表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻"殻"夜話 1巻  作者: マフツ
11/17

第2"窪" 公"死"混同❿"殻外し"

―――"秘すれば花なり"なんて、風流なことなんて知りそうにない、"鳩野郎"みたいだったのに。喋ってくれてたら、楽に二階級昇進させてやったのにな。

―――レン、余り物騒な事は。

能面を被った人は、先に歩いていく"レン"と呼んだ人に追い付いて、その腕を取り、引き留める。

引き留められた方は、つまらなそうに息を吐き出したなら、面をつけたままの"幼馴染み"に呼び掛ける。

―――なあ、もう仮面取ったらどうだ?"祖父さん"は、ここをやり過ごしたのなら、取っても良いって言っていただろう。

―――……そうですね。

向かい合うようになると、カノンと呼ばれている青年は手を後ろに回し、結われた紐をほどくと、朝焼けの名嘉で、男にしては長め黒髪を揺らし面をとった。

―――カノンの綺麗な顔も今日で見納めだな。還俗なんてやめればいいのに。

これまでも散々引き留めたけれど、決心したら梃子でも動かない幼馴染みに、キリリとした眉の青年は最後の悪あがきをする。

けれども、やっぱり幼馴染みは優しい包み込むような笑みを浮かべながら自分の決心を揺るがせない。

―――そうですね、折角ここまでレンと修行したんですから辞める事は、本当に馬鹿らしい。ですけれど、私は"外"も見てみたいんです。

―――最後に、もう一回確認するけれど、お前の"親"の(かたき)になる奴を見つけたい、ってわけでないんだよな。

それには、長めの黒い前髪がはっきり揺れるほど、左右に振って否定する。

―――それは決して違います。私は、あの方は生物学上の親とは認めますが、育てて下さったのは黒佐渡様、四ツ葉様、芍薬様だと思っています。

そして、一番世話になった芍薬の末期(まつご)の水を行い、恩人がこの世界を"旅立った"ので、此方に戻ってきた。

仇をとるつもりはないと、きっぱり言い切るのを聞いて、キリリとした眉の眉をした青年も、漸く諦めがついた。

―――で、住む場所とかも、決めてもないんだろ?。

―――はい。でもご近所に手頃な物件を教えてくれる諸越不動産という場所を、四ツ葉様から教えて頂きましたから。

そう言って懐から、恩人からもらった名刺を取り出す。

―――四ツ葉のジジイがあ?!、……アイツ相変わらずカノンには甘いな。

―――レンは、2年前の出来事から少し、厳しく監視されますからね。

甘く柔らかいと例えられがちな顔を歪ませたレンと、面を外し僅かにつり目で綺麗な顔のカノンはそこまで言ってから、互いに口を閉じた。

―――それじゃ、俺は初仕事終わってから"山"に戻るわ、元気でな。

丁度、左右に別れる道が手前にあった。

キリリとした眉の青年は、先程の現場の方に方向を定めた様子で、脚を進め始める。

―――あの"ガキ"、それなりに賢いみたいけど、親に造られた"殻"で身動きとれない状態で、とりあえず元凶だけ潰してくれたし、中身も揺れてるだろうから、どうしようかなあ。

もう、後方にいる幼馴染みには振り返らず、独り言の様に言ってスーツのポケットに両手を突っ込んで進んでいく。

―――自己顕示欲をもっと上手いことつついたら、あとは自分から"入滅"の道を選んでくれるように、上手く"殻"を剥げるかなあ。

それほど大きな声ではないのに、良く通る声がカノンと呼ばれる青年の耳に届かなくなったのは、すっかり幼馴染みの姿は見えなくなってからだった。

―――相変わらずレンは、思った事をそのまま口に出してるなあ。

目的の為に手段を選ばない所は、昔から変わらない幼馴染みを、面を手にしたままで立ち止まったまま見送った。

それから、懐に面をしまって空を見上げたなら、大分白み始めた東の空にはまだ金星が輝いている。

―――けれど、私より余程確りしている。

手段を選ばないのは変わらないけれど、"2年前"の出来事から"黒佐渡蓮(レン)"は目的をもって行動を始めている所を、密かに尊敬してもいた。


―――ぜってえ、"奴等"ぶっ潰す。

2年前、幼馴染みが初恋の人で恋人を諸々の理由で、"諦めなければならなくなった"時。

自分も世話になっていた"山"で、修行僧の法衣を纏って散々暴れまわっていた幼馴染みを、既に隠居となっていた方々の力を借りて、抑え込まれた時、彼はある職業の人々を圧倒的に憎んでいた。

