほど自分の側付きをしてくれないか、と言う話だった。沈黙するミシェルをいぶかしみ、ポーラと手紙を持ってきたメイドが「失礼します」と手紙を覗き込んだ。

「王太子妃様の側付きですか」

「いいんじゃないですか」

 メイドもポーラもいいのではないか、と勧めてくる。しかし、ミシェル一人で決められることではない。


 困ったときは。


「キトリさーん」

 ミシェルはリビングで弟たちと遊んでいるはずのキトリを訪ねて行った。

「ん、ミシェル。どうしたの? 修道院に行くのは思いとどまった?」

 眠ったレオンスに毛布をかけながらキトリが微笑んで言った。上の弟であるマリウスは本を読んでいたのだが、ミシェルを見て駆け寄ってきた。

「姉上! またチェスをしてください!」

「うん。でも、あとでね」

「はい!」

 うむ。元気が良くてよろしい。ミシェルはマリウスの頭を撫でると、キトリに手紙を差し出した。

「これ、王太子妃様から届いたんですけど……」

「へえ。君も面白い人生だね。マリウス。しばらく本でも読んでなさい」

「わかりました!」

 マリウスは物わかり良くうなずくと、ソファに座って本を開いた。彼も、次の秋には寄宿学校に通うことになる。

 キトリはミシェルから受け取った手紙を見て「ふうん」と一つうなずいた。


「いいんじゃない。何事も経験だよ」

「でも……修道院に行くって連絡してるんですけど……」


 すでに、入る予定の修道院には連絡済みなのだ。王太子妃の側に仕えることになれば、数週間後に予定している修道院行きはキャンセルになる。

「それはもう一度連絡すればいいでしょ。きっと、これは君に修道院に行くなと言う思し召しだよ」

「……」

 一度行かないとなれば、決心が鈍ってしまう。ミシェルはため息をついた。

「まあ、私だけで決められることでもないから、ランベールに手紙を出してみようか」

「……はい」

 ミシェルはうなずき、とりあえず修道院に行くつもりでいることにした。
















 手紙が届いてから十日後。ミシェルの誕生日の前日である。トラントゥール城の城主であるレミュザ伯爵ランベールが領地に帰ってきた。しかも、一人ではない。


「ミシェル。誕生日おめでとう!」

「……あ、ありがとうございます……」


 ニコニコとミシェルの手を握って祝ったのはナタリーだ。戸惑うミシェルであるが、レミュザ伯爵が連れてきたのは彼女だけではなかった。

「おめでとう。一日早いが、とりあえずこれを」

「……ありがとうございます」

 ミシェルはとりあえずプリムラの花束を受け取った。白とピンクのかわいらしい花束を見つめ、それからこれをくれた人を見上げた。

「というか、お仕事はよろしかったのですか」

 問われたアルフレッドはその秀麗な顔をしかめた。そんな表情でもいつもの如く色っぽい。

「……あなたを何としてもうなずかせて来いと王太子殿下に言われた」

「……あら」

 そう言えば、アルフレッドは王太子の側近だった。王太子妃が、ミシェルに声をかけたことも、当然知っているだろう。王太子は妃の尻に敷かれている感じだったから、そうなっても不思議ではない。不思議では……ないのだが……。


「なんでナーシャさんもアルフレッド様もわざわざ……」


 もしかしたら、バースデーカードやプレゼントが届くかもしれない、とは思った。だが、まさか本人が来るとは思わないではないか。ミシェルはランベールを見上げたが、彼は笑顔でうなずいで見せるだけだ。

「いいじゃない。せっかくの誕生日でしょう。それに、放っておいたらミシェル、勝手に修道院に行っちゃうじゃない」

「……まあ、そうですね」

「それを阻止するのが私とお兄様の役目」

 ね、とナタリーがアルフレッドを見上げる。彼は硬い口調で「さしあたっては、そうなるな」と答えた。


「もちろん、あなたのお祝いをしたかったのも本当よ。それに、トラントゥールには来てみたかったし。可愛いお城よね」


 ニコニコと笑いながら、ナタリーが早口でしゃべる。これは、ありがとう、と答えるのであっているのか微妙なところだ。


「ミシェル。王太子妃殿下がお前の力を欲しているのは事実だ。名誉なことだぞ。ついでに、この話を受ければ、私は可愛い娘を神にくれてやらずに済む」


 明らかに後半が本音であろう、ランベールが言った。確かに名誉なことではあるし、ある意味、修道院に行かなくても自立できる形ではあるけれども、気になったのが。


「私の力って、私の力でお役にたてるものがあるんでしょうか……」


 令嬢として、必要なことはできる。マナーも大丈夫だし、社交も、まあ、苦手だができなくはない。もしかして、令嬢としての能力ではなく、それ以外の能力を欲されているのだろうか。


