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第二話  始まりの、胡散臭い占い師

―― それは、バイトの帰り道での事だった。



「おーいそこを行く見るからに幸薄そーなお兄さん、何処行くのー? 早まった真似はやめましょう。人生楽ありゃ苦もあるさー。ってなわけで私の占い受けなさい、つか受けろ。私の生活に貢献をー」



…… なんか色々と失礼な占い師に呼びとめられたらアナタならどうしますか?


声の方向に顔だけ向けて見ると、そこにはいかにも『私怪しい人です』って文字が書き出されそうな目元までフードを被った小柄な人物がいた。


しかもこれまた胡散臭そうな椅子と机を用意し、机の上の水晶玉に『ハンドパワー』を送り込んでますってポーズでこっちを見ている。


ちょっと幼い感じが残るソプラノボイスと、フードから洩れる長い栗色の髪と小柄な体格からして、俺よりも少し年下っぽい感じの女の子って言うのは見てとれる。


いやまぁ、幸薄いのは当っているからそこを見抜いた時点でこの占い師すげーとか思ってはいるんですが喧嘩売ってんのかこの子。


何故普通に道歩いているだけなのに自殺志願者にされてるんだ。そんなに辛気臭いオーラを纏っているつもりはないぞ。する度胸もないわっ。


確かに幸薄いよ? 小さい頃から微妙な不幸に見舞われやすい体質ではあるよ? 


買って貰ったばっかのロボットのオモチャを、転んで道端にぶちまけた挙句「あ」とか言われて通行人に踏まれて、ロボットの右腕折れて散々泣いた後。見かねた親父がアロン○ルファで素人修理してドヤ顔向けてきた時、微妙な子供心のままに「とーさんすげー」と言って一つ大人になったり。


勉強頑張って「いける! 今回は手ごたえあり!」って感じでテスト終了後に思っていたけど、実際返ってきたらそこまでいい点じゃなかった事に、えー…とかなって。

その後先生がクラスの平均点を口にして、しかも平均点に届いていなかった事に「俺って…。」って、へこんだり。


自分の教室の机の中から可愛らしい手紙が出て来て、「俺にも春が…!」と舞い上がって意気込んで手紙の封開けて読んだら、その対象が俺ではなく隣の席の男子宛てだった事に一気に落ち込んだ挙句。手紙を読んだ事が差し出し人の女子とその友人グループにばれて、マジ泣きされた上「あんたサイテー!」と非難されこっちも泣きそうになったり。


親父が金髪グラマー美女と再婚して(実母は、小さい頃に病気で他界)。その連れ子の金髪幼女と仲良くなろうとしたけど、英語苦手な上に義妹は日本語さっぱりで意志疎通ができず、身振り手振りでなんとかしようとしたら目茶苦茶怯えられて全然懐いてもらえなかったりと……。


…まぁ確かに幸は薄いよ俺は? 年々不幸の度合いが大きくなってきている事に日々戦々恐々と過ごしているさ!


けど、だからって見ず知らずの赤の他人に「あんた幸薄そうですね」って言われて、


『そうなんですよーもう本当に参っちゃいますねー♪』


とか返せるほど、俺は人間出来てないぞ! 犯罪に手を出すほど落ちぶれちゃいないけどね? 善良な一市民であることが俺に残された唯一の自慢ですっ!



「あー……うん、なんかごめんなさい」



あれ、なんか謝られた。


いやうん、謝ってくれさえすれば俺も吝かではありませんよ。


まぁ幸薄い事は事実だし。今日だってバイト帰りの途中でドブに嵌って洗濯したばっかのジーパン汚したし。ほら、右足泥で汚れてるでしょ?



「……汚れてますねー」



しかも今日バイト代入ったんだけど『頑張った割に少ねー』とか思ってブルーな気持ちにもなってたし、ちょっと機嫌悪かったからねー?


うん、いつもは俺そこまで短気じゃないんだ。なんかもう色々諦めてるし、まぁいいかって考えなきゃやってらんないし。



「……そうですかー」



今月の家賃でほとんど飛ぶなぁ、どうやって次の収入まで食いつなごうかなぁ……。バイト増やさないと駄目かなー。



「……へー」



……ん? なんか物凄く可哀想なものを見る眼で俺を見てるなこの占い師さん。どうしたんだろうか? ああ、もしかして俺の境遇に同情してくれてるのかな。


そんなに気にしなくてもいいですよ、実際これでも結構毎日それなりに楽しく――ってあれ!? なんか俺の心内がバレてないか!?


