第2"窪" 公"死"混同⓭〝殻外し〟
「ギヨタン自身がギロチンで処刑されたというのは、ある意味では有名な都市伝説みたいなものらしいね。
彼は帝政期まで医療福祉の分野で活躍し、その実際の死因は左の肩の癰、糖尿病だったかどうかまではわからないけれど、そういう人に多い病だった」
少年から"ジョゼフ・ギヨタンについて、もっと正確な情報はありますか?"尋ねられて、根津は自分のガラパゴス携帯を使って調べられる限りで教えてやる。
根津は"警察に連絡をすることが条件"と、白衣に両手を突っ込んだままで尋ねたなら、少年は素直に了承した。
「……ありがとうございます、多分、警察に行ったならもうこうやって調べる事も当分―――いいえ、死んでも出来ないと思ったから」
「まるで、"死刑"になることを望んでいるみたいな発言だねえ。
とりあえず、君は法に裁かれるのは確実なんだろうけれどさ、そうやってやり直すことを、"諦める"のは早いんじゃないかなぁ」
格子を刻むように机を揃えられた教室の床の上で、殻が削ぎ落ちてしまった少年は、まるで覚りを開いた僧侶の様にも根津には見えて、小さく息を吐いた。
少年は教師の溜め息聞いても、薄く笑うだけだった。
「でもね、先生僕という人の死が、公に認められるのは親の都合―――名誉や外面で振り回されて、それに怒りを覚えて、"殺すしかなかった"とまで思わせたことを、広めるしかないんですよ。
だって、ギロチンを作った人……じゃないか。
名前の元となってしまった人は、都市伝説だったし」
「……その"都市伝説"だけどさ、君は書物で知ったというけれど、何の書物で知ったんだい?。コンビニとかである奴かい?」
不意に、根津が鋭い目元を更に細めて鋭利なものにして、少年に尋ねる。
生徒になるはずだった少年は相変わらず、部屋の暗さの為に根津の眼の鋭さに気が付かずに、質問に応える。
「ええ、そうです。けれど本自体はそういった作りのものですけれど、実のところを言えば貰ったんです」
「"貰った"?」
「はい、場所は街の図書館でした」
ギロチンを、こういう時になって思い出すくらい印象的な"出逢い"の話であるから、思い出すのは簡単な話だった。
まだ、自分が"こんな運命になる"なんて、微塵も考えなかった時。
確か親が誰かと面会があるからと、待ち合わせをしていて、まだ時間がかかるというので、試験勉強でもと、図書館にいた。
休日という事もあって、図書館は静かに混んでいて、広い机に座っていた少年に相席を求めた人物がいる。
振り返ったなら、スリーピース・スーツの上等な衣服をまとっている男性で、整った顔の人物だった。
甘い雰囲気の柔和な顔が、まだ若いのだろうが眉がキリリともしていて、不思議な"怖さ"も携えている。
『今日は試験の前だから結構混んでいるみたいだね。良かったらで良いんだけれど、ここに相席、いいかな?』
『あ、どうぞ』
『ありがとう』
その人は礼を述べた後、直ぐに座って、ビニール袋の擦れる様な音がして、何かを取り出し読み始める。
コンビニ等においてある、俗にいう"怖い話"が載っているワンコインで買えるようなゴシック雑誌。
でも、それは"本当にあった"と表紙におどろおどろしいフォントでデザインされていて、実際の歴史の陰惨なものばかりを集めているものだった。
こんな身なりをしている人物が読むには意外なような気がして、不躾だと思いながらもチラリと見たなら、ニコッと魅惑的な笑みを浮かべられる。
少年が自分の不躾に、対して微笑まれる反応に戸惑っている内に、キリリとした眉をした人の方からフランクに話しかけてくる。
『実は、"暇潰し"に此処にきているんだ。で、コンビニに行ってみたら、たまには読んだことが無いような種類の本を読んでみようと思ってね。
でも、こういったのってたまーに読むと面白いよね、ほら、君が丁度今勉強している歴史の怖い話みたいなのもある―――』
そこで、その本を開いてスッと出されたページに"ギロチンの話"があった。
そして、その甘い顔をした青年が
『怖いし、皮肉だよね。自分の造り出したわけじゃないけれど、名付けの元になった道具に、最期は殺されるなんて』
そう、少年の耳元ではっきりと囁くように言った。
声は甘ったるく響き、耳の穴から入り込み、それは少年の記憶の中に、染み込み、食い込み縛り付けられるように刻まれる。
少年の"本"にまつわる話を一通り聞いて
「……成る程」
―――暇潰しに"絡め"やがったな。
