ヴェーラー戦前日
「フクス、明日だね。ヴェーラー戦」
朱音が小さく息を吸う。
「そうだな」
フクスは静かに頷く。
「……?」
「どうしたの?」
「今、通ったやつ」
フクスの視線が少しだけ揺れる。
「見逃した。何かあった?」
「感情の出力と濃度が異常だ」
短く言う。
「それだけじゃない」
一拍。
「欲望が、揃ってる」
空気が止まる。
「……それ、フクスが奪ったやつだよね」
「あり得るの?」
「分からん」
視線だけが遠くを見る。
「だが、見ただけで分かる」
「黒崎以上に強い」
「……」
朱音が息を飲む。
「噂の“最強の人間”ってやつ?」
「誘わなかったのか?」
「知らない人だし」
軽く肩をすくめる。
――
別の場所。
「頼む、手伝ってくれ」
黒崎が頭を下げる。
「ヴェーラー戦だぞ」
「命張るメリット、なくない?」
即答。
「これくらい出す」
金額を示す。
「死んだらパチンコ行けない」
「正義感で頼む!」
「やだ」
「……マジかよ」
少し間。
「恋人の敵の手がかり、見つけた」
「そっち優先だから無理」
「は?」
「明日、証拠取りに行くし」
「行けなくて残念だわ」
「……なんだよそれ」
――
三日後。
「お、倒したんだ」
軽い声。
「すげぇじゃん」
「……」
黒崎は何も言わない。
「どうした?」
「リンクスが、いなくなった」
「……は?」
「はぁ……」
短く息を吐く。
「まぁいい」
顔を上げる。
「そっちはどうだった」
「手がかり」
「恋人の敵のやつ」
一拍。
「……え?」
イヌが首を傾げる。
「そんなこと言ったっけ」
沈黙。
空気が重く落ちる。
黒崎は何も言わない。
ただ、
(……いつか、絶対に殺す)
その一言だけが、静かに沈んだ。




