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幻"殻"夜話 1巻  作者: マフツ
15/17

第2"窪" 公"死"混同⓮〝二つの殻〟

執行された"2つの死刑"がニュースとして報じられる前。

「―――はい、態々(わざわざ)ご連絡、ありがとうございました、失礼いたします」

岩さんが、慇懃に言葉を口にした後最近では見かけることすら困難になった黒いダイヤル式の受話器を静かにおいた。

すると、耳にいつもよりも長い時間、朝の勤めに経文を読み上げる和尚の声が入ってくる。

「こういう時、自分の勘が外れたならいいと思いますが、そうもいきませんね」

ほんの僅かに哀しそうに、受話器の黒い背を見つめながら呟いた。 



世の中には"霊感"やら"虫の知らせ"、"第六感(シックスセンス)"と例える言葉が様々あるが、岩さんはそういった物に鋭い。

ただし、それは敬愛する寿崎松太郎に関わったもの限定という誠に不思議なもので、昨晩の日付が今日に切り替わった数分後に"やってきた"。

敬愛する和尚と繋がりのあった(えにし)が、1つ切れたのが判った。

そして、時期や条件を整頓が得意な、自分の記憶の棚を覗き鑑みたなら"彼"しか、岩さんには思い付かない。

(和尚様にお伝えしないと)

読書家の僧侶は、まだ起きている時間なので、岩さんは和尚の寝室に向かい、自分が感じ取った事を伝えると、和尚は"承知した"と短く答え、明日は早くに起床すると告げ、その日は就寝した。

翌朝、日も昇らぬ内に御祓を行い、僧侶は読経を始める。

そして一般的に寺が連絡を受ける午前7時に、あの少年の刑が執行されたと連絡があり、岩さんはそれをまた和尚に報告する為に、静かに御堂に向かった時、丁度門の前を通り新聞もあったので手に取った。