世間的に"立派"と敬われることが、多い職業でもあるのに、幼馴染みが関わってしまったその仕事に携わる人々がした仕打ちは、調べてみたなら気性の穏やかなカノンにも、畜生にも劣ると思えた。

でも、素晴らしいとも思える人々も、同時に多くいた。

寧ろ、その素晴らしいと思える白い人々の間に、その畜生にも劣る黒い輩がいるから、それが際立ってしまうのが、口惜しくも感じた。

そういった事を、師事している、その頃から寝込むことが多かった芍薬に話したなら、意外にも嬉しそうに笑った。


―――いつも、控えめで大人しいお前が、そういった事に興味をもって意見をする事が私には嬉しいねえ。

殆ど親代わりをしてくれたに等しい芍薬は、消極的ではないが、何事も受け身になりがちな弟子の熱の隠った言葉に、新鮮な驚きを感じているようだった。

布団から上半身だけ起き上がった体の上にある、小柄な頭を何度も小さく頷くことを繰り返す事で、驚きを表現する。

ある"事件"で保護者を失い、2人の童は、保護者も育ったという"山"に引き取られた。

2人の内、キリリとした眉の童は黒佐渡と四ツ葉、照れ屋の大人しい童は専ら"芍薬様"と呼ばれる、立場的には高僧に面倒を見てもらう事になる。

芍薬は、"山"の中で僧侶の仕事もこなしていたが、どちらか言えば、何処からか運ばれてくるこの国の芸術品や美術品の保護や復元―――そして、研究の仕事を行っていた。

そういった日々は自然と、側に従事している童にそちらの方面の知識を堪能とさせる。

また童自身も、そういった事に興味があったので、尚の事だった。

加えて、何にかと"外"からやって来ると接する事も多く、礼儀正しくたおやかなその姿は、童を世話する芍薬曰く、"癖のある人物の中継ぎには、最高だろう"と、同期に自慢するほど。

そんな代わり映えがないような日々の中でも"山"と呼んでいる場所で20数年過ぎたなら、幼馴染みの蓮が起こしたような騒動や、権力体制の"入れ替わり"も、日の当たらぬ場所では行われていた。

特に権力の入れ替わりは、外からやって来た、童から青年になった2人にも感じられた。

世話になっている、黒佐渡、四ツ葉、芍薬は1度も口には出さないが、その権力争いの中枢に関わっているのは、この場所では"下っぱ"な立場ながらも察する。

―――俺は他の奴に従うくらいなら、黒佐渡祖父さんと四ツ葉のジジイ"やり方"引き継いで、俺がその一角を担って、序でに俺の目的を果たして見せる。

大きな騒動を起こした後。

"山"にある神が宿るとも伝えられる大木の根本に、反省の為に縛り付けられた蓮が、彼を縛し、師事する人物の名前を出しながら、隠れて差し入れを持ってきた幼馴染みに宣言する。