成る程という言葉の後に、口の中でそんな言葉を根津は呟く。
「その人とは、それっきりかな?」
「そうですね、もう会ってはいません、で、別れ際に本を頂いたんです」
試験勉強もあったけれども、整った甘い顔と仄かに感じさせられる怖さ、例えるなら"カリスマ"というのが妥当かもしれない。
それに惹き付けられて、暫くその人が持ってきたその本で、図書館で迷惑にならない程度の小声で2人で話す。
それが唐突に終わったのは、その人の"待ち人"が来たから。
『おい、待たせたな』
少年には、気配など全く感じなかった。
声に驚いて、少年が振り返ったなら、異国の血でも入っているのか、癖の強い白髪とブラウンの髪をオールバックにしている、彫りが深い、年配の人物がいた。
服装は少年が話している人と同じ様にスリーピース・スーツなのだが、青年もしていたが手にコンビニの袋があるのが、少しだけアンバランスにも見える。
『あれ、祖父さんは?』
『車だ、帰るぞ』
少年の方には見向きもせずに、年配の人物はそういった。
青年は年配の人物がコンビニ袋に入っているものに、直ぐに気がついて、少年に見せているのとは全く違う顔で、口を聞いていた。
『また、カノンにプリンかよ。一回喜んだからって、同じものやるのはジジイの思考回路だぜ?』
引き続き少年と話していた時とは、かけ離れた乱暴な口調で、呼びにきた人物にキリリとした眉の人は答えた。
『いいんだよ、俺は実際にジジイなんだよ、帰るぞ』
『へいへい―――それじゃ、その本は君に上げるよ。気にしないで、どうせ持って帰れない』
不意に、先程の柔らかな口調に戻り、その本だけを置いて、行ってしまっていた。
それきり、だった。
「その本は……今はもうないよねえ」
もう2年程時間が過ぎているから、無駄だと思いながらも根津が尋ねたなら、少年は残念そうに頷いた。
「はい、その後、僕も親が迎えにきたんで、その時に―――捨てられました」
本当は興味があったから、もう少し読みたかったけれども、迎えに来た親は軽く高揚しているような雰囲気も出ていて、息子が"低俗"にしか見えない雑誌を読んでいる事に、舌打ちをする。
直ぐに手にとって図書館のゴミ箱に捨てられた。
それで、捨てられながら、少年がしている部活の試合について言われた事も思い出した。
"今度の部活の試合、絶対に勝ちなさいよ、立派な方が見にいらっしゃるんですって"
滅多に親に反抗はしないけれど、興味を持っていた本を捨てられた時、親と同じ様に舌打ちをしてまっていた。
でも、コンビニで売っていると聞いていたから、今度は親に黙って買おうと考えている間も、どうしてだか軽く興奮している親は喋り続ける。
"何でも法曹の方にも強い繋がりを持っている方で、変わった名字の方、黒佐渡様―――、その方に認めて貰えたなら"
何かブツブツと言ってはいたが、どうせ"自分"に事だろうと相手にしないで片付けを始めていた。
それから、それまで一度の応援など来たことがなかった親が応援に来て、親が絶対に勝ちなさいという試合に負け、"本"の事も、すっかり忘れていた。
もし根津が尋ねなければ、こうやって思い出すこともなく、話もなかった。
そうやって、そこまで思い出した時、パトカーが学校に到着する。
カーテンを唯一引いていない教室の下に、赤い点滅灯を回しながら、教職員専門の入り口の前に向かい停車するのが見えた。
「周囲がこういった学校とか幼稚園とか、公共施設が多いからね。
いきなり引っ越して来た教師の夫婦が2人殺害なんて、物騒が過ぎる。
"犯人がはっきりとわかっているから"、って、今日の21時までに確保か自首するという形に必ずするからと、松先生というか、和尚さんの方がコネクションを持っているの知らないけれど、報道規制をかけた。
でもまあ、流石に発覚した一昨日の夜明けには、ピーポーピーポー煩くて、私は早起きさせられたけれどね」
まるで少年については文句があるのは、それだけ、といった様子で根津は肩を竦めていた。
「パトカーの見回りが多かったけれど、住民が普通に外出していたのは、そういうことだったんですね」
テレビも、ラジオも騒がないのが、不思議で仕方なかった。
―――もしかしたら、パトカーが多いのも気のせいで、自分がやってしまったことが、悪い"夢"だったかもしれない。
そんな都合の良いことを、自分が"二親殺し"をやり遂げた後、数分してからけたたましい、根津も目覚めたというサイレンの音も隠れながら聞いていたのに、殻の中の少年は考えてしまっていたりもした。
