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愚者は聖夜に闊歩する

調子っ外れのクリスマスソングが、賑やかしく部屋の中を彩る。


元気で楽しげな子供の声。



「なにがどうしてこうなった」


「んもう。しつこいわよ、蓮くん」


「オレは昨夜、さんざんな目に合ったんだ。休ませろよ」


「しょうがないでしょう。食料の供給元の要求なんだもの」


「絶対、いいように利用されただけだよな? はじめっから仕込みだったよな?」


「この街でどこの勢力にも属してないのって、あなたたちだけじゃない。しょうがないでしょう」



なにがどうしょうがなかったのか、誰かオレにわかるように説明してくれ。


あの後――……音子が助けを呼びに走った後。


たろを倉庫内に止めておくのに、どれだけ苦労したことか!


おかげさんで、左手は完全にパア。


修理ではどうにもならない有り様になっちまった。


片腕じゃ、できることはたかが知れてるってのによ。


たろの『非常食』を運んできてくださった面々は、食料と引き換えに、ガキの面倒を押しつけていきやがった。


あれは絶対、頃合いを見て待機してた。


じゃなきゃ、あんなタイミングよく『非常食』が届くわけがない。


結末を見届けついでに、万が一に備えて、たろの『非常食』を準備してたに違いない。


たろの暴走は、一度や二度の話でなし。


ご近所さんでさえ、飢えたたろがどうなるかを知ってんだ。


街を牛耳る各方面のお方々が、把握してないはずがない。


まあ、よ。


本気の殺し合いになる前に介入してくれたのには、感謝してるがな。


一応、懐も潤った。

クリスマスを祝えりゃ、年も越せる。



「蓮ちあゃん。ケーキまぁだあ?」



なにより、たろもガキどももご機嫌さんだ。



山ほどのチキンを焼いて。

たっぷりとサラダを盛りつけて。


ローストビーフだ、ハンバーグだグラタンだ、と。


リクエストされるまま、大量の料理をこしらえてゆく。


料理はオレと音子。

部屋の飾りつけは、たろと子供たちが担当だ。


押しつけられた子供たちを持て余し、どうしたもんかと悩みもしたが。


うまい具合に、ミカたちの住んでる孤児院を借りられた。


この先どうなるかはわかりゃしない。


だが、当面の間。


オレとたろが一緒に生活している限り、この場所を無償で貸してもらえる約束になっている。


アレだよな。

体よく、街中の孤児の世話を押しつけられたんだよな、コレ。


社会問題をいち市民に押しつけるな、と言ってやりたいが――……。


ダメだ。

たろが陥落されてやがる。


楽しそうに弾ける幼い声。

一緒になって笑い転げる赤毛の鬼人。


さっきまで死にかけてやがったくせに、元気なヤツだ。



「蓮ちゃん蓮ちゃん蓮ちゃん。パーティーはじめようよ」


「じゃあ手伝えよ。片手なんだよ、オレはよ」


「んふふ〜」


「なんだ、気持ち悪い」


「オレねえ。義手をつけてない蓮ちゃんの方が好き」


「あっそ。おら、パスタ運べ」


「はあい」



たろには、拾い癖がある。

犬猫にはじまり、人間まで。

気が向きゃ、なんでも拾ってくる。


ちなみに、一番はじめに拾われたのはこのオレだ。


そのまま居着いて住み着いて。

寂しがり屋の鬼人の孤独を埋めた。



――――……たろに拾い癖をつけたのは、オレだといえなくもない。



はぐれ者同士、寄り添って。

歪ながらも家族もどきだ。


たろは、片腕のオレの方がいいという。


メンテナンスだ修理だと、義肢をつけていない間のオレは、めったに仕事をしない。

片手じゃ、どんなミスをするかわかったもんじゃないからだ。


たいていが家で、趣味の料理を作って過ごしてる。


つまりたろは、オレが家にいるのが嬉しいらしい。


つくづく馬鹿だよなあ、コイツ。


元気そうにしちゃいるが、あんだけぼろぼろだったんだ。

見た目だけキレイに治ってたって、中身はどうだかわかったもんじゃないし。


しょうがない。


しばらくは――……。


そうだな。

せめて新しい義手がとどくまでは。


様子見がてら、寂しがり屋の化けものの側にいてやるとするか。



「れんちゃん、あげる」


「なんだ。持ってきたのか」


「知ってる?」


「それねえ、勝者のもらう冠なのよ」


「今日いちばんのMVPはれんちゃ〜ん」



本当に意味がわかってんのかどうか。


ミカの頭に乗ったままだった月桂樹のリースを、ガキどもが楽しげにオレの頭へ乗せかえる。


一応、料理が終わるまで待ってやがったみたいだし。

たろも音子も、どっから持ってきたのかサンタの衣装だ。


オレだけノリが悪いのも、白けちまうか。



「ありがとさん」


「さあ、みんな。パーティーはじめるわよう」



「「「はあい」」」



部屋中に散らばっていた子供たちが、いそいそと席に着く。

ミカたちも、あわててテーブルへと走る。



部屋中に溢れる笑い声。

こんなの、どんくらいぶりだか、記憶にもありゃしない。



「似合ってるね。月桂樹の冠」


「ホントはおまえが一番頑張ったのになあ」


「そんなことないよ」


「身体張ってちびども守っただろが」


「…………食べるものなら、いっぱいあったから。止めてくれたのは蓮ちゃんだ。ありがと」


「ああ」


「最後のギリギリで、いっつもオレを止めてくれるよね」


「そりゃ、な。相方だし?」


「蓮ちゃんは――……オレの……」



もにょりと、たろが俯いて口ごもる。


続く言葉はどうせ、『あんな姿を見てなんとも思わないの?』とかなんとかだ。


寂しそうにふにゃりと笑う、赤毛の鬼人。


ったく、脳足りんの化けものめ。

湿気た面しやがって。


あんな姿見たくらいで、いまさらオレが怯むものか。



「ぶっ壊した義肢の代金、きっちり稼げよ」


「へ……壊したの、オレじゃないよ?」


「止めさしたの誰だ。いいか。ちゃんと弁償してもらうからな?」



いつも通り。

予定調和のセリフを口にする。


寂しがり屋の化けものは、独りになるのがなにより怖い。



「…………うん。蓮ちゃん大好き」



だから、目に見える戒めでがんじがらめにしてやれば、それだけでホッとしやがる。



「嬉しかねえよ、ばあか。もっと可愛くゴマをすれ」



コイツがしょっちゅうオレの義手をぶっ壊すのはたぶん、そういう理由だ。


借金なんぞで繋がらんでもいいのに、阿呆め。


どんな姿を見ようが、見捨てられない程度にはもう、大事な『家族』だ、なんて――……。



「先にはじめちゃうわよぅ」


「へーへー。今行く。ほれ、たろ」


「…………うん!」



ま、図に乗られても困るしな。

コイツが気づくまでは、内緒でいいか。


折しも今日はクリスマスだ。


街に住む怖い怖い権力者さまからのクリスマスプレゼントが、この孤児院ならば。



なあ、たろ。



――――……ここは愚かな愚者に相応しい、古びて小洒落た住み処じゃねえか。









例え血の繋がりがなかろうとも――……。



――……弾ける笑顔が家族たる証。


















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