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幻"殻"夜話 1巻  作者: マフツ
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第2"窪" 公"死"混同⓫"殻外し"

かつて、黒佐渡と蓮の2人で一両日かけて、"禅問答"をするという事で、珍しく単独行動の、いつもスーツを着ている人が、一目で僧侶とわかる姿で芍薬を訪ねてくる。

独りで修行をする気が起きないので、芍薬に弟子の一人を貸して欲しくて、やってきたとのことだった。

芍薬を師事するカノンだが、師が体調を崩して休んでいたので、四ツ葉は丁度良いとばかりに借りる事にした。

師事する芍薬と四ツ葉の宗派は違ったが、"最終的な目的は同じだ"と、何気に大雑把な師とその友人が言うので、素直に従う。

そして"山"のお堂の中で、四ツ葉の携わる宗派の作法に従い、壁に向かって数時間座禅を組んだ。

"俺は一人じゃ、座禅をする気になれんから、付き合ってくれた御褒美だ、色々うるさいから、内緒だぞ。

特に、蓮にはな"

その言葉を聞いた時には、思わず面の内側から漏れるぐらいの笑いを漏らしてしまう。

修行が終わった後、人気がない屋敷の縁側で、"外"で一日中開いている小さな店で、買ってきたという甘味と、当時のカノンには珍しいペットボトルのお茶を飲む。

その頃をはまだつけていた面を、修行も終わり四ツ葉しかいないから外し、確りと礼を述べて買ってきてくれた菓子を食べる。

―――俺からしたら、子狐みたいな顔だがなあ。似てねえって気持ちの方がまだ大きいな。

艶々とした真っ直ぐの黒髪を指先で摘まみながら、四ツ葉はカノンの顔の感想を述べる。

"似ている"とあの人に重ねられるのは嫌だが、こうやって自分の顔自体の感想を述べられるのは特に嫌な気持ちもしない。

それ加えて、ご褒美に貰った茶碗蒸しにも似てるけれど、とても甘いお菓子に夢中にもなっていた。

―――四ツ葉様は、どうしていつも黒佐渡様と御一緒なのですか?。

甘味をすっかり平らげて―――特に、容器の底にあった黒蜜と思われるのが特に気に入った―――、どうせなら日頃訊けないこと尋ねてみた。

―――一緒にいる、というか、一緒にいれるのは、尊敬出来るからってのが、一番の理由だな。

"どうしてそんな事を質問するんだ"

そういった事は一切事は口にせずに、四ツ葉は友人の弟子からの質問に、山では隠れて飲む事しか出来ない、薄い鉄の筒に入った異国の飲み物―――缶珈琲を飲みながら答えた。

―――尊敬出来る奴が身近にいるとな、そいつの前なら下らねえ自分を抑えて、恥ずかしくない自分でいようって、俺、"私"は思えるんだよ。"等身大の正直な自分になれる"といった方がいい。

四ツ葉独特の、"やんちゃ"と"丁寧"さが混ざった言葉ながらも、毅然として語ってくれた。

―――自然に自とな、尊敬出来る奴といると、自分に嘘をつくのが馬鹿らしいっ、だらしない自分を見せたくないと思えるから、何かと後悔もしないですむしな。

―――自分に嘘をつかない、ですか。

いつも自分の心を"平穏に保つ"為に使っている、今は膝に乗せている面に無意識に触れながら、四ツ葉が語る言葉の一部を繰り返した。

―――四ツ葉様にとっては黒佐渡様が、その、尊敬出来て、自分を偽らないですむ方。

―――"素直になれる"って言葉で括ったなら、お前の師匠もそうだ。ただ、芍薬の場合はあの裁ち鋏みたいな言葉で、嘘の虚勢なら直ぐに切り刻んで心を剥き出しにされちまうから、構えるのが馬鹿らしい。

"尊敬"という言葉で、直ぐに師事している芍薬を思い出していたので、"裁ち鋏"という言葉でそれを手にしている姿を想像したなら、思った以上にしっくりときて、また笑ってしまう。

