土下座交渉
同化の話を聞いたあと。
黒崎は、静かに一つ結論を出していた。
――使える。
数分後。
家の前に立つ。
迷いなく扉を開ける。
そのまま――土下座。
「……は?」
バニーが固まる。
「え、何してるんですか?」
「頼む」
顔を上げないまま言う。
「アイツが働く時だけでいい」
「一緒に来てくれ」
「……えっとぉ、なんで?」
困惑が混じる。
黒崎はゆっくりと顔を上げる。
「俺の負担が減る」
一拍。
「いや……無くなるかもしれない」
「は?」
理解が追いつかない。
「同化したんだろ」
「なら、あの女神と同じことが出来る」
「無敵じゃん」
「女神?」
思わず聞き返す。
「あいつを制御できる存在を、他にどう呼べって言うんだよ」
真顔。
バニーは少しだけ引く。
「えー……」
軽く視線を逸らす。
「カジノあるし、普通に働くけど」
「問題ない」
即答。
「月収はこのくらいだ」
紙を差し出す。
「……は?」
目が止まる。
「なにこれ、こんな出んの?」
「この前、謝っただろ」
「あれ見て上が動いた」
「“何としてでも引き抜け”だとさ」
「マジで?」
「イヌを制御できる人間」
「それだけで価値が跳ね上がる」
少しだけ間。
「ゲヒュール対策課で」
「一番の功績と、一番の損害を出したやつだぞ」
「それを“運用できる”ってだけで、十分すぎる」
「……なるほどね」
納得と引きが混ざる。
「で」
黒崎はもう一度、姿勢を正す。
「頼む」
「手伝ってくれ」
静かに頭を下げる。
バニーはもう一度、紙を見る。
(……金、デカいな)
(でも……)
(イヌのためでもある、か)
小さく息を吐く。
「……まぁ」
少しだけ肩をすくめる。
「イヌの為ってのもあるし」
「いいよ」
「やる」
「……助かる」
黒崎の声が、ほんの少しだけ軽くなる。