「あと、あの性格悪い坊さんが、君なら、間違った教師の生徒にならない限りは人を殺める事はしないってね、よくわかんない事言っていたよ。
で、不真面目を自負している私の生徒にさせようとしてるしね」
境遇はともかく君自身の事は、信用していたな」
「信用、ですか」
それを聞いて、少年―――生徒は闇の中で笑った。
「本当は表に出しちゃいけない情報なら、私も松先生から預かっていてね。
引っ越してきたばかりの教師夫妻の、犯行の現場に君が犯行に使った道具の一切合切が全て置かれていた。
けれど、犯人の決め手――"君"に繋がるようなものも何もなかった。
そして世話人さんからの元から逃げ出しても、良くも悪くも、諦めなかった。
諦めなかったら、万が一でも、何かがあるかもしれない」
―――少なくとも、間違った方法かもしれないが、その場で踞らず、何とか状況を変えようとはしているからな。
―――そこは、認めてやりたいのだよ。
「それは、根津先生もですよね。僕が、少なくとも今は人を殺す事はしないだろうって信じたから、この場所で、待ってて僕の話を何度でも聞いてくれたんですよね。例え、僕の口にする事が、心からつまらなくても」
"話を聞いてくれる"と、歪な自分の殻がカラカラと喜びで揺れているその内側で、血腥い真っ黒の指先の自分が、"ツマンねえ話によく付き合うな"とも、腐りながら考えている。
わかっているけれど、話を聞いてくれる事を、腐った身体の中で喜んでいた。
だって、今まで"素敵な両親に見捨てられずにいるダメ息子"という殻越しにしか見てもらえなかった。
「あ、つまんない、って自分でもわかっていたんだね」
闇の中でこちらもニッと笑った。
「"今"だからわかる、ていうか、何かお坊さんみたいないいかたですけれど。
"覚った"みたいな感じですかね。
でも、先生はどうして僕を信用してくれたんですか?」
パタパタと"走っては行けない"と指導されている学校の廊下を、数名の分の足音を響かせながら――――警察がやってくる。
「信用というよりは、君がまだ"親"を、というよりは、君の親みたいな教師を今でも憎んでいるのを感じるから。
君はきっと、君の両親みたいな人はこれからも"殺そう"と迷わずに考える。
そして、私がそれに当てはまらないだけ」
その答えを聞いた時、少年は本当に嬉しそうに微笑んだ。
自分を知ってくれている、判ってくれている、そんな人に出逢えた安堵の笑み。
認められなくてもいい、知ってくれて、こうやって自分が居たことさえ記憶にさえ残っていれば"救われる"。
「そうです。だって、先生は僕より考え方が"おっかない"のが、伝わってくるんです」
ほんの少しだけ残念そうに言って、教師と生徒の会話が終わった。
その時、教室の扉が開いて、背広姿の人物を先頭に公僕と判る制服を身に付けた人が複数人入って来くる。
生徒の眼が、少年の物になって―――1つの意思を持った"人"のものになる。
「―――残念ながらこの国の法に捕まってしまったから、2人位しか葬り去る機会に恵まれませんでしたけれど。
僕は、もし、まだ偶然があったなら、"これからも"躊躇わずに、親みたいな教師を―――教師と言う面を被って最低な事をしてる奴等を殺すでしょう」
この言葉に、教室に入り込んだ警察関係者に不穏な空気が流れた。
根津が殻を破ったその先に、そこには確りと天上から蓮の池から伸ばされた糸に絡められた人がいる。
その糸の上に、数度だけ見かけた事がある、柔らかく甘い雰囲気と古拙な笑みを浮かべた人を垣間見る。
―――義兄さん、恋人……みたいな、大好きな人出来たんだ。
妻が急逝しても、互いに身寄りがなくて義理の兄妹の関係を続けていた妹が、携帯の画面越しに紹介してくれた青年。
1度だけ遠目から眺めたその姿に、見た目は似てもにつかないのに、怖いもの知らずと言われている自分に"怖い"と、記憶の底に埋め込ませた僧侶と―――綺麗なあの人を繋げて思い出させた。
複雑な思いを抱いている内に、義妹の腹は可愛らしい命を宿したと報告される。
彼女は"本当に、仕方がないことだから"と繋がらなくなった番号が登録されている、女性が持つにはシンプル過ぎるガラパゴス携帯を握り、彼の画像だけを消していた。
そして、命がけで根津に"家族"を残して、姉の後を追いかけるように逝ってしまった。
残った家族は、目元だけが姉妹してそっくりだった強気な瞳をもった、あとは柔らかく、可愛らしい姿の女の子―――ユリと名付けた。