―――そんで、ぜってえ、"奴等"ぶっ潰す。

キリリとした眉の下にある、甘いとも例えられる顔に、爛々と燃える眼があった。

嘗て師と共に修繕した、古の人によって拵えられた憤怒の顔でもって邪気を焼き祓うような、神々の瞳にも似かよった美しさと、強さを持っていた。 

その一部始終を見つめ、彼の怒りを宥め、その奥に抱えている最愛の人を喪った哀しみを癒すことも、"友"として出来ない無力さに、カノンはうちひしがれる。

幼馴染みとその恋人が好きだと言ってくれた、稲成寿司を渡すぐらいの事しか結局出来なかった。

そこで思い出すのは、どんな苦しみをも救済する力を持っていた、限りなく自分に似ているという"親"となる人。

―――観音殿の生き写しですな。

この"山"に来てから、当初、特に、昔を知っている人々からまだ童の齢にも関わらず、顔を見られる度に、幾度となく言われた。

気にしないように努めていたけれど、一時期、思春期とも呼ばれる間はそれが本当で嫌で仕方ない時、芍薬が仕事の合間に出てきた、"贋作"の能面を投げて寄越した。

―――お前の顔が、お前のものじゃない見たいにいう奴が年をくってくたばって、この世界にいなくなるまで、カノンの綺麗な顔は大切な人にだけに、見せなさい。

冗談だか本気だかわからないけれど、その言葉は嬉しかったから従った。

この"山"にいる間だけ出来る、自分を守ってくれる"(まじな)い"。

周りには"芍薬の実験的指示"ということで、そのまま面をつけて"山"での時間を過ごした。

やがて芍薬の言う通り、顔のことを言ってくる御仁は"くたばって"しまわれて、面を自然と外す日がきた。

けれど進んだ年数は平等に訪れ、それは芍薬も同じ。

矍鑠とはしているが、もう齢も大分進んでいて、2人の童は各々成長を遂げ、青年となる。

幼馴染みは恋をして、それを失って、もがいて、自分が為すべき事を、己に科してした。

そして、幼馴染みに触発される形でカノンも初めて"熱"を感じる思いを胸に抱き、思わず芍薬にその思い―――興味を口に出してしまっていた。

―――どれ、お前がそれに興味を持ったなら、私の最後の権限を使って、お前をその仕事に就かせてみせようか。幸いお前は蓮と違って素行も良いし。その職は、向いているとも思うし。

―――芍薬様。

師事する人が本気で言っているのだと察して、慌てたが、もう決めてしまっている様子だった。

―――黒佐渡も四ツ葉も、お前が還俗することには反対はしない。こう言っちゃお前にもアイツらにも悪いだろうが、ここに残ったら、どうしても"あの方"にお前を重てしまう瞬間はあるだろう。

側に控える、自分の孫の様にも思っている青年に芍薬は、優しく微笑んだ。

―――あの時期に、お前を見て"あの方"に似ているなんて行った奴等の眼は節穴に過ぎない。

その真贋を見極めてきた瞳と感性の持ち主は、過去に弟子を昔の知己に似ているといった人物達を嘲笑う。

―――万が一にも"似る"という言葉が使うのが許されるのは、お前が、これから様々な経験を経た後に、幸運にも(さと)りを経た上での事。お前の心境からしたら、なりたくはないかもしれないが。

そう言って沢山のシワが刻まれた手を、瑞々しい肌をした弟子に伸ばす。

少し、つり目の左の目元に親指を滑らせたなら、そこに良く朱色の紅を挿していた20数年前に、覚りという尊い経験をこなしながら、全てを欺くようにして、この世界から旅だった人の形に確かに似ている。

―――芍薬様は1度も似ているとは、思っているとしても口にしないでいてくれました。

その事を心から感謝する声で弟子が言ったなら、芍薬は薄く笑った。

―――違う者を同じとは言えない。前以て言っておくが、どちらが本物、贋物等も言うつもりもない。とても似ている、別物でしかない。

それから、瑞々しい肌から手を外し友人達に頼み取り寄せた、殆ど記入された養子縁組の紙を懐の紙を取り出した。

―――ただ、お前が還俗する為には、一般的な"姓"が必要だ。で、よかったら、私の姓を引き継いでくれるか。

―――いいの、ですか。

驚いているうちに用紙を広げられ、証人の名前の欄には黒佐渡と四ツ葉の名前が認められている。

―――あの蓮も自分なりに、進む方向を決めたんだ、お前も折角なら興味をもったなら進んで見るがいい。幼馴染みが、心のそこから憎んでいる職に、幼馴染みで親友でついてみるのも、悪くないだろう。

