浮気
ゲヒュールに抱き寄せられたまま、イヌは特に抵抗もせず大人しくしている。
それを見て、バニーが低い声を落とした。
「おいこらイヌ。彼女の前で堂々と浮気とはいいご身分だな」
イヌはきょとんとしたまま返す。
「浮気って人間同士に適用されるものですよね?ゲヒュールはノーカンじゃないですか?」
「おいこら」
即座に遮る。
だがイヌは気にせず続ける。
「それに、僕のせいで死んだんで。このくらいは許してあげて下さいよ」
一瞬、空気が止まる。
バニーの言葉が詰まる。
(それ言われると困るんだよ)
横で、ゲヒュールの空気が明らかに変わる。
バニーはそちらを睨む。
「おい。なんだその顔。免罪符でも手に入れたみたいなツラしやがって。いつもなら否定するだろ」
ゲヒュールは肩をすくめる。
「記憶ないんだから、勘弁してあげて下さいよ」
(こいつ、戻ってること知らねぇんだったな)
バニーは舌打ちを飲み込む。
視線を変える。
「てかなんで見た目変わってんだ?私のゲヒュール、ゾウみたいな見た目だったろ」
イヌが答える。
「あー、喰べた感情で形は変わりますけど。ゲヒュールは自分の意思でも肉体変えられますよ。識別個体クラスなら戦闘特化にも出来ますし」
「ふーん……」
バニーは改めてその姿を見る。
「完全に魅了する気満々の見た目じゃねぇか」
イヌはあっさり頷く。
「ご主人様が信頼を喰べさせたのもありますね。そういう感情ばっかりだと、愛玩的な見た目になりますし」
「……喰わせなきゃ良かったわマジで」
ぼそっと漏れる本音。
少し間。
イヌがふと首を傾げる。
「ていうか、なんでご主人様と契約したんですかね。偶然にしては出来すぎてます」
「……あー、確かに」
バニーも少し考える。
イヌは続ける。
「多分ですけど。境遇が似てるからじゃないですか?トイシェン関連でされた事とか」
「なるほどな」
短く納得する。
「僕も、もう少し待ってたら契約出来たんですかね」
ぽつりとこぼす。
「お前のゲヒュール、元は何だったんだろうな」
「さぁ。生まれた時から僕の感情喰って育ってたんですよね。契約前から識別個体レベルでしたし」
「強すぎだろ」
「でも僕のこと守ってくれないクズなんですよねー」
軽く笑う。
バニーが小さく鼻で笑う。
「あー……似たんだな」
「誰にですか?」
間。
誰も答えなかった。