ま、まさかこの人俺の心を読んだというのか!? す、すげぇ! 占い師すげぇ!


胡散臭い格好してるから占いに興味もった女の子が興味本位でやってるのかと思ってたけど、この人本物だよっ!!



「いやお兄さん。さっきから全部声に出してますよ?」

「え? マジで?」

「……無自覚ですか。まぁ別にそれは良いとしてそこのお兄さん? どうかな。私の占い受けて見ないかーい? お安くしときますよー」



そう言って俺に占いを勧める目の前の占い師さん。その言葉に俺は少し考えるように腕を組む。


そういや、俺って占いんなんてテレビのニュースの合間に流れる程度のもんしか見たこと無いなぁ。本格的に占いなんてしてもらった記憶なんてこれまでで一度もない。


たまにはやってみるのもいいか……? でも今は懐具合が微妙に寂しいし……。



「……占いねぇ? 別に金払ってまで占って欲しいとは思わないんだけど……。お安くしますって言ってるけど、ちなみにおいくら?」

「占い一回につき一万円とかいうモンでどうでしょー。紙だしー?」

「高っ!? 全然お安くねぇぞ! ボッタくりも良いとこじゃねぇか! 占いなんかで貴重な諭吉さんを手離せるかっ!」

「えーそうなんですかー? じゃあ普通いくら位なんですかー?」

「それを客に聞くのかよっ!?」

「この世界の金銭の価値なんて知りませんしー。お兄さんの気軽に出せる値でいいです、はいお金」

「えー何なのこの子? 占い受けるとも言ってないのに……う~ん、五百円……までなら俺も気軽に出せるけど。流石にそれじゃ怒るよね?」

「まいどー」

「いいのかよ!? いや、君が良いなら良いけども!」



良く分からない占い師だな……何か妙な事口走ったし。けどまぁ、五百円程度でも占ってくれるなら一回くらい受けてもいいか、たまにはいいだろう。


そう考えた俺は財布から五百円玉を取り出して、眼の前の胡散臭い占い師に差し出す。


お金を差し出された占い師は俺の手から五百円玉を受け取ると、それを物珍しそうにマジマジと手にとって眺める。



「おおー、これが五百円というお金ですかー。ぶっちゃけ紙なんかで作られたものより価値が高そーなのにこの世界はふしぎですねー」

「何言ってんだか、諭吉さんの方が凄いに決まってるだろう」

「まぁー別に私にはどうでもいいですし何の価値もないんですがー。ほんじゃ占いはじめましょー……って邪魔ですねこれ、てやっ」



そう言うと、俺から手渡された五百円玉をまるでゴミ屑を捨てるように放り投げる眼の前の占い師。


放り出された五百円玉はチャリーンと音を立てそのまま地面を転がっていき……。


――― ポチャン。


水の跳ねる音と共に道端の排水溝に落ちた。耳を澄ませば排水の流れる音も聞こえる。


その一連の動きを見て呆然としていた俺だったが、すぐに我に返り占い師に詰めっ寄った。



「――― ってこらこらこらこらーっ!? 渡した五百円玉を何放り捨ててるんだーっ!」

「それじゃ始めまーす」

「何事も無かったかように話を進めない! どうすんだよ! 溝に入っちゃって排水も流れてるみたいだから、流されちゃってもう取れないぞ!?」

「稼いだお金をどう使おうが私の勝手ですよ?」

「お金を粗末に扱っちゃ駄目だろう! どうすりゃいいの!? 払ったお金を文字通り溝に捨てられた俺のこのやるせない気持ちは!?」

「犬に食わせてくださーい」

「最低だこの子っ!?」



俺の言葉をどこ吹く風と占い師はいそいそと準備を始める。その様子に俺はなんとも形容のしがたい気持ちになりながら、占い師と机を挟んで向き合うような位置で用意されている椅子に乱暴に腰を下ろした。


くそうっ! 俺の汗と涙の結晶を無残に扱いやがって!



「何怒ってるんですかー?」

「お前が聞くなっ! ああもうっいいから早く占いを始めてくれ! さっさと済ませて家に帰るっ!」

「はいはーい。それでは始めまーす」

「……ちなみに占いって何を使うの?」

「特に何もー、ちょっとした質問形式の占いでーす。私の質問に嘘偽りなく答えてくださーい、それだけで結構でーす」

「あれ? この水晶玉を使うんじゃないの?」

「何言ってんですかー? 使いませんよ水晶玉なんてー」

「この水晶玉の意味はっ!?」

「雰囲気って大事ですよ?」



……もはや何も言うまい。軽い頭痛を覚え米神をぐりぐりと押さえる俺に、占い師はこれまたマイペースに質問を投げかけてきた。


ほんと随分と自分勝手な占い師だ。それで商売大丈夫なんだろうか?