"教師"という職業に就くために、2年間勉学に励んだ。

元々、基礎的な勉学は"山"でも納めていて、専門的な知識は芍薬の仕事の傍らにいることで、学者並みについていた。

愈々、還俗にという時を前に見計らった様に芍薬は"入滅"し、養子となったカノンは彼の一切合財を引き継いだ。


―――なあ、最後に俺の"仕事"に付き合ってくれよ。

―――良いですよ、蓮。

"山"を降りる"当日"になったばかりの時間に、幼馴染みと共に、彼が行った"仕掛け"を見に行った。

―――一応、潰す方向で仕掛けをしたけれど、俺なりに"蜘蛛の糸"は、(はす)の池の上から垂らしてみたんだぜ?。

とても有名な、優しくも恐ろしい童話を例え話に使いながら、蓮と共に、彼が"潰す為に仕掛けた細工"を見に行く。

ただ、どうやら"結末"も物語と同じ様に、物悲しく、惨憺なものとなりそうだった。

公僕の車両が、回転灯を回しサイレンを鳴らしながら深夜と呼べる時間を走りすぎて行く。

とりあえず、深く関わった者で、此方側の痕跡に気がついたものがいないか、それも確認するまで付き合って欲しいと言われて、カノンは頷いた。

―――ああ、そうだ、カノンは面つけとけよ。確かお前がこれから還俗して暮らす近辺だからさ、正に"面が割れたいけない"って、奴だ。祖父さんもジジイもそこは気にしてたから。

言われた事はうろ覚えの様子で、蓮は"山"から降りるときには、端正で甘い顔立ちが引き立つのにも一役かっているスーツとコートの内側から、面を取り出して差し出す。

―――で、確か縁起の良い奴をもってきたんだ、はくしき……?。

それを、受け取ったなら、そういった事に詳しいカノンの方が説明を始めた。

―――"白式慰(はくしきじょう)"、天下太平国土安穏を祈るおじいさん……"(おきな)"の面ですね。

―――そうそう、優しいじいちゃんの面。俺等の周りには、いなかったけれど、せめてな。

幼馴染みなりに、自分に"檄"を飛ばしてくれているのだとわかると、ありがとう、と小さく言葉に出した。

それから最終的な確認をする為に、蓮が適当な事を言って、"仕掛け"に接触した、頬に絆創膏を貼り付けた公僕と話して様子を探る。

ただ思いがけないところで、蓮の罠を公僕が見事に避けたりして、幼馴染みはもう"一手間"仕事の為に歩いて行き、カノンは独りになった。

もう一度、空を見上げたなら、すっかり青空になっていて夜は明けていた。

先程まで見えていた、金星も、もう良く目を凝らさないと見えない。

警察の車両が忙しく道を走る、"騒がしい"始まりとなったが、自分の還俗の生活が始まったのだと実感できる。

―――とりあえず、"教師"として生徒に間違った事を教えないようにしないといけませんよね。

幼馴染みは、間違った事を教える教師なら、きっとその道を選んだ自分すら容赦なく、天上の蓮の池から糸を垂らして、絡めとり、潰すから。幼馴染みの垂らす糸は、未来のある子ども達"生徒"達の夢を駄目にしようとする"先に生きる人"を、教師の側に垂れてくる。

そこで間違った選択をしたならば、ゆっくりと首から躰へと絡めつく。

でも、直ぐに絞め殺すわけでもない。

狙った獲物が"逃げられない"様に、緩く、けれど逃げられないようにする為の糸。

中には、日常という代わり映えのない日々を"地獄"と捉え、甘く端正な顔をした凛々しい眉を持つ人が、天上から垂らした"糸"に自分から手を伸ばす教師もいるかもしれない。

そして、彼等を"潰す"役目を担っているのは、教師に教え育てたられた生徒達。

《育み方が間違ってなかったなら、"生徒"に殺される事もない、ある意味自分の腕次第》

幼馴染みは、教師達がその指導のやり方に子どもの才能や希望を閉ざすの物を感じたなら、"潰す"のに相応になったと、生徒の力でも潰しやすくなるように、身動きがとれぬように絡める糸を増やすだけ。

それこそ、天上に引き上げられ救いになるはずの糸が、逆に救われたと思った瞬間にプツリと切れるように。

ただ、蓮という人が垂らした糸に吊るされた人は、切れた瞬間には、救ってくれるとばかりに信じていた糸に躰を拘束されていて、悪あがきをすることも出来ずに奈落に堕ちるしかない。

