二つ名
狂犬。
誰の二つ名かは、言うまでもない。
識別個体――本来なら多数の犠牲を前提とするそれを、単独で撃破する。
定期的に発生するゲヒュールの群れも、傷一つ負わずに殲滅する。
出動回数こそ多くはない。
だが、識別個体討伐数、ゲヒュール討伐数ともに二位に圧倒的な差をつけ、一位の座を独占している。
長年、誰も手出しできなかった存在を減らし続け、恐怖そのものを塗り替えた。
いつしか、こう言われるようになった。
――困ったら狂犬に任せろ。
だが、その名の由来は強さだけではない。
命令を聞かない。
誰にも躾けられない。
制御不能。
それこそが、“狂犬”。
――それが、今は。
「なんで、ご主人様が仕事についてくるんです?」
「カッコいいとこ、見たいなって」
「ふーん」
歩きながら、視線が逸れる。
「あ、パチ屋」
「終わってからな。終わったら一緒に打ちに行こう」
「確かに、その方がゆっくり打てますね」
軽い調子。
やがて現場に着く。
「着いたな」
「よーし、カッコいいとこ見せますよ」
視線の先。
ゲヒュールの群れ。
そして、その奥に一体。
「……群れと、識別個体か。私を守りながらで大丈夫か?」
「最近、楽する方法思いついたんですよ」
イヌの空気が変わる。
力が解放される。
「跪け」
静かな一言。
空気が沈む。
群れが、止まる。
「……おー、全部止まった」
「降伏したんで。命令できます」
視線が奥へ向く。
「残りは識別個体。群れを操るタイプですね」
一歩。
距離を詰める。
蹴り。
鈍い音。
間髪入れず――
「跪け」
沈黙。
「……強くね?」
「さっきので理解させたんで」
「勝てないって」
「殺すのか?」
「いえ」
軽く首を振る。
「連れて帰ります」
「……戦力にするのか?」
「まさか」
少し笑う。
その後。
持ち帰った識別個体を、訓練施設での運用対象として提案。
結果。
撃破よりも大きな利益を生んだ。
「……金にがめついなぁ」
「これで、あれ買っても余裕ですね」
「パチンコは?」
「打ちますけど」
即答。
夜。
「ただいまです」
「おかえり。遅かったな」
「ちょっと余ったんで、打ってきました」
「結果は?」
「すっからかんです」
「まぁだろうな」
一拍。
「で、何買ったんだ?」
「はい」
差し出す。
「これ、二つ」
「……指輪?」
「大好きな二人なんで」
少しだけ照れたように笑う。
「ずっと一緒に居たいです」
「受け取ってくれます?」
間。
「……当たり前だろ」