「こういったのが見出しに来るということは、それだけ平和という事なんでしょうね」

死刑囚2名の刑の執行の記事が目立つ位置にあって、恐らくは差し替え変えられたらしい春節の行事の小さくなった記事が下にあった。

軽く、読み流したなら、やはり岩さんの勘が的中していて、慇懃な檀家さんは悲しそうな表情を浮かべた頃、読経の声は止まった。

「御勤め、ご苦労様です」

いつもの様に、自分の傍らに影のように控える岩さんを目の端で確認してから、揺らぐ線香の煙を見つめながら、和尚も挨拶をする。

「おはよう、岩さん。

どうやら、その様子だと、やはり勘は当たった様子だね」

「はい、自分でもよくわかりませんが、和尚様の御縁が1つ途切れてしまった様子です」

そう言って、スッと檀家さんは新聞と、和尚の愛用している老眼鏡を差し出す。

「拝見しよう」

僧侶の務めの為に纏った黒の法衣から手を伸ばし、檀家さんが持ってきてくれた新聞に眼を通したなら、カサリと音が響いた。

「和尚様?」

「―――岩さん、私と途切れた様に感じた縁は"1つ"だと、言っていたね?」

寿崎が無駄に音をたてて、新聞の紙の音を鳴らしたのも、こうやって軽く興奮して質問してくるのも、珍しかった。

「はい、確か、1つだけの様に感じましたが」

それから白髪の和尚は静かに新聞を畳み、老眼鏡を外して、正座をしたまま岩さんに向かい合う。

「私が教誨師(きょうかいし)をしているのは、知っているね」

「はい、存じ上げております。

月に1度、拘置所の方に赴かれておりますよね。

それで、本日刑に服されたのは2年前の、あの少年と面会をなされていた」

岩さんを実年齢よりを若く見せている大きめの瞳を伏せるようにして、和尚が置いた新聞の方に視線を向ける。

「まあ、大抵は会うことを拒否されていて、時間を余すこともあった。

それで私が良かったならと、その拘置所で"別の咎人(とがびと)"の教誨を行う縁も出来ていたんだ」

その言葉で視線を落としていた新聞から、岩さんが眉を額によせて顔をあげた。

察しの良い檀家は、和尚が云わんとすること概ね理解したが、驚きをその胸の内だけで処理出来なくて口を開き、新聞に載せられている記事と、敬愛する和尚を何度も見比べる。

「―――待ってください、和尚様、それでは」

「そこに記されている人物が"そうなんだ"が、岩さんは、私と"途切れた縁は1つ"だという」

穏やかなのに、研ぎ澄まされた刃物の様な視線を、自分の影の様にも思っている人物に向けた。

「まず言っておくが、私は、岩さんの"(ちから)"を微塵も疑ってはいない。

これまでも、私と僅かに面識のあった御仁との御縁が途切れた時、例え岩さんに面識がなくても、ちゃんと報せてくれる(ちから)だ。

なら、ここに記されていることは、どういうことなんだろうか」

2つの縁が途切れたはずなのに、"影"に届いた報せは、"1つ"だけ。

「私の、力が"衰えた"という事にはならないのでしょうか」

それなら、それで済む話。

平穏な日常の生活の中で、不要な不穏を招く情報は要らない。

けれど、もし本当なら、大きく公開されなければいけない話でもあるから。

「残念ながら、岩さんの力が衰えたという事はないだろうな。無くなったら、私が困るよ、岩さん。

まあ、それに"あの少年"の縁が残ったとは限らないからな」

やや悲痛な声を出した檀家さんに、和尚は明るい声を出して、鋭い視線をおさめる。

そしてまた経をあげていたご本尊の方へ向きなおると、腕を伸ばして何かを手にとっていた。

「和尚様、話がずれるような事をお尋ねするのですが、もう一人の教誨をなさった方は」 

「ある意味で巻き添えをくって、大きな犯罪を犯した事になっている御仁だ。

約20数年前の、大学生の頃には身寄りのない子どもの世話をする福祉施設で、ボランティアをするような人物でもあった」

新聞記事には少年の事件と同じように、同日死刑が執行された男が携わった事件のあらましが記されていた。

死刑に至った罪状は、毒薬による、恋人の家族の殺人。

ただ、これまでも極刑だけは回避しようと、随分と長い時間をかけて控訴、上告を行っていたが、数年前に刑が確定して、時間をかけての執行に至った。

「そんな、ボランティアをするような方がどうしてですか?」

「その人は、恋人ともにボランティアを行っていたのだがな、ある時、その人が世話を担当する少年が事件に巻き込まれた。

その少年は、まあそういう施設にいる子にはありがちというわけではないんだが、特にその子どもは性格はひねくれてて、根性は曲がっていたんだ」

岩さんは、その子どもを語る口調で、松先生として和尚が勤めている場所にいる、白衣姿のある人物の生い立ちと性格に重なったが、とりあえず話の続きを待つ。


「ただ、ひねくれてはいたが、偉く勘も目付き鋭くてな。しかしながら、それなりになついていたらしい。

ある時、その頃は青年だった人に、"恋人"とは別れた方がいいと1度"忠告"していた。

青年が理由を尋ねても、少年は何も言わず、不貞不貞しく笑ったなら、遊びに行ってしまっていた。

恋人にも、それとなく話したが、

"私と付き合うことが、お兄さんを取られちゃうみたいな感じで悔しいんじゃない?"

と、ぎこちない笑顔で、答えたと言う。

けれど、少年が自分に執着しているようにも、ボランティアの青年には思えなかった。

そして、少年が事件に巻き込まれた日は、彼の恋人が少年を見るはずだったが、事件に巻き込まれたことで、遅い時間になったので結局青年が警察署に迎えに行った。

恋人はその日、少年の為に手作りの御菓子を、用意をしているくらいだったんだがな。

結局食べなかった。

ただ青年が勿体無いから自分が、食べようとしたら、凄い勢いで拒まれたらしい。それから恋人は目に見えて、青年の世話をする少年を避け始め、ボランティアもやめた」

そこで、松和尚は一息をつく。

「だが、勤勉な青年はボランティアを結局少年が、そういった世話が必要ではなくなる年齢まで―――大学卒業まで続けた」

岩さんには、暗に和尚様が

"そこで、恋人との縁が途絶えていたなら良かったのにな"

と、沈黙の中に含み語っているのが判った。

「大学も無事に卒業し、就職して一年目という時、恋人が懐妊したと言ってきた。

幸い就職先では順調だったし、恋人の家も教師一家だったのでそこら辺はまあ、少しばかり煩かったらしいが、青年は何より真面目だった評判は折り紙付で、縁談の1つとして纏まりそうだった」

