ケーキ
キッチンに甘い匂いが広がっている。
後ろから声がかかる。
「何してるんですか?」
振り返らずに答える。
「見りゃ分かるだろ。ケーキ作ってる」
少し間。
「……目的は?」
バニーが小さく笑う。
「この前、お前料理壊滅的だってイヌから聞いてな」
「は?」
ぴくっと反応する。
「やれば出来ますしー」
「出来てねぇから壊滅的なんだろ」
言い切る。
一瞬の沈黙。
「……材料、余ってます?」
「余ってるけど」
「私も作ります」
「あー、別にいいぞ」
軽く流す。
数時間後。
ドアが開く音。
「ただいまです!!いい匂いしますね!」
イヌが顔を輝かせる。
「ケーキだぞ」
「え!食べます食べます!」
皿を差し出す。
「はいはい」
一口。
すぐに表情が緩む。
「美味しいです!料理上手なんですね、ご主人様!」
バニーは少しだけ満足げに目を細める。
「頑張ったらまた作ってやるよ」
「やったー」
そのまま視線が横に流れる。
「あれ?じゃあ、こっちは?」
もう一つの皿。
形は崩れ、黒く焦げている。
ゲヒュールが、視線を落としたまま動かない。
「……それは」
バニーが言葉を選ぶ。
「一回失敗したやつだな。捨ててもいいと思うぞ」
軽く言う。
「ん?」
イヌは特に気にした様子もなく手に取る。
「いや、結構焦げてるぞ?」
「大丈夫ですって」
そのまま口に運ぶ。
一瞬。
「……普通に美味しいですよ」
あっさりと言う。
「こっちも好きです、僕は」
沈黙。
ゲヒュールの肩が、わずかに揺れる。
バニーはそれを横目で見て、
小さく息を吐いた。
「……良かったな」
ぽつりと落とす。




