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幻"殻"夜話 1巻  作者: マフツ
9/17

第2"窪" 公"死"混同❽

「人を殺す行為が、"尊いわけがない"ですよ、先生」 

まさか自分の口からそんな言葉が出るなんて、少年は考えてもいなかった。

でも、沈められた心と入れ替わるように浮いてくる、冷静な自分は、落ち着いてそう結論を出せている。

それなりに"ヤバイ事"をしてきたつもりなのに、少年は自分以上に、外れてしまっている様に見えて仕方がない人を、夜の教室で見上げている。

値引きをされながらも元の、半値以下の価値になった"ナイフ"も、その人物の白衣の中に取り込まれてしまっているから、革の"殻"から出る事も叶わない。

「へえ、君も落ち着いたなら、寿崎先生、松和尚みたいな事をいうんだね」

最初、この教室に入って来たときと同じ、落ち着いた口調で根津が言う。

不思議と根津が、笑っているような気がしてならなかった。

少年の中での、想像上の根津の笑いに心は更に沈んで行き、益々、激情から遠いものになっていく。


けれど、激情から遠くなるほど、数日前に"務めを終えたばかり"という事で黒衣に、緑色の袈裟を身に付けて、対面した白髪の僧侶を思い出させる。

最初静かに、白髪の僧侶は自分を見つめてから、すぐに話のわかる大人という雰囲気になって、世話人が話しかけたなら、話を始めてしまっていた。

「寿崎……松和尚さん」

数日前に自分が勝手に、白髪で教職で僧侶である人の鞄を開け、勝手に覗き見た赤いファイル。

あの時、その前に、僧侶は、奥向きを手伝う檀家が、着替えの支度が出来たと報せにきて、その場を離れる時、確りと"注意"はしてくれていた。

"見てはならないよ"

世話人も、ご不浄(便所)を借りると、その場を離れてしまったから。

もし、あの時ファイルを見ていなかったなら、きっと自分はこの人の前には"引きずり出される"事はなかった。

「……もしかして、僕が電話した時の、あの和尚さんは、"和尚さんであって、和尚さん"じゃない状態でしたか?」

この"教師"という殻を被った人になら通じるだろう言葉で、訊ねる。

「bingo」

"大当たり"という意味を含んでいる、異国の言葉を根津は口にした。

それからチョークを常日頃使っている為によく鳴り響く"パチンっ"という弾けるような音を長い指を使い、教室に広げた。

「さあ、君の"認められたい"形を聴こうか?。

君がやってしまったことで、世間に認められる、表現できる言葉はなんだろう?」

その時、教室には闇夜ながらも、月光が射し込んでいた。

それが雲に遮られて、更に深い闇で教室を包まれた時、少年はゆっくりと口を開いた。

「だったら、僕は"ギロチン"に、なりたいです」

俄に出てきた、(いにしえ)―――とはいっても、根津が生まれた西暦には使われていた記録もある処刑器具の名前に、唆した方が、指を弾き鳴らした、その姿勢のまま固まった。

もし、何らかの灯りがあったなら、その光のもとに白衣を着た男が一瞬にして、血の気が引いた状態になっていることが、曝されていただろう。

けれど、今回は大禍時を越えた夜の闇が、根津の味方をしてくれた。

姿が見えないことと、根津が笑っていると未だに思い込んでいる少年は、全く気がつかずに、自分が"どうなりたい"かを口にする。

「ギロチンという、首を断頭する処刑器具がありますよね。

根津先生なら、知っていると思いますけれど。

あれって、作った人は全く違うらしいですけれど、処刑器具の名前の由来になった、"名前の元となった人物"の名前が、そのままつけられているっていうのを、書物で読みました。

それで、そのギロチンの名前の由来になった人は、あの有名な革命の余波で、自分の名前がつけられた処刑器具で、その命を果てたそうです。

例え名付け親でも、世の中の常識に外れた流れでも、その勢いの波に乗ったなら、容赦なく処刑する。

そんな象徴にみたいなものに、僕はなりたい」

―――自分を名付けたものでさえ、その常識から外れた流れを止められなかったのなら。

―――その命を奪い取る。

「……それを、私は"君の両親を殺した自白"という形で、受け取ってもいいのかな?」

懸命に、喉元にまで遡っている、吐き気を抑え込みながら静かに"確認"する。

「はい、自分の両親を殺したことは、十分周囲に衝撃や"凄いこと"って認めさせる事に、つながりますよね」

静かにそう返答する少年に、殻を幾分か削ぎ過ぎてしまった事に、"教師"は気がついた。

でも、二親を手にかけたというのなら、やはり"詰んでいる"とも言えるから。

「ギロチン―――"ジョゼフ・ギヨタン"、処刑器具の名付け親と"なってしまった人"は、処刑なんてされちゃいない。

それは、後世の人が勝手に作ったデマだ」

救いになるかどうかわからないが、根津は真実を口にする。

その時、再び優しく月光が教室を照らし始めた。

 「―――そうなんですか」

少年は、自分の信じていた物と異なる事実を聞いて僅かに当惑していたが、すぐに落ち着いていた。

もう起こしてしまった事実はどうしようも出来ないが、正式な事実と違った事を鵜呑みにしたまま、それなりに"これからも続く"人生を、送らせる事もないと根津には思えた。

"殻"を削ぎ剥いでしまった少年は、一気に大人びて―――"諦観(ていかん)"してしまっている。

もう《どうして、最後の自分の理想を壊した》という、言葉も"根津の前"では、口にしそうにもない。

「だったら、尚更、僕がやってしまった事は、僕自身の始末と決着をつけないといけなくなる」


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