喧嘩
部屋の空気が、最初から悪い。
バニーが先に口を開いた。
最近、距離が近すぎる。
わきまえろ、と。
ゲヒュールは軽く受け流す。
あの子も喜んでいるし問題ない、と。
だがバニーは引かない。
隙を見て抱きしめる、撫でる。
その頻度がおかしいと詰める。
返ってきたのは、迷いのない一言。
「愛情表現ですよ」
バニーの眉がわずかに動く。
前に言ったはずだ。
側に居てやれ、と。
それを断ったのはどこの誰だ、と。
一瞬の間。
だがすぐに言い訳が返る。
「いやいや、あの子がされたがってるかなって思って、善意でやってるだけですけど」
「テメェの欲望だろうが」
即座に切り捨てる。
それでも引かない。
「違いますー。私が一番あの子のこと考えてます」
言い切るその顔に、苛立ちが乗る。
「何言ってんだお前」
さらに踏み込む。
「やっぱり女性として私の方が包容力ありますし、ふさわしいんじゃないですか?」
「人じゃねぇだろお前」
「生殖器官ありますしー」
空気が一段階悪化する。
「人間とゲヒュールで子供なんて出来るわけねぇだろ」
「いや……それは――」
言い切る前に。
扉が開く。
「ただいまです!!」
一瞬で空気が切り替わる。
バニーは振り返り、そのまま問いを投げる。
「おいイヌ。人間とゲヒュールの間に子供なんて出来ねぇよな?」
勝ちを確信した声。
イヌは少しだけ考えてから、あっさりと言う。
「ん?フクスと女性の間に子供いますよ?」
沈黙。
横で、ゲヒュールの口元がゆっくり歪む。
次の瞬間。
そのままイヌに飛びかかり、押し倒す。
「え?え?なんですかこれ?」
状況が分かっていない声。
「何してんだテメェ!!」
バニーの怒声が飛ぶ。
視線の先。
イヌは抵抗しているはずなのに、どこか力が抜けている。
それがさらに火に油を注ぐ。
「おい、満更でもねぇ顔してんじゃねぇよ。元カノ相手だからって!」
「してませんけどー」
軽い否定。
「嘘つけや!!」
収拾は、もうついていなかった。