「普通に、御目出度い話で終わりそうでしたのに」

そこまで聞いて、岩さんは新聞に何度目かの視線を落とすと、そこには"御目出度い"話に繋がる筈だった出来事の陰惨な結末が書かれている。

恋人の両親、姉は毒殺で亡くなり、そして恋人はその時は一命をとりとめた流産し、後に自殺したとそこには記されていた。

「そう、普通だったら。

真面目な青年は"先ずは挨拶をしにいこう"という事になって、恋人に進めらた店の茶菓子を購入し、自分で買って、挨拶に行った。

最初こそ苦言を言われ順序が逆だの言われたが、まあ筋を通して挨拶に来たし、恋人の家族が好きな茶菓子も持参してきている。

とりあえず、食べようという形になって、恋人が一番に口に含んだ。

他の家族も、食べたから自分も食べようと口にいれて咀嚼した途端、一番最初に食べた恋人が苦しみ始め、吐き戻した」

教誨師(きょうかいし)として、当人から聞いたままの話を和尚は語る。

「持参したお菓子に、毒物が入っていたというのですよね。

それで、菓子に毒を混入したのが、彼ということに?」

短絡的にも思えたが、彼以外に他に何か理由といったら、恋人側の家族が何らかの理由で行ったということ。

(青年が買ってきて菓子に毒物を混入し、巻き添えで家族を道連れに?)

岩さんには、そんな考えしか浮かばない。

出来ればもっと考えを広める為の情報が欲しいところだが、新聞の紙面には、罪状に至った殺人の数と経緯しかなくて、他に繋がりそうな考えを及ばせてくれない。

何より、菓子を持ち込んだ人物以外が全員亡くなってしまっている。

(生きて捕まえる事の出来る"配役(キャスト)"が、もう青年しかいなくなっている)

「生きている犯人を捕まえる事に、執着してしまったという事でしょうか」

岩さんがキュッと手を拳にしながら、和尚―――寿崎を見つめる。

「そうだな。"そうとしか片付けられない"という状況だったとしか言い様がない。

だが、やはり警察には動機というものが欲しい」

まるで岩さんの気持ちを拾い読んだ様に、和尚が穏やかに微笑んだ。

それから、和尚はご本尊の方に置いてあって手にした―――シンプルな黒い革の鞘に納まったナイフを新聞の上に置く。

それは根津が殻を剥いでしまった少年が"万が一"の為に持っていた、あのナイフだった。

少年が逮捕されたあと、白衣のポケットに入れたままになっていた事に気がついて、本当なら警察の関係者に渡さなければいけないのだろうが、

"何か嫌な感じがするから、マッサンに判断任せる"

と、喫煙所で報告のついでの様に渡される。

根津に渡されたナイフを手にした和尚も、確かに嫌な感じがするが、特に目立つものはないように思えた。

しかしながら、その場に居合わせた檀家の岩さんと、体育教師の蔵元が、根津が取り出したナイフを見たと同時に、眉間にシワを刻んでもいる。

どうやら"視える"2人には、大層禍々しい物が見えたらしい。

"……和尚様の経を聴かせたなら落ち着くでしょう"

"そうじゃのう"

岩さんと蔵元が続けてそういうので、見えない根津と松和尚は素直にそれに従うことにして、こちらも預かってから2年過ぎる事になる。

そして新聞の上にある黒い革に納まったナイフは、岩さんの瞳には2年前よりマシにはなったが、まだ禍々しい黒い靄がまとわりついていた。

「さて、繰り返しになるが"そうとしか片付けられないという状況"だったと、決定づける為には、やはり"恋人の家族を殺す動機"というものも、必要となるわけだが」

「―――恋人の家族の方に、そういった、家族を殺して、青年に濡れ衣を着せようという方はいなかったのですか?」

不意に慇懃な檀家さんである岩さんが、ナイフを視界にいれたまま、そんなことを口にした。

大層暗い眼差しているが、和尚は相変わらず穏やかに、自分の知っている事を口にする。

「実は、恋人の姉には、当時既に私生児となる"女の子"を産んでいる。

だが、妹も妊娠して折角結婚しようというのに、そういった事でご縁が流れるのも悪いと、その日はその事を隠そうという形で、話が進もうとしていた事が、逮捕された後に判ったそうだ。