隣にいる"子ども"が楽しそうに笑うのを見て、四ツ葉は"ものの序でに"と言葉を付け加える。

―――でも、尊敬する奴は出来れば年が近い奴の方がいい、とも忠告しとこうかな。

尊敬の相手を見透かられていたとわかると、自然に笑いが引いて、隣に座る缶珈琲を飲む僧侶を見上げる。

―――どうして、ですか?。

―――そりゃ、長い事一緒にいれる相手を尊敬しがいがあるってもんだ。

片眉だけグッと上げて四ツ葉はそんな事を言うが、視線だけで"齢を考えてみろ"と、語ってもいた。

でも、そう言うのなら

―――そうなると、私には"蓮"しか年が近い方はいません。彼を尊敬できる事は出来ますけれど、敬うより、畏れる気持ちの方が大きい。

気がついたときから側にいた幼馴染みに対して、本当に申し訳ないと思いながらも―――"尊敬する"四ツ葉に嘘をつかずに、正直に話した。

(ああ、本当だ。尊敬する人の前だと、誤魔化そうとは思う気持ちは出てこない)

ここに"好き"や"憧れ"があったならまた違ったかもしれないけれど、四ツ葉に対しては、本当に尊敬といった気持ちしか浮かばないので、適度な緊張もあって口に出す言葉も自分で適切なものが選べていると思う。

どうやら、自分の言った言葉を本当の意味で実感してくれたらしい友人の弟子を、四ツ葉は益々気に入って、更にこの問答に付き合うことにした。

―――まあ、蓮に関しては"恐い"っ言葉は一生まとわりつくし、アイツは"恐い"って自分が思われるのが普通で当たり前で、気にしてないからな。気にする事の方が無駄だ。

そう断言する。

―――はい。

好む者には、気持ちが蕩ける様にも感じさせる魅惑的な笑顔を浮かべる幼馴染みだが、その気性の激しさは、気に食わないと相対したなら立場に関係なく、その身軽な身体で拳を振るう。

まだ"山"にきて間もない頃、相手を選ばず暴れまわる蓮を、愛用の扇子の一撃で抑え込んだ、師である芍薬は"天狗いらずの遮那王 "と評した事があった。

恐いとは思うけれど、幼馴染みを決して"嫌い"だの"疎ましい"とは感じなかったし、惹き付けられる物も持っている。

そしてその惹き付けられる部分は、四ツ葉の尊敬する黒佐渡と、共通するものがあるし、その理由も知っている。

―――恐いけれど、尊敬はしやすいのは"私"も、分かるよ。蓮は一応、あの黒佐渡と血の繋がった"孫"だ。

―――はい。

蓮が"山"で重鎮の一人である、黒佐渡の孫であるという事は周知の事実だが、祖父と孫の間に存在するべき人の事は、一切誰も語らない。

恐らくは、語りたくても、誰も知らないのだろう。

もしかしたら、全ての事情を知っているかもしれない、カノンの横にいる人も、師匠に当たる人も決して口にはしない。

―――顔は眉毛以外は、蓮の母親に瓜二つの可愛いつくりだけれど中身は、"私"から見てもアイツに似ていると思うよ。恐いけれど、目を離さずにはいられなくなる物をもっている。