「それじゃ質問いきまーす。あなたのお名前は?」

「……臼井うすい こう

「ウスイコウさんですねー」

「間違っても『薄い 幸』と書いて呼ぶなよ? 絶対呼ぶなよ!?」

「何言ってんですかー?」

「……いや別に」



……昔、それが原因で散々弄られた黒歴史があるんです。



「ほんじゃ次ー。ウスイコウさんは親しい友人はいらっしゃいますかー?」

「親しい友人? そうだな……」

「いませんねー」

「決めつけんなよ!? 馬鹿にすんな! 友達くらいちゃんと……あれ? あいつって友達……か?」

「親しい友人ですよー? 会って挨拶程度とか、まぁ一緒にいれば会話ぐらいする程度の関係は却下ですよー。」

「……えーと」

「はーい次の質問いきまーす」



……何故だろう、すごく負けた気がする。そして察したように次の質問へと移る占い師の行動が若干腹立つなコンチクショウ。


その後も占い師からの質問は続いた。今まで大きな罪を犯した経験はあるか? 親しい人と金輪際あえなくなったらどう思うか? この世界の事をどう思うか? 


その他にも、色々と質問を投げかけられたものの俺はそれら全てに答えて言った――。




*        *        *         *




しばらく経って。ようやく質問をすべて終えたらしい占い師は、俺の質問の答えを反芻するように何やら考え込んでいるようだった。


それにしても何だか変な内容の質問ばっかだったな? 一体これで俺の何が分かるっていうのだろう?



「……ふんふん。とりわけ大きな罪を犯したわけでもない、どちらかといえば善人。親しい者と会えなくなったとしても、その人達が元気で幸せに過ごせているなら別に会えなくてもそれほど苦ではない。今の世界に絶望もしていなければ強い希望も持たず、自身に影響なければむしろどうでもいいと思っている……つまりはこの世界に対しての執着が薄い。……自分に嫌気がさしている事は無く、今の現状を嫌ってもいない……という事は今日までの自分の人生を否定していませんね。起きてしまった出来事に対しても、現実を受け止め結構割り切れる思考も持っている。これは状況適応能力が高いと考えてもいいですねー」

「おーい? 何をさっきから一人でブツブツ言ってるんだ? 占いはどうした?」

「……来たんじゃない? こ、これは来たんじゃないですか私? 今まで何人かあたったけどこの人以上の返答は無かったんじゃないですか……!? もう時間もギリギリですしいっちゃう? この人でいっちゃいますか私!?」



俺の声がまるっきり聞こえてないらしい占い師。一体どうしたんだ?俺の答えに何か問題でもあったのだろうか? これでも一応全部、嘘偽りのない気持ちで答えたんだけどなぁ。


っていうか俺早く帰りたいんだけど。別に急いでるわけでもないけど。


そんな事を思っていた俺だったが、独り言をブツブツ言っていた占い師が不意に顔を上げて俺に視線を向けてきた。


お? 終わったのか?



「あ、あのー? 最後の質問ですがいいですか?」

「あれ? まだ終わってなかったのかよ……まぁいいけど、何?」

「もし、もしもですよ? あなたのご家族や、親しい人のこれからの幸せと安泰を保証する代わりにですね? あなたの名前も国籍も何もかも捨てて。全く見たこともない場所に飛ばされて、そこで生涯を過ごしてほしいと言われたら……お兄さんどうします?」

「え? う、うーんそうだな」



何故だか少しばかり神妙な声色で質問を投げかけてくる占い師に、少し戸惑いながら考える。


自分の全てを捨ててか……うーん。



「……それって、家族とかには二度と会えなくなるってことも含まれてる?」

「はい、二度と会えません。全て捨てるんですから。ですがそのかわり家族やお兄さんと親しい関係にある人達の幸福、健康、安泰は保証されます」

「それは絶対なの?」

「はい勿論です。私達の絶対厳守のルールに定められてますからー」

「な、なんだそりゃ? まぁいいか……う~ん」



少しばかりその質問について俺の中の答えを考える。


家族の幸せを保証する代わりにねぇ……確かに会えなくなるのは寂しいけど、母さんが死んでから親父は俺を男手一つで育ててくれた。仕事で忙しくてあんまり構ってもらえなかったけど、それでも俺をここまで育ててくれた。