親が教師という体面もあったらしいがな」

「隠していたということですか」

「勿論、青年は恋人の姉に、私生児がいたと当時聞いたとしても、気にはしなかっただろうがな」

和尚は互いの黒衣の袖に腕を差し込みながら、つまらなそうに語る。

体面ばかりを気にして、それを気にするばかりに、他の大切な事が疎かになりがちな、自分の仕事の1つに考えるものがある様子でもあった。

「その恋人さんの姉妹も、隠された赤ん坊も、親の教師という対面を保つために付き合わされたというわけですか、和尚様」

今も靄を纏っている、新聞の上にあるケースに納まったナイフの持ち主の少年の真実のあらましは、岩さんも聞いている。

哀れだとは思ったけれど、同調は岩さんには出来なかった。

そしてそれを今、聞いた話に慇懃な檀家は重ね始めているのを感じて、僧侶は"空咳"をした。

勿論、落としていた視線は上がり、岩さんは苦笑いを浮かべる和尚を見つめた。

「いや、実を言えばなここからが、因果な話というべきなんだろうが。

だが、先ず留意して欲しいのは、私がその青年―――とはいっても、関わりをもったのは、"少年の事件"があってからなんだよ。

だから、まずその人物は、事件が起きた時期は、若人かもしれないが、現在はこの愚僧より、年上だと言う事を忘れんでおくれよ、岩さん」

そう言って姿勢を浮かし、正座をしている脚を僧侶は組み代えるが、寿崎は背が高いのでその場の空間が大きく動いた様にも感じる。

そのゆったりとした大きな動きが、何処と無く心が落ち着いていなかった檀家の心を不思議と落ち着かせた。

「すみません、和尚様」

落ち着いて、少しばかり赤面して新聞に記されている、もう一人の受刑者の年齢を見たならば、寿崎よりも十近くも年上であった。

「ただな、彼の中じゃ、事件が起きてから時間が止まっている等しい様子を、2年前からご縁ができて話を聞いてるうちに私も感じていたよ。

だから、感受性の強い、優しい岩さんは、私の話伝(はなしつて)でも、この人の心の有り様を感じとったかもしれないな。

だから、岩さんには私から聞いた分には、その事件に巻き込まれた時の、彼の様子で伝わっているのかもしれん」

だが、岩さんは僧侶が最初の方の(くだり)が気になっている。

「時間が、止まってしまった感じですか」

「やれやれ、そこが気になってしまったか」

僧侶は、困ったように眉を上げたが、取り合えず話の流れを、現実に擦り合わせ、いつも世話になっているし、これからも世話になるだろう檀家さんに添わせる事にした。


「それの原因かどうかはわからないが、"時が止まってしまうようにも感じる衝撃の連続"だったそうだ。

そもそも、最初は警察も彼を疑ってはいなかった。

毒物を混入した菓子を口にした恋人の家族を、病院に連絡し、通報したのも彼自身。

救急車が到着した時も、彼は酷い状態の恋人の家族でも逃げずに側にいたという救急隊が証言している。

ただ恋人家族が病院に搬送されて、一応彼も検査をして、やはり毒物は彼が持ってきてくれたお菓子に入っていたという事が判った」

「それが、その人が犯人として捜査方針は堅められてしまった原因、と言うより発端ですか。

中には私みたいに、"確実に落命するのを見届けるためのその場に残っていた"と、意地悪く考えた公僕の方もいらしたかもしれません。」

その言葉にも、僧侶は苦笑いを浮かべた後に腕を組んで頷きながら、言葉を選びながら口を開く。

「まあ、そこは"恋人が生き残っているから、とりあえず捜査をしよう"という私みたいな楽天家がいて、とりあえず始まったのではないかな。"疑わしきは罰せず"でな。

しかしながら、捜査をしたならば、間接証拠、最近じゃ状況証拠というのかな。

それが積み重なり、青年が犯人であってもおかしくはないばかりの、判断材料が出てきた。

ただ、肝心の毒の購入先は、何度も転々として結局判らなかった。

が、彼が普通に捨てたごみ袋の中から、その毒が贈られてきた封筒がビリビリと、細かく破かれた状態で入っていた。

彼も、本当に自分が、疑われるなんて考えた事もなかったから、知ってから大層驚たそうだ。

最初は参考人として呼ばれたぐらいだったんだが、その後意識が回復した婚約者が、自殺してしまった事が大きい」

「その自殺というのは、どういった形でなされたんですか?」

「場所は搬送された、病院の屋上からの飛び降りだ。