事情と乳児院の助けもあって、預かってもらって2才になるその子を近日、根津は引き取る事が決まっている。
―――その子が母や伯母さんが育ったこの場所で、健やかに育てたいとは思わないね?。
そう、寿崎から唆された。
もし、引き取る先の近辺でこういった"事件"が起こり大きく報道されたなら、これまで協力的だった乳児院も戸籍の繋がりはあるが、血の繋がりのない伯父が引き取るのに難色を示しかねない。
なら、事件の本質はさておき、情報として社会に伝達される大きさを、最小限に出来る術があるなら、それをしておいて損はない。
雰囲気や空気に人は影響を受けるものだから。それに、可愛らしい姪には"特別養子縁組"という話も、出ているのだとも聞かされていた。
―――血の繋がりに拘る必要はないというのなら、根津先生も、姪子さんを養子に望む御夫婦も同じだろう。
―――だったら、根津先生の姪という場所に選んで産まれて来てくれた"御縁"を大事にしたらどうだね。
もう、誰もいなくなったと思えた世間で、小さな楓ぐらいの大きさしかない手を広げて、自分に微笑んで、待っていてくれる存在を、手放したくなかった。
そう決心したから、今回の役目を引き受けた。
引き受けたとなると、白髪の僧侶は口の端を上げて、ニイっと笑って"オマケ"の情報を一枚の紙をで与えてくれる。
―――ああ、それと、万が一というか、私個人の心配ごとなんだが、僧職の上層部で大きな中枢の方で動きがあった。
―――で、中々権力をあるポストをある若造が引き継いだらしくてな、"念の為"に根津先生に知らせておこう。
そこに、義妹のガラパゴス携帯の画面に写っていた青年、"黒佐渡 蓮"がいた。
―――で、これは"岩さん"にも内緒で持ってきたから、燃やさせて貰うよ。
根津が鳶色の瞳で読み、全ての情報をを刻み込んだのを確認してから、来年からは全面禁煙となる職員室の灰皿の上で、直ぐにその紙は燃やされた。
"何処"まで恩師となっている寿崎松太郎が、何を知っているかは判らない。
ただ、燃やされた紙には蓮が、僧職とは別に、"教師"という職業の殻を被り最低な行いをする人を、その最低な人に堕とされた生徒を使って"相殺"させていることも、記されていた。
―――殻を削ぎすぎ、入滅を避けた方が良いとも考えていたが、させた方が世俗の為になる事になる"修羅"もいるやもしれん。見極めてくれ。
裁判所から発行された逮捕令状を読み上げられ、生徒だった人の手首に手錠を嵌められる。
―――まだ偶然があったなら、"これからも"躊躇わずに、親みたいな教師を―――教師と言う面を被って最低な事をしてる奴等を殺すでしょう―――
「さっき言ったこと、そこは、君は死んでもなおすつもりはないんだよね」
手首に確りとかけられた手錠を眺めながら、生徒になりそこねた人に根津は今一度、訊ねる。
生徒になりかけた人に、今は立ち上がり、明かりの灯された教室の中で確りと頷いた。
「ええ、そこは僕が死んでも、広めたい所ですね。
それに、生きることを諦めているわけじゃない。
法で裁かれることで、最も注目される形で刑を受けることになって、許せない事をした奴等を、表沙汰にして道連れにしていく。
とはいっても、今回は先に"送った"事になるんですかね、先生」
こういった場所での"最後の会話"だと思い違いをしている公僕は、2人の会話の間に入らず終わるのを待ってくれている。
だが"教師と教え子"の会話と例えるには、言葉と内容は殺伐としすぎていて、現場に訪れた数名の中には、対峙する2人を何度か見比べてしまっていた。
まだ世間に居座れるかもしれないという、浅はかで傲慢で薄汚れた殻と、見栄に凝り固まった親という教師に、生活を乱された息子という殻を剥ぎ取られてしまった、"生徒"を終えた人。
説得の役目を引き受けた教師と聞いている鳶色の髪と瞳をしている、丸眼鏡をしている白衣を纏った人と、僅かに背は低いが、もう確固たる意志を、その殻の内側に作り上げた、存在になっている。
語っている言葉も、感情に酔っているというものではなくて、自分を弁えている―――けれど、彼自身の父親の頭を金槌で何度も叩き割り、母親はナイフで胸を何度も刺し、殺したという罪人でもある。
ただ、もうこの罪人には、手に枷を付けられたなら、十数年以上は世間に出る筈はないし、もしかしたら、一生出てくるは事はないのだと、見守る公僕は、膨らむ不安を何とか落ち着かせていた。
けれど、まだ胸に、恐怖と不安がさざめく。