今四ツ葉がこうやって話してくれる部分は、これが例え広まっても、尊敬する親友に障りのない箇所。

―――じゃあ、四ツ葉様は、蓮を尊敬―――ひてひましぇんね。

"蓮を尊敬している"といった部分を、口に出そうとしたところ頬っぺたを、髪を触っていた指で、四ツ葉につままれていた。

癖っ毛の八重歯が見える笑顔の初老の男に、ほんの少しでは"気に食わない"事を、自分が口にしてしまった事が判る。

そして"やんちゃ"という言葉で繕っているが、蓮と同じ様にかなり攻撃的な感性の持ち主にしては、随分と"優しい"対応で、それ以上の言葉を止められた。

―――猫も良いが子どもの頬っぺたもいいなあ。伸びる伸びる。

ふざけたことを言っているようで、頬っぺたを摘まむ四ツ葉の目元が冷たく冴えている。

―――もうひわけありまへん、ひょつばさまが、そんけーしゅるのは、くろひゃどさまらけっ、と分かりましたから。

"申し訳ありません、四ツ葉様が尊敬するのは、黒佐渡様とだけ"と、摘ままれた状態で言い直して、漸く頬っぺたを、離して貰えた。

それから、四ツ葉にしては珍しく考えるように、顎に手を当てた。

―――俺みたいに、ってわけじゃないが、カノンの尊敬できる相手が蓮ではダメってことか?。

それには、黒髪が大きく揺れるほど首を左右に振った。

―――ダメとかそういったことではないんです。蓮とはこれからも一緒にいることは多いでしょうし、仲も悪くなるといういう事もないと思います。ただ、私はもう何度も、蓮に"嘘"をついていますから。

四ツ葉に摘ままれた頬と、芍薬に貰った面に手をそれぞれ添えながら、一緒にいてくれる幼馴染みに対するして、吐き続けた嘘を告白する。

―――四ツ葉様の言う通り、自分には嘘をついてはないのです。けれど、蓮が希に私にあの人重ねてしまった時に、彼に嘘をついて、敢えて距離をとっています。

【カノンは絵が上手ですね】

本当に小さい頃、僅かだけれども、蓮と共に同じ時間を過ごした、自分と同じ"顔"をしているといわれていた、優しい方。

でも、どうしてだか、その人の側にいると"悲しい"気持ちが溢れて、涙が止まらなくなって側に行く事が出来ない。

"尊い方"と、皆が崇めていた。

皆が皆、あの方の側に行ったなら、"救われた"と口にし、いつも側にいてくれる幼馴染みも、同じ様に、尊敬しているのが伝わってきていた。

―――だって、かんのんさまがいないと、おまえはいないんだよ。だからだよ。

最初、意味がわからなかったけれど、少し成長した時、蓮の言葉で自分とあの方に何らかの限りなく近い"血"の繋がりがあるのだと知った。

ただそれから更に成長した頃、その繋がりの詳細を聞いた時には、どう受け止めていいかわからずに、心は奈落に落ち込み沈む。

その時、キリリとした眉をもった幼馴染みが本当の意味で、あの童話の御釈迦様の様に、カノンの心に"救い"に続く糸を垂らしてくれた。

―――とりあえず、"親"みたいなもんだって、思ってろよ。だって、やっぱりあの"観音様"がいないと、お前は此処にはいなかったはずなんだ。それで、俺はカノンがいてくれて、嬉しいから。

その糸は、お前にはなんの"罪"はないと、カノンの心を緩く縛り、持ち上げた。

―――それに、観音様がこの世界から消えたのも、消したのも、決してお前のせいじゃないから。

そうやって答えてくれた、中々"曲者"でもある幼馴染みに、感謝しながら頷いた。

けれど、そんな蓮が、もっとも気性が荒い時に素直に尊敬し、懐いたのはカノンが"親のような方"と、思うようにした存在自身でもあった。

そして、蓮がカノンに抱いているのは感情は、きっと幼馴染みの友愛であって、"尊敬"ではない。

認めて、"必要である"と思ってくれているのは、常日頃行動を共にする事で知っている。

―――"山"で俺がイタズラして、お仕置きされてるのに、助けようとしてくれるのは、カノンだけだからな。

"カノンだけ"という言葉は正直、とても嬉しかった。

でも、限りなく似た方と自分を並べて比べられたなら、きっと幼馴染みは"あの方"を選ぶ様な気がした。

それくらい素晴らしい存在なのだと、哀しみと涙に溢れた顔と心で、あの人の側にいる時に感じた気持ちを思いだし、繋がりの正体を省みたとき、やはりまた涙を流した。

―――私では、叶わない。

綺麗で優しい方なのだけれども、カノンはその側に行ったなら、やっぱり、胸の奥から溢れる様な哀しみと共に涙が共に止められなくなってしまって、思い出でも触れる事は叶わない。

【ごめんなさい、カノン】

そして、どうしてだか、あの方がカノンの心の中で謝るのだ。

その方が唐突に消えた日から、幼馴染みと共に"山"に引き取られて、知っている人物に、重ねられる事が苦痛を感じる日々もあった。


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