最初、意識を取り戻した時には、自分の流産やら家族が、姉の預けた私生児以外残っていない事にショックを受けた。

それから婚約者の青年が参考人として警察に拘束されている事にも、驚いた、と証言が残っている」

「その、青年が"捕まったという流れだけで、自殺するというのなら、私はそれは納得出来ません。

ただ私は女性でもありませんし、流産は命を損なうわけですから、それはショックな事だと思います」

そこで檀家さんは、1度空咳をして、気持ちを落ち着かせる。

檀家さんを少年の頃から世話をしている和尚は、ゆっくりとその続きを待つ。

日頃従順過ぎる所がある彼が、言葉を"繰って"自分に尋ねて―――"挑んで"くるのを楽しんでもいた。

心の隅の方で、その題材に人の命が絡んでいることに、ほんの少しだけ"済まない"と詫びながら、彼の熱を持った言葉を待ち受ける。

「けれど、恋人の方は、どうしてその時点で自殺する必要があったのでしょうか。

"自分の伴侶に迎えようという方が、家族を理由もなく殺したかもしれない"。

"自分も、その毒殺に巻き込まれたかもしれない"。

少なくとも"かもしれない"の部分が取れないとなると、納得は出来かねないし、性急に思われます。

それとも、恋人の方は"かもしれない"の部分を払拭出来る事情を"何か"もう、ご存知だったと言うことなのでしょうか」

「ふふふふ、岩さんは相変わらず勤勉で実直で、頭が良い。愚僧より、余程覚(さと)りの道を進んでおるようだ」

「―――和尚様」

非難めいた視線を向けるが、僧侶は何処と無く悩むと言った表情で、頭の中で事実と言葉のロジックを組み立てては、壊し、立て直す。

「さて、どうしたものかな……」

僧侶の持っている情報をパズルのように並べても、どの順序で、話しても何らかの"疑問"の形の合わないピースが残る。

ただピースのサイズは合わないのだが、その合わないの"箇所"に置いたとしたら、それとなく"全容"は判る。

けれど、それが"完成"してない、"解決してない"のは一目瞭然なのである。

「それでは、とりあえず私の話を岩さんは聞いてくれ。

質問はしても構わないが、私が集中していそうな時は、控えて貰うと有難い」

「承りました、和尚様」

「では、結論から言うならば、本日の法の裁きを受けて、拙僧との縁が途切れた"かもしれない"御仁。

彼は、裁判で散々争ったが、最終的には"死刑判決"を自分に相応しいと受け入れていた。

勿論、それは"死刑になっても仕方ない"と自分で思える事があったから。

そして、それらの出来事は彼が警察に捕まってから、状況証拠として、彼の前に並べられた」

―――死刑を受け入れるような状況証拠。

目の前で話を聞いてくれている檀家さんが、自分の言っている言葉を消化してくれているのを確認して和尚は話を続ける。

「さて、まずそこで出てくるのが"姉の私生児"。

現在の所、法や色んな倫理観はあるだろうが、取り敢えず女性1人で産んだのなら、その子は母親の方の籍におさまる」

"赤ん坊"が状況証拠としての登場に、岩さんは目を丸くしたが、小さく頷いた。

「ポイントとなるのは、その恋人の姉の私生児の"父親"となる人物。

彼は認知こそしないが、子供を育てるに費用の一切の責任を持つということで、かなり大きな金額を恋人の姉に、私生児の出産と同時に既に渡していた。

ただ、この人物に関しては、実は"青年の恋人姉妹、2人して惚れ込んでいた事"

が、意識を戻した恋人が病院の屋上から飛び降りてし死亡した事から、恋人の友人から発覚した。

そして、実は姉妹してこの私生児の父親にあたる人物に告白してはいるが、2人ともはっきりとフラれて、"断られていること"も、恋人の友人が話してくれた。

そんな中で、妹は姉がその人物との間に、認知しない子供が生まれても、諦めずに食い下がってもいた。

それに並行して妹は、ボランティアを行うような誠実で真面目な青年とも付き合っていた。

その俗に言う、二股……というよりは、"キープ君"を作っておきながら、本命を追っかけている様子の一部始終が認められた手紙や写真。

まるで密告するような内容がの書簡が"開封された状態"で、重要参考人となった青年の通勤用の鞄の底から出てきた」

そこまで"集中して"口にしていた僧侶は、一息をつく。

ここまで聞いて、檀家さんは正座している膝の上に、拳の形にして置いている右手の方を口元に当てて、俯いた。

(和尚様、キープ君とか、何処で知ったのでしょう)

