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第一話  ゴブリン、名前は『アドン』です

「―― アドンッ! 見つけたぞこの卑怯者ぉぉっ!」



出店が並び客寄せの声が飛び交う中。その中でひときわ大きな声があたりに響き渡った。


……えー、またかよ。


今日の狩りを終えて、その収穫にホクホク顔で帰宅していた俺は最近よく耳にする声に内心ゲッソリとしつつ後ろへ振り向いた。


振り向いた先にいたのは黄色い素肌を持ち、頭に鉄製の丸い兜をかぶった自分の体格よりも一回り大きい思った通りの人物……? がいた。


でも表情は憤怒に染まり、彼の内心を表すかのように先のとんがった耳と太めのとんがり長鼻は赤くなっていた。



【 ゴブリン・ファイター 一匹が現れた ! 】



そんなモノローグが俺の頭に過ったのはどうでもいい事である。


えーと、コマンドは?


・ 逃げる

・ 道具

・ 防御

・ 挨拶

・ お茶に誘う


―― すげぇ戦うのコマンド選べねぇ、というか無いんかい。


俺のチキンハートは相も変わらず健在です。まぁ荒事は好きじゃないからいいんですけどね?


ビバ平和主義っ! 争いは何も生まないよ! ちなみに俺達の周りにはいつのまにか人……? だかりが出来ていたりする。


「やれやれー!」「何だまたかよ? こりねーなボッコルも」「今日はどっちが勝つと思う? 俺、アドンに銅貨一枚!」「俺は三枚!」「大穴でボッコル! 銅貨五枚!」「うわチャレンジャーだな! さては何か収入あったな? 今日奢れよ!」「無難にアドン! 銅貨五枚!」「なんだよ、ほとんど賭けにならねぇじゃん」


……まぁ、そのほとんどが面白い余興程度に楽しんでいたりするけど。


君達、娯楽が少ないからって同族同士の喧嘩を賭けに盛り上がるのは、お兄さんどうかと思うなぁ。



「やい! アドン! 何スカした面してんだっ! 聞いてんのかっ!?」

「……聞いてるよ。何か用ボッコル? 俺何かした?」

「何かだとっ!? 何かって言ったかこの野郎っ!? テメェの胸に手を当てて聞いてみろっ!」

「……うーん、今日は早く帰って猪鍋かなぁだって。」

「え……? 猪鍋? マジで?」

「昨日張った罠に運良く掛かっててね。超ラッキーだ」

「ほ、ほほう? そ、それはそれは…。」

「俺一人じゃ食いきれないから。ボッコルもどうだ? 御馳走するよ」

「本当かっ!? マジかよ! 行く行く絶対行くって!」

「そうか。それじゃあ出来上がるまで時間が掛かるから……そうだな、日が沈んで一刻経ったら家に来てくれよ」

「日が沈んで一刻だな!? よし分かった!」

「それじゃ俺準備があるから。また後でなボッコル」

「おうっ! じゃあなっ!」



そう言ってお互い片手を上げて笑顔で別れる。そして背を向け合ってそれぞれ逆方向へ。


背後からはボッコルの鼻歌と同胞達の羨ましげな声が聞こえてきた。


よっし! 今日はお客さんも見える事だし隠してた酒もだしちまおうかっ! ああ…今晩の事を考えると涎が止まらない。


おっといけない。早く家まで帰んなきゃ猪を運んでくれている『ドワーフ』族の『運び屋』が待ちぼうけをくらっているかもしれない。


残念ながら、あんなに大きな猪を運ぶには俺の非力さじゃ無理だからなぁ……。


本当、森でドワーフの『運び屋』の皆さんに会って無かったら、自分で持てる少量の肉だけ削り取って、後は泣く泣く諦めなきゃならない所だったよ。俺って運が良いなぁ。


……ここで同胞のゴブリンの『運び屋』だったら何処に運ぶか分ったもんじゃないからな。仕事はキッチリこなす義理固いドワーフ族、マジ男前。仲良くなっておいて正解だったな。



―― ドドドドドドドドドドドドドドッ!



「――って違えええぇぇぇぇぇだろおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

「おわぁっ!?」



背後から地響きを鳴らし舞い戻ってきたらしいボッコルは。俺の前に回り込むと、被っていた鉄の兜を掴みそれを地面にへと叩きつけた。


な、なんだいきなり? 何か忘れモノか?……というか、お前鉄の兜をそんな風に扱うなよもったいないなぁ。


ちなみに地面に叩きつけられた鉄の兜は、その反動でコロコロと転がって行き同胞達の元へ。


「貰った!」「よこせっ! そいつは俺んだ!」「鉄の兜欲しい!」「売って金にする!」と、醜い争いが繰り広げられている。


……うん、流石同胞意地汚い。


妙に感心し「うんうん」と頷く俺に、ボッコルは指を突きつけ怒鳴り散らしてくる。



「この卑怯者がっ! 食いモンで話を反らすとはなんて卑しい奴なんだっ!」

「それに釣られるボッコルも俺は十分卑しいと思うんだけど……。」

「うるさいうるさいっ! 俺はお前のそういう所が気にくわないんだ! 弱っちいくせに! 生意気なんだよ!」

「まぁ、俺が弱いのは事実だけど……別にそれでボッコルに何か迷惑かけたか?」

「掛けてんだよこの卑怯者っ! 俺の方がお前よりも大きいし力もあるっ! 同胞達の中じゃ俺は上位に位置する! 族長に武勇を誉められた事だってある!」

「あーうん。その話は耳にタコが出来る位聞いたって……なら良いじゃないか、俺もボッコルの方が強いって事は認めてるよ」

「そうだっ! 俺は強い! 体格だって大きい! だから俺はカッコイイ!」



そう言って腰に手を当てふんぞり返るボッコル。


そんなボッコルに、同胞達も「いいぞいいぞー!」「よっ! ボッコル最高っ!」とはやし立てる。若干馬鹿にしてるっぽいけど。


いやうん。強いのは認めるけど……ゴブリンで格好良いとかは無理がないか? 十中八九気色悪いとしか返ってこないと思うよ俺? アンケートとったら。


まぁそんな俺の心情なんて知らないボッコルは、自分を誉め讃える(馬鹿にする)同胞達に大物を装う仕草で「まぁまぁ」と鎮めた。


……なんか可哀想な奴に見えてきたよお兄さん。



「……それなら良いじゃないか。俺みたいな弱い奴をボッコルが気にする必要なんてないだろう?」

「―― いぃやっ! あるっ! 俺にはお前という奴が許せねェ! この卑怯者!」

「なんだよ卑怯者って? さっきから失礼だな」

「卑怯者は卑怯者だっ! 卑怯者にそう言って何が悪い! 何で、なんでお前が! 何でお前みたいな弱っちぃ奴がっ……!」



そう言ってボッコルは我慢ならないというようにブルブルと震え―― 次の瞬間、大声で怒鳴り散らしてきた。



「―― 俺よりも狩りの成果が大きい上に、成功率が高いんだあああああああああああああああああああっ!」

「……またそれかよ。はぁ、もういい加減にしてくれよぉ」



眼の前で激昂するボッコルを前に、俺はウンザリとした表情で溜息をついた。


狩りの成果と成功率。


どうやらこれがボッコルが俺を目の敵にしている理由らしい。


まぁ自分で言うのもなんだけど……俺はこの集落では右に出る奴がいない位、狩りの成功率、そしてその獲物の希少度が極めて高いらしい。


らしいんだけど……何でここの集落じゃないボッコルが、その事で俺に文句を言うのかが全く分からない。