「……家事とかはできますけど」

「いや、そちらではない。お前、あるだろう。薬学とか、音楽とか」

「おお!」


 ミシェルは納得してぽん、と手をたたいた。教養面か。ミシェルは令嬢としては少しおかしい教養をもつが、知識には自信がある。

「……でも、何故いきなり……」

「まあ、それはお会いしてからのお楽しみだな。受けないのなら、話すことはできないと言われたぞ」

「……と言うことは、お父様も知らないのですね」

「む、何故そう思う」

 ランベールが腕を組んで少し怖い顔をした。ミシェルは笑って言った。

「お父様が王太子妃様の用件を知っているのなら、『話せないと言われた』ではなく、『話せない』と言うはずです。でも、お父様は『言われた』と言っていましたから、おそらく、理由はお聞きしていないのだろうな、と思いました」

「……相変わらずの推察力だな。王太子妃殿下は、お前のその力を欲しているのかもしれんぞ」

「……さあ。どうでしょう」

 ミシェルは小首をかしげた。別にミシェルは特別頭がいいわけではない。ただ聞いたこと、知っている情報から真実に近い予想を導き出しているに過ぎない。


 とりあえず、城主とお客様二人を迎えて、トラントゥール城はにぎやかになった。ナタリーは去年、王都のレミュザ伯爵邸によく遊びに来ていたので、ミシェルの弟二人とは面識がある。マリウスもレオンスもお姫様のようなナタリーがお気に入りだ。


 一方のアルフレッドは二人と初対面であるはずだ。彼も何度か王都のレミュザ伯爵邸に来たことがあるが、結局、弟二人とは会ったことがなかったはずである。

 最初は腰が引けていたマリユスとレオンスであるが、子供と言うのは順応力が高い。すぐに懐いた。特にマリウスは来年から寄宿学校に行くこともあり、アルフレッドにあれこれと尋ねていた。


「なんだかごめんなさい。突然来てしまって」


 小さな男の子二人に挟まれて戸惑っているアルフレッドを横目に、ナタリーがミシェルに言った。ミシェルも同じ光景を眺めながら首を左右に振った。

「いえ。驚きましたけど、うれしかったですし」

 単純に、友人が自分の誕生日を祝いに来てくれた、と言うのがうれしい。

「そう言ってもらえてほっとしたわ」

 それより、とナタリーは少し身を乗り出してくる。

「まだ修道院に入るつもり?」

「いえ」

 ミシェルは再び首を左右に振った。

「今年は、やめておきます。王太子妃様からのお誘いを、受けようかと思って。このままずるずると行くのは嫌ですけど……」

 王太子妃からの手紙には、一年ほど、と期間が書いてあった。とりあえず今年いっぱいと考えておき、来年どうするか、また考えなければならない。


 一度修道院行きを見送ってしまうと、その先もなんだかんだで決心がつかないのではないか。そんな気もするが、もし、父の言うようにミシェルの力が必要とされているのなら、やってみたい、と思ったのも事実なのだ。

 やらずに後悔するより、やって後悔しろとも言う。修道院にはいつでも入れるが、王太子妃の誘いはいつでもあるわけではない。

「良かったわ。今年も、ミシェルと会えるのね」

「そうですね」

 ナタリーが微笑むので、ミシェルも微笑んでうなずいた。王太子妃の誘いを受けることにしたミシェルは、王都に行くことが決まっているので、今年の社交シーズンに顔を合わせることになるだろう。

「トラントゥール城に来られたのもうれしいわ。城の中を案内してくれる?」

「もちろんです」

 トラントゥール城がおとぎ話の城のようであるのは、外観だけではない。この城は、ナタリーが似合いそうなかわいらしいお城であるのだ。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


まずはミシェルの修道院行き阻止です。

というか、調べてみたらプリムラの花言葉は青春の恋、あなたなしでは生きられない、だった……。


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