躰の何処も動かせずに、開けているのは瞳だけ。

しかも、ただ堕ちていく恐怖を煽る為だけに、開かされているのに過ぎないのだから。

《教室ってさ、例えどんなに良い保護者の中で子どもが育っていても、変に力を勘違いしちまった教師が(しるべ)を執ったなら、少なからず影響を受けてしまう。

しかも、教育を受けさせるのは親にとっての義務であって、子どもにとっては権利。

最近じゃ、その義務の具合を勘違いして、如何に親が威張る為に、子どもの特性やら性格を見もしないで、学力だけが高い学校に入れて、それをステータスにしようとしている。

教師も、生徒じゃなくて親をみてやがる。

ま、今回のは義務の時期は終わってるし、子どものほうも結構歪みが酷かったし、クソ教師の見栄っ張り両親ってのが、俺的にぶっ潰したい"フルコンボ"だったからな、詰みに詰ませてもらったけれど。

これ以上あの"教師"の被害者が出なくて、めでたし、めでたし♪。

養子までとって、自分達の評価を作ろうとしたのは呆れたし、息子の方が気の毒だったけれど》

そして、殻に包まれて堕とされた先で、それまで都合の良い部分しか見向きもしなかった生徒に―――子どもによって、叩き潰され、止めをさされる。

その時、瞳しか動かせない中、堕とされた先で子どもと再会する恐怖は、どんなものだろう。

堕ちるのとは、また違った恐怖が、"これまで子どもにしてしまった事"というそれなりに持っている罪悪感に加算される。

《自分が子どもで、信頼している大人や親に見限られたら、どんな気持ちか考えて行動すりゃ、どうってことないのにな》

そう言って、幼馴染みは、自分の初仕事成り行きを、還俗したら教師になると宣言したカノンに話してくれてもいた。

最後まで還俗のしないで欲しいとも、確り気持ちを伝えてくれていた。

―――あそこまで、自分の手の内を話してくれたのだから、私は蓮の垂らす蜘蛛の糸に絡まるわけにはいきませんよね。まだ、教師にもなってもいませんけれども。

今の自分に、幼馴染み糸が絡まるわけもないけれども、それなのに、よく細くて白いことをからかわれた首筋を撫でた。

幼馴染みの優しさと恐ろしさは、ある意味誰よりも知っていながら、"この道"を選んだ。

でも、ふと思う。

幼馴染みが仕掛ける何十もの罠のように貼られた、糸を掻い潜っていける人―――教師はいるのだろうか。

何重にも絡めた糸は気がついたときには、全体を隙無く身動きのとれない位に覆っている。

覆っていた糸であった筈の物は、互いに絡まりあった所から癒着して、硬化して身動きが取れなくなったところで、"殻"として固まり、糸は切れ、堕とされる。

永遠に孵化することがない、奈落に堕ちた卵の様になってしまったものを潰す役目は、それまで"教師達"が間違った遣り方で、大人になる前に孵化することすらが叶わなくなってしまった、生徒達。

可能性や夢を、教師という人が使い方もわからず吐き出した言葉と、厳しい現実で塗り固められたという殻に閉じ込められて、自分を守る筈の殻に繊細な心を出すことも叶わない。

―――望まない殻を被らせた、被りざる得なかった生徒達の殻を、打ち破ってあげられる位の教師に、私はなれるでしょうか、芍薬様。

穏やかに微笑む表情の白式慰の面を見つめて呟いた。

まだ自分がそんな力なんてもててないのも、判っている。

―――だれか、まず、尊敬出来る人を見つけよう。

何かを始めようとする際、己に自信が持てない時に、自分に勇気を出すためにやっている、これも一種のカノンの(まじな)い。

"自分で、自分に約束事を作り、自分を律する"

これは、元々は本当に珍しく、僧侶の黒衣を身に付けた四ツ葉と共に修行をした時に、思い付いた―――というよりは、彼に許可をもらい、還俗しても模倣させて貰っていること。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