現にボッコルの狩り腕は隣の集落『赤の集落』じゃかなりの評判だ。大きな獲物をとってきては自慢しているって話を良く仲間達から聞く位だ。


だから別に俺の住む『青の集落』での俺の狩りの評判なんて、『赤の集落』で活躍しているボッコルが気に掛ける事じゃないと思うんだよ。うん、余所は余所、うちはうちだ。



「だから、こっちの集落とボッコルの集落は違うんだしそんな事気にする必要なんてないって言ってるだろう? 何度も言わすなよ」

「気にする必要なんてないだと? これを見てもそんな事言えるのか!?」



そう言ってボッコルが俺の眼の前に一枚の紙切れを突きつけた。


ん? 何だこの紙? これがどうかしたって言うのか? マジマジとその紙を眺めて、そこに書かれている文章を読み上げる。


ちなみに文は妖精言語といって多くの種族の間で主流の文字だ。同胞の中でも読める奴は結構いる。……何気に文明度が高いよな。



「えーと何なに? ……『ゴブランド王国全集落狩猟順位』? 何これ?」

「王国の集落を全部をひっくるめた狩りにおける順位だ! 集落全体をまとめて、狩りの成果の高い奴が順位ごとこれに書かれてる。良く見て見ろ!」

「ふーん? ……お、すっげ。一位は『白の集落』のエンカーか。流石だなー」

「そこじゃねぇ! その下だ!」

「ん? ……二位は『白の集落』の……あっワンドルだ! すげー上位二匹が『白の集落』から出てんじゃん」

「そ・こ・で・も・ねええええええええっ!? そのさらに下だあああああああっ!」

「下、下だけ言われても分かんないって……ったくもぉ。えーと三位は『青の集落』のアドンか。おー、すげーうちの集落からも上位者が――ってはい? 俺?」

「ああそうだよ! お前だよっ! 俺達ゴブリン族の中でも最下層種の『グリーン・ゴブリン』である、テメェだよっ!」

「おー! マジか凄いじゃん俺! やりぃっ、今日はお祝いしなきゃなー。三位なんて幼稚園の頃の園児徒競争以来だよ」

「え、えんじ? ときょ? 何言ってんだお前?」

「あーこっちの話。……あれ? ……ちなみにボッコルは……?」

「………八位……っ!」

「……あー……そ、そうなんだ……?」



そう言って屈辱のせいなのか、ブルブルと体を震わせるボッコルに俺は冷汗をかいた。メチャクチャ怒っていらっしゃる……。いつもより言動に熱が入っていると思ったけど原因はこれか。


各集落の族長達もなんて余計な事をしてくれたんだ。娯楽の少ない集落に何か刺激でも求めたのか? 俺にとっちゃ迷惑極まりないんですが!?


押し黙る俺だったけど、次の瞬間ボッコルが順位の書きだされている紙を力任せに引き裂き、そのままグシャグシャに丸めて地面に叩きつけた。



「――っがあああっ! 納得いかない納得いかない納得いかなあああいっ! なんでこの俺よりも弱いアドンがっ! この俺よりも五つも順位が上なんだーっ!」

「そ、そんな事言われても。何かの間違いじゃないか?」

「族長達が入念に調べ上げたんだ間違いなんかあるはずねぇだろう!」

「……じゃあ認めろよぉ。もぉ何だよお前メンドくせぇ……」

「大体変だろう!? お前は力もなけりゃ体力だって低い! それに足だって遅けりゃ、弓だって下手くそなんだぞっ! お前の仕掛けた罠だって全然大したことねぇ極々普通の仕掛けだっ!! だってのに……だってのに……! 何でお前はいつもいつもいつもド偉い獲物を然も当然のように持って帰って来るんだよおおおっ!? インチキだ! 絶対卑怯で姑息な手段を使ったに決まってるんだあああっ!」

