もしも
「おい、ちゃんと仕事しろよ――」
上司の声が飛ぶ。
「面倒くさいです。結果出してるんだからいいじゃないですか」
「この報告書はなんだ!」
机に叩きつけられる。
「“戦うのダルかった、パチ屋行きたい”……ふざけてるのか?」
「真面目に書きましたよ」
「真面目の意味を調べてこい!」
そのとき。
「困らせちゃ駄目だよ」
後ろから、柔らかい声。
「……は?」
イヌが振り返る。
「え、なんで」
そこにいた。
「ゲヒュール対策課、受かったよ」
「は?」
「学力は分かるとして……体力は?」
「面接もあるでしょ?」
「何言ったの」
「ひーみつ」
(“この子をちゃんと働かせられます”って言ったら通ったんだけどね)
「ちゃんと仕事しなきゃ駄目だよ」
「えー」
「報告書、一緒にやろっか」
少しだけ笑う。
「ちゃんと出来たら、ご褒美」
一拍。
「……やる」
上司が固まる。
(……今、何が起きた?)
――
「……ほう」
提出された報告書をめくる。
「普通に良い内容だな」
「出来るのか、お前」
「へいへい」
「はい、ご褒美」
軽く抱きしめる。
イヌも自然に抱き返す。
(……金以外で動くのかこいつ)
「じゃ、次行こっか」
「え?戦えるの?」
「戦えないよ」
さらっと言う。
「だから守って」
「なんで」
「一緒に行かないと、真面目にやらないでしょ」
少しだけ近づく。
「カッコいいとこ、見せてよ」
「……」
間。
「ご褒美は?」
「いつものお菓子」
「了解」
「じゃ、行こっか」
――
「……って夢を見たんですよ」
現実。
「ゲヒュールも夢見るんだな」
バニーが呟く。
「はぁ……」
イヌが小さく息を吐く。
「生きてたらなぁ」
沈黙。
「なぁ」
バニーが視線を向ける。
「なんで離れたんだ?」
「イヌはあんたが居ても前に進めただろ」
一拍。
「……正直に言うと」
「言うと?」
少しだけ間を置いて。
「貴方が居なかったら、奪ってましたけどね」
「は?」
「本気ですよ?」
肩をすくめる。
「あの時、“離れないで”って言われた瞬間」
「正直、迷いました」
「……」
「でも」
小さく息を吐く。
「貴方に気を使ったんですよ」
「……なんでだよ」
「分かりませんか?」
少しだけ睨む。
「早く告白してください」
「は?」
「じゃないと」
一歩だけ踏み込む。
「奪いますよ?」
沈黙。
「……良くねぇよ」
バニーがため息をつく。
「私のゲヒュールだろ。大人しくしてろ」
「は?」
即座に反応。
「なんですかそれ」
「所有物扱いですか?」
「違ぇよ、そういう意味じゃねぇ」
「どういう意味ですか」
「面倒くせぇな……」
小さく頭をかく。
空気が、少しだけ緩む。