「ギロチンほど、有名な誤解の話でもないにしても、公に僕が生きてこうやったことやってしまった理由として、"そんなことで、親を殺したの?"というのを、広まるといいな」
それじゃあ、先生、さよなら」
「ああ、さよなら」
"また会えるといいね"といった類いの言葉は、根津の口から出す気にもならなかった。
翌日、少年が捕まった事件は、世間にある程度の波紋を広げた。
ただ、事件が"犯人"となる少年が警察に既に逮捕された上で報道されたので、メディアとしてその事件が起きた背景ばかりが取り立たされる。
その一部に、見栄を張る為に自分の息子を道具のように使う、親の面を表沙汰にされたのには、相次いで、被告の少年の両親に受け持たれた生徒の中で抱えていた不満を表に出させるきっかけに繋がる。
それも数日で騒ぎが下火になった頃、教職の両親が殺害された当時に受け持たれていた生徒の一人が、"いじめ"を見て見ぬふりをされていた事を発言する。
けれど、そのいじめは、犯人の息子によって、教師が殺されたと報道された事でピタリと止まってしまったという告白もする。
【いじめを見過ごす教職が頭を金槌でgtyktyで殺される様な目にあうのなら、いじめを行っている当人はどんな目にあうんだろうwwww、月のない夜hammermanにattention!www】
そんな発言が学校の裏掲示板にあがったりもして、不気味な噂が広がった。
書き込み元は場末の漫画喫茶で、監視カメラなどない場所で、これは警察にも僅かな波紋を広げる。
少年が犯行に鈍器を使ったとは、公表はしていたが"金槌"とは出してもいないし、"gtykty"とまるでキーをうち間違えたような様子をしているが、"グチャクチャ"という言葉を使おうとしているのは察する。
死因も鈍器による脳挫傷と発表したが、"状態"までは出してはいない。
情報の漏洩かと、真っ先に疑われたのは、少年を暴れさせず確保させるために協力した事になっている根津だった。
ただ疑われもしたが、彼は少年にそこまで話を聞いてはいない。
そして、何気にそういった方面に"疎い"人間というのが職場でも、姪を引き取ったばかりの家を軽く捜査しても判った。
『想像力の豊かな子どもなら、これぐらいは憶測と妄想で書き込むんじゃないんですかね。
最近は残酷なホラー小説とか、もっと表現酷いんでしょう。
監視カメラが働いてないのを確認して書き込み?とやらやってるなら、相当用心深いか、監視カメラがなかったのが運が良かっただけでしょう』
"可愛い姪が寝入りそうなのを邪魔するな"と、その姪を抱っこしながら丸眼鏡の奥から、根津が鋭い視線を向けて捜査にきた公僕を睨む。
その険悪な"伯父"の雰囲気を感じ取ったのか、抱っこされていた小さな女の子がグズリ始めたのもあって、早々に公僕は引き上げた。
結局、根津の言う通り偶然が重なったのだということに片がついてしまう。
丁度その頃、半年前に起きた、モデルの女子高生がストーカー殺人されたと思われる事件で動きがあったので、そちらに人員を割きたいという事情もあった。
加えて犯人である少年は素直に自供したりと、捜査の方は実に順調に詰まれていって、やがて初公判が始まる。
冒頭の手続きを終え、検察官が起訴状の公訴事実と罪名・罰条を朗読した。
被告の少年が19才という年齢もあって、法の裁きは2人殺したという事、またそれが世間的に平和な日常の暮らしに、大きな不安の波紋を大きく広げた事。
また"教職"という尊き職業を狙うという発言を、取り調べの間もしたという事を含めて、裁判官から確認され、被告となった少年は、
"狙うとしたら、教師と言う面を被って最低な事をしてる奴等だけです"
と、裁判中に幾度となく弁護人が諌めるのも構わず続けた。
取り調べの間も、反省の全く見られないことも、検察からは激しく責められた。
国選の弁護人は少年のこれ迄の生い立ちや、最後には親がまるで身代わりのように新しい男の子を、里親に迎えて養子縁組しようとしていたことに、自棄になり激情して殺ってしまったこと訴え、
"罪の意識を芽生えさせ、その上で自分の犯してしまった罪を悔い改めさせる時間を"
と、訴えた。
下された判決は"死刑"で、少年は最初の宣言通り控訴せず、"有り難うございます"と被告席から頭を下げていた。
そして、約2年の月日が過ぎ。
刑が確定してから、最も速い期間で刑が執行されたと、公に発表され、その際に少年が行ったことも略式ではあるが報じられた。