「いや、そんな事してないって」

「じゃあ何だ!? 説明しろっ!!」

「えーと……運?」

「そんなもんで納得できるかあああっ!」

「じゃあ俺にどうしろってんだよ……あーもう」



地団太踏んで悔しがるボッコル。そんなボッコルの様子に俺はウンザリとした面持ちで深いため息を吐いた。


実際俺にだって分かんねーんだもんしょうがないじゃん。張った罠に勝手に引っ掛かるんだから運以外にどう説明しろってんだよ。



「お前に分かるかこの俺の気持ちが!? 大量に川から魚を釣ってきて、同胞に自慢していた所に! 俺の眼の前を、馬鹿デカイ巨大魚乗せた荷台引いて鼻歌交じりで横切っていったお前の姿を見た時の俺の気持ちがお前に分かるかあああっ!?」

「いやぁ……網に掛かっててね? アレは俺も驚いたわー」

「驚いたわーっじゃねえええっ!? ふざけんなよ! お前本当にふざけんなよっ!?」

「いや、これでも狩りには真剣に取り組んでるつもりだけど……」

「お前等だってそう思うだろうっ!? 自分より格下の奴が自分より上に立つなんて納得できねぇだろうっ!?」


「えー? でもアドン分け前くれるし」

「おう、独り占めなんてしないもんなアドンは」

「俺この前狩りで何も収穫なくてさー。晩飯無しかと思ったらアドンが晩飯によんでくれてさー。アレ本当に助かったわ」

「あ、お前も? 俺も俺も」

「っていうかアドンがいりゃ俺ら肉で飢える事ないよな」

「野草とか木の実とは獲れるし店で買えるけど、やっぱ肉がなきゃなー」


「あ、そう? じゃあ今日の猪鍋、皆で囲んで食べないか? 皆もなんか持ってきてちょっとした宴開かない?」


「「「「「おおっ! 流石アドン話が分かるっ!」」」」」



俺の提案を聞いた瞬間、同胞のゴブリン達が散り散りになって動きだした。流石同胞、欲望に忠実だ。



「俺今日獲った兎持ってくる!」

「俺は鳥!」

「俺キノコ」

「おいそれ毒じゃねぇよな?」

「俺は酒! やっぱ酒だろ!」

「宴だ宴―!」

「してぇ~宴がしてぇ……」


「お、お前等あああっ! ゴブリン族の誇りは何処にいったあああっ!?」


「「「「「誇りで腹は膨れない」」」」」


「……正論だな」

「―― うがあああーっ!」



頭を掻きむしり、喚くボッコルに俺はまた一つ大きく溜息を吐いた。いや……確かに面白くないのは分かるけど、実際俺でも運が良すぎるなぁとは思っているんだ。


―― あっちにいた頃とは、全くの真逆だなぁ。


隣でまた俺に何かを喚き散らしているボッコルの話を聞き流しながら。俺―― ゴブリン族の中でも最下層種である『グリーン・ゴブリン』のアドンは。


天井の大きくポッカリと空いた穴から、夕暮れの光が差し込む空を見上げた。


……この世界に来て随分経ったなぁ。色々会ったけど新しい生活にも結構すぐ慣れたし、別に良いんだけどね?


そういや、あの占い師って、本当に何者だったんだろう?


この世界に来る切っ掛けとなった人物と、その人物との出会いに、俺は思いを馳せるように目を細めた――。







妖精と魔族、そして人間が住まう異世界『ラーズ・アファト』。




妖精が住まう東の大陸、その南西に位置する深い森の中に、その国はあった。




地下の巨大空洞に存在する、ゴブリン族の王国『ゴブランド王国』。




そして『ゴブランド王国』の中に存在する四つに分かれた派閥の、集落の一つ『青の集落』。




その集落に住む一匹の『グリーン・ゴブリン』、その名は『アドン』。




そのゴブリンが。まさか別の世界から渡ってきた存在で、なおかつ以前は『人間』であったという事実を。




今はまだ――この世界の誰も知りはしない。


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