再婚だってした事だし、もう俺の事に時間を割くよりも自分の幸せのためにこれからの時間は使ってもらいたいなぁ。親孝行一つもして無いのに何言ってんだかって話だけど。


会えなくなったとしても……親父達が幸せで過ごせてるっ分かるんなら、そこまで苦じゃないかもな。


そこまで考えた俺は、そこで小さく言葉を区切り……言った。



「―― まぁ、それなら俺は構わないかな? その条件を絶対に守ってもらえるなら……。新しい人生を過ごすっていうのも悪くない。」



そう―― 最後の質問に答えた。


その瞬間、俺の返答を聞いた占い師は時間がとまったように動かなくる。な、なんだ? どうしたんだ一体? 俺は正直に答えただけだぞ?


占い師の様子に俺は首を傾げ、とりあえずは見守ることにして待つ。


待つこと数分。しばらく動きを止め、微動だにしなかった目の前の占い師だったが……少しずつ体を小刻みに震わしていく。


な、なんだ? 何が彼女に起こっているのだろうか? その様子に思わず声を掛けようとした俺だったが―――その瞬間。目の前の占い師が声を上げた。



「――っ合格ですっ!」

「……は?」



いや、いきなり合格とか言われても何の事だかさっぱりなんだが?


そんな俺の心情など、これまたお構いなしに眼の前占い師は言葉を捲し立てる。



「合格ですっ合格ですよお兄さんっ! 素晴らしい! 最後の最後で、これほどまでに条件が揃う人を見つける事が出来るだなんて思いもしませんでしたよーっ! 来た来た来た来たーっこれで進級試験は貰ったも同然ですっ! あーはっはっはっは見ましたか、これが私の実力ですよーっ! このお兄さんなら、あの生え際危険地帯上司も文句は言えませんよっ! っしゃああああ!」

「……なにこのひとこわい」



いきなりハイテンションで立ち上がった占い師は、まるで今にも踊りださんばかりに全身で喜びを表現し始めた。


終いには机に片足乗っけて空に向かってガッツポーズをとる始末。


その拍子に机の水晶玉が転がり落ち地面に叩きつけられガチャンと音を立て壊れる。おい、雰囲気が壊れたぞいろんな意味で。


一体何がそこまで嬉しいのか全く理解できないんですが……いや、それよりも俺の占いの結果はどうなったんだよ。



「……あー何喜んでるか知らないけど、占いの方は一体……」

「お兄さんっ!」

「あ、はい」



反射的に素直に返事を返してしまった俺。いやね? しょうがないじゃん。なんか眼の前の占い師の鼻息が荒くて妙なハイテンションなんだもん。ちょっと怖かったんだよ。


我ながら見事なチキンぶり……俺の方が年上っぽいのになぁ。そんな俺を置いてきぼりに占い師は言葉を捲し立てる。



「大丈夫ですよお兄さん! お兄さんは何も心配する事なく全てを私に任せてくれればいいんですっ! 何も不安なんてありませんよーっ! お兄さんはただ一言「はい」と言ってくれさえすればいいのですっ! 後の事は全部、この私に任せてください! 全て万事抜かりなく私が導いて差し上げましょうっ! どーんと大船に乗った気持ちでいてくださいっ! ―― っという訳でお兄さんっ!」



勢いそのままに、いきなり机の上に体を乗り出した占い師は。体を俺の方に押し出し、顔を俺の鼻先ギリギリまで寄せてくる。


それに驚き若干身を引いてしまった俺だったが、その瞬間。


―― 占い師が言葉を告げた。





「――― っ異世界に興味はありませんかっ!?」




「……あ、はい」



……あ、また反射的に答えてしまった。


そんな俺の返答に占い師は『―― っぃぃいよっしゃああああああああーっ!』と、両手を握りしめ机の上でガッツポーズをとる。


いきなりの事態に俺は困惑した状態のまま、眼の前の占い師をただ見つめ続けることしか出来なかったのだが。



少しずつ冷静さを取り戻し……ふと、ある事に気が付いたので心の中で呟いた。






……で、占いの結果は?






―― これが、後に俺の全ての始まりを決定づける事となった……胡散臭い占い師との出会いだった。

少しづつ投稿します。どうか長い目で見てやってください。

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