と、素朴な疑問を棚に上げてそこから、顔を上げて正面に座る和尚さんの状態を見て、口を挟む。

「和尚様、すみません、ここで1度。質問と整頓させてください」

「良いだろう、というか、私も寧ろして欲しい」

まるで子どものように言うので、岩さんは困ったように笑った。

「とりあえず、私の聞いている時系列での感覚で失礼します、和尚様。

もし、異存がある場合は、私はいつでも構いませんのでお言葉を挟んでください」

「聞かせておくれ」

「それでは、お耳汚し失礼します―――」

 

1 恋人が懐妊したことで、結婚を申し込む為に青年は恋人の進める茶菓子を買って赴いた。

2 そこで、お茶をしていて、先ずは菓子を食べた恋人が倒れて、次に同じ様に口にしていた恋人の家族が次々と倒れていった。

3 青年は救急車を呼んで、恋人は一命をとりとめたが、お腹にいる赤ん坊のを含めて他の家族は残念な事になった。

4 恋人一家が死に至った原因は、青年が持ってきたお菓子に混入されていた毒だと判明した。

5 青年が、重要参考人として警察に行った。

6 青年が警察に行った後で、恋人は意識を取り戻して、病院の屋上から投身自殺を行い、落命した。

7 恋人が投身自殺をしたことから、恋人の友人が彼女の"家族の秘密"を色々と暴露した。

8 その恋人の家族の秘密は、青年が恋人一家を全員全員殺害するに至る動機になった。


「"8"の所は、中々乱暴な纏め方じゃないかな、岩さん」

檀家さんの感じる時系列で、青年の身に起きたことを並べていたところで、僧侶は口を挟んだ。

岩さんは素直にこっくりと頷いて、それを認める。

「ええ、和尚様の御指摘の通りです。

私も乱暴だとは思いますが、恐らく公僕の方々は、"8"の場所にあったものを"1"に持ってきて、この事件の発端にして、青年を被疑者として見始めたのではないかと。

そうしたなら、事件を起こした発端としての、一家全員を殺したのは流石に無差別が過ぎるような気もしますが、辻褄が合うことになると思います。

ある意味では、私生児が産まれる過程を含めたなら、家族で青年を(たばか)ったという見方も出来ますから。

ただ、それなら"7"や"8"にかけて起きたような、告げ口と言いますか密告するような内容がの書簡が"開封された状態"で、重要参考人となった青年の通勤用の鞄の底から出てくるのは疑問にもなります。

仮に"8"の位置のものが"1"にきたとしても、毒の送り元が判らないのはともかく、送ってきた封筒を、細かく刻んで自宅のゴミ箱で片付けるというお粗末さも気になります。

私なら自分のゴミに混ぜて出すにしても、他の紙と一緒に燃やして炭にしてて混ぜてゴミに出しますね。

それと、やはり"私生児"の、お姉さんの子どもの事です。

姉妹して"振られた"のに、子どもが産まれている不思議です」 

「―――実は、それについてはな。

恋人の姉の私生児を産んだ過程は、恋愛をして(しとね)を重ねたわけではない。

その"父親"となるというよりは、生物学上の父親と行った方が相応しいか。

姉の方が、勝手に体外受精をさせた胚を自分の体内に戻したに過ぎないというのが、これも後に判った事だ。

で、後出しの様で申し訳ないが、教師一家といっても母親が教師、父親も医学部教授といった方々で、姉に至っては父を師事する研究者だ」

「それは、本当に後出し過ぎますよ、和尚様」

岩さんが一気に表情を渋くすると、僧侶は白髪の頭をボリボリと掻いた。

「後出しについてはゴメン、スマン、悪かった。

だが、これを聞いたなら、情の(もつ)れも、また違った具合に、話は聞こえてくるし、見方も変わってくるだろう?」

大変(おおが)わりせざる得ない状態ですよ。

でも、そういう風に聞かされたなら、認知はしなくても大きな金額を払ったり」

そう言ってから、黒い靄を僅に待とうナイフの下にある新聞に、もう一度視線を落とした。


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