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幻"殻"夜話 1巻  作者: マフツ
2/17

第2"窪" 公"死"混同➊


――――本日午前0時、××県○×拘置所内において、死刑囚2名の刑が執行されました。


3人分の朝食を終えた食器が載せられたテーブルの端にあるラジオから流れるニュース。

それを耳にしつつ、根津は姪っ子で養女でもあるユリに、歯磨きの仕上げを施していた。

そして、そのニュースを耳に入れた途端に、少しばかり慌てて、姪っ子の小さな口から歯ブラシの引っこ抜く。

「うわ、死刑のニュース?!。ごめん、ちょっとラジオを他の局にかえてもらえるかな?。

―――はい、ゴロゴロ、ぺーってうがいをしておいで」

現役保育園児でもあるユリは、伯父から歯ブラシを受けとると、小さなぷっくりとした頬の中心にある可愛らしい唇に、甘い歯磨き粉の泡と香りを浮かべたまま、コクンと頷いた。

ユリが"ててっ"と洗面所の方へ歩いて行くと、すれ違ういに学生服の少年がテーブルに向かう。

根津の頼みを聞いて、彼が教師として働く学園の高等部に通い、生活を共にする下宿の生徒がラジオに右手に触れた。

「わかりました、適当に変えますね」

朝食を終えた食器を片付ける為に左手に抱えたまま、器用に空いた方の右手の指先で、他の局の周波数に合わせる。

ザザッとした音の後、直ぐにピアノの伴奏と異国の歌が流れ始めた。

「ありがとう、助かるよ。恥ずかしいけれど、苦手なんだよね~、この年になっても"死刑"の話って」

本当に嫌そうな顔をしながらも、根津は戻ってきた義理の妹から託された、姪っ子がニコリと笑った顔を向けられたなら、落ち込んだ気持ちを一気に持ち直す。

「じゃあ、髪にリボンを結ぼうね」

ズボンのポケットから、昨日同僚の或瀬から貰った桃色のリボンを取りだし、肩の下の位置で結んでいる髪に器用に上から蝶々結びをした。

「ありがとうございます、おじさま」

そんな姪の言葉には、同僚の蔵元から"悪人面"と、からかわれる顔に優しい笑顔を浮かべる。

「帽子を被らないといけないから、下に結わないといけないのが残念。伯父さん的には、元気なポニーテール好きなんだけど。

あ、そうだ、琴城先生が、可愛い"ちりめん"の端切れで、ユリの為にシュシュっていうのを、作ってくれるそうだよ」

大好きな伯父さんに可愛いと誉められ、前にあった優しい人に、シュシュを貰えると聞いて、少女は本当に嬉しそうに笑う。


その後ろに、根津の姪っ子の保育園のリュックサックを抱え、支度を終えた少年が自分の通学鞄を手にしてやってきた。

「じゃあ、自分がユリちゃんを保育園に送ってから学校に行きますね。今日のお迎えも、自分でいいんですよね?」

今度は生徒の少年が根津の姪がリュックサックを背負うのを、手伝いながら確認する。

「うん、今日は会議があるから頼むよ。いやあ、本当に助かる!、私は食器片付けてから、学校に行くから」

「いえ、2年間前に助けてもらったのは、自分ですから。

たまには息抜きとかも、してくださいね」

そう言って膝まづき、カチリとリュックの前の差し込みのバックルを止めて、高校生と保育園児は支度を終えた。

「あはは、この前美術の琴城先生と呑んだから、また連休にでも―――。

あと、私も部屋が余ってるし、ユリの送り迎えで本当に助かってるから、気にしなくていいからね。

じゃあ行ってらっしゃーい」

「おじさま、うさちゃん、行ってきまーす」

大好きなおじさんと、ペットとして飼育していて、今は居間のケージの中にいるウサギにユリは小さな手を振ってから、玄関に向かう。

「じゃあ、自分も行ってきます」

「はーい、じゃあ車に気を付けて」

ヒラヒラと笑顔で手を振って、"パタン"とドアをしまった音がしてから、根津は覚悟を決める。

最近では充電器と仲良しな愛用のガラパゴス携帯を手に取り、気乗りはしないが、今日の日付と"死刑"と"執行"の文字で検索する。

極力"死刑"という文字を見ないようにし、親指を連打して直ぐに該当する検索結果が出てきて、ボリボリと頭を掻いた。

「やれやれ、2年ぶりに名前を聞いて確かめて見るのが、こんな公な形になるなんてな。

でも、"何言っても"聞かなかったからな」

その時、"ガタッ"と物音がし、苦手なことを調べていた男は、ビクリとした。

発生源を見たならば、姪っ子の飼っているウサギが、ゲージの中で跳ね、動いていた。

思わずため息を出して、もう一度検索内容を確認しながら呟く。

「ロップイヤーとか、可愛いのもいたのにな」

姪っ子がペットショップで選んだのは、ウサギの年齢で言うなら根津と同じ、三十路半ばだという、全体的にモフっとした茶色のウサギ。

「しかし、何かお前は不貞不貞しいな」

"大家"の根津の言葉を聞いているのか、いないのか、ウサギはフコフコと小さい鼻を動かしていた。

「まあ、不貞不貞しいだけなら、別に問題ないか」

そう言ってガラケーの画面に浮かぶ文字を読む。

「死刑の場面を見るのは苦手だけれども、死刑自体には反対しているわけではないんだよね。

"馬鹿は死ななきゃ治らない"というよりは、"馬鹿は死なせなきゃ止められない"っか」

"聴かせる相手"を考え選ばないといけない言葉を、独りの時間に遠慮なく口にだした。

「"(おおやけ)"に認められる死にはなっているけれど、君はそれで良かったのかい?」

最早時代遅れと言われるガラパゴス携帯の狭い画面の中。

卒業間際の僅かな時間しか関わらなかった生徒の顔が、"無法地帯"とも呼ばれる場所に晒されていた。


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